イルム王国編9 街道の盗賊4
千人長と筆頭書記官の間で緊張が漂う中、馬車からエレシアちゃんが降りてきます。
「よ……良いのでは無いでしょうか?」
グルスが馬車の中に乗り込みます。暑苦しいです。冬なのに熱帯夜の寝苦しさの様です。もっとも熱帯夜の寝苦しさと言うのはよく分かりませんけど……。
「中は、そこそこ広いのだな。こちらはエレシア殿下ですな。こちらの方は誰かな?」
「か……家庭教師です」
エレシアちゃんは私が誰かと聞かれたら家庭教師と言う様にあらかじめルエイニアに吹き込まれていたようです。
「家庭教師?そのようなものも連れてきているのか。まぁ良い中を確認してもらう」
千人長は中を覗き込み、しばらく馬車の中を見回して言います。
「他には食べ物と水、本ぐらいか……他の馬車も検分させてもらうぞ」
「か……構いません」
千人長はそのまま馬車から出てきます。四人の男と余計な空間はこっそり《隠蔽》で隠しておいたので千人長は気がつかなかったようです。恐らくルエイニアか
(さて、やつらは後で拷……尋問することにして、千人長をどうするかだなぁ)
ルエイニアは拷問と言いかけた気がしますが気のせいでしょうか……。素早く本音を聞き出すならある種の毒を使えば出来なくはありませんが材料になる草は今持っていません。しかも基本は毒なので使用量を間違えると最悪廃人になるしろものです。それに《耐毒》で簡単に無効化出来てしまいます。やはり自発的に話してくれる様にお願いした方がいい気がします。
(ところで、いつまで《念話》を使っていれば良いのでしょうか?)
(基本な必要な会話をする時は、《念話》で……)
しかし、このまま《念話》を使い続けるのは思考のリソースを割きつづけなければなりません。そして今の《念話》は五人に対して双方向に張り巡らせているので燃費が悪く、かけ直すのも何かと面倒ですし、何よりややこしいので次から《念話》に変わる魔法を利用することにしたいです。……ただしこの魔法は付与魔法と刻字魔法を連携させるしろもので魔道具が必要になるので、魔道具を後で用意する必要があります。作りかけのオーブンと一緒にどうにかしないと行けませんね……。ホントにこのギルマスは人使いが荒いです。
(まぁ良いですけど今の《念話》は魔力効率が良くないので、しばらく切ります)
それよりエレシアちゃんとしっぽりする事にします。
「ところで突然家庭教師にされてしまいましたが、どうしたら良いのでしょうか?」
「フ……フレナ様はいつもどおりしてくだされば、べ……勉強になります」
流石フレナちゃんです。何事からも学ぶ事が出来る賢い子なのでしょう。
「反面教師としてじゃないの?」
「それは筆頭書記官の方では無いでしょうか?」
「それより軍隊が馬車に護衛を乗り込ませたいと言って居ますけすが、胡散臭いですので断ろうかと」
この人、話題をそらしまして来ましたよ。
「それなら、最低でも、この家庭教師ぐらいには勝てないと駄目だよねぇと言ってきたからぁ」
ルエイニアが言います。……と言うことは兵隊の相手をしないと行けないのでしょうか……本当に人使いが荒いです。
「それでは《
面倒なのでまとめて吹っ飛ばしせば楽です。《火球》は周りを燃やしてしまうので、《
「それじゃ意味ないよ。賢者様ではなく家庭教師と言う名目だから魔法は使わないでねぇ。魔法を教えているとは言ってないし、そもそもフレナは信仰呪文は使えないですよね。なので護身用の武器だけでなんとかしてねぇ。あとは任せた」
……ギルマスが、いきなり丸投げしてきました。信仰魔法は……確かに使えませんが
「……護身用ですか……棒と杖とナイフと鞭とどれがいいでしょう?」
「じゃあ鞭で……」
「鞭は、馬用のものですけど」
「鞭でよろしいのでは無いでしょうか?ある種の殿方は女性に鞭で叩かれるのを快感と感じるそうです。眼鏡をセットにすると良いらしいですよ」
筆頭書記官がおかしな事を言っています……よく考えなくてもいつものことでした。
「フ……フレナ様、怪我はさせないようにお願いします」
エレシアちゃんのお願いですからなるべくそれに合うような武器を選択しましょう。杖で良いでしょうか……ただし手元にあるのは杖と言う名の木の枝です。その辺に落ちていたものを拾った代物です。かなりしなって割と丈夫です。ただ、このしなる性質は武器として有用で殴りつけられたり切られても曲がるだけで折れません。その代わりに武器を受けるのには使えませんが、しなりを利用して威力をある程度受け流す事は可能です。それ以前に攻撃を全部回避してしまえば全く問題ありません。
「それでは誰が相手になりますか?」
「それでは百人長シャムル参る」
先程の百人長が歩み出てきました。
「シャムルは百人長の中でも最強だぞ。降伏するなら今のうちだぞ」
かなり後ろの方で千人長が叫んでいます。
「そうかしら。女家庭教師に鞭、これこそ最強の方程式。戦士如きに負けるどおりがありません。あなたたちは這いつくばって『女王様、もっと鞭をください』と言うのです。……ただ眼鏡が無いのが画竜点睛を欠きますけどね……」
筆頭書記官が意味不明なことを言っています。恐らく変な本の読み過ぎでしょう。そもそも、これは鞭では無く杖です。良くしなる杖で決して鞭ではありません。
「それではさっさと始めてしまいましょう」
杖を手にして、シャムルと対峙します。シャムルは湾曲刀を二本とりだし右手と左手で構え、両立ちになります。二刀流です。
「さて行くぞ」
シャムルが両方の刀を振るい回転します。まるで花が散るように刀影が動きます。刀を使った舞の様です。シャムルは舞いながらこちらに向かってきます。対する私も右手で杖を構えて振り下ろします。シャムルが刀を振り下ろす一瞬に両手に杖で二回ずつ小突きました。
「いてぇ……」
シャムルは刀を落とし、そのまま両手を押さえてかがみ込みました。
「これで勝負ありですね」
「いや、まて奴は百人長の中でも最弱。残り四人の百人長も相手してもらうぞ」
千人長が言いましたが、四人とも一撃で返り討ちにしておきました。何故か「もっとご褒美をください」と懇願しているのが約一名居ましたが放置しておきました。
「家庭教師より弱い護衛など要りません」
「……仕方ない、本来ならわしが相対するべきところであるが、車内の護衛は一旦諦めよう(……しかし我が軍は弱すぎる……将軍閣下に精鋭を回すように奏上せねばならぬな)」
全然諦めていないようです。
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