デレス君主国15 鷹狩りの巻

 翌朝、そろそろお風呂に入りたいのですがデレスにはお風呂と言うものが存在しないのです。水が貴重と言うのでお風呂を用意する余裕も無いそうです。いっそのことお風呂を作ってしまうと思いましたが、それだけの水があればどれだけのデレスの人が潤うと思うのですかとエレシアちゃんにたしなめられたので諦めました。水が無い所に無理に大量の水を生じさせると生態系を壊してしまう可能性もありますし、ここは我慢する事にします。


 今日は昨日の様に朝食は用意されていないので割り当てられた天幕の中で朝食の準備をしていました。朝食と言ってもエルフの王国から保存食として運んできた堅く二度焼いた小麦粉——ビスケット——に牛乳で湧かしたお茶ぐらいです。この様な簡単な料理でも小麦が貴重なこの国では結構贅沢かも知れません。


 ビスケットを摘まみお茶を一口注いだところで昨日の少女がやってきました。


「賢者様、昨日はグルク様をお助けくださいありがとうございました。しかし、ゴブリンの軍隊が近づいているとか……この大切な時期にわざわざ彼等は邪魔しにくるのでしょうか?」


 開口一番少女が言います……ところで賢者呼びはいったい誰に吹き込まれたのでしょう。


「ノルシア、わかりますか?」


 隣居た、東から流れてきた当事者の一人?に聞いてみることにします。


「ゴブリンの動きなど、は我も知らぬ……そう言えば東から追い出されてきた中に妖術を得意とする魔族が居た気もするが……」

「どういう魔族か分かりますか?」

「それは知らぬ」


 少女が言うには〔大ハン〕は他に斥候が居ないか確認するための兵を出して、こちらに来る前に迎撃する準備を始めたそうです。


「そのおり賢者様にも援助をお願いできないかと言う話でした」


「……分かりましたこちらかもいくつか条件を出させて貰いますか?」


「〔大ハン〕様にお伝えしますが、それは、どのような条件でしょうか?」


「条件については追って説明しますが、その前に三男と四男に面会する機会をいただきたい」


「サトゥ様とジドル様との面会ですね。〔大ハン〕にはそうお伝えしておきます」


 一礼すると少女は天幕から出て行きました。


「……ところでエレシアちゃんどう思いますか?」


「わ……私達ではなく、フ……フレナ様にだけ援助を申し出るとは、恐らくエルフの王国には借りを作りたくないと〔大ハン〕様が考えられていると思います。フ……フレナ様は冒険者ギルドの依頼で護衛で着いている事を承知の上で依頼をしてきていると思います。冒険者への依頼であれば借りは金銭で解決します」


「エルフの王国への依頼は金銭では解決しないと言う事でしょうか?」


「あ……はい。そうなります。交渉に於いて何らかの譲歩をさせられると考えたのでは無いかと思います」


「それだけではなく、今から援軍を送っても間に合わないのもあるでしょうね。外交官はどう思いますか?」


「恐らくそうだと思います。昨晩、念話を使ってみたところ再び王妃が出られたのですがこちらから救援を送る可能性は無さそうと言う話でした」


 一回天幕から出て東の方に聞き耳を立てて見ると……ゴブリンの軍勢は5エルフ里ぐらい進んでいるでしょうか?ここから15エルフ里ぐらいの場所に展開している感じです。年明けぐらいにたどり尽きそうなペースです。


 今日も風が強く寒いと言うより痛いです。そこに族長がやってきました。


「客人、昨日は大変じゃったの。それでじゃな今日は鷹狩りを見せてやろうと思ったのじゃ」


 鷹狩りですか?鷹狩りとは、鷹を狩るのでしょうか?弓をつがいで高く羽ばたいている鷹を弓矢で打ち抜く遊びでしょうか?


「どのように鷹を狩るのでしょうか?」


「いや訓練した鷹を使って狩りをするのじゃ。……とは言ってもこの時期狩れる獲物はほとんど居ないからどちらかと言うと鷹を操る訓練じゃな」


 動物を使って狩りをする……そう言うものが有るのでしょうか?そう言えば昔読んだ本に犬を使って狩りをする話がありましたがそれに近いモノでしょうか?


 族長と天幕の西の方へ向かいます。今日はエレシアちゃんは用事が無いらしいのでエレシアちゃんも連れて行きます。竜は着いてきますし、護衛と称して右と左の二人も着いてきました。エレシアちゃんに話を聞くと今日の用事は全てキャンセルになったという話です。もしかするとゴブリン軍団に関して急な話し合いがあるのかも知れません……そう言う時に族長がここで油を売って良いのかは分かりませんが……。


「ここが鷹匠の訓練場じゃ。鷹匠と言うのはじゃな。鷹を調教して狩りを出来る様に仕込む連中じゃ。鷹の餌やりや健康管理も彼等の仕事じゃ」


 男女何名かが大小の鷹を腕の上に載せています。背丈や年齢はバラバラ見たいですが揃って腕にには皮籠手をしています。それについて聞いてみると


「鷹の爪は凶暴だからじゃな。しっかり籠手をしておかないと腕がちぎられてしまうのじゃな。だが基本をしっかり覚えれば子どもでも出来るぞ」と族長が申します。


 鷹匠が対になって互いの鷹を飛ばしています。鷹匠が鷹を置くように解き放つと低空飛行しながら相手の方の腕に飛び移ります。それを何度か繰り返していました。


「これはあくまで鷹の訓練じゃが、この鷹で狩りをするのじゃな。鷹といえば鳥の王者だ。狼や狐ぐらいならあの爪で引きちぎるわけじゃ」

 

 見ると鷹にはいくつかの種類が居る感じでした。鷹と言うより鷲と言った方が大きな鷹から小さな鷹まで様々です。


「鷹狩りで一般的に使うのはイヌワシじゃな。じゃが〔大ハン〕が使われる鷹は一際大きな銀頭鷹と言われるものじゃ」


 族長はその一頭を見せます。それは身体の羽毛は茶色ですがちょうど頭頂部だけが灰色の羽毛になっていました。


「この鷹は探すのが大変じゃがその力は凄いぞ獅子ですら狩ってしまうぐらいじゃ。昔は戦争にも投入することがあったらしいがな。オーガぐらいなら引きちぎってしまうぞ。じゃがこいつは希少な鷹だし戦争で殺されでもしたら困るし軍に組み込めるほどの数が用意出来ないのじゃ。なので今では戦争で使う事はまず無いのじゃ」


「その銀頭鷹はどのくらい飛べるのでしょうか?」


「高い山を1つ越えるぐらいなら平気じゃぞ……とは言ってもこの辺に山はないがな。一度離せば夜が暮れるぐらいまでは飛び回れるじゃろ」


 族長が鷹匠の一人に問いかけます。


「確かにそれぐらいは飛べますが、我々がコントロール出来ない距離まで飛ばす事はありません。確認出来る距離までしか飛ばない様に調整しています。それ以上飛ぶとしたら解放するときでしょうか?」


「解放ですか?」


「はい。一定年齢に達した鷹は自然に帰してやるのです。鷹狩りに適した鷹は産まれたから数年と限られており、産まれたばかりの鷹でないと仕込みが出来ません。一定年齢を過ぎた鷹を働かせるのは可哀想ですし、自然に帰してやらないと次の世代の鷹が産まれませんので……」


 つまり一定期間が経った鷹を自然に帰さないと生態系が壊れる訳なのでしょうね。そういえば鷹が空から見る景色がどういうものか気になってきました。


「ところで、その鷹は私にも扱えますか?」


「いやいや鷹を扱えるのは基本育てた鷹匠だけだぞ。〔大ハン〕といえども鷹匠の付き添い無しでは鷹狩りは出きぬぞ」


 そう言われると余計にやってみたくなるものです。


「少し貸してくださいませんか?」

 

 そう言うと「少しお待ちください」と鷹匠の一人が言い私の腕の周りに皮籠手を巻き付けます。


「こちらが合図するのでそれに合わせてください」と鷹匠が言います。鷹匠が合図をするとこっちに鷹が飛んできて私の腕の上に止まります。


「それではこちらの合図に合わせて鷹を放してください」と今度は鷹匠が言います。


 その前に鷹さんと少しお話する事にします。「ちょっと高く飛んで、あちらまで戻ってくれませんか?宙返りでもしてくれると嬉しいな?」少し圧をかけてお願いしてみました。鷹匠の合図と共に鷹を放つと言われたとおり急上昇し天空で一回転してから鷹匠の腕に戻ります。鷹匠が何が起きたかと少しびっくりしています。


「僕、何かしましたか?」


 鷹匠は鷹と私を交互の見ながら首を傾げています。


「鷹さんにお願いしただけですので細かいところは気にしないでください」


 鷹匠さんは何のことか分からなかったらしく頭を傾げていました。


「フ……フレナ様、少しやり過ぎでは無いでしょうか?」


 エレシアちゃんが耳元でささやきます。この感じ久しぶりでなんだか良い気分です。それに対してはこう説明しておきます。


「いえ、この鷹を使えば遠くまで物見が出来そうな気がしたので……感覚共有と組み合わせて、鷹の目で空からゴブリンの軍勢を監視できるかなと……」


「そ……そういうことは出来るのですか?」


「たぶん出来るとは思いますけど……」


 流石に鷹の目を拝借する事はやったことが無いので確信は持てませんがなんとなく出来る様な気がしました。

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