デレス君主国14 斥候の巻

 少女に五男の天幕まで尽きました。左手の少し離れたところに大天幕並みの大きな天幕がありますが、もしかしてあれが宮殿天幕でしょうか?


「ここに朝にはおられたと?」


「はい、そうです」


 鼻を立ててそれらしき匂いを探してみます。こういうのは竜にやらせた方が良いでしょうか?


「ノルシア出番ですよ?」


「何か食いものもあったのか?」


「いや、グルク様の痕跡を探してください。こういう臭いがします。半日前の奴です」


「……我は犬では無いぞ」


「似たようなものでは?」


「我をそう言うのはお前等だけじゃろ……」


 少し機嫌を損ねていますが許容範囲です。


「それよりどちらへ向かったか分かりましたか?」


「それならこっちじゃ」


 指を差した方向は馬天幕でした。


 少女に馬の頭数を調べてもらうと4−5頭減っている様で、そこから馬に乗っていった感じなので取りあえず追跡してみます。


 風精を読んで、馬の足跡を追跡させながら聞き耳と聞き鼻を使います。


 …………

 …………


「東10エルフ里(40km)ぐらいでしょうか?ノルシアは分かりましたか?」


 丸一日馬で進んだ感じですが急ぎ足ではなくゆっくりでしょうね。それかトラブルに巻き込まれたでしょうか?その一帯から微かに剣戟の音が聞こえてきます。


「そこまで分かるなら我いらなくね?」


「急いで現場に飛びますよ」


 飛行魔法で宙に浮きます。


「ノルシアは飛行出来ないのですか?」


「重力魔法と飛行魔法の相性が悪くてな、今我は重力魔法で人間並みの重さにしているから飛行魔法が上手く仕えないのじゃ。まぁ竜形態なら飛行魔法いらぬしな」


「あのー竜とか言ってませんか?」


 少女が言います。


「単なる、気のせいです」


 それより重力魔法ですか……。重力魔法はよく知らないので教えて貰って何でも入る巾着の改良に使いたいところです。


「それでは風精を使いますか?」


「風精では飛ぶには力不足では?」


「なので上位風精のシルフを使います」


 シルフを呼び出すとノルシアを浮かせて飛ばします。


「それではグルク様を探しに行くので、後よろしく」


 ノルシアをシルフで宙に浮かせて、私は飛行魔法で目標まで一気に飛んでいきます。10エルフ里あると超加速しないとすぐには着かない訳です。音の速度の2ー3倍まで加速します。これだけ加速すると冷たい風が吹き付けて痛いので風よけの魔法も必要になります。シルフの方は適当にやってくれるでしょう。


 一気にその場所まで飛行すると複数の松明が見え、その下で剣の音がします。


 どうやら数十のゴブリンと数人の男がいます。ゴブリンの半分ぐらいは既に瀕死ですが……その後ろでじっとしている巨大な影が厄介そうです。


 取りあえず戦況を確認した後、戦っている場所の真ん中に飛び降ります。


 竜の方は何やら気持ち悪そうな顔しています。


「我、何か気持ち悪いのじゃが……」


 シルフ酔いか何かでしょうか?取りあえず竜は置いておいて戦闘している場所に行きます、


「まだ戦える。勇気を奮い立たせろ」


 そう言いながら一番前で戦っているのはどうやら五男の様です。いくつか傷を負っている様ですが大丈夫でしょうか?ゴブリンの剣は毒とか病気が着いていることが多いですから。


「そこの方、大丈夫でしょうか?」


 取りあえず呼びかけてみます。


「こんな夜中に女二人が.……何しに来たのだ?邪魔だ下がっていろ」


 どうも頭固そうな感じです。仕方ないので五男の目の前に居るゴブリンを矢で射貫いて起きます。後は数本の矢を弓につがえて一気に放つと数体のゴブリンが一気に倒れました……残りは十体ぐらいでしょうか?


 五男は目を丸くして驚いている様です。


「我らが苦労して倒しいたゴブリンを一瞬でそれも五体……?」


「ここは私が時間稼ぎしますから、あなたたちは逃げてください」


「……とはいえここを他人に任せるのは〔大ハン〕の息子の名折れであるぞ」


「……何を言っているのですか、貴方がする事は、ゴブリンの軍団がやってくる事を報告する事ですよね。戦わずにさっさと帰るべきでした」


「何、軍団でやってくるのか?」


「見るからに、こいつらは斥候ですよね?後ろに督戦隊が着いていますけど……後ろに居る巨大な影を差して言います」


「そうなのか?」


 五男は部下達に聞きます。部下は銘々に見解を言います。どうやら斥候の可能性が高いと納得してくれたようです。


「それでは、ノルシアさん彼等を送り届けてくださいね」


 シルフを呼び出すと馬と五男と部下とノルシアを元の天幕に送り返します。


「ちょっとまて我アレ苦手だぞ」


 などと竜が言っていますが有無を言わせずシルフを飛ばします。


 残ったゴブリンを弓を連発する事でなぎ倒します。ゴブリン二十体ぐらいなら一回瞬殺できます。

 既に四十体のゴブリンがその辺に転がっています。


 問題は後ろに居る黒い影です。ここでは疑似太陽を呼び出す魔法を使う事にしました。


 疑似太陽は夜を昼のように明るくする下代魔法ローエシェントです。疑似太陽は威力はあるのですが光精よりも融通が利かなく効果範囲や時間に問題があるので滅多に使わないのですが、竜を返して仕舞ったので精霊魔法を使うのは少々面倒ですし、黒い影の正体が気になるのでここは下代魔法でゴリ押しする事にします。


 疑似太陽を宙に飛ばすと戦場一帯を昼のように照らし出します。それにより黒い影の正体を確認します。


 通常の人の三倍の体躯、緑色の肌、髪の毛は無く、赤い瞳、どうやらトロルの用です。


 陽光を浴びるとトロルがゆっくりと起き上がりこちらに向かってきます。トロルは日の無いところではほぼ無敵と言われる魔物です。何しろその回復力は壮絶で、致命傷程度なら即座に回復してしまいます。魔法耐性も高くトロルの一般的な倒し方は一瞬で細切れにするぐらいしかありません。その代わり日のあるところでは生存できず石化してしまうと言います。つまり疑似太陽の光でもその時点でトロルは石化とまでは行かずも動きを弱めるはずです。あくまでも日の光が必要なので光精の光や松明の明かりでは効果はありません。なので、このケースでは疑似太陽を使ったわけです。この魔法はあまり見せたくないので竜に五人を連れて帰らせたと言う訳です。


 トロルは動きを弱めるはずですが……はずですが……五体のトロルは、猛然とこっちに向かってきます。


 そこで魔素マナの動きを確かめるとどうやら陽光耐性の魔法がかけられている感じです。


 ……ゴブリンの軍団ですが魔法を付与したトロルが後ろに居るとなると何らかの魔法使いが後ろにいるのは確実です。魔法が使える魔物と言うと一番有名なのは魔王ですが流石に魔王はいないはずです。ゴブリン巫術師シャーマンでは力不足でしょうし、古竜は流石に居ないと思いますが悪魔公デーモンロードクラスが居てもおかしくなさそうな感じです。


 五体のトロルが接近してきたので跳躍して避けます。避けたところに棍棒が振り下ろされます。


 大きな衝撃音をたたきつけながら砂が舞いちります。


 半回転して頭を下にした状態でトロルの後ろを取るとそこから五本の矢を射ます。矢に雷撃を付与しておきます。


 矢は五体のトロルを貫きますが、そこに出来た擦過傷と火傷はみるみるうちに治ってきます。しかし陽光の下なのか直りは一瞬と言うよりじわじわと言う感じです。


 回復する前に攻撃を一気に叩きこめば倒せそうな感じです。


 トロルがこちらに気がつき振り返る間にこちらも耐性を建て直し複数の下位魔法を準備しておきます。


 耐性解除、雷撃の壁、粉塵の舞、樹氷の嵐槍、これぐらいで良いでしょうか?


 トロルがこちらに振り返り、突進してくる瞬間にこの順番で魔法を飛ばしていきます。


 まず耐性解除で陽光耐性を引き剥がします。次に雷撃の壁で五体のトロルを閉じ込めます。トロルの皮膚に雷撃の跡が出来てきたところに粉塵の舞で粉末状の可燃金属を飛ばし、雷撃の火花で爆発させます。トロルは穴だらけになっていますがまだ致命傷とは言えない状態で、こちらに勢いを落とさず向かってきます。


 そこから樹氷の嵐槍で四方八方から一気に串刺しにします。


 ……流石にトロルは頑丈です、こちらに向かって動いています。


 そこで剣を抜くと五体一気に切り刻みます。

 何度か切り裂くと飛び散ったトロルの肉片がビクビクしていますが魔物としての機能は止まったようです。


 集塵の風でトロルの肉片を纏めると地獄の業火で焼却してしまいます。

 後にはトロルの灰だけが残ります。


 聞き耳を立てて周囲にまだ敵が居ないか確認します……どうやら他には居ない様です。


 トロルの灰を纏めて巾着の中に回収すると飛行魔法で天幕まで跳躍します。


 そこには疲れた顔をした竜と五男達と少女が待っていました。


 五男と少女は〔大ハン〕の宮殿天幕の方に向かい、私と竜は大天幕の方に戻ります。帰る頃には宴は終わってしまいました。


「我はもう少し……食べたかったぞ」


 竜が言うので


「そうですね、重力魔法について教えてくれれば持ってきますよ」と言うと快諾したので族長と交渉して残った肉を集めてきます。


 それから重力魔法について聞きながら寝台のある天幕に戻ってきました。寝台に戻るとエレシアちゃんと派遣団に事情を説明してから眠りにつきました。

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