デレス君主国8 休憩の巻
当然ながら、これらのデレスの民との会話は共通語で行われています。以前書いたようにデレスは氏族ごとに全く違う言葉が使われておりお互い話が通じない事があるので共通の言葉が必要になります。そのため共通語が普通に話せる人も多いそうです。ここの下りは族長の受け売りです。
竜を引き連れにわかに作られた休憩所の方に向かいます。朝から一働きしたので少し休んでからメインイベントに望みたいと思います。メインイベントとは言いますが要するにデレス相撲を見るだけです。
休憩所は賑わっていると思いきやあまり人が居ませんでした。静かな方が落ち着けるので良いです。
しかし誰も見てないからといってやたらめったら食べるのは無しです……と竜に釘を刺しておきます。
「我はもっと食べたいのだ」
「少しぐらい我慢を覚えなさい」
「でも食べたいのだ」などと竜吠えています。
「少しは我慢を覚えなさい」
「主よ我慢を覚えたら我は我でなくなるだろう」
「それっぽいことを言ってもダメです……まぁ少し待っていなさい」
仕方ないので軽く食べられそうなものを探してみます。
そこにあるのがほとんど白い乳の塊……チーズと干し肉、それから固めた干した葉っぱ……茶葉でしょうか?茶葉を突き固めて円形の大きなクッキー状に束ねたものがツボの中に積み重ねてあります。独創的な保存法の気もしますが東方では普通に行われて居るのでしょうか?
茶葉の入ったツボは食べ物を置いてある大きな机にたくさん並べてあります。最初にお茶を選んでそれに合う食べ物を選ぶとこにします。
取りあえず見た目と匂いで分類していくことにします。この白い葉っぱかなり癖がありそうな感じ。こちらの黒い葉っぱは苦そうな感じ。いくつかの茶葉の入った壺を取り出し匂いと色合いを確認しながらお湯を注いだ後の味を肉付けしていきます。
やはりこの局面ではアッサリとして口当たりのお茶がちょうど良いと思ったので少し青みがかった薄茶色の葉っぱを選んでみました。残りの壺は元の場所に戻しておきます。
茶葉だけではお茶はできません。そこで奥まったところに座っている幼げな女性に声をかけてみます。その方は赤をベースとした毛織のワンピースをきています。その生地は一見ふわふわしていて暖かそうな感じがします。服には幾何学的な文様が編み込まれており毛織にしてはアッサリとした印象がします。ところでこの女性はどの程度の年でしょうか?人間さんが成長は早すぎてよくわからないので失礼になりそうな気もします。それはともかく後ろで竜がそわそわしていますし声をかけることにします。
「ところで茶道具とお湯はありませんか?」
「あのー見慣れない方々のようですが一帯どのような用事でしょうか?」
幼い女性が拙い共通語で返してきました。あまり使い慣れていない様子です。そこで平易な言い回しで語りかけてみます。
「わたしたちは、エルフの王国から来ました。今、お茶が飲みたいです」
「あ……お茶ですね……ただいま入れます……え?エルフの王国から来られたのですか?確か王族が来られているとか……これは失礼しました。申し訳ありません。今すぐ偉いものを連れて参ります」
両腕をバタバタさせながらうわずった声で答えてきました……どうやら勘違いされているようです。
「いえ、私達はただの従者です。それよりお茶を入れたいのでお湯と湯沸かしを貸して欲しいのでけど……」
「あ……あまりに貴賓があるので勘違いしました。この鍋に茶葉を火にかけるとお茶が沸かせます。馬乳はそこの瓶に入っているのを使ってください」
「馬乳ですか?お水はないのでしょうか?」
「水は大変貴重なので〔大ハン〕の天幕まで行けばあると思いますが……私の様な小娘に分けて貰えるかどうか……やはり偉い人を連れてきます……」
少し震えながら小娘が答えています。無茶振りするのは可哀想なのでここは自力で何とかすることにします。この茶葉は綺麗な水を低温でじっくり煎じるのが良いのですけど〔大ハン〕の天幕でもなければ茶葉を鍋の中に入れて馬乳で煮込んだお茶が普通のようです。
「それなら無理には頼みませんし、どうにかしますのでそこで休んでいてください」
そのように声かけをするとホッとした吐息を漏らしながら女性は椅子に座りました。
どうやらここでは水が貴重らしく普段は乳を飲んでいる様です。従ってこの天幕の中には水はありません。無いなら作ってしましましょう。「水精さんお願いします」
水精を呼び出し空気中の湿気を集めて水に変えていきます。この辺りは乾燥した土地なので少々手間取りましたが水精さんが飛び回り空中や地中の水分をかき集めやがて鍋一杯分の水が集まりした。これでお茶を入れることにします。何やら奥の方で座っている女性が驚いたような表情を見せている気がしますが恐らく気のせいです。
天幕の中には寒さをしのぐための薪ストーブあるのでこれでお湯を沸かします。水が火がじんわり通ったところで火から外しここに茶葉を投入させます。ここでお湯を熱くしすぎると苦味がでてしまうのでここの火加減がとても重要になります。普段なら火精さんに任せてしまうところです。
こちらの鍋はしばらくこのまま置いておくとして問題は茶菓子の方でしょうか……。
ヨーグルトを乾燥させたらしき酸っぱいお菓子ぐらいしか無いみたいです。座っていた女性にも聞いてみましたが
「ここにこの程度のものしか有りません」と言う事です。
小麦を焼いたお菓子が良いのですが……小麦は輸入されていくるものの贅沢品でそもそも嗜む習慣ものないらしく氏族長クラスの家で月一回食べられるかどうからしいです。昨日食べた薄焼きの揚げパンもそう言う贅沢品らしいです。
仕方が無いので茶菓子代わりに小さな女性——少女と呼んだ方が良いらしいです——デレス君主国の話を茶菓子変わりにお茶をいただくことにします……。
「ところでなぜ口の中に干し肉を頬張ってるのでしょうか?」
「我は毒味をしているだけだ」
「他の人の分もあるのですからあまり食べないでください。それに毒味と言うには量が多すぎる気がします」
「ほんの一口だぞ」
「口いっぱい頬張ることを『ほんの一口』とは言わないと思います」
また話が並行線で終わりそうです。この竜は後で躾ける必要がありそうな気がします。
それはともかく、この少女はとある氏族の族長に使える侍女らしく今日の相撲大会に借り出されて補助を行っているそうです。
「今日の相撲は男が全て準備するのですけど、食事に関してだけは女性がするのです……それで私はここの番をしています」
残念そうな顔をしています。
「他の女性は?」
「天幕の前の方に詰めています。年末のこの相撲はデレスの中の若手最強を決める相撲ですし、みんな楽しみにしてますよ」
「それで、あなたはここに居るのでしょうか?」
「私は、しがない端女でございますから、ここの火の番をしなければならないのです」
彼女は物欲しそうな顔しながら淡々と話します。この少女の言によれば他にもこのような侍女がいるそうです。外の世界には身分と言うものが存在しそれが個人の出来る行動を制限しているようです。エルフの王国もそんな感じでした。王族は王族の義務があり、庶民には庶民の義務があり、それを粛々とこなしていないと国と言うものがどうやら成り立たないようです。
そんな感じに考え事をしていると会場の方を見ると段々人が集まってきているのがみえます。
「それではこのお茶でも飲んでゆっくりしていてください」
残ったお茶を侍女に渡すとまだ食べ足りそうな竜を連れて会場の方に向かいます。その行き先は遠目に見えるエレシアちゃんとその連れがいる天幕です。瞬間的に足を加速し一気に跳躍すると天幕の前に華麗に着地します……。
「そういえばノルシアは着いて来たのでしょうか?」
後ろを振り返ると猛スピードで突っ走ってくる竜娘が目に入りました。
「この天幕の前でちゃんと止まるするのですよ。」
暴走竜に向かって私は呼びかけます。
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