エルフの王国45 南の砦 三日目の巻2

 私は再び砂漠の上に着地すると私はものすごい勢いで砂の上を走り抜けそのまま真っ直ぐ丘の方向に向かいます。

「おかしいですね。この辺に右のエイニアがはずです。確かに気配らしきものが感じられるのですが目の前に見えません」

 そこで私は左のユリニアに聞いてみました。

「エイニアの気配が感じられませんか」

「はい。近くにそれらしき気配が感じられます。おそらくこちらのほうではないかと……」

 ユリニアが丘の手前の方向を指差します。

 確かにその方向に何かそれらしき気配が感じ取れます——と言う訳でそちらの方向に向かってみました。

 周囲を見回してみるとあたり一帯は砂だらけで東の方向に大きな砂でできた丘がまるで塔の様にそびえ立っています。

「確かにこの辺にいそうな感じですね」私は言いました。

「は……はい、私にもわかります」エリシアちゃんが言います。

「もちろん私の相方ですからどの場所にいるかはなんとなくわかります」

 ユリニアが言うには理気術ではお互いの気配を探知しあう技があるそうです。それは下位魔法ローエンシェントでは念話テレパスという魔法に近いものらしく。事前に接続リンクすることで直接相手とコミュニケーションがとれるそうです。しかし下位魔法における念話と大きく異なる点は念話が頭の中に直接話しかける魔法なのに対し理気術におけるそれはなんとなく何を考えているのかわかるぐらいの代物だそうです。その代わり相手が大体どの場所にいるのかわかるそうです。

 そういえば昨晩の模擬戦のときやけに二人の連携がよかったのはそれを使っていたからでしょう。

 それはともかく今はユリニア頼みです。しばらくするとユリニアが丘の手前に洞窟の入口のようなものがあると言ってきます。

「フ……フレナ様、このような場所に洞窟があるのは何かおかしいです……」

「そうですね何者かが意図的に作ったとしか思えません」

「とりあえずこの中を探したいと思います。ここにエイニアが居るのではないかと思います。エイニアの気配が奥の方から感じ取れます」

「それは確かにエイニアの気配なのでしょうか?」私は尋ねました。

「ええ、間違いないと思います」ユリニアが言います。

 そこで私たち三人は洞窟の中を調べることにしました。

 洞窟の中に入ると奇妙な感覚を覚えました。

「……結界ですね」

 魔法的な奇妙な違和感を感じます。それも都の王宮地区に有ったものに似ています。それは外側から内側に対する結界ではなく内側から外側に対する結界だと思われます。そして結界の中に入ると精霊がたくさん感じられました。

 そこで私は光精を呼び出し明かりをつけます。

「まぁおそらく洞窟の主がいるとすれば侵入したのはすでにバレているでしょうからここで魔法の1つや2つ使っても構わないでしょう」

「さすがにそれは暴論すぎないではないでしょうか」ユリニアが言います。

 ユリニアの言い分もわかりますが今は急ぐときです多少のリスクは無視して早く進める方法をとることにいたします。

「今は救出優先です。少々危険でも素早く動ける手段をとることにしましょう」

「そうですね。今はエイニアを早く救出しないといけないですね。わかりました。賢者様のあとについていきます」

「エレシアちゃんはいつでも回復魔法がかけられるように準備をお願いします」

「フ……フレナ様わかりました。いつでも大丈夫なように準備しておきます……」

 精霊さんに頼んで明かりを灯し私とエレシアちゃんとユリニアは洞窟の中を進んでいきます。中はやはり乾いており足元は砂で敷き詰められています。壁は砂をつき固めたような煉瓦で覆われており一部は結晶化して輝いています。外に比べて温かくさらには吹き付けてくる風がないぶん快適です。

「それにしてもこの洞窟の中は何かおかしいです。何しろ地震の発生時にあるというのにひび割れ1つ有りません。何かは秘密があるのではないでしょうか?」

 やはりこの洞窟は古代竜の住処ではないでしょうか?なぜならば古代竜は生き物であるとともに精霊でもある存在です。精霊でもあるがゆえ精霊魔法も自由自在に行使する事が出来るのです……であれば結界が精霊力を逃がさない様に外側から内側に向かって張られているのも理解出来ます——と言うのは昔読んだ本の受け売りです。

 実際のところはどうなのか注意深く観察する必要がありそうです。

 現在地は現在地は丘の西方向十分の一エルフ里と言ったところに居ます。

 洞窟は緩やかに下っており丘の地下深くに潜り込んでいます。そこまで行くと通路が大きく広がります。翼竜ぐらいなら十分展開出来るぐらいの大きさがあり通路と言うよりとても細長い大部屋と言った方が良いぐらいあります。

「賢者様、こちらの方角に気配を感じました」ユリニアが壁に向かって指を差します。

「この壁を壊せば良いのですか?」

「賢者様、壊したらどうなるか分からないのでちゃんと通路を通りましょう」

 ユリニアが指を立てると風の流れを読んで居ます。しばらくすると前の方に進み始めました。

「あまり急いで魔物に遭遇してもしりません」

「大丈夫ですいざとなったら気配を消していますし魔物は全部賢者様を襲うでしょう」

「つまり私を囮に使うのですか……まぁ良いですけど」

 無駄に大きい通路を警戒ながら進むと途中に小さな扉がありました。

「ここに居そうな感じです」

 ユリニアがそう言うので中に入るとそこは通路からは想像できないほどのとても小さな部屋で中ではエイニアが気持ちよさそうに寝ていました。あまりに気持ち良さそうなのでそのままおいていこうかと思いました。

「エ……エイニアさん起きてください。置いていかれますよ」

「あら気持ち良さそうに寝ていますね。そういえばエイニアが隠して置いたとっておきを皆さん今のうちに食べてしまいましょうか?」

「あ、それ食べちゃだめ」

 ユリニアの言葉にいきなり跳ね起きます。

「とても気持ち良さそうに寝ていました」

「寝不足だったからな」

「み……皆さん、心配してたのですよ」

「ところで、どうして私はここに居るの?」

 エイニアが周りにキョロキョロ見回し言っています。

 そこで地震で起きた砂流に流さふぇ丘の下にある洞窟の中の方まで流されたことを説明しました。

「ああ、砂に流されて……それでか」

 エイニアがポンっと手を叩きます。

「それではこの部屋にはどうやってたどり付いたのでしょうか?」

「それが全く分からない」

 丘の下まで流されたのは覚えているのですが、その後の事が記憶にないらしいです。

「ゆ……誘導されてきたのでしょうか?」

 確かに魔物の中には獲物を自分の住処までおびき寄せて、そこで食べてしまうものも居るらしいですが……この洞窟の主がそのようか細かい事をするとはとても思えません……主が居ればの話ですが……。

 この洞窟が地震の発生源にあるのは間違い無いとは思われるのですが綺麗すぎるのがやはり気になります。

 洞窟を真っ直ぐと進むと今度は洞窟は上方向に向かっており、そのまま道なりに進むと丘の中央付近までたどり着きます。

 そこは大きな空洞で上から光が差し込んでいました。その空洞の中には大きな竜が横たわっていました。は小さな塔が見下ろせるほどの大きな竜で古代竜だと思われます。地震の原因はこの竜に聞けば分かりそうな気がします。


《いったい何をしにきた定命の者ども》と言う声が頭の中に響いてきます。


 竜が念話テレパスを使ったのでしょうか?部屋の中に入ると竜の呼吸音が鳴り響いています空洞の外では聞こえなかったので防音障壁がありそうです。

「私どもは地震の発生源を調査していただけです」

 ユリニアが切りだします。

「私は定命かは定かではありません」

 私がそれに続きます。

「け……賢者様……」

 何か間違ったことを言ったでしょうか?

「面倒だから倒すぞ」

 エイニアが物騒なことを言っています。


《我は我の新たなる住処に向かうところだ何者も邪魔はさせぬぞ》


「新たなる住処とは何処でしょうか?」


《五本の大きな塔が建っているあの空き地が新たなる我の住処だ》


 もしかして南の砦の事でしょうか?そうならばこの竜を止める必要がありそうです。


《なにお主、我にかかってくる気か……分かったその蛮勇だけは称えてやろう。苦痛を与えず塵に変える栄誉を与えてやろう名誉に思え》


 立ち上がる竜に素早く剣を構えて備えます。この空洞は竜が暴れ回っても十分なぐらいの大きさがあります。戦うには十分な空間があります。しかし他の三人が居ると逆に足手まといになるかも知れません。一度空洞の中から出るように合図します。この竜の大きさであれば洞窟までは入る事ができません。

 竜が立ち上がると上の方から翼竜が十数匹降りてきます。どうやら先程みた翼竜みたいです。


 烈風の魔法で翼竜を吹き飛ばしました。翼竜達が回転しながら奥に吹き飛んでいきます。 

 目の前に残ったのは竜だけです。

 私は竜と睨み合います。

 私は剣を構えて竜の隙を狙います。

 竜は私を一気に叩きつけようと動きを見ているようです。

 そしてお互い譲り合わない神経戦が続きます。

 死角から魔素や精霊が向かってきますが全部かき消されていきます。古代竜種とはこの程度のモノでしょうか?それではそろそろ本気で反撃にいきます。


 ……


 竜の様子をみて私は思い直しました。


「やっぱり辞めました」

 私はふと気がついて剣を降ろしました。そこにエレシアちゃんが駆け寄ってきます。

「け……賢者様、お体が悪いのでしょうか?もしかして先程私の為に無理を……」

「そうではありません……こちらを見てください……この竜、大けがしてますよ」

 私は竜の腹部を指さし大きな傷痕があることを説明します。

「千載一遇の好機を捨てるだと」

「手負いの竜に勝っても仕方が無いと思います」

「この好機を逃して次があると思えません。いまここでとどめを刺した方がよろしいかと……」

「エレシアちゃんは、どう思いますか?」

「た……助けてあげたいと……」

「そいつは地震の原因だぞ」

「エレシアちゃんお願いします」

「し……しかしこれほどの大きさでは私の回復魔法でどれだけ回復出来るかは分からないです」

「出来るだけで良いですよ。ある程度回復すれば自力回復すると思います」

 古代竜は精霊でもあるので回復すれば自然治癒能力が働き自然に回復すると思います。

《お前は我を見くびるのか?》

「いえ、万全で戦いたいだけです」

《まぁ勝手にするが良い。後で己の過信を悔やんでも遅いがな》


 治癒魔法で竜の傷がみるみる言えていきます。エレシアちゃんは集中しすぎて過呼吸に陥ったのか吐息をあげながら肩で息をしながら言います。

「フ……フレナ様これで限界です」

「エレシアちゃんお疲れ様です」私はエレシアちゃんを抱き留めながらいいます「これだけ回復すれば十分ですよね」


《これで恩を売ったと思うな小さきものよ》


 そう言いながら竜が体内に魔素と精霊を溜め込んでいくとみるみる内に回復していきます。


《力がみなぎってくるこれなら紫竜にも勝てる気がする。瞬殺してやるからまとめてかかって来るが良い》


 それはともかく紫竜とは神話に出てくる混沌の原初のことでしょうか……それはどうでも良いですが。古代竜がこちらに全力で向かってきたのでエレシアちゃんを後ろに下げ更に結界で保護します


《おぬし一人で戦う気が?蛮勇かそれともヤケか?》


 そう言う訳ではないですが……。


 しばらくすると下にはのした竜が寝ています。


《お前は一体何者なのだ……手も足も出ないとは……いやこの比喩は少し違うか……》


「私は旅するエルフのフレナです」


《まぁよい。負けたのは事実だ焼くなり煮るなり自由にしろ》


 この竜、ヤケに諦めが良すぎる気がしますけど……。それより面白いアイデアが思いついたのでそれを実行したいと思います。


「それでは竜さん。お願いを聞いて貰えるでしょうか?」

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