エルフの王国44 南の砦 三日目の巻1
北の砦、三日目の朝早く目覚めました。まだ日は登っておらず、かけた月が西の方角にまだ見えており南から吹き付ける風が今日も冷たく西の方を見ると砂塵が上がっています。あの砂塵の中が地震の発生源がありそうです。
寒いのこれからお風呂に入ります。昨日の戦いの疲れをとろうと言う魂胆もあります。エレシアちゃんも誘おうと思いましたが、まだ夢心地の中にいたので起こしてしまっては可哀想なので置いてきました。
朝から水瓶のお風呂でゆっくりしますが朝風呂は気持ちいいものです。しかも貸し切り状態なのでのんびり出来ます。
お風呂から上がると朝食です。昨日焼いたパンを食します。それから今日の仕度をする事にします。巾着に入れた道具一式とお昼ご飯以上です。それから四人一度に飛行するので飛行用の道具を用意しました。屋敷の中にあった大きな箒です。この箒は四人同時乗っても十分そうな長さがあります。何時の誰かが知りませんが飛行には箒を使うものと言ったそうで飛行魔術の本の基礎にも箒で練習することなどと書かれております。
しかし飛行魔術に箒が居ると魔術書に書いたのは一体誰でしょう。特に箒が無くても飛行は出来ます。
それはおいといて多人数を同時に運ぶには箒みたいなものが便利です。絨毯でも飛べなくはないのですが、形を維持するのが大変です。ドア板と言う手もありますが流石に格好がつきません。それから左右のバランスを取るのがわりと難しいです。なにより箒の穂先の部分はバランス取るのに有用そうです。そう考えると結局箒に落ち着きました。
準備が終わるとエレシアちゃんを起こしに行きます。左右の二人は既に起きていて何やら作業をしています。挨拶がてら意見を交換し、準備を指示します。こうして朝から慌ただしく動きながら遠征団の準備が整いました。
館の前に四人が集まり道具の過不足が無いのを確認すると箒を取り出し飛行魔法の準備を始めます。寒い風が強く吹き付けていますし、空に出るとそれ以上の風と寒さが吹き付けてくるので風よけの
そしていざ出陣と言うとき「妾をおいていくな」と塔から駆け下りてきた王女がいきなり顔を出します。
「ヴィアニア様は砦の見張り番ですよね」
「そうじゃが見送りぐらいさせてくれ」
「それではいってきます」
後ろ三人が箒に乗ったのを確認すると箒を飛行させます。後ろ三人が箒から落ちない様に安全装置をつけた飛行魔法で制御が若干複雑ですが大した手間ではありません。王女が後ろで叫んでいたようですが既に遠すぎて聞き取れません。
箒は上に真っ直ぐ上昇すると一直線に地震の発生元と思われるところの上空にたどりつきました。その下は砂塵が渦巻いていて下の方が全く見えない状態で四方を咆哮するような音が反響しています。
「この中を突っ切って降りますので箒にしっかり捕まっていてください」と後ろの三人に呼びかけます。
箒を下向きに向けると一気に地面まで急降下します。地表面すれすれの辺りは砂塵はありませんが目の上を黒々と渦巻いています。
「な……なんだか不気味です……」
エレシアちゃんが私の服の袖をつかんで言います。
左右の二人は左右に展開し周囲の状況を確認しています。
「誰も居ないな」「周囲に何も見つかりません」
「いえ高濃度の魔素の塊が見えますけど……」
「賢者様、どのあたりか?」
手を上げてここから一エルフ里ぐらい先を指さします。そこは小高い砂丘になっておりそこから高濃度の魔素の反応があります。
左のユリニアは「私は丘の方に向かいます」と丘の方に駆け去り、右のエイニアは「この辺を調べる」と言いその辺りをほじくり返しています。
それでは私とエレシアちゃんはその間を虱潰しに調べていくことにします。
周りは砂だらけの砂漠で何もありません。砂埃が吹き付けており砂の山が徐々に移動していくのを除けば動いているものは有りません。一面生きているものは見えず、精霊の気配もほとんど無い世界が一面に広がって居ます。吹き付ける風は乾いて冷たく寒さと言うより痛みが頬を掠めていきます。
少し進んで分かったことは先程ユリニアの向かった丘に近づくにつれて魔素の濃度が徐々に高くなっている事ぐらいです。強い魔素に気配がかき消されていないか十分な注意して先を進むことにします。
「……何か変です……」
「フ……フレナ様……生き物が居ないことですか?」
「いえ、生き物では無く魔物の気配がするのです。それもかなり強力な……」
これだけの強い気配がなら砦の中から気がついてもおかしくないはずなのですが、どうやら強い魔素が一種の結界の様になっており気配を遮断していたのではないかと予測します。
「……ええ、これは
「ド……竜ですか?」
「竜です」
ただ竜級と言ってもピンキリです。ピンは北の草原に住んでいると言う神と互角に戦えるクラスからキリの方は
「まず左のを呼び戻さないと……そこに居る右の人」
後ろの方で砂を掘っていた右のエイニアを呼び戻します。
「賢者様、ここには何も無かったぞ」
「いえそこではなく前の丘の方です。強い気配を感じないでしょうか?」
「微かな気配が……いや気配を消した気配がするな……これは何ぞ」
「それに関してはこちらが聞きたいです」
「しかり。理気術と似たようなモノと見る」
「んーそう考えますか」
考える分だけ左のが危険になりそうです。ここはユリニアを追いかけた方がよさそうです。
「やはり丘の方に危険な魔物がいる可能性が高そうです。今から左のを追いかけますがついて来れますか?」
「承知、少し気をためる」
右のが気合いを入れると両足に一気に魔素が充填していくのが分かります。足の腱・筋肉・骨が一気に強化されたような感じです。
「これでひとっ飛びで行ける」
「それでは一気に行きます」
右のがすぐにでも駆けだしそうな感じなのをみて、私もエレシアちゃんを抱えて一気に跳躍します。跳躍すると丘の方の情景が見えてきます。
先程は見えなかった黒い影が沢山空中を舞っています。下の方を見ると右のが黒い影と応戦していました。
「あれは何でしょうか?」
「フ……フレナ様翼竜だと思います……」
エレシアちゃんによれば、あの黒い影は翼竜だそうです。昔、人間さんの翼竜部隊を見たことがあるらしくそれで分かったらしいです。
「外套が邪魔で追いつけぬ……いや脱いだら今度は寒い……まぁ寒いのは修業が足りぬ所為だ」
何か口走りながら後ろの方から右のが追いかけてきます。
目の前では左のユリニアが翼竜と応戦しています。しかしながら翼竜は高い所を旋回しており、素手では攻撃は届きません。理気術で衝撃波を飛ばしている様ですが翼竜の旋回速度が速すぎて躱されている感じです。一方、翼竜の方は攻撃が途切れた一瞬に急降下して攻撃を仕掛けますがユリニアに素早く躱されて爪が空を切ります。そのまま両者にらみ合った状態になっています。
「賢者様。今すぐ処理いたします」
「左のユリニアさん、翼竜は一体ではないので体力は温存すべきです」
「それでは二体いるのでしょうか?」
「奥にはもっと大物がいます。翼竜は群れをなしていると思います。少なくとも十体以上は見た方が良いかと思います。丘の方の気配を察知してみてください」
すかさず翼竜とユリニアの間に割って入りました。
「……何かが気を隠している様な気がします」
「翼竜以上の大物がいそうです。」
そう言いながら突っ込んできた翼竜を片手でひっくり返します。その辺の地べたで翼竜がのたうち回っていました。
「古代竜ですか?」
「その可能性はあるかも知れません」
竜でも古代種と言われるものは長寿で魔法や人語を使いこなすと言われています。そのような竜であれば生半可に飛び込んだからひとたまりも無いと思います。しかし、このようなところに出てきてたのは不思議です。古代より竜種と言うものは人の世界に出てきて暴れると
「フ……フレナ様……一瞬で翼竜を……」
エレシアちゃんが興奮しながら叫んでいます。
「いえ、少し考え事をしていました」
「考え事をしているだけで翼竜を一瞬で倒すとかあるのか」などと言われていますがここはそんな状況ではないと思うます。
次の瞬間、砂塵が舞い地面が揺れに揺れます。先日よりも激しい揺れで砂漠の砂が濁流の様に流れます。このまま地面に居ると危ないのでエレシアちゃんを抱えて魔法で飛翔します。
轟音と共に砂塵で周りが隠れ右と左の二人はどうなっているのか分かりません。轟音で聞き耳を立てるのは難しく鼻は砂の匂いが充満し視界は砂塵で覆われている状況で辛うじて大丈夫そうな気配が感じ取れる状況です。この激しい揺れはやはり震源地に近いからでしょうか?
揺れがおさまるまでは体感でかなり長い時間がかかりました。揺れがおさまると舞い上がった砂塵が徐々に大地に落ちていくと少しずつ視界が開けてきました。
「フ……フレナ様……あそこに」
エリシアちゃんの指先を見ると左のユリニアが砂漠に沈みかけていました。素早く飛行しユリニアを引きずり出します。
「生きた心地がしませんでした……しかし丘が大きくなっていますね」
ユリニアはそう言っていますが実際には丘が突然大きくなった訳ではなく丘が近づいて来ていたのでした。
「お……丘が動いています」
エレシアちゃんが叫びます。先程あった丘がより一掃近くに近づいています。やはりあの丘に何かがありそうです。それに右のエイニアの気配も丘の方から感じ取れます。早く助けに行かないといけません。
「皆さん急ぎますよ」
私はそう言うとエリシアちゃんを抱え、ユリニアをぶら下げたまま丘の近くまで飛行します。
そこに十数体の翼竜が突然現れ行く手を遮ります。時間が無いのですがどうやら相手をしないといけないようです。
ユリニアを放り投げて地面に着地するとエリシアちゃんを降ろします。その瞬間、一体の翼竜がこちらを目指して飛びかかってきます。翼竜の爪を左手で受け止めるとそのまま投げ飛ばします。それに二ー三体が巻き込まれ遠くの方にすっ飛ばされていきます。
「しかしこの翼竜弱すぎませんか?北の砦の
翼竜と言うからには竜種の一種のはずでそれなりに強いと思ったのですが拍子抜けです。
「賢者様が言っている蠍といは砂漠超巨大蠍でしょうか……あれはヘタな竜より強いです」
ユリニアが翼竜の攻撃を避けながら言います。
「いいえ大きな赤い蠍のと青い蠍です」
「それが砂漠超巨大蠍です」
「あの蠍は荒野に居ましたが……」
「それは恐らく北の砂漠から流れてきたのではないでしょうか?」
「でも北の砂漠はかなり遠い場所にあると聞いていますけど……」
「その当たりは分かりませんが、ここ一連の異変と関係あるのでは無いでしょうか?」
「せ……生態系の乱れでしょうか?」
「さすがエレシアちゃん。良い指摘です。確かにこの辺りの生態系がおかしくなっている気もします」
もっとも里の外の理想の生態系がどうなっているかは知りません。
「あのー賢者様。私には何も言わないのでしょうか?」
「すぐ目の前に翼竜が飛んできていますよ。なんとか頑張ってください」
しかし、翼竜の数は一向に減る気配が見えません。このままでは埒があかないので一撃加えて戦場を離脱しようと試みます。
「エレシアちゃん、ユリニア目を閉じて」
《カッ》
魔法でまばゆい閃光を飛ばします。
翼竜達はそのまぶしさにひるんでバランス感覚を失いない何体かは砂漠に落下していきます。
「では、この隙に行きますよ」
素早くエレシアちゃんとユリニアを回収するとひるんだ翼竜を放置し再び丘に向かって飛行します。
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