エルフの王国46 そして人間の国へ

 精霊と生き物の両方の性質を持つ古代竜種は人の姿を取ることが出来ると言います。無論それなりの知識や経験が必要だと言いますがそれは幻影とも変化とも違うものだそうです。魔術による幻影や変化でもなく一部の魔獣が持つと言う変化の能力ともまた別ののりで使われる能力だそうです。


「それで……これで良いのか主殿?」

「問題ないですよ。どうでしょうか?」

「賢者様の趣味が入りすぎている気がします」

 ユリニアには聞いていません。

「それより戦いはどうなったんだ」

 エイニアが問いかけます。どうやらエイニアには一瞬で決着が付いたように見えたらしく何が起こったのか分からないようです。

「それは私がこうやって防護プロテクションの魔法で防御をしたところに」

「我が魔法の矢と翼の風で巻き上げた石つぶてで攻撃」

「私がそれを砂嵐サンダーストームで射落とし更に閃光で追撃」

「我はそれを素早くかわかし間合いに切り込み」

「私がそれを剣で振り払い……」


「流そうなので完結にまとめてください」ユリニアが言います。


「ざっと百通りの攻防が繰り返された後、我がひっくり返されたわけだ」

「よく分かりません」

「え……っと、そのようには見えませんでした。フレナ様が一瞬でひっくり返した様にしか見えませんでした」

「エレシアちゃん、目から見えたモノが全てでは無いのです」

「は……はい分かりました」

「それで我は主殿の秘書でいいわけだな」

「そうしておきます」

 このままここに居られても迷惑なので人の姿を取らせてしばらく監視下に置こうと思います。そもそも砦を襲おうとした動機も調べましたが……どうやら南の砂漠の方で生態系の狂いが生じそこを住処にしていたこの竜はその地を追われてここに流れ着いてきたそうです。洞窟は仮の住処で移動するそうです。どこかで拾った代物で傷ついた肉体を癒しながら移動するには不可欠だったと言っています。この洞窟が移動する時には大地が揺れるらしくそれが地震を引き起こしていた訳ではないかと思われます。

 何やら可哀想なので監視しつつも新しい住処を探そうかと思いました。エレシアちゃんもそのように言っております。しかし、この竜を追い出した存在もか気になりますが……古代竜もよく分からないとの話なので取りあえず保留にしました。

「それでは南の砦に戻ることにしましょう」

 南の砦には飛行魔法で一瞬で帰り着きました。帰りは助手がいたので行きより楽です。

 砦に戻ると王女が待っていました。

「ヴィアニア様、見張り番はよろしいのでしょうか?」

「妾は今は暇なのじゃ……都から応援部隊が来たからそちらに全部任せて休んでおる……ところで、こいつは誰じゃ。見慣れない顔だが?」

 王女が言います。

「ヴィアニア様、この方は地震の原因の古代竜です」

「我が古代竜じゃ」

「そうか古代竜では呼びにくい。取りあえず名前を付けろ……そうだなノルシアで良いだろ」

 王女が適当に名前を付けています。

「まぁ地震は起きないのだな?」

「まあ無いだろう」

「なら良い」

 古代竜は砦の中に入れたのでした。

 それより砂だらけなので取りあえずお風呂に入ることにし、それから今後の事を協議することになりました。砦の修復の計画が立てられ都から早馬が到着し物資が運び込まれます。

 その後は余震も起きずに作業は順調に進みました。当然もノルシアを作業に参加させます。

「我がこのようなことをしないといけないのだ」と言ってますが砦を壊したの貴方ですからそれぐらいはしなさいと言いつけて作業に送り出します。

 2日ほど経ち砦が落ち着くとクァンススは北の砦に移送されることになりました。

「なぜ……責めて牢獄で鞭打ちで……」

 などとクァンススは訳の分からないことを言いながら馬車に乗せられ引かれていきました。

 同時期にフェルパイア方面に向かってきた外交官が戻ってきて先方の状況を報告します。


 デレス君主国の受け容れ準備が済んだそうなので早速旅立ちの準備を始めます。いろいろ問題がおきた所から派遣団の人員も若干入れ替わる事になりました。


「……それで右と左のがなぜ居るのでしょうか?」

「先の地震の復興の為に護衛武官が南の砦に残るそうです。変わりに南の砦から武官を補充するようにと国王から命令がでており、ヴィアニア様の命で私達に決まりました」

「な……なれている人達の方が良いですからね」

 ……エレシアちゃんがそう言うなら仕方が無いです。


 最後にエルフの王国について簡単にまとめておきます。


 エルフの王国は、東を森、南北を荒野、西が人間の国に囲まれた中にある国で、国は王様——ミュンディスフラン三世——が支配する君主制をとり四方の砦を娘の四王女——上からフリーニア、ディーニア、フィーニア、ヴィアニアでそれぞれ火、水、風、土属性の精霊魔法を得意とします——が守っています。王族は森エルフ出身で庶民は草原エルフや里エルフ——ここの里は私の住んでいる里とは意味が違うようです——で構成されています(勿論例外もあります)

 森エルフは精霊魔法や体力に長じており、しばしば英雄を生み出します。しかし森の守り手である彼等は森から離れる事が出来ません。在りし日に魔物が荒れ狂っていた時、草原エルフや里エルフは森の世話と引き換えに森エルフに助力を頼んだのがエルフの王国の始まりでした。しかし森は徐々に小さくなりエルフの王国にある大きな森は都周辺と西の砦周辺の森——森は更に西広がっておりその先に私の住んでた里があります——ぐらいしか残っておりません。

 森は森エルフに取っての力の源泉であるため森の減少は森エルフの減少と等しい事だと言います。

 そのため森の保護は最優先事項であり王宮自体を森で覆っています。

 本は整理されており完結にまとめられています。しかし紙が分厚く重いのが難点で資格が無いと読めない本が沢山あります。お金が流通しているものもあまり使う機会はありません。半分自給自足で生活が成り立つので必要物資ぐらいの売買しか必要ありません。しかし都の中心になると商人が行き交い冒険者達が護衛に着いています。

 魔法はエルフの王族や森エルフは精霊魔法を得意としますが、一般のエルフは使いこなせません。そもそも外の世界は里と違い精霊が満ちている場所がとても少なく精霊魔法は特殊な方法で使う事が多くなります。このような場所では魔素マナを扱う下代魔法ローエンシェントの方が向いています。森エルフ以外は下代魔法の一種と思われる元素魔法や付与魔法などを使います。それからを引き出す治癒魔法あたりが使われている様です。しかしながらこれらの魔法の使い手はあまり多くは有りません。ルエイニアの様な幻術使いも居るようですが更にその数は少ない様です。里では全ての住民が精霊魔法と基本的な下代魔法、一部の上代魔法ハイエンシェントを使いこなしているのとは対照的です。


 食べ物は草が美味しく。小麦で作った食べ物が特に美味しいです。

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