エルフの王国31 土の王女の巻

 現在、お風呂上がりで、さっぱりしております。

 ちなみに南の砦と北の砦との一番大きな違いはお風呂があるとのことです。

 先程、ヴィアニアの案内で、一同食事を取っていた小屋から中央の塔の方に移動しました。中央の塔の下には二階建ての大きな建物が隣接しており、そこには寝泊まりできる場所があります。塔の主や従業員だけでは無く客人向けの寝室もいくつかあり、その一角を派遣団が占拠しています。南の砦は東の砦の様な大風呂はありませんが、客室の中でお風呂に入ることが出来ます。ただし客人向けの部屋にそれぞれ付いているお風呂はそれほど大きくなく、足をのばしきれないぐらいの一人用のこぢんまりしたお風呂で変わりに移動させることが可能になっていました。お風呂の大きさに少し不満がありますが入れないよりかは遙かにマシです。南の砦で、お風呂が付いているのは偉い人の部屋だけで偉い人しかお風呂に入れないそうなのであまり贅沢は言えないです。

 砦の側には大きな川が近くに流れ砦の中にも泉があるので水は十分に得られるのですが、お風呂に使う水を湧かすのが大変らしく偉い人の分のお風呂の分しかお湯しか調達できないそうです。特に二階にある部屋にお湯を運ぶのが大変の様です。その様な場所で無理矢理割って入ってしまったようで少々気が引けますが、お風呂の魔力には叶いません。せっかく部屋に付いているお風呂ですから入らない方がもったいないです。やはり、お風呂は気持ちが良いです。

 お風呂から出て寝間着に着替えるとなんとなく王女の部屋に集合しました。エレシアちゃんもお風呂上がりです。

「ま、自然崇拝とか言っている騎士は風呂には入らないのですけどね……。奴らに少しは綺麗にしなさいと足蹴にすると……『ご褒美ありがとう御座います』とよだれを垂らしながら喜ぶだけなんですよ……」

 王女が溜息をつきながら言います。

「その自然崇拝とは一体何でしょうか?」

 神でも無く、精霊でも無く、魔王でも無く、自然を信仰しているのでしょうか。では、その自然とは太陽でしょうか月でしょうか、それとも別の何かでしょうか。それにしては不自然な点がいくつか見当たるので頭の中が疑問で一杯です。

「やつらは自然崇拝と言っているが、人が生まれたままの姿を愛するとか小さければ小さい方がいいと意味がか分からない事を言っているだけです。殴り飛ばすと『有難き幸せです』と言うし気持ち悪いこと極まりない……いつぞやは侮蔑の視線でにらみつけたら、恍惚の笑みを浮かべていたのでそれ以来放置している」

 王女は遠い目をします。そういえば小さいといえば、王女は胸の曲線も背も小さいですね。そう言うのが好みなのでしょうか。

「つまり変態さんですか」

「そ……それを言ったらおしまいかと」

「まぁ……そう言う言い方もありますけどねぇ……もう少しマシな奴らは居ないのか……」

 お茶を飲みながら茶菓子をつついています。

「南の砦にいるのはおかしな人ばかりなのでしょうか」

「それげ腕だけは確かなのですよ。性格に問題があるの集まっているだけですね……どうもそう言う奴らが南の砦に集められたとしか思えないのです」

 王女は愚痴をこぼしています。愚痴をこぼしながら茶菓子に手が伸びます。もっとも美味しいお菓子は手が止まらないものです。

「しかし、あのようなモノばかり食べているのですか」

「あれも自然崇拝の一貫らしいぞ。わざと不味い食べ物を食べる事もやつらの幸福らしい……おかげで妾の食卓も充実してない……砦働いている連中は、どこかしら味覚が可笑しいのだ。ああ、頭もか……特にあいつだ……クァンスス。大体この手の騒ぎの中心に奴がいるのだよ」

「クァンススは、砦の中を案内してくれた人です……歓迎会もクァンススに呼ばれていきました」

「で、やつらは勝手に盛り上がっていたが、放置されていただろ」

 王女が図星を付いてきます。

「は……はい、ヴィアニア様よく分かりましたね」エレシアちゃんが応じます。

「まぁいつものことだからな。奴には気を付けろよ……妾には奴が何を考えて居るのか分からん……妾は監視で忙しいから砦の中をおざなりにしておればいつの間にやら砦内で勢力をのばしておる。現在北の半分を抑えているようだな」

「北の半分といいますと……」

「ああ、王国の出入り愚痴から中央の塔までだな……。まぁ南の方には勢力を伸ばせていないようだがな。あちらは前線基地だから後方部隊のクァンススには手が伸ばせないのだろう……今のところわな……」

 しかし王女は先程から砦の内部事情をやたらと話いるのですがそれは大丈夫なのでしょうか……少し心配になってきました。

「なにすぐに何とかするさ。こちらには強い援軍もできたしな」

 王女はそう言いながらこちらをガン見します。つまり強い援軍とは私の事でしょうか……。

「私は、エレシアちゃんの護衛の任務がありますので……」

「いや、しばらく南の砦に居るのだろ。まだ国を出る準備が終わっていないと言う報告を聞いて居る。フェルパイア側の調整に時間がかかるのだとか特に王国のすぐ南にあるデレス君主国の受け容れ準備がまだできてないとな」

「南には砂漠しか見えないのですが……」

「ああ、デレス君主国は砂漠の中にある国だ。いわゆる遊牧民の国だな」

「遊牧民とは何でしょうか?」

 遊牧民は初めて聞いた気がします。もしかすると昔読んだ本に書いてあったかも知れませんが……。

「遊牧民とは、動物を引き連れ、短期間で場所を行き来し定住しないモノ達だ……」

「それは流離う人間さんですか」身を乗り出して話に聞きいります。

「流離うとは違うな。動物の餌が有る限り、彼等は一箇所に留まる事もある。しかし砂漠の土地は痩せており、豊かな大地は少ない。砂漠の中にはオアシスと呼ばれる水が潤沢で農業も可能な土地もあるが大半は砂の山の中だ。砂漠は昼はとても暑く、夜はとても寒い場所で、今の時期にもなると水がすぐ凍るぐらいの寒さに至のだ。そしてフェルパイア連合に向かうのに最初に通らないと行けないのがその土地な訳だ」

「そういえば今は冬でした……」

 里の中は季節の感覚が鈍いので今の季節が冬と言う事をすっかり失念していました——少し肌寒いと感じて居たぐらいです——外の世界の冬と言うのは死の世界で——少し誇張しています——冬ごもりの仕度をしないと生きては行けない場所です。

「失礼します。少しお話に入らせていただきます」

 ずっと横で立っていた秘書官が前にでてきて言いました。

「砂漠を越えるのに防寒用具が必要になります。それなりのモノを現在取り寄せているのですがまだ間に合っておりません。それからデレス君主国との調整は既に別の外交官と武官が先行して入国しており現在調整しております」

 準備にかかると言う事ですが、とは一体何でしょうか……王宮に招かれたときの嫌な思い出がよぎります。

「ああ、あと半月もせぬ内に新年だからな。新年の準備で忙しいのもあるだろうな。この砦も準備で忙しいのだ……まぁクァンススどもが遊んでいるからなおさらだ。そこでだ……賢者様には手伝いをして欲しい」

「それよりエレシアちゃんの面倒を……」

 面倒な仕事が降ってきたら大変ですし、ここは穏便に断りたいところです。

「フ……フレナ様、私なら大丈夫ですから……」

 いやここは断るところだと思います。エレシアちゃんに目配せして断る様に促してみますが、どうやら合図に気がつかないようです……。

「よしエレシアの許可も貰ったことだし、賢者殿にはしばらく妾の下僕しもべになってもらうことにしたぞ」

 何から規定事項になってしまったようです。

「はぁ……」

 もはや溜息しか出てきません。

「それでは賢者殿、今から巡回に参るぞ」

「今から巡回しないと行けないのでしょうか?既に夜も更けてきています。夜は寝る時間ではないでしょうか。夜更かしはお肌にも健康にも良くありません」

 いきなりの展開に私、何を言っているのでしょう。

「初めが肝心と言うではないか善は急げとも言うな、だから今から巡回を始める事にしたぞ」

 周りをみると近くに居たはずの、秘書官やエレシアちゃんがいつの間にかおりません。せっかくエレシアちゃんとしっぽり夜を過ごそうと思っていたのですが、いつの間にか王女付きのメイド達に連れていったようです。扉が開いた気配があります。早業でやったのでしょうか……。さては出来るメイドが混ざっているな。

「ところで今から何をいたすのでしょうか……」

「これから砦の見回りを行うぞ」

「見回りは部下がすべきではありませんか。王女の様な偉い人は上の方で座って報告を待っていれば良いのではないかと思います」

 フリーニアの様に前線で格闘されても周りの部下は胃が痛いだけです。上の人はいちいち口出さない方が部下も働きやすいのではないでしょうか……。

「そうしていたらクァンススが勝手な事をしていたわけだ。全く自然信仰とは一体何なのか今からその核心に迫ろうではないか。そして妾は奴らが何をたくらんでいるか暴くのだ」

「今でないと行けない事なのでしょうか?」

「よろしいか賢者殿、陰謀は夜に行われるものだ。それにこの時間に妾が巡回しているなどとは思わないだろう?いわば相手は油断しておる。それを好手とは言わずになんと呼べば良いのだ」

 何やら勝手に話が進んでいる気がします……あの無害そうな風貌のクァンススが陰謀を企んでいる様には見えませんし勝手な思い込みの気もしますが……。

「ヴィアニア様、一つよろしいでしょうか……陰謀は気のせいではないでしょうか……クァンススは、純粋に変態だと思うのですけど……」

「賢者殿、単純な変態があのように徒党を組んでいると思うすのか。既に半分ぐらい自然崇拝とやらに取り込まれているのだぞ。無害とは言えこれは由々しき問題だ」

 その科白に威圧を感じます。かなりの気迫がこもっています。

「確かに飯が不味いのは困ります」

「それが分かればよろしい賢者殿。まず南の塔を巡回することに致そうか」

 王女が言うには砦の北半分は自然崇拝者達の手に落ちたが、南はまだ手に落ちていないと言う話です。南は南東、真南、南西に大きな塔があり、それぞれを騎士長が管理しているそうです。南東は南の砂漠に直面しており、魔物がよく出るそうです。真南と南西はフェルパイア連合につながる道で交易路として重要だそうです。

 夜道を歩きながら説明を受けました。既に空は真っ暗ですが、白い月の満月を少し過ぎたぐらいなので、それほど暗くはありませんが、目の前に暗闇が広がっています――まぁ夜目が利くのであまり関係ないですが……。

「王国からフェルパイア連合に向かう道は南西と真南の二つ存在する。南西の道はティベーユつながり、真南の道はイルムにつながっている。どちらも同じぐらいの距離が離れておる。さて賢者殿はどちらに先に参るおつもりか」

「……確か最初に連合本部に行く予定だと聞いていますが……」

 はっきり言ってうろ覚えです。

「連合本部と言うと都市国家のフェルプか……あそこは中間ぐらいの場所にあり直接行くのは難しい。恐らくどちらかの国を先に通過せねばぬはず……両雄であるがゆえ先に行った国の方がエルフの王国にとって重要と捕らえかねないぞ。賢者殿はどちらを先に向かうべきとお考えか?」

 そうは言われましてもエルフの王国に義理は無いですし――食事とお風呂の分はあります――フェルパイア連合がどういう代物なのか全く分からないのでどちらに決めろと言われましても出来るはずがありません。

「秘書官が決めると思いますけど……」

「そのような重要な決定を秘書官に丸投げして良いと思うのか。妾ならどちらかにすぐに決めようぞ」

「……そうは言いましてもどちらが重要なのか分かりませんし、そもそも、どのような国か知りませんし……」

「なんと賢者殿も知らない事があるのか……」

「知らない事を知るために旅するのが賢者と言う存在です」

 口から出任せを言ってみました……そもそも何度も行っていますが賢者ではありません。いつの間にか王国の共通認識になっている様ですが……そもそも四王女の一人が勝手に賢者と思い込んだだけです――そもそも人間さんを観察する為に旅に出ているだけです……なぜ厄介ごとに巻き込まれているのでしょう……それはこちらが聞きたいぐらいです。

「ほぉ……それは良い知見を得たぞ。知らない事を知るのが賢者の本質なのか」

 そういう事を言った覚えは無いのですが、何やら感心しているようなので否定するのは辞めておきます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る