エルフの王国30 南の砦の巻
南の砦からは砂の山が見えます。それを砂漠と言うらしいです。砦の近くまでは畑と森が続いているのですが、砦の間近になると急激に寂れていき、砦のあたりは砂だらけになっているのです。それでも砦の近くは大きな川が流れており、砦の中にも湧き出る泉があるそうです。そのため砦の周辺だけは砂だらけでは無く草が沢山生えています。 南の砦はフェルパイア連合との国境でもあり、ここから南がフェルパイア連合の領地になるそうですが、周りは砂漠です。
「王国を迫り来る砂漠の侵略から守るのがヴィアニア様の仕事でもあります」と言う話です。
ヴィアニアと言うのは四王女の中の一番下の王女で、次女ディーニアが一目置いている人でしたね……。野性味溢れる長女や天然入っている三女と違いヴィアニア王女は次女に近いと言う事は冷たい感じの人なのでしょうか……それとも怖いひとなのでしょうか……合う前から緊張してきました。
「ヴィ……ヴィアニアさんは優しいからそんなに緊張しなくても大丈夫……」とエレニアちゃんは言いますが……今まであった王女がみんなネジがぶっ飛んでいる様な方々ですから身構えるのが当然ではないかと思います、
「ここから南はフェルパイア連合の遊牧民の国家があります」と騎士が言います。この騎士が南の砦にいる間、エレシアちゃん派遣団の面倒をみるそうです。
「私は、騎士クァンススです。よろしくお願いします」
「
「いいえ、騎士のクァンススです」
「ですから兵隊さんの……」
「私の職業は騎士で、名前がクァンススです」
「ややこしい名前ですね」
「良く言われます……」
申し訳なさそうに騎士が申しております。
「んん……それはさておきましてこの砦の案内をさせていただきます。この砦は湧き出る泉を中心して砦が作られております。それゆえこのような砂の中でも水や草には困ることがありません。その四方に見張りの塔が建っており、侵入者を随時見張っております。中央には更に高い塔がありその最上階におわすのが麗しきヴィアニア様で御座います。ヴィアニア様は砦の頭脳であり高いところから私達をいつも見守っています……それでは皆様こちらへどうぞ。これから国を旅立ち異国で我が国の威風を伝える派遣団に対し、相応の持てなしの準備がしてあります」
クァンススの案内で大きな館に案内されました。そこには大きなテーブルの上に様々な食べ物が並んでいました……。
まぁ壮行会の食事に比べればたいした事は無いのですけど……。それは王宮と砦の差でしょうけど、北や東の砦に比べた場合、十分贅沢な食べ物がならんでいるような気がします。
「これらはヴィアニア様の施しものです。皆様ごゆるりとヴィアニア様のご威光を賜りください」
何か物言いがとか大げさすぎる気がするのですけど……。エリシアちゃんはどう思いますか?
「ヴィ……ヴィアニア様の周りに居る人は家臣と言うより崇拝している人が多いのです……」
「つまりこの方もヴィアニア様を崇拝しているのですか?」
「勿論、ヴィアニア様は我らが太陽。我らが月。我らを高見から照らし導く存在なのです。崇拝などとんでもない話です。我々はヴィアニア様に感謝しているだけです……我らは単なる自然崇拝者です……自然を崇拝し、ヴィアニア様を崇拝しているものではありません。今有るものをあるがままに受け容れているだけです」
クァンススが、エレシアちゃんの話に割って入ってきますが、ここまで来ると流石にうざく感じます。
思わず「うざい」と口に出したくなるところを我慢して近くにある食べ物を食べることにします。
「ん……」
見た目とは違い、ここの料理は全体的に薄味な気がします。なんと言いますかひと味足りていないと言うか、塩味が足りてないと言うか……少し物足りない気がします。
「ここの料理は味が薄くありませんか?」と言う事をそれとなく聞いてみると
「それはヴィアニア様にお仕えするため大地の恵みをそのままいただく為、余計な加工しておりません。自然そのままの風味を食される様に楽しんでください。全ては自然崇拝者の心構えです。自然崇拝者は食べ物も自然のままで食べるものです余計な加工は一切しておりません」などと言われました。
要するに味付けしていないらしいです。塩は最低限、砂糖に至っては一切使っていないようで、素材の味が前面と言うより前屈みになって殴りつけている感覚です。ある草は苦味が口の中を直撃しますし、ある草にいたってはえぐみで吐き出しそうになるぐらいです。それらを砦の人達は美味しそうに食べております。
「よくこんなものが食べられますね……」
呆れを通り越して関心してしまいました。
「あ……あとで、ちゃんとした食べ物を用意させますのでここは受け流してください」
エレシアちゃんが耳元でささやいております。私もささやきかえします。
「他の派遣団の人達は大丈夫でしょうか……その分の口直しも必要ではないでしょうか?」
「え……ええ、その分も用意させてましょう……。秘書官が苦い顔をするかも知れませんけど……」
「秘書官と言うのはもう一つの馬車に乗っている外交官の事でしょうか」
「い……いえ、外交官の他に二人の秘書官が馬車に乗っていまして……秘書官はお金や持ち物の管理をする為に付いているのでお金の出入りには結構うるさいのです……たぶん、今から無駄遣いはよくありませんと言われそうです……」
「それなら、砦の食材をいただいて調理したらいいのではないでしょうか……自然崇拝者とか言う食べ物の中には虫すら食わない草も混じっていますが、基本的には悪い食べ物ものばかりではありません。ちゃんと処理すれば食べられるものばかりです。秘書官もお腹を空かせてはお仕事できませんよ」
精霊魔法使いの目で食べ物を見れば一目で食べられるものか食べられないものかの区別は出来ます。この辺りは精霊が少ないです、それでもが精霊を見る目が使えないわけではないのです。
「フ……フレナ様は料理がおできになるのでしょうかか?」
「もちろん出来ます……小麦を使ったものはまだ作れませんけど……どなたか小麦の知りませんか……特にパンの作り方を知っている方……」
「ざ……残念ながら、そう言う方の知り合いは居りません……申し訳ありません」
とても申し訳なさそうにエレシアちゃんがささやきます。いえいえ、単に聞いてみただけですから申し訳なさそうにする必要は無いと思います。
食事は諦めて水と葡萄ジュースでしのいでおくことにします。
南の砦の派遣団の歓迎会は、主賓をそっちのけで進行していきます。騎士達が集まりヴィアニア様をたたえる歌を歌いながらパーティが進行していき、私やエレシアちゃんや外交官の皆さんはその外側で放置されています。
……そのおかげで会の途中で抜け出せる訳ですが——
エレシアちゃんと話あった結果、途中で会場を後にする事にしました。
そう言う訳で私とエレシアちゃんと他の派遣団の8人は——御者の8人は別の場所で既に休んでいます——こっそり会を抜け出すことに成功しました。
「全部ひと味足りていないのですが、ひと味足せば食べられるものもいくつかありましたのでそれを見繕って持ってきました」
ついでに食材を持ち出してきました。
「こ……これを料理なさるのでしょうか……」
エレシアちゃんが不安そうに見つめています。秘書官が何かこちらを睨んでいるような気がしますがそれについては無視します。
「大丈夫です。お姉ちゃんに任せなさい」
「賢者様はいつからエレシアちゃんのお姉ちゃんになったのでしょうか」
外交官の一人が言います。誰でしたっけ……。外交官1とでも読んでおきましょう。
「単なる言葉の綾です気にしないでください」
パーティ場を抜け出すと近くでメイドさんが作業をしていたので、「厨房を貸してはいただけないでしょうか」と頼んでみるとあっさり厨房を借ることができたでそこで料理を始めることにします。
借りた厨房は屋敷から少し離れたところのこぢんまりとした小屋の中にありました。この厨房は賄い用らしく宴会の間はむしろ空いているそうです。そこに置いてあるものも自由に使って良いと言われたので借りる事にとにします。「むやみにやたらに使わない様に」と秘書官には言われましたが、足りない食材や調理器具を少し借りるだけですと言って納得していただきました。それに水が無いと料理は出来ません。
厨房の横には食事を食べられる食卓と椅子も置いてあります。小さいですが8人ぐらいなら十分に食べられるぐらいの大きさはあります。
厨房に入るとまず鍋でお湯を沸かします。この辺りも精霊さんが少ないので、火打ち石で薪に火を付けて普通にお湯を沸かしています。お腹も空いていますし、時間も無いので手早く料理をします。下ごしらえはお湯が沸くまでに終わらせておきます。
お湯が沸いたら、えぐみのある草を軽く塩ゆでにして水で洗います。草の根っこは、細かく刻んでから茹でて柔らかくします。大きな葉っぱのままの草は刻んで炒めていきます。他の食材も煮たり、茹でたり、炒めたり、焼いたりして順番に調理していきます。因みに揚げるのは大量の油が手に入らないので出来ませんでした。
パンに関しては手に入りませんでした……。そもそも歓迎会場にもパンは置いてありませんでした。変わりに硬い草の根っこやら粥の様なものが置いてあった気がします。なのでパンの変わりにならないかと茹でて柔らかくした草の根っこを潰して丸めて焼いてみます。
最後に鍋の中で野菜と肉を共演させ、そこに塩やとっておきの胡椒や
「さぁ出来ましたよ。皆さん、おあがり」
しかし自分で作ったものですから私が最初に味見しないと行けません。
「……ん、これはいけます。どうぞお食べください」
エレシアちゃんが恐る恐る口を付けます。
「フ……フレナ様の料理は美味しいです……」
エレシアちゃんは感動に震えています。そして、その姿を見た残りの6人が一斉に料理を食べ始めます。
「「「賢者様おいしいです」」」」
「いえいえ、あそこにあった食べ物が素朴すぎるのです。多めに作りましたので残りは御者達に持っていきましょう。あの人達もろくな者を食べていないと思いますし」
「そういう話であれば、それでは早速持っていきます」
元気そうに護衛武官1が言いました。
「まぁ厨房から良い匂いがすると思ったら、エレシアちゃんですか」
急に小屋の扉が開いて白黒のゴシック調の服を来た少女がこちらにやってきます。背丈はエルフの王国の冒険者ギルドのギルドマスター、ルエイニアと同じぐらいですが、気品と優雅さを兼ね揃えています。そういうルエイニアには一欠片も持ち合わせていないものを持っているのがルエイニアとこの少女との大きな違いです。
「ヴィ……ヴィアニア様、なぜここにおられるのでしょうか……」
エレシアちゃんが驚いています。他の六人は一瞬で固まっているようです。蛇に睨まれたかのように凍り付いている感じです。
「妾はただ良い匂いにつられてきただけ。そういえばもうこんな時間ですか……どおりでお腹が空くわけだ……まったく侍従達はなにをしているのやら……」
ヴィアニアは憮然とした顔をしています。
「ヴィアニア様は、パーティ会場には居られなかったのでしょうか?ちょうど佳境に入っているのでは無いのでしょうか?」
「……そう言う話は聞いていないぞ。やつらがまた勝手に宴会を始めたのか……また、キツくお仕置きしないとダメだな」
「あ……あの、私がフェルパイア連合に外遊する事になって、皆さんが歓迎会を行っているらしいです……それで……」
「ああ、そういうことか。要するに宴会のダシにされたわけだな…まぁあいつらが食べるものは不味いから参加しないが……」
王女はあっさり不味いと言い切りました。王女は普通の味覚の持ち主だったようです
「そういえば自然崇拝が何とか普段から言っていた気がしますわ……」
そう言いながら王女はお皿をかいつまんでいきます。
「なにこれ、美味しいじゃない。この料理を作った人を雇うから是非連れてきなさい」
王女が興奮しながら言っています。普段は、よっぽど美味しくないものを食べているのでしょうか……。
「そ……それは、そこにに居るフレナ様がお作りになった品です」
「賢者様は料理も得意なのか。流石に賢者様を料理人で雇うのは流石に難しいそうだな。雇えれば四王女の筆頭は確定するのだが……そういえば賢者様初めまして、妾は四王女の末子のヴィアニア、南の砦で土の精霊使いだ」
「なにやらここの人達は、ヴィアニア様を崇拝している様ですが………」
「南の砦の騎士達は自然崇拝とか言ってなぜか私が拝んでくるのだ……未だに意味が分らないのだ……そういえば、良い茶葉が手に入ったのメイドに入れさせよう」
途中で奥に歯が挟まった物言いでヴィアニアが言います。
食事も食べ終えましたし、そのままお茶会も良いと思います。
その前にこれだけは絶対聞いておかないと行けない事があります。
「この館にお風呂はありませんか?」
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