エルフの王国32 南の三騎士の巻 前編

 中央の塔は少し異質な感じがします。どう表現して良いのか分かりませんが、異質な精霊の力を感じます。恐らく土の精霊だと思うのですが、若干違う気もします。

 現在、中央の塔に隣接している屋敷から王女と外に出ました……無理矢理連れられて来たと言う方が近いでしょう。

「さて、妾はまずは南西の塔を見に行きたいと思う。賢者殿はどう思うか?」

「……いえ何処に向かえば良いかも分かりませんので……」

 適当に誤魔化すしかありません。

「ほら、そこはそれだ。賢者殿であるからして、直感が働くのだろう。その直感を持ってして妾を導いて欲しいのだ」

 そう言われましてもそのようなモノは御座いませんので適当に言っておくことにして起きます。

「そうですね。この時間は白い月は東に有りますからまず西の方から御覧になられるとよろしいかと……」

「その理由は如何に?」

「月の導きで御座います」

 東から入るの光は西に向かいますので導きには変わりません。

「なるほど、心得た。それでは妾と一致だな。まずは南西の塔に参ろう」

 王女は忍び足で闇の中を移動します。

「わざわざそのような歩き方をしなくてもよろしいのでは……」

「いやいやこういうものは形から入るモノだろう。それに自信満々に歩いていたらすぐ妾だとばれるではないのか?」

「いいえ。そのような歩き方は怪しいモノですと自分から言っているようなモノなので普通にある呈ください」

「はて、普通に歩くとはどういうことだ……。妾は妾であるが事が普通ゆえ、妾が妾で無くなるという事はその時点で普通ではないだろ」

 どうやら普通の定義からすりあわせる必要があるようです。

 ……

 ……

 しばらく王女に普通の定義の説明を致します。しかし、普通と行っても里の普通とここの普通がかなり違うので……エレシアちゃんを基準に普通を定義をすることにしました。

「賢者殿分かった。要するに下々のものみたいに歩けと言う事か」

「ヴィアニア様、この際、その解釈でもよろしいかと」

 日が沈んでからしばらく経つと南から風が吹いてきます。冷たい風が頬をなでます。

「冷え込んできました……と言うかこの風はむしろ痛いです」

「この時期は夜になると砂漠から冷たい風が吹いてくるからな……外は寒いぞ」

 中央の塔から南西の塔まではいくつか曲がり角があります。しばしば慣れていないと迷いそうに道が入り組んでいました……。どうも宿舎を無計画に建てた感じがします。

「……なぜこの辺りは入り組んでいるのでしょうか……」

「妾が来たとき既にこうなっていたゆえ、前任者に聞くしか無かろう」

「前任者と言うと四騎士の事でしょうか」

「そうだな……やつらは四騎士といったか……あの変人ども」

「四騎士とは変人なのでしょうか?」

「そもそも騎士が変態の集まりだろ」

 そう言われて、今まで出会った騎士を順番に思い出していき結論はこうなりました。

「……確かにそれは正しいかと」

 そう言う会話をしながら南西の塔に向かいます……しかし砦の中は意外に大きく距離があります……。

 ……

 ……

 そこで何か気配がしますた……どこかに潜んでいるような見張っている様なそんな感じです。

「何かあったか?」

「王女様、何やら気配を感じたもので」

「それは自然崇拝の一派のものか……」

「その点は違います。何か他の……見知ったような気配……」

 そう言っているうちに不意に気配が消えたので、その後はこうつなぐしかありません。

「……もしかすると気のせいかも知れませんけど……」

「まぁ気のせいでも良かろう。やつらがこの辺を彷徨いていないだけでも良い」

「しかし、あまり人が居ませんね……」

 夜とは言え深夜には入って居ませんので、まだ出歩く人が居てもおかしくない時間帯ですが、人影が全く見当たらないのです。

「この辺りには朝早い連中の宿舎が集まっているのだろう」と王女は言います。

 そろそろ南西の塔が急激に大きく見えてきます。その下には何人かの騎士や戦士が集まって火を焚いています。塔の上の方では恐らく遠眼鏡で監視しているのでしょうか……必ずしも夜目が利くとは限らないのですけど……。

「それでは妾は挨拶して見てこよう……」

「ここにはお忍びで来たのでは無いのでしょうか」

「ああ、お忍びだ。だから今から挨拶に行くのだ」

「こっそり三騎士を探るのでは無かったのでは無いでしょうか?」

 少なくともそう聞いた記憶がします。

「どうせすぐバレるのだ。構わん。それにここに来ていることは知らないはずだろ」

「それもそうですけどね……」

「皆の衆、元気にやっているか」

 ヴィアニアを声を聞いた騎士達が一列に並んで直立不動になります。

「これは、ヴィアニア様。視察に参られるのなら先に連絡してくださると助かります。今何も用意がしてありませんので、おもてなしするものが有りませぬ……」

「みなまで言うな。視察に行くと言ってから視察したら視察にならんだろ。それよりポーフェヌスは居るか?」

「ポーフェヌスなら夜警に出られておりますゆえ、しばらく戻りません」

 変わりに答えたのは、中に居る騎士のなかで一番偉い人のようです。

「なぬ夜警とは……どこかで飲んだくれているのか?」

「いえいえ、砦の外の見回りです」

「砦の外も安全だろ……。警報はなっておらぬし、危険なものの気配もないぞ」

「それはヴィアニア様だけが分かる事でして……私どもはそれを目で確認する必要があるのです。私共はヴィアニア様の目であり剣であります」

「それもそうか……。ところで賢者殿……怪しい気配は感じぬか?」

「別に普通の人達ですよね……」

 まぁ自然崇拝の連中の後でみたらイレイナですら普通にしか見えないと思いますが……現在、普通の基準がズレております。

「ふむ、ここには怪しいものはいないのか……。クァンススの噂を聞いたことはあるのか?」

 怪しいですかと聞かれて怪しいですと言う人は、あまりいないと思うのですが……こんな雑な聴き方で大丈夫なのでしょうか……。

「いえ、クァンスス様の話は知りません。何かやらかしたのでしょうか?」

「いや、こちらの話だ……それより、これから何があっても忠誠を誓ってくれるか」

「はい、ヴィアニア様の為なら火の中、水の中でもどこでも参ります」

「妾はその様な場所に行く用事はないぞ。これからきな臭くなりそうだから汝等の忠誠を確かめに来たのだ」

「きな臭くなると言いますと……」

「これから話すことは他言無用だぞ。北の塔でなにやら怪しい陰謀が行われているので。それを調べる為にここまで来たのだ……。クァンススが何を考えて居るのか手かがりをつかむゆえ。こうして調査に来たのであるが……肝心なポーフェヌスが居ないと困るな……」

 騎士達がざわざわし始めます……「また性癖を拗らせたのか」「愛情表現が歪んでいるからな」などと言う言葉が頻繁に飛び交っている気がします。

「ポーフェヌスに伝言して起きますか?それともお待ちになりますか……お待ちになるのであれば、温かい部屋と飲料をすぐにでも用意いたします」

「いや、それには及ばぬ。時間が無いゆえな。ふむ……どうやらここは白の様だな……さて賢者殿次に参るとしようか」

「次は、真南の塔ですね」

「そうだ」

「それより、《警報》とは何でしょうか?」

 私は、ヴィアニアに聞いてみました。

「ああ、この砦の半径1エルフ里に土の精霊の結界を張ってある。害意があるものがそこを通過すれば警報をならすわけだ。だが広域過ぎて、近場の害意までは見通せないのが問題だな……ポーフェヌスは近場に害意あるものが居ないか見回りしているのだろう」

 探知型の精霊結界とは言え、1エルフ里もカバーするものともなれば相当の力量が要ります。ディーニアがヴィアニアをライバル視していた理由が分かった様な気がします。

「ところで、ポーフェヌスとはどういう方なのでしょうか」

「実直な騎士だ……そして機転も聞く。人の往来の多い南西の塔を守らせるにはちょうど良い人材だと思わないか?」と言っていますが……結局実物を見ていないので評価できません。

「それでは真南の塔へ向かうぞ」


「……ところで王女様、なぜこのようなところを歩いてるのでしょうか……」

「秘密の通路を使って移動しているのだが何か問題でも……」

 南西の塔の近くに秘密の入口があり、そこから地下道が取っています。塔を張り巡らせる様に走っており、真南の塔の近くにも出入り口があるそうです。それより問題なのはこの地下道は低くて狭く、進むのに窮屈そうに前屈みなって進む必要があります。ヴィアニアきっちり合わせた様な大きさなので、ヴィアニアは狭さも低さも気にせずドンドン進んで行きます。後ろを追うので精一杯です。

 魔法で穴を広げれば簡単に通れるでしょうけど……崩落したりすると危険なので辞めておきます。

「この地下道は砦の中を張り巡らせているのですよね——中央の塔から南西の塔にもこの道はつながっているのですよね……それなら最初から使えばよかったのでは無いのでしょうか?」

「その時の妾は夜風にあたりかったのじゃ。今の妾は夜風にあたりたく無いのじゃ。それだけでも大きな違いだろ」

 どうやら王女はその時の気分で行動がコロコロ変わる様です。

「そろそろ真南の塔の側だぞ……。準備しろ」

「王女様、私は何を準備すればよろしいのでしょうか」

「まず周りに誰も居ないか確認しろ——出入りを見られるとまずいだろ」

 仕方なく周囲の気配を感じ取りますが——地下道の外に感じ取れるものは皆無です。かなりとおく——恐らく塔の方に人の気配があるぐらいです。

「周りには誰も居ない様です」

「そうか妾は賢者殿その言葉を信じるぞ——もし嘘なら針千本飲ませるからな」

 針って飲むものでしたか……そもそも千本も飲むしろものではないですよね。

 「よいしょ」と言うかけ声と共に秘密の出入り口から王女が這い出します。私もその後を華麗に跳躍して抜け出します。やっと窮屈な場所から出られたので、こわばった身体を動かしてみます。

 王女の方は何事も無かったように毅然として立っています。 

「真南の塔の騎士はレフェスシアだったか……あいつはくせ者ゆえ遠目で探してくれないか賢者殿」

 探せと言われましてもレフェシアの顔を知りません。

「王女様、顔が分からないので調べられません」

「んー……それならレフェスシアの特徴を説明するからそれなら探せるか?」

「それは説明によります」

「そうだな……小さな蜂の紋様を胸鎧に刻んで居る……それから……」

「ああ、あれがそうですか……」

 蜂の模様を鎧に刻んでいるのは一瞬で見つけられるぐらい目立つ特徴です。

「賢者殿、もう分かったのか?」

「あそこで一際目立って居る女性の方ですよね」

 王女は目をこらして塔の方を見ます。

「確かにそれらしい感じがするな……しかし、賢者殿は銅貨より小さい紋様をこの距離から良く見わけられるな……」

「これぐらいは普通見えるものでは無いでしょうか」

「普通、見えるわけ無かろう。妾が保証する。賢者殿は普通ではない」

 普通の基準を里にしては行けないとは思いますが、いきなり普通で無いと言わると流石に里での常識人と呼ばれる私としては少々不満なので、少しむくれてみました。

「賢者殿、そこでボーッとしているな真南の塔に向かうぞ」

 我関せずと王女は真南の塔に進んで行きます。

 ムッとしながら後を追いかけていきます。

 

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