エルフの王国19 冒険者の巻 前編

 お茶が終われば次お風呂です。特製石鹸で背中を流してあげるとエレシアは御機嫌でした。

 夕飯にも誘いましたが今日も自宅に帰ると言いました。しかし両親は遠方に出かけており、今自宅にいるのはエレシアと屋敷の従業員だけと言う話です。


 翌朝、冒険者ギルドに足を運ぶことにしました。

 冒険者ギルドは下町地区にあります。王宮地区から下町地区まで歩いて行こうとすると……フィーニアの執事から出来れば馬車を使ってくださいと懇願されるのので仕方なく馬車に乗っていくことにします。

 冒険者ギルドは宿屋に毛が生えたような建物にあります。看板には剣盾鎧そして魔術師の杖を組み合わせた絵が描かれています。そこで中に入ってみることにします。

「たのもう」

 中に入ると様々人達で賑わっています。エルフだけではなく人間も集まっています。それ以外に見られないらしき種族も居るような感じです。

 壁一面には紙が幾つも貼り付けてあり、そこには共通語で依頼が書かれています。

 張り紙を読んでいくといろいろな依頼がありますが……旅の護衛と北の荒れ地と南の砂漠の魔物退治に関する依頼が多いようです。旅の護衛の依頼は割と長距離のものが多く、西にある王国や南のフェルスパイア連合諸国に赴く依頼が多くを占めていました。中には農作業を手伝って欲しいとか鼠退治とかそう言うものも張り出されております。それぞれの依頼には難易度と言う文字と隣に★が書いており、鼠退治なら★半分とか、魔物退治なら★が5つも6つも書いてあったりします。

 張り紙をじっと眺めていると

「おまえさん、どうやら見慣れない顔だな。ここに来るのが初めてならまず受付に行かないと。冒険者」などと後ろから声をかけられます。

 そういえば冒険者ギルトに登録しに来たのでした。

 これも職業証明書を入手するためです。つまり魔術書を読みあさる為に必要なモノを手に入れる為です。

 受付の方を見ると依頼の申し込みで行列が出来ている様なので、奥の方で行列がなくなるのを待つことにします。

 奥の方はどうやら食堂を兼ねているようでそこで軽い食べ物や飲み物をとる事が出来るようです。それでは行列が消えるまでここで時間を潰すことにしましょう。

「お茶とケーキはありませんか?」

「んーここにはケーキはないかな」

 店員さんがそう答えます。

「それでは何があるのでしょうか……」

「まぁまだ朝だからお酒はだしてないよ。朝食ならパンかお粥だろそれからスコーンもあるかな……」

「それでスコーンとはどういうものででしょうか?」

「スコーン?単に小麦を練って丸めて焼いたものだよ」

 店員さんは、なぜそれを聞くのか不思議そうな顔をしています。

 それより小麦を焼いた物のようなので、ケーキの代わりに注文することにしましょう。

「それではお茶とスコーンを一つお願いします」

「じゃ、そこでしばらく待っててね」

 待つことしばし、目の前にはお茶とスコーンが置いてあります。スコーンの横にはクリームらしき物と苺を煮詰めたらしきジャムが添えてあります。スコーンを食べる時はこれを付ければ良いのでしょうか……。というわけで食べる事にいたします。

 ザクザクした歯ごたえでそこそこ行けるようです。しかし少し硬い気もします。

 お茶を飲みながらゆっくりスコーンを片付けることにしました。

 スコーンを少しずつ口に運びながら受付に並んでいる冒険者をじっくり観察していました。

 やはり冒険者ギルドには人間さんも結構いるようです。

「ここには結構人間がいるよね。人間の国から商人の護衛で来てさ、適当に遊んでから帰りは別の護衛の依頼引き受けて帰るらしいよ」などと店員が口を挟んでおります。

 スコーンを食べ終わる頃には行列もなくなっていたので受付の方に行くことにします。


 受付に行くと受付嬢が応対してくれます。

「冒険者ギルドに登録したい方でよろしいのでしょうか?それでは冒険者ギルドについての説明をさせて貰いますね。冒険者ギルドは国をまたいだり国が手に回りきらない依頼を一手に引き受け、冒険者に斡旋する組織なのです。ここエルフの王国の場合ですね。王国内に出現した魔物は騎士で処理できているのですよ。それでも国境の外や隣国との境界に対しては必ずしも目が行き届いているとは言いがたいのです。西や南の国境沿いに魔物が現れた場合に騎士や軍隊を動かした場合、外交問題になってしまうんですよね。それで騎士や軍隊を派遣する事が出来ないので、冒険者ギルドを通して冒険者に代理依頼しているんです。一応、冒険者ギルドは国を横断して、国から独立して居ることにはなっているんですよ。例えば護衛依頼などで複数の国を渡り歩く場合があるのですが、本来、通過する国全ての通行許可証が必要になるのですけど冒険者ギルドに登録している冒険者の場合、ギルドの登録証だけで出入りが可能です。ただし、これはあくまでも建前なんですよね。ここまでの説明で分からないことはないでしょうか?」

「いいえ……特にないです」

 やたらと建前が多い気がしますが通行許可証を取らずに国の出入りができるらしいです。

「ただし冒険者ギルドに入る為には審査と登録が必要になります。まず審査の方ですけど冒険者に最低限必要な知識や技術の審査を行います。知識については最低でも依頼の張り紙ぐらいは読めないと依頼が受けられないので、最低限の共通語の読み書きは出来ないと困ります。それから最低限の武器や道具が扱えないと困るのです。それというのもですね……冒険者ギルドはあくまでも冒険者を仕事を依頼する組合なのです。他のギルドの様に育てる所までは行っていないのです。正直なところそこまで手が回らないんです。一応、例外もありますけど……。それで今から話すことがギルドに登録する上で、一番重要な事になります。冒険者がギルドから依頼を受けた場合、全てにおいて自己責任になることです。仮に自分の能力に見合わない無謀な依頼を引き受けて死んだとしてもギルドは一切責任を持てないのです。その辺は見極めて依頼を受けて欲しいです。ついこの間も無謀な依頼を引き受けてパーティが全滅したという話がありました……。この場合ギルド側では何もできないのです……。ギルドで出来ることは分相応な依頼を受けない様に難易度を設定する事ぐらいですが、難易度を決めるのって割と難しいのです……。楽な依頼だと設定しても実は裏に大ボスが隠れていたりする事もあったりするのです。それで、冒険者ギルドとしては、ギルドの定めた免責条項に関して了解できる場合だけ登録をお受けしております。免責条項は以下の書面に書いてあります。一応これは説明義務がありますので長いですが全部に目を通してください。それでもギルドに登録なさると言う覚悟がある方だけが登録できるのですよね……ここの説明の部分はかなり長いですがおわかりになりますでしょうか」

 免責条項と書かれた書面を渡されます。依頼は自己責任で行うこと。依頼の報告に虚偽があった場合、ギルドから追放される場合有ること。国と諍いがあった場合、冒険者ギルドはあくまで中立を維持します。などと言った内容がやたらと冗長な文章で書かれていました。

「命に関わる事なので十分に確認してください。何でしたらあちらでじっくり目を通されてからでもよろしいです」

 受付嬢は酒場の方を指さします。

「いえ、これで十分です」

「本当に大丈夫ですか……。焦って登録して最初の冒険で全滅とか言う話もありますので、慎重に読んでくださると嬉しいのですが……。難しいので理解しにくいところはかみ砕いて説明いたしますので、もう一度確認をお願いできるでしょうか」

「いえ、大丈夫ですけど……」

「……はぁ、では了承いただけるなら後でサインをしていただきます。ただ審査が全部終了してからですので、後でもう一度確認しても構いませんよ」

 なにか、やけに慎重になっていますね。やはり無謀な冒険者と言うがかなり多いのでしょうか。

 受付嬢は、少し合間を置くと続きを話だしました。

「次に審査の仕方を説明いたします。まず職業クラスを決めていただきます。そしてその職業に基づいていくつかの審査と調査をした上で暫定位階レベルを決めさせていただきます。職業と暫定位階が決定したら冒険者登録の可否をお伝えします。その上で先程の免責条項に契約書にサインをしただき冒険者登録が完了します。その後は冒険者登録書を発行いたします。これには少し時間がかかります」

「職業の選択ですか」

「ええ、冒険者登録を行うためには最初に職業を選択してもらわないと行けないのです。冒険者に依頼を出すとき依頼に適格かどうか調べる為に必要になのです。魔法に精通している方にお願いしたい依頼や護衛や潜入に関してもそれに精通している方に引き受けていただきたいわけです。その為、職業を設定することによって、ギルドも適切な方に適切な依頼が届けられるようになるのです。無論、完全に確実とは言い切れる訳ではないのですが、職業システムを導入する事で依頼主が安心して依頼ができるのです。そのため、ギルドは職業選択制度と位階制度を整備してきました。そして職業を決めることにより、様々な恩恵が受けられます。魔術師を選択した場合、魔術協会や図書館で位階に応じた魔術書を読む事が可能になります。戦士であれば特別な武器や防具の斡旋などが可能になるわけです。後から職業を変更する事は可能ですが、あまり為されない方が良いと思います……」

「最初に決めた職業は変更しないほうが良いのでしょうか」

「ええ、これはどちらかと言うと信用の問題です。ころころ職業を変えるクラスチェンジする冒険者に依頼を出したい依頼主クライアントはあまりいないのですよね。後で説明する上級職への転職は構いませんが、魔術師から戦士になったり、治癒術士から斥候になったりというのはあまりお薦めできません」

「それで職業と言ってもいろいろありまして、基本的な職業は戦士、斥候、魔術師、治癒術師などになります。特殊な職業としては賢者、野伏、陰陽師と言ったところでしょうか……。あと、先程少し触れた上位職と言うものがありまして、魔法の使える剣士であれば魔法剣士での職業選択をお薦めします。魔術師でもあり精霊使いでもある場合は妖術師や魔道士を選ぶ感じになるでしょうかね……。あまり複数の魔法を使い越せる冒険者は見たことありません……」

 特殊職の言われた賢者は勘弁したいところです。賢者と呼ばれるのは流石に疲れ来ましたし……個人的には狩人を選びたいのですが、魔術師扱いにはならないですし……。ところで陰陽師ってなんでしょうか……。

「ギルドには上位の魔術書に手が届く上級職はないのでしょうか」

「どのような魔術がお使いになれるのでしょうか?」

 受付嬢が興味深く聞いてきます。

元素魔法エレメンタル精霊魔法スピリット幻術イリュージョン上代魔法ハイエンシェントぐらいでしょうか」

 元素魔法は下代魔法ローエンシェントの別の呼び方でしょうか。大気中の魔素マナを利用して扱う魔法の事です。どうやら共通語では下代魔法ローエンシェントの事を元素魔法と呼んでいるみたいです。得意なのは精霊魔術と幻術で、他にも使えるものはあるのですが今のところ必要なさそうなので辞めておきます。

上代魔法ハイエンシェントとは聞いたことがないのですが、その様なモノは存在するのでしょうか。仮にそうだとしても確認取れないんですけどね」

 受付嬢が苦笑いしてます。上代魔法はこの辺りでは一般的ではないのでしょうか……。

「それから剣と弓も扱えます」

「そうすると……複数の魔法に精通しておられるなら魔道士あたりがお薦めなのですが、剣や弓もお使いになるのなら魔法剣士が一番融通が利くと思いますよ。ただ、少し審査が厳しくなるので一通り審査してからでも良いと思います」

 とりあえず魔法剣士で登録することにしました。

「それでは魔法剣士を前提に審査させていただきますね。次に魔法剣士としての暫定位階レベルを決めさせていただきます。魔法剣士に必要な技量は魔法使いとしての技術、戦士としての技術、そして、魔法と武術の連携の三点で審査させていただきます。どれか一つ不足していても魔法剣士としての審査は不合格になります。その場合、魔術師か戦士で再登録をおねがいしますね。それでは準備して参りますのでしばらくお待ちください」

 受付嬢はギルドの奥に入っていきました。

 しばらくすると別の女性が出てきました。

「いきなり魔法剣士で登録したいと言う方がいるとか言うので見に来たんけど、面白そうな子だね」

 奥から出てきたちびっ子が笑っています。耳は丸くなく濃緑ダークグリーンの髪と瞳を持った幼女です。どうやら森のエルフのようですが、どうみてもエレシアより年下にしか見えません。

「あ、今小さいと思っただろ。これでも古参の一流の魔術師だよ。先の大戦にも参加した事はあるんだよ。その後、若返りの魔法を試したらこんな身体になっただけだから」

「若返りの魔法って必要あります」 森エルフも年齢を重ねても見た目はほとんど変わらないのです。エレシアみたいにまだ成人してない年齢ならともかく……

「まぁ人間の魔法を試しに使ってみただけなのよ。それが面白い事になぜか小さくなっちゃってさ、戻し方が分からないけど面倒だからそのままにしているわけさ」

 そこに受付嬢が戻ってきます。

「あのギルドマスター、なぜこんなところ居るのですか……。それより適当な魔術師はいないのですか?この方の審査を行いたいのですが……あいにくギルドの魔術師は全員出払っているようなのです」

「それなら僕がやるよ。

「それなら安心ですね……ギルドマスター直々ですか?」

「まあ、いないなら僕がやる仕事だよ。それでは魔法の技量を確認させてもらうよ。審査はこっちの方でやるから付いてきてくれるかな……えっと」

「あ、フレナです」

「それじゃフレナよろしく。僕はエルフの王国の冒険者ギルドのギルドマスターのルエイニア。面倒だからルエイニアでいいよ」

「それではルエイニアさんよろしくお願いします」

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