エルフの王国18 図書館へ行こう

 それから数日が立ち王立図書館への許可証が降りたので、早速図書館に参ることにします。エレシアは自宅に帰っているので今日は一人で参る事にしました。王立図書館までは歩いて行くことも可能ですが馬車を使えとの事で馬車で移動しました。

 ……そういえば馬は元気にしているのでしょうか……そのうち一度見に行かないと……。

 王立図書館は王宮地区にある白亜の大理石造りの大きな建物です。左右に大きな柱が立っている玄関が真ん中にあり、そこから中に入ると大きなテラスがあり、いくつもテーブルが置かれています。ここはオープンスペースと良い誰でも読める本が置いてあります。ここには紛失しても良い本しか存在しないそうです。

 大半の本は奥の書庫に収まっており厳重に管理されています。中でも大切な本や禁書——読んではいけない本らしいです——の類は何重にも鍵のかかった部屋に置いてあります。

 装丁には皮を使っており背表紙には題名タイトルがしっかり書かれております。背表紙に題名が書いていない里の本とは大違いで「里の図書館もせめて題名が書かれていれば探すのも少しは楽になるでしょうね」と思いましたが里の図書館の本全部に題名を書き込むとか正気の沙汰では出来ません。

 テラスの一番奥には受付があり、オープンスペースに無い本を読みたい場合はここで許可証を出す必要があります。必要な本を頼めば読めるそうですが持ち出す事は出来ません。テラスの奥の更に奥にある特別閲覧室で司書——本の管理をする人です——の監視の元でのみそれらの本は読むことが出来ます。司書に許可証と一緒に読みたい本の種類カテゴリーや題名を告げると司書が本を探して持ってくる仕組みになっています。

 書庫に入るのは王立図書館司書の資格——資格は許可の親戚でしょうか——もしくは《特別許可証》のどちらかが必要で、許可を持っていると直接書庫で本を探す事も出来るらしいのですが……今回特別許可証は取れていないので書庫の中を探検するのはできませんでした。

 仕方ないので司書に読みたい本の内容を告げることにします。

 最初はフェルパイア連合について書かれた本とエルフの王国の歴史に関する本を注文しました。

 しばらくすると司書さんが重そうに本を抱えて持ってきます。

 これらの本は、里の本に比べて鈍器の様に重いのです。その割には頁数ページは少なめです。本の装丁は立派ですが中の紙は草から作ったものではなく羊皮紙でした。そういえばエルフの王国で使っている紙は丈夫ではありません。少し力を入れると破けそうなので本として残すには羊皮紙が必要になるようです。

 ついでに里の魔法と王国で使われている魔法の違いを知るために魔法に関する本も読みたいたいところでしたが、魔術に関する本を読むには許可証の以外に職業証明書がいるそうです。職業証明書とは何かと尋ねたらギルドなどが発行している証明書だそうです。ギルドと言うのは同じ職業を生業とする人達が集まる場所らしいです。

 もう少し詳しく聞いて見ると魔法に関する本を読むには魔術師、冒険者ギルド、聖職者のどれかの職業証明書が必要だと言う話でした。これは王族も例外ではないと言っています。さらにこれらの職業には位階レベルが存在し、位階に見合う本までしか閲覧許可が出せないそうです。高度な魔術書を未熟な魔術師が読むと危険なのでわざと読めなくしているとの事。

 ちなみ聖職者の所属するギルドの事を《教会》と言うそうです。

 もちろんギルドに属さない職業もあります。これらは騎士やメイドさんなどがこれに当てはまり、これらの職業証明書はギルドではなく国が発行するようです。もっともメイドの職業証明書があっても魔法に関する本は読めないのです。

 ギルドに入るには職業により違いがありますが、金貨二枚の加入金と平均十年の修行が必要になります。ギルド加入時には加入金と入会試験がありそれに通ると《弟子》の資格を得ます。この金二枚の加入金は修業を終えると返金されます。ただし途中でギルドを辞めた場合は返金されません。修業期間を終えると《熟練》になりここでようやく職業証明書が手に入ります。《熟練》からさらに経験を積むと《親方》になる事が出来ます。《親方》はギルドの経営に参加する権利と共に《弟子》の面倒を見る義務があるので、《親方》を避けて技能をみがいて《名人》を目指す職人も居るそうです。

 要約すると職業証明書を取るには十年かかり、特に魔術師ギルドはその《弟子》の期間が長いそうです。ところが冒険者ギルドはその例外で登録した時点で職業証明書が手に入るるそうです。位階も試験と実績のみで決まり年数は関係ないそうです。つまり王立図書館で魔法に関する本を読むには冒険者ギルドに入るのが最短です。

 魔法の本に関しては後に回すとしてフェルパイア連合とエルフの王国の歴史についての本を先に読んでいくことにします。

 フェルパイア連合とは街一つと周辺の農地で構成されている小さなな国——都市国家と呼ぶそうです——が沢山集まって利害調整を行う機関と書かれています。国の数があまりに多く固有名詞を追っているだけで訳が分からなくなりましたが、その中には有力な国が四つぐらいあり、それらの国を中心に連合内の駆け引きが行われている様です。連合は一枚岩では無く、連合の内でも常時小さな戦争が起きているそうです。……意味が良く分かりません。最近は南の帝国の圧力を受けて一つにまとまり出していると言う事も書かれておりました。帝国と言うのはティルティスと呼ばれて居る国で、ここ百年ぐらいで急激に大きくなったと書かれています。

 最後にこの本の書かれた日付を見ると十年ぐらい前に書かれたものでした。

 百年で大きくなると言う事は、十年でさらに大きくなっているのでしょうか……。その辺りはやはり実地調査しないと行けない様です。


 もう一つエルフの王国の歴史に関する話ですが、災厄の大魔王を倒した〔赤き勇者〕ことミュンディスフラン一世が建国し千年強ほど経っている部分はフィーニアから既に聞いている話です。それから数代を経て現在になっています。途中、西や南の人間の国と大きな衝突が起き、その時エルフの王国を救ったのがだそうです。このについてはでした。

 それから目に付いたものは預言の詩と言うものです。それは王宮で国王の家臣が朗読していたものと似た内容でした。

 良く意味が分からないのですが何かの手がかりになる気がしたので司書の許可を得て書き写したのが以下のものです。


 最後おわりの魔王がたおれたのち

 尊き種ハイ=エルフ現世うつしよを去り

 現世うつしよ幽世かくりよの間にある

 時代ときの狭間につい住処すみか

 そこは時の流れも忘るる桃源郷むかうのさと

 そして再び現れる事は無いと聞く


 しかれど大いなる森のあるじ子孫こまごさと

 時代ときの狭間が開く時に預言それがもたらさんこと

 森に危機やみが迫りくれば預言それがかなうること


 白き月と青き月が交わりしとき

 青き森の季節ときがすぎさり 白き雪の季節とき御前みまえ

 現世と幽世の流れから こぼれ落ちる乙女あり

 現世と幽世の狭間から 浮かび上がるる古代種まぼろしあり

 

 白き体躯からだは 森の中を迷い歩き

 青き精神こころは 人の世を迷い歩く

 そのわかちは 彼方かなたを超えんといい

 そのちからは 彼方かなたを超えんという

 救いを与えんとすれば 報いがその身に訪れるであろう

 拒みを与えんとすれば 酬いがその身に訪れるであろう

 報いのわかち希望ゆめを導かんとし 報いのわかち勇気いさおいを生まんとす

 酬いのわかち絶望あきらめを与えんとし 酬いのちから恐怖おそれいだかせん

 されどれは 彷徨さまよいにしえなり 再びおぼろの中に帰る必然さだめ

 時代ときの狭間が閉ざされば家路ついに戻らんたろう


 意味が分からないのもこの詩を読んだ王宮の家臣や学者達も同じらしく、いくつかの解釈が存在しているそうです。

 王国には紙がないのか歴史書が非常に簡潔にまとめられていましたので千年分の歴史を読むのに二千年ではなくたった半日で終わりました。二千年ではなく半日です。しかも本は言えば持ってきてくれますホントに便利な図書館でした……。里にもこういうのが欲しいですが里の図書館は司書さんの様に本を管理する人がおりません。誰もやりませんし私もやりたく有りませんから恐らくずっとあのままだと思います。

 本を読み終わると一旦屋敷に戻って本で得た知識に基づいてエレシアと情報交換することにします。

 場所はもちろん半ば私物化しているフィーニア王女の本宅の客室です。

 ここ十年の帝国の動きは鈍くその理由は連合との牽制によるものとの事です。

 そのため帝国は密かに連合を攻める用意をしているらしく、そのために連合からエルフの国に使者が来ているそうです。度々使者を行き来されるのが大変なのでエルフの王国に対する窓口を一元化し使者を常駐させる事にしたそうです。その使者の事を大使と言います。そして、その大使が常駐している建物を大使館——先日行ったところです——と呼びます。

 連合側にはエルフの王国の大使館があるそうで、フェルスパイア王国を旅する場合場は助けなるかも知れませんとエレシアが語っていました。

 エレシアは若いのに物知りなので感心します。どこぞの筋肉だけの騎士とは大違いです。

 さらに今後についてエレシアと話会うことにします。

「私は、これから冒険者ギルドに登録してしばらくそこで活動しようかと思います」

「フ……フレナ様は、王国を離れるのでしょうか……」

 さみしそうにエレシアが言います。

 エレシアは私の方ににじり寄って寄り添います。

「分かれるのが早いか遅いかの違いだけです。恐らく長く居れば居るほど分かれがツラくなるとは思います。ならば楽しいうちに分かれた方が良いと思います。機会があれば股合うことも出来ますし、そうでなくても楽しい思い出として残るのですから」

「そ……それでも私は……フ……フレナ様と一緒に居たいです……」

 今日のエレシアはやけに積極的です。

「エレシアは王家に準じるものとしてのおつとめがあるのではないのですか……」

「い……いいえ……エレシアにはそのようなものはな……ありません……も……森の力が使えないので……」

 何か誤魔化しているような気もしますが、森の力が使えないのは確かですね。

「そ……それで……フ……フレナ様に付いていけば……自分も強くなれるのかなと……」

「いえいえ、私は強くないです。エレシアの方がずっと強いです。心根は優しく芯があります。それになりより努力家だと思います。私などは風に流されるだけの綿帽子みたいなもので、思いつきで生きているだけです……」

「フ……フレナ様は自由なのですね……」

 自由と言うのは姉や父の事ですよね……。と否定しようと思いましたが……

「それ……では、エレシアも旅に連れていってください」

「それで良いのですか……王国はどうしますか?」

「あ……あの……でも……フ……フレナ様にお仕えする事ができれば、本当に役に立てることが見つかるかもしれないと……」

 エレシアが、真っ直ぐな目でこちらを見ています。

 どうやら今、説得するのは難しそうです。

 冒険者ギルドに行くのは魔術書を読む為に必要な方便にすぎないので、しばらくは王国に居ますから……とあえずなだめる事にします。

「そ……それでも……ひ……必要な魔術書を読んでしまったら……」

 その先は今言うべきではないと思います。

 言ってしまったら何かが終わってしまう気がするのです。

「取りあえず、お茶にしましょう。ケーキとお茶を調達してきます」

 ここで話を打ち切ることにしました。

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