エルフの王国10 都行きの巻
手早く倉庫を片付けると屋敷に戻ります。屋敷の入口の前でメイドが待っています。
「賢者様、意外に早いお帰りですね。王女様はこちらでお待ちしております」
ささっと扉を開くとメイドが部屋まで案内します。昨日と同じ王女の部屋です。入る前に周囲の気配を確認します。脳筋イレイナが近くに居たら面倒ですよね……。
「賢者様、お疲れ様です。それでは結果をお聴かせください」
「最後で大減点がありましたが、それを差し引いてギリギリ合格にします」
「それでは賢者流精霊術の免許皆伝になりますわね。今後、四王女最弱とは言わせませんわ」
王女がドヤ顔で言っていますが免許皆伝どころかまだ入学を許可されただけですなんですが……。
「それにはまだまだ勉強が足りていません。フィーニアは力はあるものもやはり精霊の扱いが雑過ぎます。慎重に制御する事を繰り返すことでその場に見合った精霊を扱える様にならない限り最弱のままですよ。しかし素材は良いので、力を効率良く使える様になればそれだけ強くなる事ができます。それにはちゃんとここにかかれたメニューを毎日繰り返す事」
ここは厳しく接していきましょう。新たな訓練メニューを渡します。
「これを行えば強くなれるんですね」
「それは心がけ次第です。精霊魔法がどういうものかその本質をちゃんと考えて訓練してくださいよ」
……まぁ私も本質などとか知らないのですけど……精霊魔法とは精霊が居ると言うことを前提に成立しているだけの魔法ですし、本質など考えなくても私は使いこなるから関係無い話です。それに千年近く使っていますし経験だけは沢山あります。
「ところで賢者様、私めはどれぐらい訓練を繰り返せば強くなれるのでしょうか?」
「個人差があるのでなんとも言えません。フィーニア、少なくとも一年以上続けないとダメですよ。十年いや百年は鍛錬しないと極みは見えてきません」
「一年もかかるんですか……」
王女ががっくりしているようですがエルフにとっての一年は大した時間で無いと思うんですけど……。
「それではしっかり修行してください」
そう言い残すと王女の部屋を出ていきます。
「慣れない教師役は流石に疲れますね……それではお昼ご飯にします……」
部屋から出ると開口一番思ったことです。やはりここでは食事とお風呂が一番の楽しみです。
釣り竿の作業は明日までできないので、先に荷馬車の準備も整えました。後は着替えの試着をしてみましょう。
モデルショーの始まりです。モデルは私。観客も私です。服を着替えながら姿見で確認していきます。どれも似合ってます——何このかわいい子……あ、私でした。撮影術式使いたいところですが、撮影術式用の紙を用意してきていないんですよね……。母のところから黙って持ってくるべきだったと正直思いました。録画術式は母の
そういえば肝心な事を忘れかけていました。そろそろ都に行くつもりでした。荷物を待っているうちに王女の企みにずるずる引き込まれていたのです。そもそも都に行く目的も人間さんに関する情報収集に過ぎません。すっかり当初の目的を忘れ去るところでした。それでは旅の準備を初めましょう。釣り竿は明日の朝作ることにしても先に王女に
東の砦は少し名残惜しい場所ですが、お別れの挨拶しにいくことにします。もちろん名残おしいのは概ね肉とケーキとお風呂なのです。今度はメイドの案内で王女の部屋に参ります。
「どうぞ賢者様、お入りください」
中から声がします。王女に明日明後日に都に行くことをつげて、お別れの挨拶に来たと申し上げます。
「ええ、もう少し賢者様の助力になれたと思いますが残念ながら力不足でした。賢者様との思い出は絶対忘れませんし、四王女最弱から絶対に抜け出して見せます。その時また遊びに来てください。本当に名残惜しいのです。特に精霊魔法を完璧に使えるまで手取り足取り胸取りでマンツーマンのマウストゥマウスで……」
今日も王女は正常運転の用です。顔をあからめながらいつもの様に長い話が続くようです。今回も華麗に聞き流すことにしておきます。
「フィーニア、名残惜しいですがまた合う日まで鍛錬を行ってはいけませんよ」
「……一緒にお風呂に入って、それから一緒にお茶を楽しみながら一緒のベッドで賢者様とイチャイチャするとどれだけ楽しいのかと想像していましたのにもうすぐ去ってしまいますのね……」
まだ話続けてます。横に居るメイドに用事があるのでもう立ち去ると告げると話続ける王女を横目に部屋をでていきます。
お別れと言いましてもまだ明日も屋敷には居るのです。釣り竿を完成させないと行けませんし、倉庫の片付けもしないと行けないのですから、その間に話す機会も……おそらく……あるでしょう。
翌朝、倉庫の片付けを始めます。釣り竿の方ですが接続が上手くいきません。少しズレてくっついてしまうと折れ曲がった変な形の釣り竿になってしまうのです……。何度か試行錯誤を繰り返し思案すると竿の切断面のちょうど中央に穴を開けて棒を差し込んでみると良い感じくっつくのではないかと思いました。試しに一つ穴を開けて試してみると上手い具合にくっついたので残りも同様にしました。それから全体の強度を確かめます。接触面より竿の方が弱いと竿が折れてしまいますので強度の足りない部分は魔法で軽く補強していきます。上手く魔法がなじんでくれれば良い感じになると思うので竿に強化魔法を付与した後はしばらく養生させることにします。強化魔法は全体のバランスが重要になるのです。あと竿の柔軟性を奪ってもいけないので硬化してもいけないのです。その辺りのバランスを見極めながら強化しました。
倉庫に片付けの方ですが、大したことはしておらず荷馬車の中に荷物と道具を放り込むだけで終了です。馬車の中に服を収納するスペースも確保しておきます。後で部屋に置いてある服を収納しないと行けません。倉庫に散らかっている作業ゴミの方ですが捨てられるものはゴミ捨て場に置いていく事にします。それ以外のものは全部持っていくしかなさそうです。適切な場所で処分しないと思わぬ汚染が起きる可能性があるので捨てていく訳にはいかないのですよね。特に粘着草の抽出液は——既に固まっておりますが——捨てられません。有効な利用法か処理場が見つかるまでは荷馬車の奥に鎮座させておくしかないでしょうね……。
後は光精を解放させれば片付けは終わりです。
「消えろ」
倉庫の中が真っ暗になりました。とはいえ夜目が利きますから特に不都合はありません。最後に部屋に置いてある荷物を背嚢にしまい込んで馬車を載せたら出発ですね。荷馬車には馬も付いていると言う話ですから馬小屋の馬も回収しないといけないのですが後でメイドさんに頼んで起きましょう。
その前に食堂にお昼を食べることにします。当然メイドさんに準備を申しつけておきました。
今日のお昼はコケモモジャムを添えたパンケーキとミルクです。酸味が効いてサッパリ系のおいしさです。
それでは腹ごしらえも十分すませましたのでそろそろ出発する事にいたします。
屋敷の外に出ると、馬をつなげた荷馬車が用意されていました。
荷馬車につながっている馬は普通の馬です。頭が人の顔をしているとかではなく小柄な馬です。
メイドさん達にお別れの挨拶していきます。
上から王女が見ています。王女の両脇には女騎士と執事が付いていました。そういえばこの屋敷には執事も居たようです。これだけメイドさんがいるのに執事がいないのもおかしいとは思っていましたが決して見落としていた訳ではありません(念押し)。
王女が外に出ていないので内心ホッとしたのは内緒です。王女が外に出てきたらまた長い話が始まりますからね。
それではこれから出発しましょう。
旅で使う仮名も既に決めています。灰色から取ってフレナと名乗ることにしました。正確にはフレニアですがフレナの方が良いと思います。砦から出たら幻術をかけて耳の形と髪の色を変えることにします。
荷馬車にのって馬の手綱を引いて出発です。
荷馬車を引く馬と簡単な意思疎通がすぐにできましたからどこに向かうか指示すれば後は馬が勝手に進んでくれます。報酬は人参ですか。結構贅沢な馬ですね。草で十分ですよね(圧)
……と言う感じでお馬さんにはお願いを聞いていただきました。都までの道は既に覚えていますので、この街道を真っ直ぐ進めば隣町までは付くはずです。そもそも道には一定距離を進むと必ず標識が立っており『都まで → 』と書いてあるので問題ないです。
この一定距離を何と呼ぶか迷いましたが取りあえず〔
しかし荷馬車はそんなに早くないのです。感覚的には歩いているのより少し遅いぐらいです。全力で走らせれば早歩きぐらいになるでしょうけどそれだと馬がバテてしまいます。休憩時間も考えるとこの荷馬車で一日で進める距離を計算すると大体十エルフ里ぐらいになりそうです。
今日は出発がお昼の後なので四エルフ里も進めれば良いところでしょう。遠くても三〜五エルフ里ごとには街があります。当然街には必ず宿屋があります。エルフの王国の東の街道は出発点が都で終点が東の砦と決められているようです。同じように北の街道、西の街道、南の街道があり、それを環状につないでいる小環状街道、大環状街道があるみたいです。これらは一里塚——一エルフ里ごとに立っている標識です——に建っている街道図に書いてあるので間違い無いでしょう。しかし、この街道図かなりの部分が省略されています。王女に見せて貰った地図とは違い細かい部分は省略されたり距離や方角に関してはかなりデフォルメされていました。
さて、馬が言いつけを聞いている様なのでのんびり景色を眺めています。
空は薄青く染まっており高いところに薄長い雲がたなびいています。進行方向の少し右側からは太陽が覗いています。日光は少しまぶしいぐらいなので帽子で日差しをよけています。しかしそんな空の情景は少し寒いぐらいで実際少し寒いです。なので少し厚手の服を着ています。もちろん馬車を引く人が着る服みたいなモノを上手くコーディネイトして着ていますよ。周りからは都に向かう行商人ぐらいにしか見えないと思います。
砦のある街を通過すると森が続いています。ここの森は東の森と違って木が赤く染まっており道路には枯れ葉が沢山落ちています。ここには精霊がほとんど居ないようです。里から離れれば離れほど精霊が少なくなる感じがします。それから一エルフ里ぐらい続く森を抜けるとそこには平原が広がっており……なんと地平線の彼方まで平原が続いていました。今まで見た事の無い広大な景色が広がっています。これは母にも見せたいところですが、母——紫の魔女——の事ですから普通に見ていそうです。平原の間は丘陵や林がまばらに見えています。辺り一面四角く区切られたかのように色が違って見えます。枯れ草ばかりの場所や草が生えている場所、それから背の高い枯れ草が沢山生えている場所などいろいろな色に染まった四角い土地がまだらに散らばっています。それから牛や羊が居る区画があって、その周囲は柵で囲ってあります。これは一体なんなのでしょうね。とても不思議な光景です。北の方には高い山が見えています。山の頂の方が白く染まっている様です。
最初は驚きましたが、後は似たような光景がひたすら続くだけなのでそのうち飽きました。
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