エルフの王国9 覚醒の巻
倉庫で作業を終えると既に日が暮れていました。調子にのって作業をやり過ぎたのでお腹もかなり空いてきました。ふらふらしながら屋敷に戻ると、そこにメイドさんが待ち構えていました。
「フィーニア王女妃殿下が賢者様にお会いになりたいと申されています」
事務的にそう言うと立ち去っていきます。ところで王女様は一体どこに居るのでしょうか……。一番重要な情報を伝え忘れたているようです。屋敷のどこに居るのか分からないものに会いに行っても仕方が無いので取りあえず夕食を食べることにします。後からそれとなく居場所を聞きだすことにします。
山盛りの草を食べているとそこに女騎士が通りかかります。今日は従者向けの食堂で食事を取っているので騎士が通るのは珍しいのですが見覚えのある騎士でした。恐らく初日に王女に付き添っていた騎士です。もしかすると彼女なら王女の居場所を知っているかもしれません。
そこで女騎士に話しかけて聞いて王女の居場所を聞いてみることにします。彼女の話によれば王女はこの時間は部屋にいる事が多いので、そこに行けば良いと言うことで、部屋の場所も教えて貰いました。
そして教えられたとおりに王女の部屋の前に立っております。扉をノックしています。
「コンコン」
「ハイ、お入りください」
「失礼します。フィーニア王女様、用事があるといわれたので来ましたけど……何か御用でしょうか」
「これは賢者様ようこそおいでくださいました。夜分に呼び出して申し訳ありません。実は昨日から精霊の制御の練習をしており見事に操ることが出来たのです。それより賢者様そろそろ王女様ではなくフィーニアと呼び捨てにして呼んでくださりませんか?」
こちらも賢者様の呼び名を方を辞めさせたいのですが、名前は教えていませんでしたし今は賢者様と呼ばせるしか無い様です。ハイ・エルフは気軽に真名は教えませんし名前を知らなくても里で困ることはありませんでした。仮名は森エルフっぽい名前をつけようと思います。ハイ・エルフっぽい名前を名乗ったら恐らくあやしまれます気がします。ただ今、考える事ではないので思考を本題に戻すことにします。
精霊の制御が仮に上手くいったとしてもこの王女は暴走しがちなので少しブレーキを踏んでおく必要がある気がします。
「フィーニア、次の段階に進むのは流石に早すぎませんでしょうか……基本を繰り返し行い身体に刻みつける必要があるのです」
「賢者様、すでに、このぐらいの事はもうできます」と身悶えさせながら王女がドヤ顔で答えます。どうやらフィーニアと呼んだ瞬間反応したようです。
王女は光精を呼び出し、光を出したり消したりしています。仮に精霊を知らない人が見れば恐らく部屋がチカチカして怪奇現象が起きたと思うのですが、精霊を観察すると『ここまで習得したとは、やるなお
「フィーニア、それだけではまだダメです。もっと修行を続けなければいけません。今教えたものは単なる基本ですから毎日繰り返すことが重要なのです」
私は精霊魔法を修業したことなど無いですけどこれぐらい言っておいた方が良いと思います。フィーニアはすぐ増長するタイプですし厳しく釘を刺く必要があります。
「賢者様、私は、既に試験を受けても大丈夫な段階に到達していると思います。なのですぐにでも試験を行ってくださいませ。そのためなら私めはなんでもいたします」
もう試験を受けたいとおっしゃるのですか……。呑み込みが早いのか無謀なのかは良く分かりませんが、観察してみたがきり同時に扱える精霊は一つだけの気がします。取りあえず得意としている風の精霊が上手く扱えるかだけを試験することにしてお茶を濁すことにしましょう。何せ試験をやらないとこの屋敷から逃れられないのです……。約束してしまいました。誓約ほどではないですが、約束も違えると何が起きるか分かりません。そこで脱出作戦を練る事にします。
まず1つ目、焼き栗試験は辞める事にします。焼き栗試験は最低でも3つ種類の精霊の同時操作が必要なので精霊が暴走する危険が高いからです。今のフィーニアでは恐らく2つの精霊を同時に扱うことはできません。そもそも精霊を戦闘に使うのであれば、精霊の同時操作は将来必要になると思いますが、今は必要無いでしょう。1つの精霊を確実に制御出来る様になる事が優先事項になります。2つ目は精霊の感知に関しても簡単な試験で大丈夫で十分でしょう。光精を探し出して使えていることは既に精霊感知ができている証拠です。3つめとして一石二鳥のアイデアを提案することにします。
「それでは風精を使った試験を行うことにします。場所は森の中できるだけ人里から離れた場所で行うことにします。精霊がなるべく沢山居る場所で行いたいです。フィーニア、そういう場所を知りませんか」
「賢者様、東の森の北側なら問題無いかと思います。流石にどれほど精霊がいるのかまでは分かりません」
東の森の北側に精霊が多いのは『見た』ので当然わかっていますが、これは渡りに船なので乗っかることにします。
「それは精霊を感じる力があれば分かると思います。そこから試験する事にしましょう。手持ちに煮ると凄い臭いを出す草があるので、その臭いを封じ込めてもらいます。煮終わるまで封じ込めに成功すれば合格にしましょう。ただしこの草は数がありませんので一度しか試験できません。それでよろしいでしょうか?」
凄い臭いを出す草とは粘着草の事です。粘着草を煮させる訳です。当然、釣り竿も忘れず持っていき、その場で加工作業も行わなうことにします。これで課題だった粘着草を煮る場所の問題も解決させる事ができます。まさに一石二鳥です。
「絶対に成功させてみますから賢者様驚かないでくださいよ」
王女が自信に満ちた笑みを見せます。
さっそく増長しているようです。もう一度釘を刺しておいた方が良いかも知れません。
「失敗すればかなり臭いますよ。その身体に臭いが染みついて抜けなくなりますよ。それで良いなら試験の日時を決めたいと思います。フィーニアはそれでよろしいですか」
粘着草はホントに臭います。身体に染みついたら一週間は覚悟しないといけないぐらい……最悪そうなる前に私が処理しますけど……。
「それでは賢者様のご都合がよろしければ明日の朝にでも行いましょう。絶対成功させてみせます」
相変わらず王女がドヤ顔で言っています。釘を刺したのに全くひるんでいません。もう少し躊躇してくれると思いましたが、そのまま切り込んでくれました。ある意味大物だと思います。
「フィーニア、明日でも構いませんが、そんなに焦る必要はありません。もう少し考えて決めたらどうでしょうか」
「賢者様、今なら絶対行けます。なので試験を受けさせてください。何でも言う事を聞きますので」
何かしら王女の息遣いが荒くなっている気がします。何か興奮してませんか……少し落ち着いてから考えて欲しいものだと思います。それでもせっかくの粘着草を煮る機会があるのを逃すのももったい無い気がするので、ここは王女のメンツを立てることにします。
「分かりましたフィーニアのもって明日の朝食後に試験を行います。ところで護衛は連れていかないのでしょうか」
ここで何かあったときの備えは必要だと思います。この場合は私の立場を守る為にも必要です。屋敷の人達に王女を森まで連れ出して、あやしげな事をやったと言われたら社会的にヤバイ気がします。
「それでは私が部下を引き連れてついていこうぞ」
突然、女騎士の声が聞こえました。これは寝耳に水です。
「あの貴方は、いつからここにいたのでしょうか」
「何、初めから居たが」
さっぱり気がつきませんでした。正確には視界に入っていたのの無意識に無視していたの方が正解なのでしょう。気配に気がつかなかったとか有り得ませんからそういうことにしておきます。
「ところでこの方はどちらさまですか」
「さて賢者様には名乗っていなかったか……フィーニア王女付きの筆頭騎士イレイナと言う。この身に変えても王女の身は必ず守って見せるので安心して欲しい」
いやそんなに気負われても困るんですけどね……失敗しても精々臭いが染みつくだけです。こちらとしては保証人みたいなのが欲しいだけです。それはともかくフィーニアが風から名前を取っている様にイレイナは朝顔から名前を取っているようです。そういえば、よく見ると鎧などに朝顔の絵が彫り込んであります。森エルフの名付けはどうやら安易の様です。これで仮名もつくれそうです。
「貴方がついてくれれば王女も安心できるでしょう」
取りあえず取り繕っておくことにします。
「できれば賢者様と二人が良かったです。二人で親睦を深める機会はないのでしょうか……」
王女がなにか言っていますが、聞き流すことにします。別の話題を振って話をそらすことにします。
「フィーニア、ここには図書館はないのでしょうか……本を扱っているお店も良いのですが?」
「本など読んだ事無いぞ」
イレイナが答えていますがイレイナには聞いてません。本を読んでいるか聞いている訳ではなく本を探している訳ですから余計な口だしをされると困ります。私が読んだ物語に出てる騎士はみな脳筋気質でしたが実在する騎士もどうやら脳筋の様です。
「賢者様、残念ながらここの砦に図書館はありません。本屋もありません。紙が十分にないので本は非常に高価なのです。この部屋に置いてある本が砦にある本の大半だと思います。本をさがすなら都の方までいかないと無理だと思いますわ。私めが不肖であるばかりに賢者様の必要とする本すら満足に揃えられないことは不徳のいたすところで……」
王女の長そうな口上がまた始まったので後は聞き流しておきます。都まで行かないと本はないことが分かれば十分です。しかし、部屋の中にある本もあまり良さそうな本は無さそうです。精霊魔法学入門や文字入門などの参考書の類ぐらいしか見当たりません。
フィーニアの長口上が終わり私はようやく開放されました。精神的にかなり疲れたのでお風呂に入って寝ることにします。その前に明日の準備はしておかないと行けないです。倉庫から粘着草の葉と四つ折りにした釣り竿と工作用具を用意しておきます。他に準備するものとしては水と釜ぐです。手持ちに釜がないので代わりに鍋を一つ潰す事にします。これは背嚢に入れてきた鍋ではなく市場で買った鍋なので別に使い捨てにしても構わないと思います。元々薬草とか煎じる為に予備の鍋がいると思って用意したものなので本来の用途で使うだけです。さすがに里から持ってきた鍋とは品質が段違いに悪いので使い捨てにするのはこちらした方が良い気がします。
それから薪も必要です。本来、火の番は火精がやるものです。しかし火精の制御は私が行わないと行けない訳で、それとフィーニアの稚拙な精霊制御が干渉を起こした場合、取り返しの付かないことが起きそうなので今回は薪を使うことにします。薪と水は明日の朝、厨房から奪ってくれば良いでしょう。
それから火付け石も用意しております。未だに使い方がよく分からないのですが脳筋騎士にやらせれば大丈夫でしょう。脳筋でも流石に火付けぐらいは出来ると思います。いや脳筋だからこそ出来ると言った方がいいでしょうか。それから臭いがついても良いように捨てても良い服を選ぶことにします。
森エルフの国についてから五日目の朝になりました。
これから起こることを考えても仕方ないのでまずは腹ごしらえですね。朝から少し胃がキリリと痛いので今日は軽めの麦粥にしました。大変味気ない代物でした。朝食を食べると荷物を抱えて王女が来るのを待ちます。これらは全部試験に必要な道具ですが、他人に持たせては危ない取り扱い注意の代物がかなりあるので自分で抱えていくことにします。水を汲んだ鍋も途中でこぼされると困るので自分で持っていかないといけない気がします。ただ薪は誰かに持たせたいところです。
それからしばらくするとイレイナを筆頭にした女騎士が三人とやや遅れてフィーニア王女がやってきました。フィーニア王女には二人のメイドさんを連れてきました。
「今日の王女付けメイドでございます。賢者様、本日はよろしくお願いいたします」
お付きメイドと言うのが存在する様です。この屋敷には一体何人が住んでいるのでしょう。屋敷無いだけで里の住民全部より多い気がします。一国の王女というからにはそれなりの人を抱えていてもおかしく無いとは思いますがそれにしては多い気もします。
「そこのメイドさん、少し屋敷に人が多いとは思いませんか」
「王女に仕えるものがこれぐらいいるのは当然です」
女騎士が話を遮り答えます。脳筋には話を聞いていないのですけど……。
「この屋敷内で働いている人があまり多いように感じるのですが気の所為でしょうか」
女騎士を後ろ背してメイドさんの方を真っ直ぐ見ながら聞き直します。
「それはこの国に徴兵があるからかもしれません。一応この国の住民は一定の年限で国に奉仕する必要があるのですが、戦士や騎士を目指さないものは王家の屋敷の管理や公共事業に従事する義務があります。その中で王女付きのメイドは一番人気です。実は私も何度も応募したのですが、何度も断られてようやく……」
メイドが自分語りを初めて話が長そうなのでこの後は流して起きます。
後ろでフィーニア王女も急かしています。普段は王女の方が話が長いのですが、今は試験を受けたそうな顔をしています。
「それでは皆様、試験に参りましょう。賢者様今日はよろしくお願いします」
しびれを切らせた王女がメイドの話に割って入ってきました。その時、お付きメイドは初めてフィーニア王女のお姿をみて感動した時の事を詩に託して読み上げていたところでした……。
「それではではこちらへ」
「ところで、馬車で移動しないと行けないぐらい遠い場所なのでしょうか?」
「賢者様、大丈夫ですすぐに着きます」
それなら走った方が絶対早く着くと思います。馬車を乗り降りする時間の方が無駄な気がします、
「それでは歩いて行きましょう」
「それでは王女様がお疲れになりますので……」とメイドが言います。
「皆様、良いでしょうか。今から行う試験は、最初から楽してはいけないのです。と言うのもどういう情況下に置いても正確な制御が求められるからです。と言う訳でそこの騎士はこれを持って行く事」
お連れの騎士にさりげなく薪を押しつけてます。他のモノは人に持たせられないので自分で運びます。
「賢者様、その重そうな鍋をお持ちましょうか?」
「いえいえ、そのお言葉だけうけとっておきます。これは試験に重要な道具なので自分で運びます」
周囲を見るとイレイナが既に歩き出していました。皆でそのまま後をついていくことにします。
森の中に入ってしばらくすると精霊が徐々に増えてきます。その中でも特に精霊の多い場所の検討はついていますが、まず王女がそれに気がつくかが見所です。
「では、この辺で試験をおこないましょう。フィーニア、準備をお願いします。お付きの皆様も試験道具の設置の手伝いをお願いします」
「賢者様、少しお待ちください」
王女はそう言うと目を閉じて感覚を研ぎ澄ませているようです。
……
「賢者様、こちらの方でやりましょう。ここよりこちらの方が精霊が強く感じ取れます」と王女は少し離れた場所を指さします。
「うーん、及第点と言うところでしょうか……。精霊感知に関しては繰り返し訓練を続けて感度と距離を伸ばしていくと良いかと思います」
王女が指さした場所に出てからその点を告げます。王女の差した場所は、最初の場所よりも精霊の数は確かに多いのですが、先の方行くと精霊の密集地があるのです。そこには気がつかなかったようですが満点ではないが及第点は与える事にします。王女の精霊感知は感知可能な範囲がまだ狭いようなので、そこは訓練で広げていくしかないと思います。それに今回の試験はこれだけ精霊がいれば十分です。
「それでは、いまから試験の準備を行いますのでフィーニア以外はその準備の手伝いをしてください。まず、この鍋を火にかけたいので薪を並べて火を付けてください」
イレイナに懐から取り出した火打ち石を渡しておきます。例の火の付け方分からなかった火打ち石です。横ではメイド達が手慣れた感じで準備を行っていきます。薪を置く場所の周辺を掃除し可燃物を丁寧に除去していきます。それから薪を組み合わせて重ねていきます。そこに私が鍋をかけます。これで準備は完成しました。残りは粘着草を鍋の中に入れて火を付けるだけです。
「フィーニア、火がついたら試験開始になりますので、それまでに準備をしてください」
「賢者様、この鍋から出てくる臭いを遮断すれば良いのですね」
「精霊を使って行ってください。それ以外の手段を使ったらその時点で失格です」
「わかりました賢者様。それでは風霊を呼び出すので少しお待ちください」
王女が召喚を始めると周囲に不穏な気配が漂い始めます。周囲の精霊がざわついています。力が歪んだと言うか精霊の流れが大きく乱れています。
……ん……いや……これはダメです……その精霊は強すぎます……これはカマイタチです……とても危険な風の上位精霊です。しかも召喚してます……
「フィーニアさん、その精霊は強すぎます。それは臭いを遮断する前に鍋が真っ二つになりますからすぐに解放してください」
「あら、私めとした事が張り切りすぎてしまいましたわ。もっと弱い精霊で十分なんですね、てへ」
流石に『てへ』では済まないのです。そもそも精霊を召喚するなら精霊をいる場所を探して試験やる意味が無いです。精霊召喚は精霊がいない場所で行うものです。今から行うのは、既に居る精霊を制御する試験で精霊召喚ではないです。王女には後で精霊魔法に関する知識をもっとたたき込む必要がありそうな気がします。そもそも精霊は適当に扱って良いモノではありません。精霊は正しく使わないと枯渇してしまうのです。
……私はちゃんと計算しながらその場で適量の精霊を使うようにしています。
そういうわけで王女に試験の趣旨を細かく伝え直します。
「フィーニアさん、ここにいる精霊以外は使っては行けません。精霊召喚は禁止です。次に使った時点で試験は失格になるので注意してくださいね。よろしいですか」
「はい、分かりました賢者様」
返事だけは元気ですが、ホントに分かっているのか心配になってきました。
王女がもう一度集中すると精霊の流れが変わってきました。今度はちゃんと制御できた様です。ホッと胸をなで下ろします。
いこで安堵してはいけません。試験の本番はこれからです。そこでイレイナに向かって火を付ける様に命じます。
イレイナが火打ち石を素早くこすると『カチカチ』と音がします。なるほど火打ち石は、そうやって使うんですね。勉強になります。
「あかん。上手くいかん……。お前変わりにやれ」
女騎士が部下に命じています……。やはり脳筋は脳筋の様です。火もまともに扱えないようです。
交代してイレイナの部下が上手いこと火を付けるとそれを薪の方へ移していきます。最初は枯れ葉についた小さい火がぷすぷすいいながら燃えていきます。その炎を徐々に大きな枝に火を移し替えて最後に薪にくべます。薪の周りに刺した小枝が燃えさかり、徐々に炎が薪にうつります。そして薪は煙を燻らせながら炎を掃きだしていきます。
「それでは試験開始です」
試験開始の合図と共に火加減を確認していきます。火加減の調整は普段は火精にやらせているので大変です。後はメイドにやらせることにします、細かく火の具合を指示しながらメイドに火加減調整をさせてることにします。
徐々に鍋が暖まって沸騰したあたりで火を弱めさせます。この温度を維持させる必要があるわけです。
臭いの方はどうでしょうか……王女の方をみながら嗅覚を研ぎ澄ませる上手く封じ込めに成功しているようです。
王女は真剣に鍋の方を見ながら細かく風精を制御しているのが観察できます。
そのまま粘着液ができるまで試験を続けるることにします。鍋を時折かき混ぜながら粘り具合を見ます。
……
そろそろ粘りが良い具合になってきたので「それでは火を消してください」と言うとメイドが灰を被せて素早く火を消します。火は後でもう一回入念に消すことにします。後で山火事になったら大変です。
「あの、賢者様。それでこれで合格なのでしょうか……」
王女様がこちらを見て何か言っています。まだ試験は終わってないのですが……臭いがたちまちこちらへ立ちこめてきます……。
精霊を解放するのが早すぎです。
……と言いますかやっぱりこのパターンをやってきました。予想通りだったのですかさず忍ばせておいた風精で臭いを封印してます。
「試験はまだ終わってないです。フィーニア、話は最後まで聞きなさい。火を消してくださいと言いましたが試験終了と誰が言いましたか」
「はい、誰も言っていません。賢者様」
そのようなことをドヤ顔で言われても困ります。王女には少し反省して貰わないと行けないところですが、それより先に粘着草の作業を先にやりたいので、全員追い返す事にしましょう。既に私の意識は釣りに傾いています。試験はもう良いのです。
「皆様良ろしいですか。試験の合否は後で告げますので先に帰ってください。私はここの片付けと検分する必要があるのでここで解散にします」
「賢者様、私達も帰ってよろしいのでしょうか」
騎士の部下が聞いてきます
「全員速やかに帰ってください」
作業の邪魔になるので全員帰って欲しいところです。
「そうすると賢者様をお一人にしてしましますが大丈夫なのでしょう。ここは少ないとはいえ魔獣が出るので護衛がいた方が良いと思います」
「その程度、どうにかいたします。それよりここに雑味が入ると上手く試験の検分が行えないので、一人にさせていただけないでしょうか」
「賢者様は魔獣百体ぐらい指一本で簡単に倒せるんでしょうね。一度見てみたいです」
王女が目を輝かせて何か言っています……早く帰って欲しいところなので、しつこく説得を繰り返したら不満を垂らしながらもようやく帰ってくれました。少し時間を無駄にしましたが今から作業を始めましょう。
先日、四分割した竿を取り出し慎重に粘着液につけていきます。切断面以外の部分につかないようにしないといけません。粘着液を上手くつけたらくっつかない様に布にくるめておきます。粘着液がくっつないように施してある布があるのです。これは粘着草の性質を逆利用したもので別の粘着草の液を塗ってあるだけです。同じ草から作った粘着液でしかくっつかないので別の草の粘着液を先に塗っておくとくっつかなくなるのです。もちろん布同士がつかないようにギリギリまで薄めたヤツを塗ってあります。竿をくるんだら倉庫に持ち帰ってじっくり乾かせば竿は一応完成です。
問題は残った鍋の始末の方です。ここにうち捨てていく訳にもいかないので鍋が十分冷めたところで一旦持って帰ることにします。精霊にやらせても良いのですが今回は鍋が冷めるまで待つことにします。既に寒い風が吹いているので鍋が冷えるまでにはさほど時間はかかりませんでした。
火がしっかり消えているか確認して薪の燃えかすを片付けると荷物を抱えて持って帰ります。帰りは
薪の燃えかすはかさばりますし、残った粘着液も固まったら後で処理しないといけません。取りあえずまとめて倉庫に放り込んでおきます。
釣り竿が乾くのは明日になるので続きの作業は明日行うことにします。
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