エルフの王国11 第一の街

「暇ですね」

 流石に似たような風景をひたすら見つづけるのは流石に飽きます。時々東に向かう馬車とすれ違う訳ですが目新しいモノと言えば精々それぐらいです。私の変装は完璧ですからこのようなところに異邦人がいるとは気がつかないでしょう。その証拠に誰も気にとめません。そういうわけで暇でぐったりしながら馬に荷馬車を引かせております。

「暇ですね」

 もう一度口にしてみます。背中が折れそうななほど暇です。実際、半分のけぞっています。とりあえず保存箱に詰めてきたサンドイッチをつかんで食べております。屋敷を出る前に少し詰めてきたんですよね。あと当然焼き菓子などの保存出来るお菓子をがめ……詰め込んできております。許可は貰っているので問題ないです。馬が時々こっちを見ますが、こちらをみてもダメです。これは私の食べ物です。貴方は草で十分なのです。馬と接するには最初にしっかり言い聞かせて起きませんと駄目なのです。図に乗ります。それより馬よ、ちゃんと前を見て歩かないと危ないですよ。

「馬と会話することはないですね」

 そもそも意思疎通ができるのと会話が出来ると言うのは全く違う概念なのです。馬は馬並みの頭と知識しか無いので当然ながら会話が成立するわけがありません。それにあまり意思疎通できるのにも問題あるのですよ。その生き物が食べられなくなりますから……里の中にも動物が好きすぎて動物の肉や卵を一切食べない方も居た様な気もします。でもミルクは大丈夫だそうです。許可を貰って分けて貰っているなどと言っていたような気がします。

「しかし、このサンドイッチはやはり美味しいです。作り方を聞いてくればよかった気がします……」

 うっかりしていました。小麦の扱いを覚えておけば食事のバラエティが増えますから厨房で作り方を聞いてくるべきでした。香辛料や調味料は取りあえず揃えてきたので、これが唸る日がしばらく後に来るでしょうが今は馬車の荷物にすぎないのです。食事は宿屋で食べられると思いますし調理できる場所が見つからない事には調理もできません。

 その退屈もしばらくすればおさらばです。なぜなら日が暮れる前に街が見えてきたからです。まだ日が暮れるまでに時間がありますが早速宿屋とやらを探す事にしましょう。

 しかし狭いところに建物を建てすぎはないでしょうか……道は建物の影で薄暗くとても狭いです。狭い道路にせり出すように建物が建ち並んでいます。ただ街自体はかなり小さいので宿屋はすぐに見つかりました。食事とベッドの絵が書いてある看板の店がそれでした。

「たのもう」

 扉をあけると少し奥には背丈の半分ぐらいの高い机がありその奥には男が立っています。

「いらっしゃい。宿屋へようこそ」

「一晩、宿を取りたいのだが」

「ではこれに名前をお願いします。それで一晩銀貨一枚だからね」

 泊まる人を書く為の紙があります。上から名前が書いてありますが時々絵が描いてあったり×××とか書いてあるのが目につきますが、名前がずらずら並んでいる様です。

「フレナと……」

 いや名前を作っておいて良かったです。作っていなかったらここで詰んでいましたよ。いや×××と書く手もあるのでしょうか?……でも横に注記が書いてあります……。よく読むと絵や×印の横には同じ癖の文字が書いてあります。

「この絵や×印は一体何でしょうか?」

「いやお客さん宿屋は初めてかい。字の読み書きが苦手な客もいるから、こうやって記号を書いてもらっているのよ」

 文字を書くのが苦手なエルフとかが居るのでしょうか?それとも人間なのでしょうか……。でもこのあたりまでは人間は来ない様な話を聞いた気がしますけど……。

 それより天井が騒がしいです。上の方で時々ドタバタ言っています。変な客でも居るのでしょうか?

「それより上がうるさくありませんか?」

「悪いねぇ。最近ネズミが急に増えてさぁ。宿屋の天井を走り回っているみたいなんだよね。宿屋の残飯を漁っているぐらいならまだいいのだけど駆除が追いつかなくて、近頃は厨房の中まで現れる様になって大変なんだよねぇ。それで妙な知恵をつけて微妙に罠も回避してくるようになったし全くもって頭が痛いのよ。それでだなネズミ捕りを手伝ってくれれば宿賃をタダにしてあげようと思うのだが、どうだい一口のるかい嬢ちゃん?」

「変な客ではないのですよね?」

「客が来るのは日が暮れた後だよ。まぁこの時間に来ても外に出かけてしまうからね。この時間は暇なのよ。……で手伝ってくれるかい?」

 宿代は確か一晩銀貨一枚でしたね。この人達にとって銀貨一枚がどれぐらいの価値があるか良く分かりませんが相当です。

「それでは手伝いましょうか」

「ありがとう助かるよ。それでネズミが良そうな場所にこの罠を設置して欲しいんだが高いところは大丈夫かな」

「まぁ大丈夫ですけど」

 この宿の天井とか本気でジャンプした時の高さ程度しかありませんから高いと言いがたいとは思います。しかしこの罠出来が悪すぎる気がしますこれではネズミさんも逃げるのも納得です。

 その前にネズミの出入りする穴を探すのも必要な気がします。風の精霊を見れば空気の流れが分かりますので建物中に入っているところを探していきましょう。

 それとなく風の流れをよんでいくと厨房の中に新しいそうなが穴がありそうな気がします。料理器具置き場の影になっていますね。それではまず厨房に入ってみましょう。

「それではまず厨房を見たいのですがよろしいでしょうか?」

「いきなり厨房かい。確かに厨房に出てくるネズミは真っ先に駆除したいが。あいつら一体どこから入っているのやらさっぱり分からんのだよ……それに仕込みをしにそろそろ調理人が来るから明日でも良いよ。それより、わかりそうな場所から罠を置いてくれるかい」

 そもそも明日はすぐ出発するつもりなのでそれを無視して厨房に入りこんでみます。なんとなく宿屋の主人が止めようとしましたがそれ無視して突入することにします。中に入ってみると予想通り物陰になっているところがあやしそうです。風を読んだとか予言めいた話はやめておきまして聞き取り作業を行うことにします。

「そのあたりは調べましたか?」

「いやその辺は探してないな……いろいろモノが置いてあるだろあれを動かすの結構大変でさぁ。それよりそろそろ仕込みを……」

 よく見ると沢山の調理器具が複雑に組み上がっています。しかも長い事使って居なさそうな物ばかりです。ここの店主は意外とものぐさな気がしてきました。

「ここの道具は使っているのですか?」

「いや先代からあのままだよ」

「もしかして百年以上放置していたのですか?」

「冗談ですよねぇ。流石にそこまで経っていませんよ。そもそもこの宿が建てられてから百年も経ってませんってば。百年もすれば建物が朽ちますよ。そうなる前には流石に建て直していますよ」

 何を言っているのか良く分かりませんが木造建築でも千年は余裕で持ちますよね。まぁ良いです……まずは年期の入った料理器具をまずどけていくことにしましょう。

「いやそこは時間がかかるし後にしたらどうかい……」

「でもが一番あやしそうな場所ですよね」

 少し強めに言ったら納得してくれたようです。

「じゃあ、俺は別の場所に罠を仕掛けてくるからさっさとやってくれよ」

 宿屋の主人はそう言うと厨房から出てきました。それではこいつらを動かしてやりましょう。とはいえ丸ごとほんの少し横にずらすだけですけどね。

「しかし、ずいぶん掃除してないようですね」

 生臭い、臭いが立ちこめてきます……流石にげんなりしてきますです。取りあえず厨房には調理用のかまどがあり、そこから煙突が出ておりますので無理矢理臭気をそこから追い出すことにしましょう。

「それでは精霊さんやっちまってください」

 もったいないのですがここは風精を使うしか無いのです……。風精さんがものすごい勢いで臭いを吹き飛ばしてくれます。あとは秘術臭い消しでございます。臭気は臭い素から消してしまえば消えるはずです。秘術臭い消しは水精と風精を組み合わせて行う出来る荒技です。これはから粘着草を煮たとき出る臭いや薬草の臭い消しには使えない荒技なのです。効能ごと消してしまうので……。

「はぁ、やれやれです」

 ものぐさにもほどがありますよ。既に壁が朽ちかけています。あきらかにここからネズミが出入りしています。これは早く塞いだほうが良いようです……というわけで宿屋の中をフラフラしている主人から大工道具一式をせしめてきました。それでは吶喊工事を始めることにいたします。

 後は床もみがいた方がいいですよね……ここで作ったものを食べるのはなんか怖い気がします。先に綺麗に掃除しないと駄目な気がします。しかし頼まれたののはネズミ捕りで床磨きではないですよね……そこまで手を出したら切りが無くなりそうなので辞めることにします。

「フレナは我慢できる良い子」

 自分を自分で褒め称えておきます。これぐらいはやっても良いでしょう。

 壁の穴を塞いだ後にネズミ捕りを置いて、料理器具を元の状態に戻しておきます。もはやネズミはここから出入りできませんからネズミ捕りは要らないと思いますが念のために置いておきます。いやぁ一仕事終わりましたねぇ……。いやいや、まだ仕掛けないといけない罠を持っていました。残りの罠は天井裏にでも置いていけばよいのすよね。

 それでは屋根裏に侵入しましょう。廊下の歩きながら天井裏に行けそうな場所に狙いを定めてハイジャンプをします。天井に滞空しながら天井の板をつかんでゆっくりおりてきます。予想通り宿屋の天井板は梁の上に載せてあるだけでした。壁に天井板を置きながらこの蓋をどうやって戻そうかと考えましたが後で考えれば良い話です。

 先程まであった天井に黒い穴がぽっかり口を空けております。そこにもう一度ハイジャンプを決めて穴の中に飛び込んでいきます。天井裏は真っ暗ですね。まぁ当たり前ですけど。流石にネズミの居場所まではよく分かりません。逃げだしの早いネズミですね……。探知系の魔法やらあぶり出しの魔法でもかけてやろうかと思いましたがに魔法を使うのはなんとなく負けた気がするので辞めておきます。

「適当にネズミが通りそうな場所に罠を置いておけば良いでしょうね」

 めぼしは既にいくつかつけている訳ですが……そういえばこの罠を回収するのは私ではないですよね……恐らくここのあるじがやります。そこまで考えないといけないことに気がつきました。あのトロそうな主が行けるそうな場所を考えると正攻法で入れる場所に罠を仕掛けないとなんかダメな気がいたします。この高さを高いと言っているぐらいだしハイジャンプは出来なさそうです……。

 逡巡しゅんじゅんしたあと一度天井裏から廊下に飛び降りることにします……すると真正面に主がいました。うっかり下をよく見てませんでした。

 それを見た主がビックリして後ろにのけぞりますす。

「そ、そこ、どうやって登ったんですか?」

「それはヒミツなのです。それよりハシゴとランプはありませんか?」

 唇の前に人差し指を立てながら言います。

「……ああ、そういえば天井裏に登るならハシゴが必要だな。悪い悪い頼んだのに用意するの忘れてたわ。ちょっとまってな……」

 主人は一瞬固まったあと取り繕う様に言っていますがどうやら上手く誤魔化せたみたいです。しばらくするとハシゴとランタンを持って主人が戻ってきます。

「じゃあ、そろそろお客と調理人とくるから店番に戻らないと行けないから後は任せたよ。それらは後で物置に片付けておいてな」とハシゴとランタンを私に押しつけると主人は駆け足で去って行きます。

 それでは、今度は正攻法で天井裏に登ることにします。しかしランタンと罠をかついだままハシゴをよじ登るのは結構大変でしすね。片手が塞がるので片手で全部持つのは大変です。天井裏に罠を置くのは片手間で終わりましたよ。既に目星つけたところに罠に置く作業だけですからすぐに終わりますよね。ただ天井裏は埃とか蜘蛛の巣とかあって服が汚れてしまいました。

「フレナはお風呂に入りたい子なのです」

 少し駄々をこねてみましたが誰も聞いていません……。ランタンとハシゴを担いで廊下を進むと開け放したままの物置をみつけましたのでランタンの火を消してハシゴを置いておきます。やはりここの主人は雑な仕事しています。

「もう終わったのかい?蜘蛛の巣とか張ってただろう。あれをかき分けるのが大変でさぁ」

 任務完了を報告しに行くと主人がとても驚いているような顔をしていますが、たいしたことはしてない気がしますけど……。

「それはともかくお風呂とかありませんか髪とか洗いたいです……」

「うちには風呂はないんだよね。シャワーならあるけど使える時間はまだ先だわわりぃな」

 何と風呂がないですと。少し絶望感に襲われます……。

「ああ、どうしても入りたいなら公衆浴場があるからそっちへ行くと良いよ。ただ女性が入れる時間はもう少し後かな……まぁいきゃ分かるんだけどな……」

 公衆浴場なるものがあるそうです。誰でも使えるお風呂のことでしょうか。

「それではそこに行っていきますか」

「ああ、食事の時間までには戻って来いよ。助かったし少しサービスしてやるからな」

 お風呂がないということは食べ物もおそらく期待できなさそうです。なにせあの汚い厨房です。やはり王女のお屋敷の食べ物が特殊だったのでしょう……。

 公衆浴場まではすぐに着きました。なにぶん小さい街です。お風呂の絵が描いてある看板が建てている建物でそこには一際長い煙突が立っております。扉の前には立て札がありまして、どうやら男女別で仕える時間が分かれている様です。よく見ると立て札は女性の絵姿になっているのでどうやら女性の入る時間のようです。

 それでは中に入ることにいたします。

 中には籠がつり下がっており銅貨一枚と書いてあります。ここに銅貨一枚入れるのでしょうか。銅貨一枚を籠に投げ入れるとゆっくり籠が降りていき目の前のドアが開いていきます。ほう自動式でしたか……。

 しかし小さい街だけあってお風呂も小さいです。泳げるほどには大きくないのです……。

 簡単に髪と身体を洗うとお風呂にドボーン……とは入れないのでゆっくりと入ることにします。まだ時間が早いと言うだけあって中には誰もおらず貸し切り状態でした。でも湯船に浸かっている他のエルフも見たかったのですよ。誰も居なければ胸やお尻の丘陵の曲線チェックができないではないですか。

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