旅の仕度3
昼下がりはハンモックでのんびり本を読んでいました。
大量の戦利品に囲まれてすっかり満足しております。
……そうではありません。私は、慌ててハンモックから起き上がります。旅に必要なモノをメモしていかなければいけません。それらしい本を探し当てたので順番はメモしていきます。
・水筒 —— 水は煮沸してから入れるといい
——水精を呼べば良いのではないかと思うのですが旅の時は居るのでしょうね。これは勉強になります。
・灯りを付ける道具(火打ち石と松明)
——これも火精で十分な気もしますが……取りあえずメモする事にします。
・野宿用の道具(天幕)
——木の上で寝れば良いのでは無いかと思うのですが見知らぬ危険があるのでしょう。
・料理道具(鍋と食器)
——その辺の木の実で十分だと思うのですが……。そういえば木や草が生えてない場所もあると昔読んだ本には書いてありました。それは砂漠と言うらしいのですが……。そういうところを旅するときは水と食糧も居るみたいです。秘伝の非常食で十分な気もするのですがずっとアレばかりでも飽きますからね。あとで軽いモノを見繕うことにしましょう。
・服
・汗を拭うモノ
・修繕道具(糸と針)
——この辺はなんとなく分かります。適当に詰め込んでおきましょう。
しかしこれらを全部入れると背嚢におさまる気がしません。
私は物を軽くする魔法に限っては習得してないのですが、覚えるのには少し時間が足りません。勉強不足は致し方ないことですが今さらないものねだりは辞めることに致します。魔法を極めるのに更に百年も勉強したくはありませ……あ、あとお風呂道具は必須ですよね。なんでこの本には書いてないのかしら……と疑問に思いましたが、私達とは違う人達が書いた本ですからもしかするとお風呂に入る習慣がないのでしょうかね……。
……こんな感じで一通り旅の道具を揃えてみることにしました。大半は家の中にありましたが……天幕だけはありません。こういうものは一から作らなければいけないのでしょうか……。
運の良いことに天幕の図がありましたのでそれを元に試作してみます。
まず蜘蛛の糸を取り出します。これを魔法で加工して、森の樹液でコーティング……こうすると丈夫な糸が出来るんです。なまじ丈夫に出来ているので、あやまって指とか切らないように気を付けます。
これは修繕用の糸には使えないですけどね。あまりに丈夫すぎて布の方が破けるのですよ。そこでもう少し緩い糸も用意してみます。
それから布や皮ですか……家の代わりにするものなので防水防風でないといけません。目の細い布をとりあえず探してみます。服用の布地では天幕に使うには小ささすぎるようです。最低でも人が寝られるぐらいの大きさの布地が居る様です。もしかするとこれだけの布はかなり重くならないでしょうかか……背嚢に収まる様な軽くてうっすーい布や皮を調達する必要がありそうです。
そこで少し思ったのですが、もしかして魔法の道具にそんなものがあるような気がします。
そこで武器庫にそう言うものが存在しないか探してみることにします。恐らく戦に行くときもこういうモノが必要になりますよね。
という訳でもう一回里のハズレの武器庫を探してみます。今度は武器の山には目をくれず小物を探していきます。
…………
…………
…………
……何か、あります。発見しました。手のひらサイズの
最近の天幕は手のひらサイズなんですね。
とりあえず外にでてから広げてみます。
説明書を読みながら手順通りに魔力を注いでいくと、ぶわっさっ」と大きな音と共に巨大な天幕が顕れます。
「これは宮殿でしょうか……」
流石にこれは大きすぎます。しかし、ご先祖様は天幕一式を一体何に使っていたのでしょう。
持ち運べても広げる場所が無さそうなので武器庫に片付けて行くことにします。
武器庫には大きい天幕しか無さそうなので一人用の天幕を自作する事に致します。布地の部分は木の皮をなめして、ものすごく薄く伸ばせば上手くいくと思います。強度の方は魔法でどうにかしてしまえば良いですよね。そういう用途に丁度良い木の枝が転がっている事を思い出したので、森の中に材料をかき集めてくることにしました。
他にも森の中で沢山材料になりそうなものを探しましたよ……。この作業に二日も費やしました。
かき集めた材料を組み合わせてとても薄く軽く大きな布を作ります。
皮をなめす作業はご存じ精霊さんのお仕事です。その間に本でも読んでいます。その本の面白い事と言ったら感想を書き始めると本一冊分になりそうなのでとりあえず辞める事にしておきます。感想を書きそうになったところで危うく辞めました。図書館の本がまた一冊増えてしまいます。
精霊さんがなめした皮をグツグツ煮ていきます。大釜の中に私特製の溶媒を混ぜて煮立てております。薄くのばした皮を特製溶媒で煮る事で滑らかと丈夫さの両方を与えた布を作る事ができるのです。あと防腐効果もあります。ただし煮るのにかなりの時間かかるのでその間は精霊さんに見守りをお願いすることにします。特に吹きこぼれない様に火加減するのが少し難しいのですが、温度調節に関しては火精さんがやってくださるので問題ないです。火精さんは私がやるより確実な仕事をしてくれます。
それから、できあがった布の強度や感触を確かめ問題が無いのを確認してから、図面を見ながら切り抜いて縫い合わせていきます。その布は糸にも負けないぐらいに丈夫に出来あがっていました。これは会心の出来です。それから支えになる棒が必要になるようですが、これを持ち運べる大きさにする方が布を作るより大変な気が致します。
ところがこの布、あまりに丈夫に作りすぎたようで、支えが無くても自立しそうなので支えになる棒は省略することにしました。
しかし、これをどうやって折りたたみましょう……やはり魔法を使うことにするしかないですよね。布地に折り目を付けてオン、オフ出来る様にしておきます。後は呪文一発です。
「天幕、広がれ」 ——これで広がります。
「天幕、仕舞え」 ——これで閉じます。
何度か「広がれ」「仕舞え」を繰り返して試してみましたが、これで大丈夫そうです。
当然ですが背嚢のなかで間違えて広がらないように『長い呪文』に変えておきます。
呪文を忘れると困りるのでこれもメモをして起くことにします。メモを音読したら危ないですけど……。
呪文なしでも出来る方法があるんですが天幕だけでもう三日も潰しているのでこれ以上の細工するのは時間があったら行うことにします。
必要そうな道具を一通り揃えてみて、目の前に並べていきます。
それを今度は背嚢の中に押し込んでいきます。全てを押し込んだ背嚢は背負っても何も持ってないぐらいに軽さです。これだけ軽ければ問題ないと思います。後は防具を羽織って、剣を腰に差して、弓を抱えて、水筒をぶら下げれば完成です。
姿見で、自分の姿を映して、様子を見ます
……もう少し旅人らしい服に替えた方がよさそうな気がします。
本に出てくるエルフは大体、狩人みたいな服を着てますよね……と言う訳で作っちゃいますそういうやつ。
後、皮のベルトと外套も必要ですよね……それも作る事に致します。
そんな感じで吶喊工事で旅装を作ってみました。姿見の前に立って一回転して居ます。なんか旅に出ている様な気がしてきました。これはイけます。このまま旅にイっちゃいますよ私。
「じゃーん。どうですか母?」
というわけで母にも見せてみました。
「なにやってるの。もうすぐ夕飯だからね」
なんか無視されました……。
「はーい」
「いや、何面白い格好してんの」
姉が笑ってますが、姉には聞いてないので無視しておきます。
そういえばお金が居るんでした。お隣さんでコレクションを交換してもらうことにします。「出来るだけ新しいモノ何枚かください」と言ったら十数枚ほど譲って貰いました。「旅先でこういうの見つけたらよろしく。買い取るから」とも言われましたよ。しかし、金色に光っていますね。これ金貨と言うらしいんですよ。もらい受けるのに刻印が結構飛んだ気がしますが、滅多に使わないものですし問題ないでしょう。お金を革袋に入れておきます。これで準備完了ですよ。
そういえばお風呂道具を入れていないのを思い出しました。これだけは絶対忘れてはいけないですよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます