旅の仕度2

 家に帰ると人間は食事をどうしているのだろうとふと思いつきました。エルフの里では、その辺で草でも採って食べれば良いのですが薄い本にはそう言うものでは無い記述がたぶんにみられました。そのため一応秘伝の保存食だけはいくつか持っていく事には決める事にしました。幾種類もの木の実の粉と薬草をブレンドして薄く焼き上げた秘伝の保存食は一枚で千里を走ると里では伝わっています。先の大戦でもこの保存食が大活躍したと聞いております。これ一枚で何日かは持ちそうです——ところで千里ってどれぐらいの距離を指すのでしょう。そもそも「里」って距離なのでしょうか。

 そういえば本の記述によれば馬車にのったり背嚢を担いだりして移動していますね。最初は荷物を背嚢で担いで行く事になることと思いますからなるべく荷物は軽くしたいとと思いました……精霊さんが運んでくれれば楽なんですが、どうやら里の外ではそのようには行かない様です。

 まず武器と防具は要りそうです。どこで魔王がばったり出くわすか分かりません。もちろん魔法の角笛があれば楽勝なのですけど、あれは姉の持ち物です。

 武器を探しに行くため里のハズレにある古い武器庫に行くことにしました。

 そこは武器庫と言うよりガラクタ置き場と呼んだ方が良い場所です。先の大戦からもう何千年も経っており戦などしていないので古い武器や防具がそのまま積み上げられています。それでも魔王退治や竜退治の武器をこんなハズレに捨て置いて置くわけがないですよね。そういうわけで、ここにあるのは恐らく失敗作や要らなくなったシロモノだと思います。

 私も自分で所有している剣や鎧もあることはあるのですが、何しろかなり重いしろものなので武器庫で軽い武器や防具が転がっていないか探す事にしました。

 しかし、武器庫を一体何年開けてなかったのでしょうか……中を開けてみると埃だらけです。

「ケホッケホッ」

 思わずむせかえります。とりあえず空気を入れかえた方が良いでしょう。

 そこで風精を呼び出すことにしました。

「回れ」

 クルクルと倉庫の中を風精が駆け回り埃を浮き上がらせてかき回します。

 埃が舞っているだけでは意味が無いですよね……。このまま中に突っ込んでいったら埃まみれになるだけです。外に掃きだして終いましょう。

「出でよ」

 シルフが埃をまとって外に出てきます。

 風精は私の上でピタリと止まりました……風精さん、ここで止まってはいけません。こちらが反応するより早く「どさっ」と空から埃が振って来ます。

 私はたちまち埃の山に埋もれてしまいます。

「……このドジ風精め」

 私は悪態をつきましたが、実際に悪いのは風精さんに何処に止まるかしっかり指定していなかった私の方です。

 要するにただの八つ当たりです。ただ過ぎた事は良いことにします。

 その前にこの埃の山ををどうにかしましょう。今度は慎重に風精を制御して埃の山を片付け、身体に張り付いた埃も全部落としていきます。

「サッパリ」

 これで気分は上々です。

 埃を追い出した武器庫の中をあかりを灯して中を探してみることにします。

「灯せ」

 光精を呼び寄せ部屋の中を照らします。山の様な武器が輝いて見えます。

 ここでは軽い武器を探すで、重い武器は放置していきます。「これも持ち歩くのが大変です」そう言いながら倉庫の中を潜っていきます。

 倉庫の至る所に黒々と光る大剣や選定の剣と銘が掘ってある長剣などが積み上げてありますが当然それらは重い武器なので当然目もくれません。

 ……しばらく行くと目の間にものすごく重い斧がありました。これはドワーフが使う奴でしょうか……それとも巨人がつかうのでしょうか……試しに持ち上げてみましたが、びくとも動かないのでそのまま放置しておきます。

 そして、いくつも武器を選り分けていくと鞘に収まった細い長剣を見つけました。その隣で地面に突き刺さって偉そうな大剣の方は無視していきます。その大剣は闇の中でも光を浴びて虹色に光っていそうな代物の様ですが……どう見ても重そうです。恐らく失敗作でしょう。

 さやから剣をを抜いて振ってみると銀色に輝いています。そしてすごく軽いのです。私は、普通の剣と思って振り上げたために、あまりの軽さにバランスを崩して思わずのけぞってしまいました。この剣は紙より軽いと思います。当然紙もスパッと切れます。武器はこれで問題無さそうです。

 次に鎧を探します。さすがに手持ちの皮鎧だけでは心持たないので鎖帷子チェインメイルが必要になると思います。

 むろん、この剣で切れないぐらいに頑丈な防具を探さないといけません。

 それもすごく軽い防具が必要です。

 当然全身鎧フルアーマーは論外です。重くて蒸れるのは勘弁です。

 鎧の方は意外にもすぐ見つかりました。どうやら量産された鎖帷子の様です。長い年月を経ていますが痛みや錆び汚れの類は全くありません。恐らく使われずに死蔵されていたものでは無いかと思います。その鎖帷子は紙のように薄い鎧で紙のように軽いです。それでいて紙の様にスパッと切れません。鎧もこれで大丈夫でしょう。

「それでは、この程度にしといてやる」

 やりきった顔をして、私は武器庫を後にすることにします。今日は大変満足です。

 さて、他に必要なものがあるのでしょうか……。背嚢ですか……ところで背嚢には何を入れたらよいのでしょうか……。

 謎が謎を呼び分からなくなったきたので再び図書館で調べることにします。


 ……とは言えどうしたものでしょうか……本の発掘をしていたらいつまで経っても旅にでかけられないではないですか。無計画ノープランで出かけるのも考えてみましたのですが姉ではないので流石に無理です。やはりそれなりの知識が無いことには……危険も沢山あると思いますし……という訳で本の探し方を変えてみることにしました。

 実は図書館におさまっている本は多様な言語で書かれているのです。

 当然ハイ・エルフの文字は読めますし書くことも当然できます。それとは違う言葉や文字が出てくる本も図書館の中には沢山置いてある訳です。これでも私は図書館に入り浸っていたので大抵の言葉読めるんですよ。発音はよく分かりませんが……。そこは気合いで何とか読んでおります。

 これは他種族の言語らしいです。恐らくこの中にも人間の言語も存在するんでしょうね。ご先祖様は、どこかから本を入手したのかよく割りましたが、手に入れたら片っ端から図書館ココに放り込んでいたようです。

 今調べているのは旅の事ですから旅に出ないで里でゴロゴロしているハイ・エルフの日記を幾ら読んでも仕方ないのは分かりますよね……。そういう分厚い本は一切無視してハイ・エルフの文字以外で書かれた本だけを探し出していく戦略に切り替えました。

 それもなるべく新しく書かれた奴の方が良いでしょう。人間の寿命を考えると古い記述はあまり訳に立たなさそうな気がします。図書館の本は片っ端から適当に投げ込んであるのでそれらの本がどこにあるのか分かりませんが、新しい本に限って言えば下層階か上層階に集中する傾向があるようです。高層階は二百階を超えると本がまばらになっているので開いているところに適当に置いていったからだと思います。下層階はしまうのが面倒なのでその辺に置いていったに違いません。元々そこにあった本が変わりにどこにいったかまでは知りませんけど……。

 しかし、この作業も面倒なので精霊さんに任せることにしました。『所定の厚さ以下の本を見つけたら、中身を開いて特定の文字が現れる本を抜き出して指定した置く』と言う単純作業を命令しておきます。一晩放置しておけば目的の本が見つかるかも知れません。

 というわけでその日はここでおしまいにし、作業を精霊さんにおまかせして、一旦家に帰ることにします。

 図書館から外にでるとまだ日は暮れてませんでした。まだ時間がたっぷりあるようです。

 夜でも夜目が利くので行動に支障はないのですけど、こういう作業は気分の問題もあります。やはりお日様の出てる時間にやるものでないかと思うのです。

とはいえ図書館の中からお日様はみないのであまり関係ないのですが……。

 今日の戦利品をぶら下げて家に帰りまると夕飯を食べたらお風呂に入って早寝する事にします。今日は疲れましたし。埃を株ってしまったのでさっぱりしたいところです。お風呂で、さっぱりしてから風呂上がりのミルクを飲むが私の最近の流行りなんです。腰に手をかけてぐいっと飲みます。しかし、少し量が多いかもしれません。飲みきれません。もう少し小さい瓶を作ったほうが良いかもしれません……。

 母には、今日の出来事をお話しておきます。母は外の世界をあまり知らないと言っています……紫の魔女の話は無かったことになっている様です。父は今も外の遺跡を探して出歩いているので、「父が母に何か話した事は無いのですか?」と尋ねましたが、「あの人秘密主義なんですよ……」と嘆息していました。

「父を見つけたら教えてね」などと軽く言われましたが、旅先で会うことがあるのでしょうか……外の世界はとても広いと聞いていますし、古代遺跡と言うのは大体人の住んでいないところにあるらしいですよね。私が居るのは人が要るところなので真逆なのではないかと考えてました。

 それはともかく今日は良い夢が見られそうです。


 次の朝。今日の朝は気分が良いです。洗濯日和です。しかし図書館に精霊さんの様子を見に行く必要があります。洗濯も精霊さんに任せておきましょう。水精さんに洗わせて土精さんに干させて風精さんと日の光で乾かす。

 いつもの定型業務ルーチンワークです。

 それから軽く朝食を済ませると軽やかに図書館に行きます。今日は気分が良いので文字通り飛んでいくことにします。

「飛翔」

 魔法をかけるとふわっと浮かび、アッというまに図書館に着きます。

「……」 中に入ると呆然としました……。

 宝の山ならぬ本の山が幾つも出来てました。いくら何でも多すぎると思います。

 もう少し条件を絞った方が良かったのでしょうか。

 取り合わず精霊さんには一旦帰っていただくことにします。

「おつかれ」

 精霊さんが消えていきます。スッキリ……いえいえ本の山はそのままです。後で精霊さんを呼んで片付けさせましょう。

 本の山から本を取り上げると目につくところを片っ端から読み飛ばして行きます。

 ひねくれた文字の本が沢山で……これはなかなかおつなものです。

 ……

 しばらく、全く関係無い本を読みふけっていました。

 ……

 ……

 ……

 気を取り直して旅に関する本だけを選り分けていくことにします。

 「旅の走り方 古代遺跡編」

 なんでしょうこれは……何かひっかかる言葉が書いてあります。とりあえず横置きにどけておきおき本の山を掘り進めていくことにします。

 他にも「トラブルツアーガイド」やら「一人歩きの本」など、それっぽい本も何冊か確保できました。

 とりあえず、これらを一通り読んでみてダメなら、また本を探す事にしましょう。

 それでは精霊さんを呼び出し

「片付け」

 よし、では後片付けは任せてさっさと戦利品を持ち帰ることにします。

 今日はお昼に帰れそうです。あとはこれらの本をのんびり読むことにしましょう。

 いえ、人間を調べる為に出かけるのでした。のんびり読んでいる場合ではないですね……。

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