序章 旅の仕度

旅の仕度1

序章 旅の仕度

旅の仕度1


 こうして私は、人間を見るための旅に出ることにしたわけですが、旅に出る前に旅の準備なるものをしないと行けないと気がついわけです。そこで母に思い切って聞いて見ました。

「ところで旅にでるのに必要なモノって何でしょうか」

 万感の思いを母にぶつけてやりました。

「そんな事ぐらい自分で調べなさい?図書館に行けばなにかあるのではないかしら」

「父はどうしているのですか」

 父は今も遺跡巡りおり、里と外界を行ったり来たりしております。当然にそのことは母も当然知っており、やっているのか恐らく知っているはずです。

「父が何をやっているか知りませんわ。部屋に何か覚え書きとかないの」

「何もありませんでしたわ」

 父の部屋——あの広大の腐海の中——を探すのはとてもではないけど無理です。腐海漁りを行うぐらいなら図書館で本を探す方がまだマシです。それより、母は完全にしらばっくれて居るようです。過去に外で大暴れして紫の魔女——ただし魔法を使わない——などと呼ばれて居た事ぐらいは知っていますよ。どうやら旅に行くならそれぐらいの事は自力で出来ないとダメだと暗にいっているのだと思います。

「そんなん、弓とナイフさえあればどうにかなるだろ。それで獲物を狩って食ってれば食い物には困らんだろ」と横やりが入ります。

 黙れ姉。私にはがさつな姉がおりまして、見たとおり見た目も物言いも大変がさつです。

「姉。森の中を探検する訳ではないんですよ。外の世界には獲物が全くいない場所もあるらしいのです。それに魔獣がウロウロしていたりもするらしいのですよ」

「なら、こいつを使えば良いだろ」

 姉は、ひょいと何かを取り出します。それは、魔法の角笛じゃないですか……。しかも魔王と戦う時に使うですよ。そもそも姉がそんなもの持ち歩いているのでしょうか。天使の軍団を呼び寄せて、いったい何をするおつもりでしょうか……少なくとも『だろ』ですむ話はないと思います。

 なので姉に向かってガツンと言ってやりました。

「そんなことで生態系を破壊しないください」

「生態系ってなんだ?」

 このバカ姉に何を言っても無駄でした。生態系を理解してません。脳みそが筋肉で出来ていますから仕方が無いです。

「それでは、旅の準備とやらを調べに行って参ります」

 私は母の助言通り図書館に向かう事にしました。

 しかし、あの図書館です。背表紙に何も書かれてない本が何千万、何万冊と乱雑に置かれている図書館です。当然一筋縄ではいきません。片っ端から書いてありそうな本を引っこ抜いては戻すを繰り返すしかありません。一体どれだけの時間がかかるのでしょうか……。その時、ふと頭にひらめきました。

 こういうことは、薄い本の中に書いてあるのでは無いのでしょうか……それも子ども向けにかかれている本です。分厚い本は大体小難しい理論や説教ばかり書かれています。薄い物語や絵本の方が参考になるだろうと思ってみたわけです。

 そこで薄い本をごっそり集めてひっくり返してみました。

 やはり、あるところにはあるものです。一冊の薄い本を取り上げると『初めてのおつかい』と言う題名が書いて有ります。きっとこの本に旅の作法が書いてあるに違いありません。

 私は、胸を高ぶらせながらページをめくってみるました。そこには絵とともにこう書いてあります。

「おサイフの中に必要なだけお金を持たせます」

 一瞬おサイフとは何のことかしらと思いましたが、ここに描かれている巾着みたいなやつでしょうか……。それとお金と言うものが必要なそうです。絵をよく見ると金色に輝く円盤が幾つも描かれている様です。恐らくこれがお金と言うものです。

 黄金を丸くした奴と言えば……そういえば、お隣さんが似たようなもの集めていた気がします。それでは、お金については後ほどお隣さんに聞くことにします。

 ページをめくるとサイフを持った女の子が道をてくてく歩いて行きます。どうやらお店で買い物をして居るようです。そこには母親に渡されたメモを読みながらサイフを取り出して買い物をして居る女の子の絵が描いてあります。

「なるほど、お店でお金を渡すと買い物が出来る訳ですか」

 大変分かりやすい本です。この本を書いた人は素晴らしいです。

 実は里にもお店はありますが、お金などをやりとりする必要ありません。お店に並んでいる好きなモノを選んで適当に持っていくだけでなのです。本に出てくる店員などは当然おりません。里の中で誰かの手伝いをしたり、獲物を譲ったりすると報酬点が手に入ります。報酬点は里の中央で魔法で刻印されており、買い物をするとその刻印の位置が自分から店主に自動的に移るだけです。つまり里の中で買い物するには対価に見合うだけの刻印が必要になるわけですがこの里では誰もが自給出来るのでお店のものを適当に持っていっても刻印がゼロになること聞いた事は有り得ません。要するに適当に持っていっても何の問題もないのです。里の中でお店と言うのは、自分の要らないものを無造作に並べて置いてある場所の事を差すわけです。

 ところがこの本ではお見せからお金を払わず商品を持ち出して行けないと書いてあります。買い物するには必ずお金を払わないと行けないそうです。

 まさに驚天動地です。雷撃が走ったような衝撃が走ります。しかし報酬点は、幾ら貯まってたのかしら……とふと思いました。

 刻印の部屋まで行くのは大変で面倒なのですが実は魔法で刻印の部屋は簡単にのぞけるのですぐ分かる様になっています。ただし見られるのは自分の刻印だけで、他人のは見えない様になっています。

 そういえば刻印の部屋を見る魔法は教えて貰った記憶はあるのですが使った事が無かいので、頭をこらして思い出してみます。

 ……こうでしたかしら。

 すっと腕をあげると視界の中に自分の刻印が光って見えてきます。魔法はこれであってるのでしょうか……しかし、刻印の数があまり多すぎ数えるのが面倒になってきたので魔法を使って数えることにします。

 魔法のお答えは……『一千万五千九十二点九五三二』……だそうです。

 どうやら結構溜まっている様です。他の里人がどれぐらい持っているのかは知りません。それ以前小数点以下の数字はどういう仕組みになっているのでしょうか……。

 とにかくこの刻印をお金とやらに変えればどうにかなるかも知れません……。

 お隣さんにお金を譲って貰えないかしらと思いながら……薄い本のページをどんどんめくっていきます。

 しかし、この本はメモに書かれた品物をお買い物をしてそれを家に持ち帰ったところで終わってしました。どうやら旅の準備の本では無かったようです。しかし、外の世界では、買い物にお金が必要になると言う事は貴重な情報でした。

 これはきっちり記録しておかなければなりません。

 ペンを取り出してきっちりメモを取ることにしました。

 旅の準備に必要なものはまだ要りそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る