第18話
西城藩お留守居同心頭の岩久保正衛門は、若いながら豪胆かつ実直な人柄で知られていたが、なかなか嫁の来手がなかった。
これは正衛門の屋敷に夜な夜な女の幽霊が現れるという噂があったからである。
このことを正衛門に問うと、
「誠でござる。夜九つの頃、髪を振り乱した女が屋敷の何処かに現れます。私や家人は昔からのことで慣れておりますが、下女などは怖がって、なかなか居つきません。困ったものです」
と答えたという。
しかし、あるとき横目付の浅賀正三郎から三女を嫁にして貰いたいという申し入れがあった。
浅賀正三郎の三女はその美しさで知られていたが、なぜか二十歳を越えようとしてもどこにも嫁に行かず、周囲の者も不思議がっていた。
正衛門はその実直さ故に、正直に屋敷の幽霊のことを打ち明けた。
「誠に有り難い申し入れながら、当家には女の幽霊が出ますので、妻として迎えましても娘御が怖がるかもしれません」
しかし、浅賀はそれに驚いた様子もなく、
「いや、こちらも打ち明けねばならぬことがある。三女佳乃は、我が娘ながら性格も穏やかで、一通りのことは仕込んでおるが、嫁に出せない理由がある。それは、夜になるとしばしば佳乃の近くに裃を付けた青白き侍らしき幽霊が現れ、いろいろを怪異を引き起こすのだ。それ故に嫁に出すことも出来ずにいる」
と言うのである。
正衛門はカラカラと笑い、
「なるほど、幽霊付きの娘御を幽霊付きの屋敷に嫁がせようというのですな」
と言い、嫁にすることを了承した。
浅賀の三女はすぐに正衛門の屋敷に輿入れし、夫婦は仲睦まじく、数年後には男子も授かった。
「岩久保家の嫁ぎ幽霊」は城下の噂になり、ある人が正衛門に幽霊のことを尋ねると
「屋敷の女の幽霊も、妻に憑りついた幽霊も、いまだに出ます。しかし、幽霊が一人から二人になっても、さして変わりはござらん。妻も幽霊に慣れているので、怖がらずにいます」
とさして特別なことを話すようでもなく、答えたという。
<西城箚記稿>より
偽江戸怪談。設定はテキトーです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます