第17話 特別編 仏蘭西海底電信奇談

江戸風怪談じゃなくても、実話怪談フォーマットで違うものでもいけるような気がしたので、ちょっと習作。


・・・・・・・・・・・・


1850年8月28日、英国海峡海底テレグラフ社のジョン・W・ベレットは、指字電信機を前にフランス側から送られるメッセージをいまや遅しと待ち望んでいた。

指字電信機によってメッセージを受け取れば、彼は世界最初の商業用電信海底ケーブル敷設工事に成功したこととなる。

この日のために、彼は英国・仏国の両政府と交渉し、ドーバーからカレーを結ぶケーブル敷設の許可を得た。

すでに、イギリス側ドーバーとフランス側グリ=ネ岬の浅い深度には、マレー原産のガタパーチャ樹脂で皮膜したケーブルの敷設が終了している。

この日のうちには、ドーバーから出発した曳船ゴリアテ号によって、ルート最深部のケーブルが敷設が行われ、最終接続作業が行われる予定であった。

そうなれば、メッセージが受け取ることが出来る。

夕方ごろ、急に指字電信機の針が揺れだし、文字盤の文字を指し示した。

「おい、メッセージか?」

ジョンがそう叫ぶと、技術者はあわててその文字を追った。

しかし、それは不規則に文字を指し示すだけで、意味のあるものではなかった。

工事は失敗かとジョンは気を落としたが、再び針が動き出した。

「C,T,H,......」

技術者は電信機が示す文字を読み上げながら、慌てて記録した。

C,T,H,U,L,H,U,F,H,T,A,G,N

「これはどういう意味だ?」

記録された文字列を見たジョンの問いに、答えるものは無かった。

ジョンは気を取り直し、あらかじめ用意していたルイ・ナポレオンに対するメッセージをフランス側に送ることを指示した。

このメッセージはフランス側に無事届き、その後数回のやり取にも成功した。


三日後の土曜日に発行された「ザ・タイムズ」には「世界最初の海底ケーブルによる電信成功」の記事が大きく載った。

しかし、ジョンたちが最初に受信した、意味不明の文字列に関することが載ることは無かった。


Ph'nglui mglw'nafh Cthulhu R'lyeh wgah'nagl fhtagn.....

死せるクトゥルー、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る