第13話
寛政七年ごろの話である。
陸奥黒高の指ヶ城二ノ丸仕切石垣に、平素は開けることがない口幅二間しかない「水門」という小さな門があった。
小門ながら、檜皮葺の櫓門という奇妙な造りで、開門すると小さな舟入があり、そこから船に乗ると、外堀から黒高川まで人目に触れずに出ることが出来た。
だが、十二月四日に選ばれた掃除之者が入る以外は、まったく使われることはなく、門番も置かれなかった。
そのため、家臣たちは「水門ではなく、不見門(みずのもん)である」などと言うものもいた。
ある夜、城内に何度も大きな音が響き、夜役の詰番たちは何の音かと調べると、この「水門」の外側で何者かが恐ろしい力で板扉をガンガンと叩いているらしい。
「水門」は、城代家老の許可がなければ開門することができなかったため、詰番たちは朝になるまでこの板扉を叩く音を聞いているしかなかった。
登城してきた城代家老にこのことを報告すると、すぐに顔色を変えて、
「他言無用。その音を聞いた者は、しばらく登城することを控え、家に籠って精進潔斎せよ」
と命じた。
その怪音が聞こえてから三日後、江戸家老から書状が届いた。それは、江戸にいる藩主が突如気狂いし、近習二人を次々に刺すと、最後は自ら喉をついたという内容であった。
城代家老は大きなため息をつき、
「黒高川の禍人が凶事を知らせると聞いていたが、本当のことであったか」
とつぶやいたが、それ以上説明はしてくれなかった。
藩主の死は病死として幕府に届け、この時は家督を長子が無事継いだが、その後も大きな凶事が起こる前に、「水門」を何者かが叩くことはしばしば起こったらしい。
<陸奥奇談集より>
偽江戸怪談の十三作目。 基本設定は嘘です。
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