第3話

神田今川橋の瀬戸物屋山口屋の惣領息子である善吉は物堅く親孝行と評判だったが、安永のお駒風(流感)にあたり、二十三歳の若さで亡くなった。

主人夫婦は大変気を落としたが、幸い妹のお駒は十八ながらしっかりしており、親せきの勧めもあってこれに婿を取って店を継がせように決めた。

しかし、四十九日を過ぎた頃から、仏壇に納めた善吉の位牌が夜に音を立てて倒れるようになった。

最初は風か鼠の仕業かと思ったが、あまりに毎日位牌が倒れるので、主人は「死んですぐに婿取りを進めたので、息子が怒ったのではないか」と思うようになった。

お駒は「兄はそんなことで怒ることはない」と言い、なぜ位牌が倒れるのを自分で確かめようとした。

ある夜、仏壇の前に座り、蝋燭の灯を手掛かりにお駒は位牌を目を向けていたが、石町の鐘が丑寅を告げたころ、不意に兄の位牌の上に白いものがぬっと現れるのが見えた。

その白いものが札板に近づくと、途端に位牌は小さく前後に揺れだしたが、気丈なお駒は手を伸ばして、さっとこれをつまみ上げた。

それは1寸ほどの、剥がされたらしい女の爪であった。

朝にお駒はこの爪を両親に見せると大変に驚き、近所の者は「吉原では馴染みの客に剥がしたを送る放爪というものがある」と訳知り顔で言ったが、善吉は生前大変に物堅く、馴染みの女がいるということは無かった。

主人夫婦はこの爪を根津の菩提寺で供養をしてもらい、「爪塚」は作って納めると、位牌は以後倒れなくなった。

その後、お駒は「爪つまみのお駒」などと評判になったが、無事に婿を取り、店は今も今川橋にある。


              <石町方覚書より>


偽の江戸随筆怪談の三番目である。もっともらしく書いてますが、ほとんどがテキトーです。

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