悲劇のヒロイン
冷たい風が体に打ちつけ、街の音は遠く自分の足元から鳴り響いてる。
何が起きたのか理解できないが一つだけわかることがあった。
それは俺が確実捕まっている状況だということ。それも生きるか死ぬかの瀬戸際ということ。
詳しく言うと、柵のないビルの屋上の真ん中でイスに縛りつけられている。身動きが取れないので蹴って転がしたり、担いでほおり投げられたりでもしたら…
何故こんなことになったんだろう。確か加賀屋さんと食事に行って、花咲き病が再発してて、治し方を教えてくれるって。
一人高層ビルの屋上で朧気な記憶をゆっくり辿っていく。
初夏なので特別に暑いとか寒いとかはない。けど空に近いせいか、はたまた自分の危機的状況のせいなのか肌寒く感じる。
一人でいると考えなくていい事まで考えてしまう。
どうしていつも俺だけがこんな酷い目に合わなくちゃならないのか、なんでもっと自分の思った通りに事が運ばないのか。今はそんなことより早くここから逃げる方法を考えなくちゃいけないのに。
「大丈夫?悲劇のヒーローさん それともヒロインかな?」
からかうように笑いながら加賀屋さんが現れた。いつどうやってここまで来るのだろう、彼女はいつも足音一つせずにやってくる。
「ずいぶん弱ってるみたいね」
「お前が殴ったせいだろ」
「わたし殴るなんて面倒なことしてないよ」
「は?何言ってんだよ 思いっきり殴っただろ、ほらちゃんと跡がここに」
そう言って口元に近い生地を噛んでTシャツを引っ張ると、俺の腹に殴られた跡なんてどこにもなかった。その代わり小さい注射を打たれた針の跡のようなものがあった。
「なんだこれ」
「それ、私が打った麻酔銃の跡ね」
「麻酔銃?そんなものいつ打ったんだよ」
ふふっと笑いながら彼女は指を銃の形にしてこちらに向ける。
「これで打ったのよ、バーンッ」
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