一人の理由

俺のばあちゃんは花咲き病の再発で亡くなっている。お年寄りは抵抗力が低いため再発のリスクが高くなる。

しかもばあちゃんには担当医がついていながら気づいたのは再発から数週間後のこと。

きっと体に色々な異変が起きていたのだろうがあまりにも普通に過ごしていたので気づいてあげることができなかった。

あの日もばあちゃんは早起きして俺の朝ごはんを作ってくれていた。焼き魚、白米、みそ汁、様々なおかずが並ぶ。そのなかでちょこんと申し訳なさそうにいるマグカップ。俺が好きだと言ったその日から和食中心の食卓に不似合いなコーヒーの香りがするようになった。


「たくさんたべるんだよ」優しく微笑みながらコーヒーをすするばあちゃん。それが最後にみた穏やかな笑顔だった。

その後学校に連絡が入り急いで病院に向かうと、もうそこにばあちゃんは居なかった。


病院側は花咲き病の患者の再発を見逃したというミスをふせるため、口外しないでくれと頼まれ多額の口止め料を渡された。

恨みつらみなどがせめぎ合っていたが、それを受け取る以外生きていく道がなかった。


もし治療法があるならこのときばあちゃんは死なずに済んだし、俺も寂しい日々を送ることはなかったんだ。


「私が知ってる治療法は高齢の人には適用できないの。使えるのは10歳以上25歳未満。だからあなたのおばあちゃんはどっちにしろ助からなかったわ。」

「なんだよ、その言い方は」

「だってうじうじしててキモいし、めんどくさいんだもん。」

デリカシーのかけらもないな

この女を一瞬でも可愛いと思った己を殴りたい。

幻滅と後悔を繰り返してると、さっきよりも強い力で胸ぐらを掴み

吐き捨てるように


「過去に囚われてないでさ、しっかり今を生きてくんない?

じゃないとうっかり殺しちゃうよ」


その言葉とともに俺の目の前は真っ暗になった

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