春の予感



「ねぇ、聞いているの?あなたに話しかけてんだけど〜」

「あ、え、はい、き、聞こえていまっしゅっ」


おい、俺よ、人と話すのが久しぶりだからって今の返しはダメだろう。

せっかく誰かと話せるチャンスだったのに。終わった、きっとこの子も今ので引いただろう。さよなら、俺の千載一遇のチャンスよ。そう思って彼女の方に目をやると


「よかった、怖がらせちゃったのかと思ったから安心した」

え、引かないのか。彼女は俺の正面の席に腰を下してにこやかにこちらを見ている。


「全然そんなことないですよ。何か僕に?」

「いや、ひょろっとしてるのにたくさん食べて面白いなと思って見つめちゃった」

「はぁ…」

いや、理由が突拍子もなさすぎたのとそんなことで話しかけてくれたことが嬉しすぎて思わず腑抜けた声が出てしまう。


「あなた学生さん?いくついくつ?」

「え、あ、はい。そこの大学に通ってる一年です。」

「そうなんだ、私もだよ!え、名前はなんて言うの?どこの学部なの?サークルは入ってる?どこから来てるの?ここの近く?後、誕生日はいつ?血液型は?」


意外と遠慮なく色々聞いてくる。ちょっと変わった子なんだな。


「落ち着いて、言うから、少しずつな。まずはさお互いに自己紹介しようよ」

「そうだよね、まずは名乗らないとだよね 私の名前は加々谷鈴音かがやすずね、文学部の一年生だよ」


名は体を表すとはまさにこのことだなと感心してしまった。黙っていると彼女が小首を傾げている。慌てて自分も名乗る。


「俺は入間幸来いるまゆき、社会情報学部、一年。」

「ユキくんよろしくね。あのね、私まだユキくんのことたっくさん知りたいの。だから今日の夜空いてる?ご飯行かない?」


突然過ぎるお誘いに動揺しつつも

「い、いいよ」

「じゃあ六時に駅前の広場に集合。またあとでね〜」

そう言って彼女は足早に立ち去ってしまった。嵐のような子だったな。

いや、ついに俺にも春が来る予感、もう夏手前だけど。あんなに可愛い子と話せるとは思わなかった、しかもこの後また会える。

あの日の朝の出来事も今日やっと許せそうだ。


二個目のハンバーガーを食べ終えて午後の講義を受けるために大学に向かった。


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