きっかけは思わぬところに

朝、いつも通りの時間を過ごしていた。ベッドからでて伸びをする。

起きた時、首にむず痒さを感じつつもメガネをかけてひとまずキッチンへ。湯沸かし器に

スイッチを入れ、冷蔵庫の中を思い出しつつ洗面台に向かう。


確か卵と牛乳と食パンが余ってたからフレンチトーストでも作るか、コーヒーも淹れて。なんだ今朝は寝起きも良くて調子がいいな。

今日は何でも上手くいく気がする。何があるわけもないけど、そんな気分で洗面台の鏡をみると、俺の最高の一日の予感はあっさりと崩れ去った。


首筋に赤く小さな花型に広がるかさぶたができていた。昨日はこんなの無かったのにさっきの違和感はこれか、よく見れば手のひらにもある。

これはなんだったけ、確か「花咲き病」だったけか。正式名称、急性乾癬花形病きゅうせいかんせんはながたびょう。肌に少しでも傷がつくと簡単に出血して、空気に触れると血が固まってしまう。それがまるで花が咲いたような形になるので花咲き病。

この奇病は数年前に流行していた。当時は原因不明の病気として恐れられていたが、今じゃ薬も開発されて簡単に治るようになっている。


しかしなぜ今更…これは別にほったらかしても生きていける。けど妙にむず痒いらしい。大抵の人は我慢しきれなくて花に触ってしまう、そうするとまた傷ができる、血が出る、そして花が咲く。

この悪循環の末、花の大きさは徐々に大きくなる。

ばあちゃんがかかった時も見てるこっちが痒くて仕方がなかった。最近聞かなくなったのにな。

病院に行けば薬もあるだろうけど 行くのが面倒臭い。俺は病院が苦手だ。可能な限り行きたくない。


ここまでせっかくいい気分で過ごしていたのに、苦手な場所に自ら行くなんて。

この際家にある薬で応急処置でもしておくか、そう思いながら重い足を食器棚に向ける。

俺の予想通り「入間幸恵いるまさちえ」と書かれたお薬手帳と花咲き病への処方薬が入った薬箱が上の方に積んであった。

確か一、二年前の物だろうけど…。

ま、薬には変わらないわけだし飲んでも大丈夫だろう。


封を開けて薬を取り出す、別に飲み物の指定もないしコーヒーで飲もう。

赤いお花のおかげで一時脱線したものの俺の一日が終わったわけではない。

体に小さなかさぶたができているだけじゃないか、存在としてはニキビと同じだ。

気持ち的には実質何も変わらない、むしろ体に赤い可愛らしい花が咲いたと思えばいいじゃないか。

インスタントコーヒーの粉末にお湯を注ぐ。このこだわりのないジャンキーな味が一番好きだ。一口すすり薬を口の中に投げ入れ、残ったコーヒで流し込む。二、三日で枯れてくれるといいけど。


そしてこの行動全てが俺を後々、人生最大の窮地に追い詰めることになる。

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