第23話 亜人を解放するこの戦いに参加させていただきたい!!
「まーーーーーーーーーーーーて、待て待て待て!!?」
勝手に流れ出した俺の脳内エンディングロールを取り消す。こんな所で終わってもらっては困る!
「結婚おめでとうございます」
ニッコリと笑うアスラン。その顔に少しの悪意を感じるのは俺だけだろうか、いや俺だけではない(反語)
「ありがとう、じゃなくて!結婚!?どういうこと!?いやいやいや、何かの間違いだって!・・・ね?エルフさん」
急に出会ったばかりの俺たちが5秒で結婚なんてしてたら今頃この世界に夫婦が溢れ返ってしまう。とにかく、これは何かの間違いに違いない。この指輪にはもっと何か他の意味があるに違いない。邪悪な神が封じ込められてる的な何かがあるに違いない。
というわけで、俺がエルフさんにそう同意を求めると、しかし当のエルフさんは潤んだ目でこちらを見ていた。
あぁ!可愛い!!結婚したい!!
「えぇー!でも、なんでいきなり!わけがわからないよ!?ねぇ!これドッキリ!?異世界風ドッキリなの!?」
そんな錯乱する俺を宥めるようにそっと手を伸ばし、頭をポンポンと優しく叩くエルフさん。
そんな可哀そうな目で俺を見ないで何か言ってください!?
ひとしきり暴走した後、何とか冷静さを取り戻したので、話を元に戻す。
「えーと、エルフさん、この指輪は俺への指輪であってるの?」
何も言わずに、ただコクコクと頷くエルフさん。
「アスランが言うにはエルフの女性が男性に銀色の指輪を渡すと結婚してくださいって意味になるらしいけど、それであってるの?」
またもや何も言わずに、ただコクコクと頷くエルフさん。
「どうやら本当に婚約指輪のようですね」
それでいて、アスランはというと興味津々な様子で俺とエルフさんのやり取りを横から観察していた。
「ねぇ、俺の顔って、初対面で求婚したくなるほど魅力的?」
錯乱してもう何が何やら分からないので、とりあえず横にいたアスランに聞いてみた。今の俺の顔はそんなにも魅惑の美しさを放っているのだろうか、逆に不安になってくる。
「そうですね。人によっては素敵だと思う顔だと思いますよ」
ニッコリと答えるアスラン。でも、このタイミングでそんなお世辞は要らない!
とりあえずこの3人だと埒が明かないので、応援を呼ぶためにも一度宿場に戻ることをこの2人に提案した。どちらも反論なく、人が好さそうな顔で頷いてくれたので俺たちは一時宿場へと場所を移す。
移そうと思ったが、大事なことを聞いていなかったので、エルフさんに質問する。
「そう言えば、お名前はなんと呼べばいいですか?」
その質問に対し、エルフさんはまた顔を赤くして、ちょんと指輪の内側を指差した。そこには文字が刻まれていたので、その文字を読み上げる。
「・・・みーしゃ?、ミーシャであってます?」
すると、合っていたのか赤い顔のままミーシャさんは大きく頷いた。
程なくしてママチカさんの宿場に着くと、しかしロビーには誰もおらずにがらんとしていた。
おそらく夕飯の時間が近いので、皆食事場に行っているのかもしれない。しかし、ならば今が好都合、見慣れないエルフを見て他のプレイヤーたちがブヒブヒと集まる前に、俺とアスランはそのままミーシャさんを連れて2階へと駆け上がる。
「とりあえず、シゲルさんかガラハドにでも聞いてみて指示を仰ごう」
「そうですね。それが賢明だと思います」
後に続くアスランにこそこそとそう言いつつ、ゆっくりと自分の部屋のドアを開ける。だが、残念ことにそこには1人の人影が。
それはシゲルさんでもガラハドでもなく、レイだった。そして、俺たちが部屋に入ったと同時に、彼女はいつもの怒った顔で振り向く。
「遅い!何してやがった、皆飯を食いに行ったぞ!せっかく呼びに来た・・・の・・・に・・・?」
しかし、怒りのレイの言葉は徐々に薄れていき、全てを言う前に彼女はポカンとした顔で俺の背中に隠れるミーシャさんを指差す。
「・・・誰だ?」
「あぁ、この人はミーシャさん!えーと・・・」
「ミーシャさんはエルフです」
「えぇ!?」
その言葉に声を上げて驚くレイ。アスラン、ナイスアシスト!
「そして、アーサさんの婚約者です」
「はぁ!?」
さらに、その言葉に声を上げて驚くレイ。アスラン、バッドアシスト!?
その後、キーキーギャーギャー叫ぶレイを宥め落ち着かせ、これまでの経緯を説明した。勿論、水辺での話は省略して。その間、レイは終始俺を親の仇のように睨みつけていたが、何とか婚約者だ何だは誤解だと理解してくれた。
「ふーん、それでミーシャさんを連れてきたんだー。自分の部屋にねー、ふーん」
それでも何故かご機嫌斜めなレイを横目に、ミーシャさんと話を進める。
「それで、ミーシャさんはこの指輪を渡しにこの街まで来たの?」
こくんと頷くミーシャさん。
だが、先程から何も話さないミーシャさんの様子を不思議に思ったのか、レイが怒り交じりに強い口調で尋ねる。
「おい、さっきから黙ってばっかで話さないけど話せないのか?」
しばしの沈黙。
そして、ミーシャさんはゆっくりと、でもしっかりと一回だけ頷いた。
「「「え・・・」」」
そのミーシャさんのまさかの応対に驚きレイもアスランも俺も言葉を失った。
先程まで話さなかったのは恥ずかしいからではなく、本当に話せなかったのである。詳しい事情は分からないが、ミーシャさんは元々声が出せなかったのだ。
「あ、その・・・、ごめん」
そのまさかの事実に、機嫌を悪そうにしていたレイは逆にしょげてしまい、顔を下げてしまった。別にレイも悪気があって言ったわけではないだろうが、でもミーシャさんが気にしていることを言ってしまった恐れはある。
だが、一方でミーシャさんはそんなレイの姿に慌てたふためき、すぐにレイへと駆け寄った。そして、彼女はそっと自分の手をレイの頭に置くと、ポンポンと優しく撫でた。ミーシャさんなりに「気にしなくてもいいよ」とでも言っているようであり、少し微笑ましい情景でもある。
そんな対応にレイは一瞬驚き、また恥ずかしそうに顔を上げたが、ミーシャさんの笑顔を見るとレイは成されるがままポンポンを受け入れた。
俺の部屋がミーシャさんの優しさで包まれたようであった。
すると、アスランが俺の方を見て不思議そうに尋ねる。
「アーサさんはミーシャさん、いえ、エルフという種族はお嫌いですか?」
「え!?」
突然何を言い出すのかと驚いたが、でもそのアスランの表情はふざけた様子でもないので正直に答える。
「まぁ・・・、嫌いではない」
というかエルフが嫌いな人などいるのだろうか?ファンタジーと言えば誰もが思いつくであろう、その色白で細い体に特徴的な羽根のような耳を持つエルフたち。たとえエルフが男性であろうと女性であろうと、その美貌にはグッとくるものがあるに違いない。
「それでは、オークは好きですか?」
「えぇ!?」
続けざまの質問に、一瞬あのガルの逞しい姿が思い浮かんだ。そりゃ、エルフかオークかと言われれば断然エルフの方が好きだし、正直結婚したいと思う。だが、そういう結婚とか男性と女性という意味でなければ、正直に言えばオークのことは割と気に入っている。
そんなオークたちとは一度剣を交えた仲ではあるが、彼らを好きになったのはやはりゲームの時とは違ってエルフにもオークにも温かみのようなものを感じるからであろうか。
「まぁ・・・、嫌いではないよ」
というわけで、とりあえずオークもエルフ同様に嫌いではない。
だが、「そうですか」とアスランは呟くと、いつになく真剣な眼差しで俺を見つめた。その眼に最初はドキッとしたが、でもその眼からはただ純粋さが感じられた。アスランの蒼い瞳と同じような蒼く透き通る空のような純粋さが伝わってきた。
「それでは、人は亜人を、亜人は人を好きになれると思いますか?」
「んん?」
それはどこから生じた疑問なのかは分からなかったが、アスランの表情には凛として強く揺るがぬ芯を感じた。どうやらふざけた質問ではないらしい。ならこちらもふざけずに答えるべきだろう。
「なれる、好きになれる!」
そんなアスランの質問に真っ直ぐに答えた。残念ながら、そこに理屈やら理由なんかはない。ただ自分が感じたままに、今までの経験でこの世界を感じたままに返答した。ゲームの時は亜人や人もモンスターも皆機械的で、その行動や思考が決まったものだったかもしれないけど今は違う。今までに出会ってきたNPCたちは皆考えて悩んで葛藤していた。そこには俺にある心みたいなものがあって、心があるならお互いを好きになれる亜人や人がいてもおかしくはない。
そして、アスランはそんな俺の目をじっと見つめ返し、しばらくしてからふっと安心したように笑った。
「私もそう思います」
俺と同様、アスランもそうはっきりと答えた。それに、その言葉には何故か信用が持てた。彼から理由を聞かずとも、その答えには揺るがない何かを感じ、それが信用に繋がっていた。
だがしかし、そんな中、部屋の外が何かざわざわと騒がしい。
何か既視感を感じ、嫌な汗が出る。前にもこんなことがあったような・・・。
「おーい!ボウズ!飯無くなるぞー!」
「アーサ君、何かありましたか?ご飯持ってきましょうか?」
「アーサ、どうしたんですぞ?今日は美味しい美味しい牛肉ですぞ、ステーキですぞ!リアルで貧しい我々には味わえない高級品ですぞ!!」
予想的中。うるさい声と共に、俺の部屋へとガラハド、シゲルさん、マサムネが乱入してきた。
そんな彼らが騒ぎ立てる前に、レイの後ろにさっと隠れたミーシャさんを庇いつつも、再び経緯を簡略化して説明する。
斯く斯く然然。
何やら納得するガラハド。
何やら考えているシゲルさん。
「生エルフ萌えー!」とのたうち回るマサムネ。
だがとりあえず、一人の萌え豚を除いて何とか今の状況を理解してもらえた様子であった。
「そうか。うん、良いんじゃないか?結婚すれば」
しかし、一方でガラハドはあっさりと答えを告げた。加えて、狼狽する俺とミーシャさんをニヤリと見つめて呑気なことを言う。
「だってボウズは独身だろ、てか童貞だろ、なら良いんじゃないか?」
「そう言う問題か?」
どう見てもガラハドはこの状況を楽しんでいる。それが顔にハッキリと出ている。戦闘以外では全く頼りにならない男だ。
「どうせ好きな人もいないんだろ?」
「まぁ・・・、いないですけど」
「え!?」
だが、その俺の答えに意外にも、真っ先に反応を示したのはレイだった。
何だ、何だ?こいつまで俺をからかう気か?
「・・・な、何だよ」
「べ、別に・・・、ただ寂しい奴だなって思っただけだ!」
「あらら?へー・・・、レイちゃんってもしかして、ふーん、ボウズのことを、ふーん」
「な、何だよ!?うるさいな!違うからな!!」
ガラハドの顔がドンドンにやけていく。それに応じてレイの顔はドンドン赤くなっていく。いつの間にやら仲良くなった2人を見て一安心する。どうやら、レイも俺たち以外の人にも心を開き始めたのだとしみじみ感動した。
だが、今はそれどころではない。
「なるほど、そうですね、いいのではないでしょうか」
すると今度は先程から一人悩んでいたシゲルさんが久々に口を開いた。
「だからまた!!シゲルさんまでそんな無責任なことを言わないでくださいよ」
そんな困惑する俺を「まぁまぁ」と言い宥めながら、シゲルさんに肩を押されながら一緒にミーシャさんのそばへと連れて行かれた。
「でも、突然の結婚というのも色々とありますし、ここは一旦“仮”ということで」
「仮ぃ!?」
「アーサ君が目的を果たすまでは、“仮”婚約者ということで、いかがです?」
何も知らないままにコクコクとミーシャさんは頷いている。
「まぁ・・・、ミーシャさんがそれでいいなら」
その言葉にミーシャさんの顔がパッと明るくなる。でも、本当に俺でいいのだろうか?それともやっぱり新手の詐欺か何かか?
とりあえず、ぐいぐいとミーシャさんから指輪を渡されるので、その指輪を右手の指に装着して何となくではあるが受け取った。
「となるとですね・・・」
すると、シゲルさんの目が怪しく光り出す。あぁ、これは何か企んでいる悪い顔である。
「ミーシャさん、貴方の仮婚約者であるところのアーサ君は、実はこの国の亜人たちを自由にするための戦いにこれから身を投じなければなりません」
そのシゲルさんの言葉に驚くミーシャさん。そう言えばそんな話もありました。
「でも、悲しいことにアーサ君にはまだ味方が少ないのです」
今度は心配そうな顔になるミーシャさん。なんとなく落ちが読めてきた。
「心配ですか?そうですね、心配ですよね。なら一緒に戦ってくれませんか?1人よりも2人、2人よりも3人。味方は多いに越したことはありません。どうか、我々、いえアーサ君にエルフの力を貸してください」
最後には強く頷くミーシャさん。まんまとシゲルさんに乗せられている。
「良かった。それでは、エルフの集落の人たちにお声掛けなどを何卒よろしくお願いします」
最後にはフンスと鼻息を鳴らし、「任せてください」と言いたげに胸をぽんと叩くミーシャさん。これでは、このちょい悪おやじシゲルさんの思惑通りである。
とはいえ、エルフの力を借りられるのは正直な話心強い。
エルフはオークのような強靭な肉体は持ち合わせないが、それを上回る知識と技術を持っている種族である。薬草の調合から、毒物に至るまで、様々なものを調合できる知識があり、噂によると、精霊との交信もでき、その精霊の力を借りて薬の効能を高めるとも聞いたことがある。
また、弓に関する技術も他の亜人よりも秀でているそうで、エルフの作った弓は何度使っても弦は緩まず、ちょっとやそっとでは壊れることはないらしい。それに、例え夜であったとしても遠く離れた獲物を一撃で射貫く腕を持っていると聞く。
「ミーシャさん、どうもありがとうございます。何かと大変だとは思いますが、これからよろしく」
とりあえず、ミーシャさんの手を握り素直にお礼を言った。ミーシャさんも顔を赤らめてはいたが、嬉しそうに強く頷いてくれた。
「さて残る問題は、権力ですね」
シゲルさんがニヤリと笑ったように見えたが、いつも通りの顔にも見えた。
「最大の難点はそこですよね」
ミーシャさんのおかげでエルフの力を借りることができる。ということは、俺たちには、オークの力とエルフの力、そして冒険者の力が揃ったわけであるが、それでも最後の決め手である“権力”が足りない。
「まぁ、無いもの仕方ない。無いなら無いなりの戦法があるさ!」
しかし、そんな不安をガラハドは笑い飛ばした。
確かにガラハドの言う通りでもあり、無いものをいつまでも待っている余裕は俺たちにはない。いつ何時俺たちの所業が頭に来た「カゴシマ」国の王が俺たちの下へと刺客を送り込んで来るとも分からない現状。早めにこちらから手段を講じなければ、後手に回ってばかりでは成すことも成せなくなる。
「・・・あの」
すると、そんな中、突然黙っていたアスランが声を上げた。
その場にいた一同がアスランを見つめると、アスランはまたあの眼、先ほどの奥に熱意を感じる澄んだ瞳をしてそこに立っていた。
「私もその戦いに参加させていただけないでしょうか?」
突然のその申し出に少し驚いたが、アスランも俺たちのやり取りを受けて、やる気になってくれたのだろうか。無論、断る理由はない。
「あ!そうか!アスランは領主だから貴族の出世だろ!そしたら権力を持った知り合いが多いかも!」
ピンッと名案を思いついたつもりだったが、残念ながらアスランは静かに首を横に振った。
「そうか・・・、それは残念だな」
少し見えたかと思った光明はまたしても見えなくなってしまった。やはり、権力というのはそこら辺に簡単に転がっているものでもなさそうだ。
だが、アスランは首を横に振った後に、背筋を凛と伸ばし、胸に手を当て、声を張って言い放つ。
「私は、『カゴシマ』国第8代国王アジュラの息子アスラン!元王子の名を持って、亜人を解放するこの戦いに参加させていただきたい!!」
「「「元王子っ!?」」」
アスランが堂々と、そして高々に言い放った言葉に驚き慄き俺たち冒険者一同はこの宿場が揺れる程の声を上げた。しかし、それは煌々と輝く一本の大きな光明が迷える冒険者たちを照らし、また俺たちが歩むべき道を指し示した瞬間でもあったのだ。
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