第26話 冒険者は俺たちが始末してやるよ
「これは一体どういうことだッ!!」
「カゴシマ」国の都市バルバラにて、その亜人の血と涙の上に成り立つ都市の中央に絶大な権力を誇るかのようにそびえ立つ王宮内で、ミスラ王は怒鳴り声を上げながら武装した8人の兵士を連れてドカドカと冒険者たちのいる客室へと入り込んだ。
その中ではミスラ王が“殺し屋”として雇っている冒険者ユウマ、コジロウ、アラフィネの3人がだらだらと豪華な家具に囲まれてくつろいでいた。この国の王であるミスラ王が、しかももの凄い剣幕で来たにも関わらずに、3人の内誰一人として礼儀を尽くすどころか立ち上がる様子も見せない。
「あらら王様、おこだよー」
「ユウマ、お前行けよ」
「お前が行け、コジロウ!いつも何もしないで」
「あぁッ!アラフィネもそうだろが!獣人連れていつも遊んでるだけじゃん」
「うわぁ、酷い!私はコジロウちゃんみたいに殺して遊んでるわけじゃないもん。皆と仲良くしてるだけだもん」
などなど、ミスラ王に対して誰一人として向き合わない冒険者に対して、ミスラ王は近くにあった高級そうな花瓶を叩き落して、限界をとっくに通り越した怒りに任せて怒鳴りつける。
「貴様らッ!いい加減にしろ!お前たちは与えられた仕事をこなさなかったな!!」
そのミスラ王の言葉に、うるさそうな顔をしてやっとユウマが気だるげに答える。
「いやいや任務はやってるでしょ?あんたらができない、殺しをさ。俺たちが亜人や人間、おまけにプレイヤーを何人殺してきたと思ってんの?」
緊張感もなければ敬意もないその返しに、ミスラ王はさらに強く声を上げる。
「ならどうしてあの小僧が生きておる!しかも、あろうことか各地で亜人どもを解放して回っているとも聞く!!お前は確かにあの時あいつを始末したと答えたな!!」
「あいつ?」
ミスラ王が激昂している理由が分からないのか、それとも数多の者を殺し過ぎたせいか、ユウマにはミスラ王の言う“小僧”の意味が分かっていない様子であった。その姿に一層の怒りを覚えたミスラ王であるが、握り拳を振るわせながらユウマに話す。
「アスランのことだ!あの忌まわしき小僧とその取り巻きの近衛兵ども処分しろと言ったはずだ!!しかも、その後に貴様らは無事に始末したと報告したであろう!!忘れたか!!」
「あー、はいはい。あの人ね、殺しましたよ、な?」
「うんうん、殺したよ」
「あー、殺した殺した」
うわ言の様にそう答え、くすくすと笑う冒険者3人にもう我慢できなくなり、ミスラ王は兵士へと指示を出すと武装した8人の兵士たちは王の前に整列し武器を構える。
「貴様らが役目を果たさない以上、ここに置いておく必要はない!!その体を切り刻んで亜人の餌にでもしてやる!!」
ミスラ王の言葉に合わせて、兵士たちは武器を冒険者たちに向ける。しかし、彼らの姿に特に驚く様子も怯える様子もないユウマはただ目を鋭く細め、その口をゆっくりと開く。
「別にいいけどさ。先に餌になるのは多分あんたたちだけど、いいの?」
「ぐっ!?」
先程まで家畜の豚のようにのんびりとしていた冒険者たちからは、急に獲物を前にした野生の獣のような殺気が漂う。その言い知れぬ圧を放つ姿にたじろぎながらも王の命令を待つ兵士たちであるが、その後方でミスラ王は苦い顔をしていた。
そして王は、とある夜のことを思い出す。
あの日、いつもは何を話さずに動揺も見せたことのない“不死の”冒険者たちが、都市バルバラ内において次々と慌てふためき始めた。そして、今まで問題を起こしたことのなかった冒険者たちが急に人を襲い物を奪い始め、都市全体がその様子に混乱した。手練れの兵士を何人か送りその事態を制圧しようとしたが、彼らよりも手練れな冒険者には歯が立たずに問題は一向に解決しなかった。
そんな中、現れたのがこの目の前にいる3人の冒険者である。
突然現れた彼らは、彼らと同じ冒険者たちの暴動を抑える見返りに王宮での贅沢な暮らしを要求してきた。ミスラ王は冒険者たちの暴徒化に成す術がなかったので、半信半疑でこの3人の冒険者たちの要求を飲むと、彼らは一夜にして、都市にいた全ての冒険者たちを次々と殺していき、夜が明ける頃には事態は収拾していた。
約束通りこの3人が王宮に住み始めたその後も、幾度となく暗殺の依頼を任せては彼らは嬉々としてその依頼を受け成し遂げた。それで王宮に特別な部屋を与え、高級な食事を与え、あまつさえ貴重な亜人の奴隷までも与えてきた。奴隷使いが荒く次々と奴隷を壊していったが、こちらの依頼は確実にこなしてきたので、大目に見ていた。
だがしかし、折角あのアスランを殺せる機会がやっと訪れたというのに、この3人は失敗した。失敗しただけでなく、嘘の報告をしアスランの死を偽った。これも神の悪戯なのか、最終にして最大の問題点であるところのアスランがまだ生きている。
だが、それが問題なのである。
そして、今となってはアスランを殺せる腕のある駒は少ない。今その駒を失うのはこちらに不利である。
ミスラ王は一人そう落ち着いて考えると、次第に冷静さを取り戻していった。
「・・・武器を下せ」
そのミスラ王の言葉に驚いたのか、それとも安心したのか、兵士たちは次々に武器を収めた。また、その様子にユウマたちも右手の
「お前たちの仕事はまだ終わっていない、お前たちが殺したと思っていたアスランはまだ生きておる。此度の戦いに参加して、戦果を挙げよ。アスランが死ねば、今回のことは不問とする」
ミスラ王は睨むように冒険者たちを見つめるとそれだけを告げた。
「まぁ、今度こそしっかりと息の根を止めてやるよ」
ユウマがそう軽く答えると、ミスラ王は怪訝そうな顔をした後に思い出したかのように言葉を付け加えた。
「あぁ、それとアスランのそばにはお前たちと同じ冒険者もいるとの情報もある。精々用心するのだな」
ミスラ王は今回は油断できないぞと脅すつもりで言ったが、その言葉にユウマたちは不気味なでも嬉しそうな笑顔でニヤリと笑っている。
「わぁー!久々のプレイヤー相手じゃん、たぎるー!!」
「おい!女がいたら俺に回せよ!」
「そうか、あのクソ野郎がいるのか・・・」
それぞれ反応は色々であったが、各々やる気は十分の様である。
「冒険者は俺たちが始末してやるよ。だから下手に手を出すなって兵士たちに伝えとけ」
急にやる気を見せたユウマはミスラ王にそう言い放った。普段なら王に対するその口の利き方を忠告するところであるが、3人の冒険者たちの滾った獣のような目に圧倒されてミスラ王は「あぁ」としか言えなかった。何人の人を殺したらあんな目になるのかと恐れつつも、ミスラ王と兵士は冒険者たちの客室から退出していった。
だが、ミスラ王は退出すると客室の前で念のためにと待機していた部下の1人に命令する。
「アスランとの戦いに乗じてあの冒険者どもを討つように兵に伝えておけ。この戦いが終わればあいつらには価値はない」
「かしこまりました」
「あと、亜人部隊の調整を急げ」
「・・・ですが、亜人部隊はまだ実戦で使えるかどうか。それに数にも限りがありますし、今後の「フクオカ」国との戦いに影響があるかと・・・」
「構わん!エルフ共に薬の開発を急がせろ」
「か、かしこまりました」
部下は深々と頭を下げると、その場をすぐに去っていった。
「何をしておるかッ!!お前たちも戦の支度を急げ!」
「は、はッ!!」
ミスラ王がまだ自分の周りにいた兵士たちに怒鳴ると、兵士たちは敬礼をした後に慌てて各自散らばった。そして、その日から王宮と都市は次第に騒がしさを増していき、刻一刻と戦いの日が近づいている様子を見せていた。
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