第16話 『カゴシマ』国と戦争をすることに決めました!

「というわけで、俺たちここにいるプレイヤー一同はオークや他の亜人たちと結託して『カゴシマ』国と戦争をすることに決めました!」


 あの領主による不意打ちの一件のすぐ後、館の大広間にプレイヤーたちを集めて俺とガラハド、シゲルさん、そしてガルを始めとするオークの戦士たちが横にずらりと並び、そこに集まったプレイヤーたちに向けて高々とその経緯を語った。


 語ったわけだが・・・。


 その話を聞いたプレイヤーたちの半数は意識が飛びかけ、残りの数人は狼狽え、1人は爆笑し、最後の1人に至っては俺の首を締め上げてきた。


「何が、『というわけで』だ!!お前は!馬鹿かッ!?前々から馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが!こ・ん・か・い・は!本当に馬鹿だッ!!」


「ぐ、ぐるじい!?レイ、洒落にならない!死んじゃうから!?」


「もう、いっそのこと死ねばいい!!いや、死ねッ!!」


 凄まじい勢いで俺の首を締め上げるレイ。マジで死ぬ5秒前!?


「それに『鍵』はどうするんだ!阿呆な計画で国を盗っても肝心な『鍵』は見つからないだろうが!目的を間違えるな!!」


 そう言いつつも、身動きが取れない俺に対して今度は容赦のない連撃が加えられる。レイは少々気が荒くなりやすい、そこは彼女の欠点である。などとは口には出せないので、彼女の連撃に黙って耐えるが、そろそろ限界です!?


 誰もがレイの剣幕におびえる中、だが1人の男は口を開いた。


「あー、その『鍵』について何だが・・・。実は今回の国盗りと関係してないわけでもないんだな、これが」


 突然のガラハドの放ったその言葉に手と足を止めるレイ。何がともあれ、俺の命は助かった。だが、彼女は一向に手を離してはくれない。


「・・・なんで、あんたがそんなことを知っている」


 だが、そんなガラハドに対してレイはヒヤリと冷たい視線で質問をした。そして、ガラハドはそのレイの冷ややかな視線に対し、ほんわかと温かい笑顔を見せて言った。


「だって、俺、『アヴァロン』の制作関係者だもん」


「だもんって・・・」


「「「えええええぇぇぇ!!?」」」


 まさかのその事実に、俺を始めとするその場にいたプレイヤーたちが絶叫した。


 確かに、制作関係者が自分の制作したゲームをやっていてもおかしくはないが、その関係者が目の前にいるという事実が驚きであった。というか、このおやじ本当に一体何者なんだ!?


「と言っても、テストプレイヤーの1人だけどな」


 そんな驚く俺たちの一方で、ガラハドはそう付け足した。


「だとしても、なんでそのテストプレイヤーごときが『鍵』について知っている」


 それもなお食い掛るようにレイは尋ねるが、確かにそんな彼女の疑問は間違ってはいない。


 ガラハドがテストプレイヤーであったとしても、まだこの世界がただのゲームであった頃は『鍵』なんてイベントやアイテム、システムなどは存在しなかった。その『鍵』という存在自体、俺たちがゲームの世界に閉じ込められてから明らかになった存在である。


 では、何故ガラハドはその『鍵』に関する事実を知っていたのだろうか。


「俺は制作陣のメインの1人に聞いたのさ。俺もその時は『鍵』は今後実装されるイベントアイテムか何かかと思っていたが、いやいやまさかこんなことに使われるなんてねぇ・・・」


 皆が注目する中、参った参ったとでも言いたげにガラハドは小さく両手を上げ、首を左右に振った。


「それで、『鍵』と国盗りの関係は?」


 思わず勝手に口が開いてしまい、『鍵』に関する話を元に戻してしまった。だが、他のプレイヤー全員も同じ気持ちの様で、皆がガラハドに注目しその解答に期待した眼差しを向け耳を傾ける。


「あぁ、俺が聞かされた話だと、『鍵』はどうやらこの『アヴァロン』にある8か国の王が持つ一種の王の証『王具』のことらしい。つまりは、『鍵』っていうのはダンジョン奥底の宝箱やどこかの街の家の中にあるタンスの中にあるものではなく、8人の国王がそれぞれ所有しているものなんだと」


「ということは」


 ガラハドが今話したことを基に考える。


 つまり『鍵』はそこら辺に落ちているものではなく、この『アヴァロン』に存在する8カ国それぞれの王様が持っている別名『王具』と言う物らしい。そして、俺たちは元の世界に帰るor好きな世界を手に入れるため、その『王具』つまりは『鍵』を集めようとしている。となれば、それらを集めるためには各国の王様から貰わなければならない。だが、そんな王の証である『王具』を王様たちが易々と見ず知らずの冒険者に渡すわけはない。


 ということは、考えられる答えは一つしかない。


「国を盗り、『王具』を奪う・・・」


 その一つの答えに辿り着き、ようやく国盗りと『鍵』集めが合致した。


「そうだ。おそらくそれがこの”『鍵』争奪戦”の近道だろうな。まぁ、俺自身もまさかこんな風にはなるとは思わなかったが、亜人との協力関係になって国を奪うっていうのも悪くないかもしれないって納得したわけよ」


 俺とガルのひょんな話の中から生まれた『国盗り』に対してガラハドがやけに積極的であったのは、彼自身『鍵』の秘密と存在を知っていたからだったのかもしれない。


「ん?ちょっと待てよ・・・。確かに例の手紙によれば『鍵』は8本あるらしいが、でも国自体は『アヴァロン』に8カ国以上あるぞ?何かおかしくないか?」


 ガラハドの話をもう一度思い出し、とある疑問点を発見した。


 『アヴァロン』は「ホッカイ」、「トウホク」、「カントウ」、「チュウブ」、「カンサイ」、「チュウゴク」、「シコク」、そして俺たちのいる「キュウシュウ」の地域にそれぞれが分かれているが、そこには国が多数存在し、余裕で8カ国など超えている。となれば、その内のどこかランダムの国に8本の『鍵』があるということになってしまう。


「ん~、そこまで詳しくは分からないからな。俺が知っているのは、俺たちの言う所の『鍵』は、NPCからすれば『王具』って代物だっていうだけで、それ以上はなんとも」


「じゃあ、虱潰しに探していくしかないのか?」


「まぁ、現状はそうだな」


「うへぇ・・・」


 ということは、この国盗りはどうやら「カゴシマ」国だけでは収まらず、そこからが本格的な始まりということになりそうだ。この「カゴシマ」国を起点にして、次々に他国を攻め落とし、最後の最後に8本が揃うといった様子だ。


 まさに全国統一。でも、だとすれば『鍵』をすべて手に入れた時にはこの『アヴァロン』の支配者にもなっているわけだ。だが、それも悪くない。まるで戦国時代の様で少しワクワクとする。


「・・・何がともあれ、現状として我々が取る手段は限られています。全国を行脚して『鍵』を集めるにしても、この『カゴシマ』国との件は解決せざるを得ないでしょう」


 そう言って最後に話をまとめたのはシゲルさんである。だが、彼の言う通り領主の悪巧みに嵌まらなかった以上、この国に俺たちの安住の地はない。また、この国からこの数のプレイヤーが逃げ出す余地もなく、それに関わってしまった以上ガルたちも放ってはおけない。


 だとすれば、もはや戦うのみである。戦って、国を盗って、『鍵』に関する話はそれからだ。


 そうして話が一段落つくと、ガラハドは話を真剣に聞いていた他のプレイヤーたちの元へゆっくりと歩み寄る。


「とまぁ、色々と話してきたわけだが、ここからは本当に命の危険が伴う戦いになるだろう。それこそ今回の規模の戦いが何十回と繰り返されることが容易に予測される。だからこそ、よく考えて決断してくれ。俺たちは無理強いはしない、もし戦いたくない奴がいれば勿論その意思を尊重する。オークたちの傷の回復を待つ必要もあるから、そうだな・・・、一週間後!それまで時間を設けるから、これからの戦いについていく覚悟がある奴はそれまでに教えてほしい」


 そして、最後に発せられたガラハドの言葉がここにいるプレイヤーたちの心に突き刺さる。


 やっとの思いで戦いが終わり、せっかく命拾いをしたのだ。これ以上自分から死にに行くようなことをする必要はないだろう。


 元々は『鍵』を集めたいとすら思ってもいなかった。

 何も自分たちが動かなくとも誰かが『鍵』を集める。

 それを待つのもいいかもしれない。

 いや、そうすべきなのである。

 無駄に足を引っ張るわけにはいかない。

 なら静かに事の次第を見守るのも悪くない。


 プレイヤーたちの顔にそんな焦りと困惑の表情が次第に浮かび上がるのが傍から見ていてよく分かった。


「とりあえず、今日は一旦解散しましょう!皆さん戦い続きで疲れたでしょう、ゆっくり休んで、ゆっくり考えればいいんですよ。私もガラハド君も相談に乗りますから、遠慮なく話してください」


 皆が不安に押しつぶされそうになっている空気を察したのか、シゲルさんが手を叩きながらそう提案した。


 だが確かに、疲れた頭では冷静な判断はできない。


 ならここで今一度考えをまとめる必要がある。


 『鍵』のために戦うのか、命のためにここに残るのか、しかしどちらにせよ勇気のいる選択である。


 結局、その後、オークたちは人がいなくなったこの領主の館に居残ることになり、ビッカラさんをはじめとする義賊の皆さんは各々の住む場所に一旦帰っていった。そして、我々プレイヤー一同はママチカさんの宿場に戻り、暖かい食事とパヤワちゃんの笑顔に癒された。


 また、あの話し合いの後すぐに領主を街中探したがその姿を見つけることはできなかった。とあるNPCの話によると、馬に乗って数人が街から逃げ出していくのを見たと言う。もしかすると領主は数人の部下を連れて逃げ出したのかもしれない。しかし、直ぐに追うこともできないので、領主の件は一旦保留することとなった。


 こうして、長かった一日が終わりを迎えた。


 生き延びた俺たちは疲れたその体をベッドに沈ませ、深い眠りに落ちていった。

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