第13話 我らの死闘ここにあり 後編

 オーク撃退戦前日の昼過ぎのこと。


 俺たちプレイヤー一同はというと、今回の戦いの”秘密兵器”の仕掛けを作るために、シゲルさんとガラハドに呼ばれ、当日『センター』が実際に配置される場所まで来ていた。


 各々が手にスコップや鍬を持ち、パッと見ではこれからここに畑でも作るかのような風貌でもある。


 この”秘密兵器”の使用に関しては幾つかの段取りがあった。


 シゲルさんの説明だとこうである。


「初めに、『ライン』の皆さんは何があってもすぐにオークとの戦闘は行わないでください。ぶっちゃけると


 この言葉には、ガラハドを除いた『ライン』の全員があっと驚いた。


 『ライン』を指名されたあの日から、オークと真っ先に戦って、下手したら死ぬかもしれないと思っていた俺たちにとって、それは嬉しくも驚きの指示であった。


「最初にガラハド君が単身でオークたちに説得を試みます。もし、その説得が上手くいかなかった場合ガラハド君が撤退の指示を出すので、全員武器や防具をその場に捨てて『センター』の位置まで退却してください。できる限り慌てて、命からがらといった感じでお願いします」


 つまり、最初に武器や防具を大げさに身に着けてオークを待ち構えるのは、俺たちが戦うように見せかけるためである。そして、その装備を捨てて逃げることで、相手にこちらが逃げ出したという勘違いをさせるそうだ。また、そうすることで、オークたちは勢いを増して俺たちを追走してくると予測され、『センター』の位置に来るまでには、急にその勢いを止めることはできなくなっているだろう。


「そして、ここからが”秘密兵器”の出番です。『ライン』が『センター』の位置まで後退したら、準備していた『センター』全員でこの”秘密兵器”の縄を引き、”秘密兵器”を作動させ、追ってきたオークを返り討ちにします」


 その”秘密兵器”というのは、木と木を繋ぎ合わせて作った”木の柵”である。


 まず、大きな木の杭を数本用意し、それらを木と縄で固定して先の尖った大きな木の柵を作る。シゲルさん曰く、こういう柵は「馬房柵」というらしく、本来は騎馬の突撃を止めるためにある物らしい。


 勿論、今回は相手は騎馬ではなく、オークである。なので、このまま使うわけではない。


 次に、それらを土に埋め、木の柵に括り付けた縄だけを地面から出して置く。最後に、オークたちが突進してきたら縄を引っ張って木の柵を掘り起こし、するとオークたちは自らその柵に突き刺さる。


 という手順の”秘密兵器”であった。


 しかも、この”秘密兵器”には続きがあった。


 それは”油”である。


 あらかじめ木の柵に油を塗っておき、火を着けやすくする。さらに、『ライン』と『センター』のメンバーで油の入った壺をありったけ投げつけ、オークにも火が引火しやすくするとともに、火矢があたる箇所を増やすことで引火する可能性を上げる作戦である。


 ガラハド曰く「火は最強の戦法だ。火を制する者は戦を制す。それに、オーク全滅とまではいかなくても、手負いになればそれだけ戦いやすくもなるだろう」だそうだ。

 

 前衛職への負担を最小限にまで減らすための作戦でもあるようで、それを聞いて皆一安心した。


 無論、必ず成功するわけではないが、以上が対オーク戦用の”秘密兵器”の使用に関する流れであった。


 しかし、そこには1つ難点、というか一苦労ある気がした。


「何となく分かったけど、今からそれを作るにしては時間がかかりすぎるんじゃないか?」


 その俺の質問に周りのプレイヤーたちも同意し、頷いた。


 当たり前であるが、この”秘密兵器”作成以外にもオーク戦闘用の訓練、それに諸々の準備があり、今いるプレイヤーの数では到底間に合わせるのは無理だった。たった一日で作業を終わらせるには、もっと倍の人数が必要であった。


「焦るな焦るな、誰もお前たちだけとは言ってないだろう」


 そんな俺の質問に対し、ガラハドはニヤリと笑って答えた。


「ほれ」


 そして、俺たちの後方を指差した。


 そこには、先の尖った丸太を運ぶ人や木の棒や縄などを背負った人たちがぞろぞろと街の方から歩いてきているではないか。


「おーい、冒険者さーん」


 その彼らはシルヴァリアのNPCであった。彼らが”秘密兵器”制作に手を貸してくれると言う。


「ど、どうして?」


 当然の如く、俺たちがあっけに取られていると、ぞろぞろとNPCの男衆が近づいてきた。


「いやー、俺たちは当日戦えないからさ、でもせめて何かお手伝いできればと思って」


「それに冒険者さんたちが木材やらをいっぱい切ってくれたおかげで、仕事がなくて、退屈してたんだわー」


「木の加工なら任せてください!こう見えても長年木を加工してますから!この点なら冒険者さんたちにも負けないですよ!」


 そのNPCたちの言葉にハッと気が付いた。そういえば、少し前に必死になって木材やら石を集めさせられたことがあった。それもこの日のための作業だったのかもしれない。


「”情けは人の為ならず”ってな」


 そう言うとガラハドは俺の頭を少し叩き、”秘密兵器”制作の指示を取り始める。


「この・・・髭おやじめ」


 そんな抜かりないガラハドに続き、少し遅れて俺たちもNPCたちと一緒になって”秘密兵器”の制作に取り組み始めた。


 プレイヤーたちもNPCたちも考えることは1つ。


 オークからこの街を守って、絶対に生き残る!


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 そして、”秘密兵器”が炸裂した今、オークの半数以上がまんまと策にはまり、もだえ苦しんでいる光景が俺たちの目の前に広がっている。


「いいかッ!ここからが本番だ!『ライン』は気を引き締めていくぞ!!!」


「「「応ッ!!」」」


 だが、目の前の光景に圧倒されている場合ではない。


 ガラハドの言う通り、オークたちが全滅したわけではない。この策で相手が退かない場合は、いよいよ近接戦の始まりである。


「我らの死闘ここにあり!!各自、抜剣ッ!!」


 ガラハドの合図に合わせて、再び防具を装備した俺たちは全員SCシステム・クリスタルからベッキーたちが用意してくれた剣や盾、槍などを取り出し、身構える。


 できることならオークたちには退いて欲しいが・・・。


 しかし、そんな願いとは裏腹に火の海から突然一体のオークが飛び出してきた。そいつは、赤い布を付けたあの隊長オークである。それに続いて、他にも3体のオークが飛び出してきた。だが、どうやらまだ動けるオークはこの4体だけのようだ。


 しかもそのオークたちも万全というわけでもない様で、多少なりともその顔に動揺や疲れが見て取れる。


 だが運悪いことに、一番に強そうな隊長オークは俺とマサムネ、リッキーの3名の左側面組の目の前に立ちはだかった。


 吐きそうな程に緊張するが、汗で濡れる手でグッと身構え、練習通りに隊長オークの動きだけを注視する。


 多少は”秘密兵器”が効いたのか、奴の息は荒く、動きも鈍い。勝ち目がないわけではない。


「練習通りにいけよッ!」


 そんなガラハドの声に合わせて、隊長オークは俺たち目掛けて力任せに突っ込んでくる。最初の狙いはマサムネ。残念だが、オークのような見た目をしていても本物の眼は騙せなかったようだ。


「マサムネ!!」


「了解ですぞ!!」


 心配することなくマサムネは訓練で教わった通りに隊長オークのその大振りな攻撃を受けずに避け、相手の隙を作り出す。


 一方で俺とリッキーはというと、隊長オークの斜め後方にじりじりと位置取り、狙える隙を伺う。


 そして、マサムネに対する何度目かの大振りな上段からの攻撃の後、相手の大斧が地面に刺さると同時に、地を蹴り、隊長オークへと一気に間合いを詰め、剣を横に薙ぎ払う。


「でぇやぁぁぁッ!!!」


 ザンと横に斬りつけたが、少し躊躇って距離を開きすぎたせいか、与えた傷は浅かった。でも、確実に隊長オークへと一撃を決めた。


「アーサ君!次が来るよ!」


 その一撃が頭にきたのか、今度は退いた俺目掛けて隊長オークはその大斧を振り上げて、下す。


 しかし、隊長オークが大斧を上にあげた時点で横に大きく避けた俺には、その一撃はかすりもしなかった。


「余裕!余裕!!ありがとう、リッキー!!」


 内心は全然余裕ではなかったが、リッキーやマサムネ、そして自分を鼓舞するためにも、ここは強気でいかないといけない。


 そして、俺が作り出した隊長オークの隙に今度はリッキーが剣を刺し、マサムネが隊長オークの足を大きく切り裂いた。


「グゥアァァッ!!?」


 隊長オークはそう低く唸ると、大斧を引きずりながらも警戒して俺たちと間合いをとった。


 よし!戦えている、俺たちはあのオークと戦えている!


 ちらりと他所を見ると、他の組もかなり善戦している。


 やはり”秘密兵器”が効いているのか、どのオークも動きが鈍く、少しずつではあるがプレイヤー側が押している。


 フィーの加勢が入った右側面組もかなり奮闘している。というより、かなり一方的にフィーがオークを攻め立てている。


「ほらほら!オークさん、こちらですよっと!!」


 フィーがちょこまかとオークの敵視を引き受け、その間に他2人が的確にオークへと一撃、また一撃と決めている。しかも、オークの注意がフィーから離れようものなら、彼女の高速の槍がオークを突き立てる。


 この連鎖を止めるにはフィーを抑えるしかないが、ひらりひらりと避けるフィーの動きをオークの強力ながらも鈍重な攻撃では抑えることはできない。


 だが、さらに中央組は恐ろしいことに、ガラハド1人で2体のオークを相手していた。


 勿論、『カバー』からの矢の攻撃を中央に寄せている分もあるが、ガラハドはオークたちに負けず劣らずに善戦していた。


「おいおい、こんな程度かよ!オークどもッ!!」


 躱すフィーと対照的に、ガラハドはオークの一撃一撃を盾で捉えていた。


 しかし、ガラハドは無暗にオークの攻撃を盾で受けるのではなく、時に弾き、時に流し、時に押し返している。それは長年の経験から成せる業なのだろうが、その戦う姿からはさすがの「最強ギルド」の一員と言わしめる程の闘気があふれている。


 そんな俺たちのさらに後方には、もしもオークたちが抜けて街に近づいてもいいように、『センター』全員が大盾と槍を構えて”壁”を形成している。


 後ろに逃げれば炎に焼かれ、横に逃げれば矢に狙い撃ち、前に逃げても壁に阻まれる。


 シゲルさんの発案した、オークを囲む包囲網が完成しつつある。


 しかし、その時、俺たちと対峙していた隊長オークは一瞬の隙をついて『センター』のプレイヤーたちが作る壁へと走り出した。


「くそッ!?マズい!!?」


 壁と言っても所詮はただのプレイヤーたちの集まり。下手したらオークの1、2撃で破られる可能性もあるし、何よりもこのままでは『センター』のプレイヤーの命が危うい。


「き、来たぞぉーーーー!!?」


 ガラハドの事前の指示通りに、隊長オークが突進してくる方に向け、『センター』に位置するプレイヤーたちは横に密着して隙間をできる限り減らし、大盾を必死に構えてその隙間から槍を突き出している。


「くっ!!追うぞッ!!!」


「「了解!!」」


 逃げた隊長オークを追う俺とマサムネとリッキー、初期位置から一番に近かったのはリッキーであったが、今のままでは彼も隊長オークの『センター』到着までには間に合わない。


 そうリッキーも考えたのか、彼は盾を捨て、速度をぐんと上げる。もしかしたら隊長オークの背中に一撃くらいなら入れられると信じて。


 だが、その姿を隊長オークは見逃してはいなかった。


 突如、隊長オークは足を地面に叩きつけ、強引にぐるりとその場で回転すると、リッキー目掛けて手にした大斧を大きく横へと薙ぎ払った。


「ぐぅっっっがぁぁぁぁ!!?」


 リッキーは咄嗟に剣の腹でその一撃を受けた。受けたが、隊長オークの勢いは少しも殺せずに、そのまま剣と一緒に横に大きく弾き飛ばされる。


「リッキィィーーーッ!!」


 名を叫びつつも弾き飛ばされたリッキーの元へ急ぐ。だが、止めを刺すためにか、隊長オークも彼へと一歩一歩と近づいてる。


 動かないリッキー、大斧を振り上げる隊長オーク。


 そして、オークの渾身の力を込めた一撃が振り下ろされる。


 響くは、鉄が肉を切り裂き、骨を断つ音。


 なわけがない!!!


 鉄と鉄とがぶつかり合う、俺の盾と隊長オークの大斧がぶつかり合う激しい音だ。


「ぐぅごぉががががぁッ!!!!!」


 もう何を言っているかなんて自分でも理解できなかったが、隊長オークとリッキーの間に入って、全身に力を込め両手で盾を支えながらも、その一撃になんとか耐えてみせた。


 恐ろしく馬鹿げた戦法ではあったが、だが体が勝手に動いてしまったのだから仕方ない。ここでリッキーを肉片にすることなど、今の俺には我慢ならない。彼の無駄しかないおしゃべりを聞くためにも、この一戦退くわけにはいかない。


 しかし、そんな俺の気持ちに反して、メキメキと激しく軋む骨、ぶるぶると震える筋肉、ギチギチと千切れそうになる血管。


 このくそが!!一体どんだけの筋肉があるんだよ!!!


 正直5秒と持たない。というか、持つわけがない!


 初手でこんな一撃を止めたのかと思うと、やはりガラハドをすごいやつなのだと感心する。


 しかし、などと考えていると、ふっと隊長オークの張り下ろす力が緩んだ。


「何だぁ・・・!もう、終わりかッ!!!!」


 疲れ切った腕を下し、態勢を立て直すと、目の前には見上げる程の巨体のオークが大斧を振り上げて待っていた。


「ニンゲン、戦士ヨ、仲間守ル、大したやツ」


 だが、驚くことに、突然隊長オークに褒められた・・・気がした。NPCのくせに妙な所で人間臭いのがどうもやりづらい。


「そりゃ、どうも・・・ありがとうよ」


 丁寧にお礼を言うと、もう一度ボロボロな盾を構え直す。次は防ぎきれないと分かっているが、逃げるわけにもいかない。というか、逃げれないだろ、この状況。


「ニンゲン、名ハ?」


 最後に隊長オークが尋ねる。これがかの有名な「死ぬ前に言い残すことはあるか?」ですか?まぁ、ちょっと違うが気にはしない。


「アーサ、この世界を変える男だ、覚えとけッ!!」


「私ハ、ガル、誇り高きオークの戦士ダッ!!」


 そう言うと隊長オークは筋肉を躍動させて、大斧を握り天高く振りかぶると、大事な俺の脳天目掛けて振り下ろす。


 これを直接受ければ、まず盾は破壊され、次に俺の腕を裂き肩から足までがさっくりと切られ、最後にはこの大斧はリッキー共々地面に深々と突き刺さるだろう。


 かと言って、この一撃を避ければ、リッキーの命はない。


 自分とリッキーが死ぬ道か。


 リッキーだけが死ぬ道か。


 無論、答えは決まっている。


 俺もリッキーも生きる道だ!


 どうしてかと聞かれれば、そちらの方が面白いからだ!そちらの方がカッコイイからに決まっている!!


 だから受けるしかない、この絶望的な果し合いを。


「いくゾッ!!アーサッ!!!!」


「こいやッ!!ガルッ!!!!」


 あぁ、こいつは死んだな。死んだわ、俺。


 でも、どうせ死ぬかもしれないなら、あれを試してみよう。


 ガラハドが教えてくれたあの技を。


 確か・・・。


 隊長オークの一撃を受けるその瞬間、持っていた盾を少し斜め横に傾ける。


 正確なタイミング何ていうものは分かりはしない。


 でも当たるかな?っていう言わば「天性の感覚」に全てを任せ、持っている盾を徐々に斜め横に傾けつつ、そして、腕に全神経を集中させ、盾の大斧の刃が当たる感触を確かめながら、その傾きを大きくしていく。


 そして最後に、程よいタイミングで大きく盾を弾く。


 すると何ということか、振り下ろされた大斧はその盾を沿うようにして流れを変え、俺ではなく、勢いそのままに地面に突き刺さる。


 それがつまり”パリィ”である。


 勿論、そんな”神技”ができるのは、ガラハドか「俺最強系の主人公」たちだけである。俺のような凡人、無職で童貞な20代後半にはできるわけがない。


 そう、できるわけがないと誰もが思うだろう。だからこそ面白くない。


 誰からも期待されずに、誰からもできないと思われていることをやるからこそ面白いのではないのか?できないと思っていた奴のそのマヌケ面を見るからこそ面白いのではないか?


 なら、やるしかない。面白いことを、やるしかない!!


 そして、一瞬で起こったその出来事に俺も隊長オークも思考が止まる。


 隊長オークは確かに盾ごと俺を裂いたはずである。だが、その大斧はなぜか俺の横の地面に突き刺さっている。


 俺もただ見様見真似でやっただけなのに、大斧は盾を沿って横にずれ今では地面に深々と突き刺さっていた。


 あまりの光景に言葉を失う1人と1体。


 そして、お互いの意識がゆっくりと戻り始めたその時。


「「アァーーーサァーーーーッ!!!!!」」


 そこに、信頼する仲間二人の声が響くと、隊長オークの右腕に深々と矢が刺さり、左足はザックリと切り裂かれる。


 それは俺の親愛なる仲間たち、レイの矢とマサムネの斬撃である。


「グウゥアアアァァァッ!!!?」


 このコンビネーションには、流石の隊長オークも叫びを上げると、この傷では動けないのか丸太のような片足をついてその深い傷を抑える。


 加えて、これ以上動かぬようにとマサムネが隊長オークへと剣の先を向け、遅れて駆け付けた『センター』のメンバーも一緒になって手負いの隊長オークを囲んだ。


 もう何が何やらという感じだが、生きているということは上手くいったということだ。


「って忘れてた!?おいリッキー!リッキーッ!!大丈夫か!?」


 そう言えば足元にリッキーが寝そべっていたのを思い出すと、その肩を2回、3回と揺らす、剣は折れ、鎧には少しひびが入っている。もしかすると、死んで・・。


「ん・・・・ん?」


 なーい!?


「リッキー・・・良かった!!無事・・・ではないが、生きてるな!!たく、無茶するぜ、本当に」


「えへへ、死ぬかと思ったよ・・・でも、このラッキーストーンのおかげかな?」


「いや、だからそれはただの石だって言ったろ。・・・まぁ、いいか今はそんなことは!」


 無事で何より、俺も無事で何よりだ!


 また、辺りを見渡すと、どうやら他の場所でも各々がオークを撃退したらしく、戦う意思を示すオークはこれ以上いない。そして、周りのプレイヤーは各々喜びの声を上げている。


「この戦い、俺たち冒険者の勝利だぁーー!!!」


 そして、それらを確認したガラハドが剣を天高く掲げ勝鬨を上げた。


「「「うおぉぉぉぉぉーーーーーー!!!」」」


 それに続き、冒険者一同も腹の底から自然とこみ上げてきた声を上げ、その勝利に酔いしれた。


 そうか、俺たちはオーク相手に生き延びたのか!


 この絶望的な戦いに勝利したのだ!!


 しばらくして、俺がリッキーを起こそうとするとマサムネがやって来てくれ、俺の代わりにリッキーを抱えて街まで連れて行くと提案してくれた。


「アーサ、ナイスファイト!でありましたぞ!」


 すると、去り際にマサムネがそう言い、ビッと親指を上げる。


「お前も・・・ナイスアシスト!」


 同じくビッと親指を上げ、次にその手を握りしめ直してから、マサムネの拳と拳を合わせた。


 だが、去り行くリッキーとマサムネの背中を眺めていると、そういえば自分も実は相当ガタがきていたことを思い出した。


 あぁ、というか気が付いた途端に、もうダメだわぁ。


 しかし、ふらりと倒れそうになったところを横から誰かが支えてくれたのか、俺の美顔は地面に激突することを逃れた。


「くそ!!重いぃ・・・!!!」


「すまぬぅ」


「たく、最後くらいしっかりしろよ!」


 そこにいてくれたのはレイである。あんなに後方にいたにもかかわらず、撤収作業を放っておいて、彼女はこんな所まで来たのである。全く、このサボり野郎が。


 でも、助かった。


「・・・さっきはありがとな、あの矢レイが撃ってくれたんだろ」


「し、知らん!たまたま、そう”たまたま”撃った矢が”たまたま”そっちに飛んだだけだ、運が良かったな」


 「たまたま」をどんだけ言うんだこいつは。玉もないくせに、品がないんだから、もう!!


「またまた~、照れちゃって~、可愛いね~」


「か、かわっ!?」


 しかし、そう言うとレイは一瞬にして顔をぼっとタコウインナーのように赤くし、しかも怪我人であり、この戦いのMVP(仮)たる俺を突き飛ばしてどこかへ去ってしまった。


「ちょ!?おーい!レイさん?誰か!おーい、あれ?」


 周りのプレイヤーたちはワイワイと勝利を喜び合うばかりで、功労者である俺の声が耳に届いていない。


「おーい!今回の戦闘の立役者がここにいますよー、だけに立役者!なんて!!」


 しかし、今度はそそくさと皆が俺のそばからいなくなった。


「聞こえてるじゃん・・・」


 仕方がないので、今は勝利の空を眺めることにした。


 あぁ、僕らの敵、太陽が眩しい!でも、今は友達!!


 というか、この空が現実でないとは信じがたい。


 ちなみに、オーク撃退に喜ぶプレイヤーたちに忘れ去られ、オークたちが衛兵たちに捕縛されて、街の領主館に連行されるまで俺が放置されていたのは、


 また、別のお話。


 お終い!!

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