第11話 幼女(゜∀゜)キタコレ!!

「いいか、馬鹿ども!オーク相手に1対1で勝てるなんて思うなよ!常に仲間の位置に気を使え!オークの攻撃は極力受けるな!基本避けるか、受け流すことだ!攻撃をされた奴は無理して攻撃に転じる必要はない!余力のある奴が敵に一撃いれてくれるのを待て!・・・おい、馬鹿ボウズ!オーク相手だとその部位じゃ攻撃は入らないって言ってんだろうがッ!もっと付け根を狙え!付け根だッ!」


「馬鹿、馬鹿うるせぇッ!!?」


 オークとの戦いに備えるため、ポジション決めの後ガラハド指導による地獄のような『ライン』の猛特訓が始まった。


 オークに見立てた木と藁でできた人形に対して、2人1組と3人1組で交互に人数を変えながら行う戦闘訓練。基本戦略としては、1人がオークと対峙し、もう1人若しくは2人でそのオークの隙を見て攻撃を与える。また、完全に止めを刺す必要はなく、動けなくさせることだけに集中して戦うことになっている。


 不幸中の幸い、オークは体が大きいためこちらの攻撃を当てやすい。振り下ろした後の腕、躱した後に隙が出る足、相手に囲まれでもしない限り、こちらの方が確実に攻撃を当てていける。


 しかし、問題なのは攻撃する場所によっては攻撃が通らないどころか、運悪ければ武器が刺さったり、折れたりして使い物にならなくなってしまうことだ。オーク自前の強靭な筋肉が鎧になっている所為で、生半可な攻撃では通用しないのが問題である。


 そんなこんなで、ここ数日ガラハドは『ライン』のメンバーだけでなく、『センター』、『カバー』のメンバーにも指導を行うため、常に動き回っている。その頭の中では、おそらくプレイヤー全体の動きとオーク全体の動きを予測し、どの段階、どの手段でオークを倒すのかを検討しているに違いない。そして、その横にはシゲルさんが付き添い、毎日2人で朝から夜遅くまで何やら話し合っている。


 そんなオーク襲撃迫ったとある日のこと、俺たち『ライン』メンバーが宿場を後にして街の外に作られた稽古場に行くと、そこには見慣れない子ども?がガラハドとシゲルさんの横に立っていた。


「おう!おはよう、お前たち!ちょっとこっち来い!」


 そうガラハド右手をひらひらさせて呼ぶので、呼ばれるがまま、ガラハドたちの下へと駆け寄る。


「以前から言っていたお前たちの装備についてだが、無事に用意できたぞ!」


「え!?マジか!あんだけの量をこの数日で?」


 オークと、それもその集団と戦うということで必要なものはわんさかとあった。中でも、武器防具に関しては、前衛職全員の12人分の剣、槍、盾、が予備も入れて3つずつは必要であったし、後衛職用の矢に至っては恐ろしいほどの量が必要であった。

 

 しかし、それらを急に集めることはこの田舎街であるシルヴァリア付近では到底不可能であり、先日までガラハドやシゲルさんはそのことで頭を悩ませていたはずだ。


 だが、その問題が解決したと言う。何と素晴らしいことか。


 して、その解決策とは?


「解決策はこいつだ!」


 そう言うと、ガラハドは横にいた子どものように背の低いプレイヤーの頭をポンポンと叩く。


「人の頭をポンポン叩かないでくださいー!ポンポン料を要求しますよ!」


 だが一方で、幼女プレイヤーは怒鳴り、頬を膨らませている。一見、特徴的な帽子をかぶっただけの幼い子どもようにしか見えないが、このプレイヤーが問題の解決策だと言う。でも、何が何やらさっぱりである。


「幼女(゜∀゜)キタコレ!!」


 すると、突然寝ぼけ眼であったマサムネがその目を輝かせ覚醒すると、その子どもに物凄い勢いで接近した。まるで犬みたいだ・・・、いやこの場合は豚か?黒豚が幼女を襲おうとしている、度し難い光景だ。


「な、何だ!?このオーク亜種は!キモイ!それに私は幼女じゃない!幼女料を要求するぞ!」


 自分で幼女言ってるし・・・、てか幼女料って何だ?


「ま、まさかロリBBAでござるか!?それもまた良し!」


「ババアでもない!れっきとした大人だ!お・と・な!」


 それでもマサムネはより元気になって、「ぶひぶひ」と喜んでいる。手の付けようがないオーク亜種である。今すぐにでも奴を討伐せねばならんようだ。


「とりあえず、このオーク亜種は放っておいて・・・、その人はどなたです?」


 この中で一番冷静、かつまともなシゲルさんに尋ねてみる。おそらく、この人なら納得のいく答えを返してくれるだろう。


「えぇ、この方は行商ギルド『カゼノウワサ』の配達員ベッキーさんです」


「行商ギルド?」


 名前は聞いたことがある・・・、気がする。クエスト達成に必要な物を揃えたり、レアアイテムなどをダンジョンから手に入れて他の人に売ったりするギルドだったような。


 というか基本的には、ゲーム初心者のために格安で武器防具を揃えてくれるなどのお助けギルドでもあったと記憶している。


「はい、もしかしたら近くにまだなんとか稼働してい行商ギルドがあるかもと思いまして、前もって各所に手紙で連絡しておいたんです。そしたら、昔から何かと付き合いのある彼女たちがすぐさま駆けつけて来てくれたのです」


「へぇ~、準備いいですねぇ」


「いえいえ」


 全く、シゲルさんの素早い対応に感心せざるを得ない。この人は常に先を見て行動している。さすが年寄りキャラクター、亀の甲より年の劫とはこういう時に使うのであろうな。とは言え、その中身までもがお年寄りかどうかは定かではないが、とにかく俺よりかは年上であろう。


「まぁ、来てくれる確率は低かったですが、でも間に合って本当に良かった。ベッキーさんには感謝ですよ」


 そうシゲルさんから言われると、先ほどまでわめいていたベッキーはパッパッと帽子をはたき、「エッヘン」と咳き込む。しかし、その動作一つ一つが何やら子どもっぽい。


「我々も仕事でございますから。困った時はお互い様です!」


 ベッキーは、シゲルさんに対して軽くお辞儀してみせた。


「こんな状況ですし、困っているプレイヤーさんは多いみたいですしね・・・」


 また、少し悲しい表情を見せるとベッキーは言葉の後にそう付け足した。


 確かに、こんな状況になって困っているのは俺たちだけではないだろう。皆も、俺たちと同じで必死にこの世界を生きている。この空を見上げて・・・、哀愁。


 まぁ、そんなことは実はどうでもいいのだけどね。何よりも大事なのは我が身である。こんな状況になってまで他人の心配できる程、俺の心は聖者じゃないんだ、許せ!


「まま!とにかく!注文された品物は揃えておきましたので、どうぞご確認ください!」


 ベッキーは気を取り直すと、右手のS・Cシステム・クリスタルにそっと触れ、目の前に剣やら槍やら盾やらをどかどかと出現させた。


「おぉ!!」


 どれもこれも新品であり、磨かれた刃には薄っすらとこちらの姿が写るほどだ。盾も裏の持ち手がしっかりと作られており、これならオークの攻撃にも耐えられそうである。・・・何回かだけは。


「ところで、ベッキーは1人で旅をしてるのか?」


 ふと疑問に思ったので、そう尋ねてみた。こう言ってはなんだが、この人1人で旅をできる程強そうには見えない。このゲームはそこまで甘くないはずだし、今となっては死活問題である。


「あー、いえいえ、我々行商ギルドはチームで動くんですよ!私たちはペアですが」


「なるほど!ペアと言うことは2人でここまで来たのか、へー・・・2人?」


 それでも2人しかいないのかと内心少し驚いた。こんな風になってしまった世界を歩き回るとは、2人ともよっぽど肝が据わっているのか。それとも、そのもう1人が物凄く頼りになるのか・・・。


「あぁ!ちなみにあの娘が私のパートナーです!」


「ほう」


 そう言うベッキーが指差す方向を見ると、ここから少し離れたところで見知らぬ女性とレイが武器を構えて睨み合っていた。


 ちなみにあのレイが私の仲間です。


 ・・・って、こんな朝っぱらから何しているんだ!?あいつは!?


「おーい!フィー!」


 ベッキーが嬉しそうに声を掛けると、レイと対峙していたその女性はベッキーに気付いたのか、軽く手を挙げた。


 そして、レイもちらりとこちらを見た、気がした。


「やー!ベッキー!話は終わったk」


 フィーが元気よく返答する前に、その隙を突いてレイが突進し、持っていた木剣でフィーの頭を刺す。


「おっとっと!?」


 だが、すんでのところでフィーはその不意打ちを華麗に避け、トントンと軽くステップを踏みながらもくるりくるりと回ると、レイとの間にもう一度距離を取る。


 というか、あいつは何をしている!客人であるフィーを殺す気か!?


「ふうぃー、危ない危ない!」


「チィッ!」


 すると、レイはもう一度木剣を構え直す。


「よそ見は禁物ですよ」


「ははっ!だねー」


 だが、レイとは違ってフィーは余裕のある表情だ。いや、むしろこの戦いを楽しんでいるようにも見える。レイの木剣に対し、フィーが手にしているのは長い木の棒である。レイの身長より遥かに長いそれは木の槍のようにも見える。


「いやはや、血気盛んと言うか何と言うか、若さだねー」


 そんな激闘を繰り広げるレイとフィーを見ながら、呑気なことにガラハドはこんなことを言っている。


「いやいや!止めなくていいのか!?てか、何であの2人はやりあってんの!?」


 現状がよく呑み込めなかったので、思わずガラハドにそう尋ねた。


「ん?あぁ、レイが1人で練習してたら、『面白そうだから』ってあの姉ちゃんが突っ込んでいった始末」


「すいません・・・うちの暴走娘が」


 フィーの代わりに謝るベッキー。いえいえ、謝りたいのはむしろこっちです。


「いやいや、ベッキーが謝ることでは・・・。それにレイのやつも何であんなことしてるんだ?」


 そう言いかけてレイの動きに目を取られる。攻撃こそフィーには届いていないものの、何回かはいい斬撃を決めている。もし自分がフィーの立ち位置だったとして、今のレイの剣捌きについていけるだろうか。


 というか、どうしてレイはあんなにも自在に動けるんだ?


 次第にレイの動きばかりに注目するようになっていた俺の目線に気付いたのか、ガラハドは腕を組みつつ偉そうに話しかけてきた。


「レイはおそらくお前たちの中では一番今の体の感覚を掴み始めているな」


 それが、この前ガラハドの言っていた『慣れ』ってやつか?それにしても、それにしてもである。まるで、今のレイの動きはゲームの中のキャラクターみたいではないか。


 ・・・ん?今はゲームの中だった、失敬、失敬。


「だからこそ、危険な調査を1人で行かせた。今の彼女は1人での方が強くなると思ったからな」


「はぁ?」


 だが、そのガラハドの言葉に耳を疑った。以前の敵調査班にレイが配属されていたことは勿論知っていたが、あいつを1人で行かせていたとは聞いていない。この世界をまだ1人で歩かせるのは危険だと2、3人の班に分けられていたはずなのに、どうしてあいつだけそんな危険な目に。


「危険と分かっていて、レイを1人で行かせたのかよッ!」


 その時俺がどんな顔をしていたのかは定かではなかったが、初めてガラハドの焦った顔を見た。そんな気がする。


「おいおい、そう怒るなよ。すまなかったな。彼女が1人の方が楽だと言ったし、戦闘経験はあると思ったからつい・・・な」


 ん~、確かにあのレイなら言いそうなことではあるが、でも1人で行くなんて危険すぎる。もし何かあったらどうするんだ、あいつは!


 そんな俺の気も知らずに、未だにレイはフィーと打ち合っている。


 ところが、よく見て見ると最初はお互いに均衡して打ち合っていたが、時間が経つにつれ、レイの表情はどこか曇り始めている。


「ふぅ・・・、ふぅ・・・」


 レイの息を整える時間が伸びているし、回数も段々と増えだした。


 その一方で、フィーはまだまだ余裕があるのか動作に無駄が多い。いや無駄のように見せかけてレイに挑発して、攻撃を誘っているようにも見える。


 またしばらく見つめ合う2人。緊張した空気が続く。


「ふー・・・」


 すると、レイが大きく息を吐き、木剣を持っている右手をだらんと落とした。おいおい、流石に疲れたのか?大丈夫か?


「・・・ッ!」


 その瞬間、やはりフィーがすかさず動き出す。


 構えた木の槍で狙うのはおそらくレイの左肩。


 フィーは凄まじい勢いで間合いを詰め、一気に木の槍の先端でレイの左肩を刺す。


 それはあまりの速さの目にも止まらぬ一撃で、一瞬、レイの左肩を打ち抜いたように見えた。


 だが、レイはそのフィーの刺突を寸でで避けると同時に、フィーの左腕をかいくぐり、空いているその左脇腹へと一撃を打ち込んだ。


「お見事!」


「・・・どうも」


 そこまで一瞬の出来事であった。


 しかし、レイが打ち込んだのはフィーの脇腹ではなく、彼女が瞬時に戻した木の槍の腹だった。おそらくはここまでがフィーの策であり、レイはそれに見事に誘導されたというわけだ。


 そして、次の瞬間、目にも止まらぬ速さでフィーが下がり、くるりと木の槍を持ち替えると木の槍の先端はピタッとレイの首を捉えた。


「・・・お見事ですね」


「ありがとね!」


 この勝負、余裕を残してフィーの勝利である。


「おう、お疲れ!」


 激闘の後、こちらまで歩いて来たレイに労いの言葉をかけようとしたが、「悪い」とだけ言い残し、当の彼女は宿場の方へと1人歩いて行ってしまった。


 何だか落ち込んでいるのか?


 だから、そんなレイを追いかけようとも思ったが、しかし、何と声をかければいいのかが分からない。


 元気だせよ?ナイスファイト?


 何と言っても、あいつはジトっと不機嫌な顔をするに違いない。


 ここはレイの性格を考慮するならば、今は何も言わない方が得策だと思い返し、その場に渋々と踏み止まることに決めた。


「いやー!強かった強かった!楽しかったー!」


 それに比べて、こちらのお姉さんは元気そのものである。たぶんこの人は勝っても負けてもこう言いそうだ。


「もう!少しやりすぎていますよ!フィー!大体あなたはいつも」


「あーあー、そう言えば、そっちの用事はすんだのかなー」


 ベッキーの説教が始まることを悟ると、フィーは話を強引に変えた。どうやら、フィーはベッキーの説教に悪い意味で慣れているらしい。


「ええ、話はすみました。遠路はるばるありがとうございました」


「ふーん、にしても大量の武器だね。これ何に使うの?」


 フィーは大量に積まれた武器をいじりながらそう尋ねた。その質問に対し、ベッキーはというと大きくため息を吐き、怒鳴り気味に答える。


「大きな戦闘があって困っている人たちがいるから、現場に近い我々が大量に武器を届ける必要があると言ったでしょうが!聞いてたんですか!」


「いやー、聞いていたような、いなかったような」


「フィー・・・!!!」


 ベッキーがわなわなと震える。怒り心頭という感じだ。そんな彼女の怒りが爆発する前に、ガラハドが2人の間に割って入る。


「まぁまぁ、結果的に戦いに間に合ったわけだし、良かった良かった」


「それで、何と戦うための武器?ゴブリンとか?それとも亜人?」


「ん?あぁ、オークだよ、オーク」


「オーク!!」


 すると、どうしてかフィーの目がキラキラと輝き出した。オークという言葉におびえる人は多いが、喜ぶ人は少ないだろう。だが、どうやら彼女はその少数派の1人らしい。


「ベッキー!何で教えてくれなかったの!」


「言いましたよ・・・。もう、本当に聞いてないんですから」


「オーク・・・へぇー、オークか、良いなー」


 フィーはそう言うと空を見上げながら静かになった。今彼女の頭の中ではオークとの死闘が繰り広げられているのだろう。もしかしたら彼女はただの戦闘狂なだけなのでは?


「そうですね。何でしたら、一緒にオークと戦っていただけますか?」


 そんなフィーの様子を見て、シゲルさんは笑顔で提案した。だが、良い提案である。一人でも犠牲者・・・ではなく、協力者が増えるのは良いことだ。


「良いの!?」


「勿論、こちらとしては猫の手も借りたい状況ですし。まぁ、お二人の意見が合えばですが」


 そう言うと、今度はシゲルさんはベッキーの方にちらりと視線を向ける。


 勿論、フィーの答えは決まっている。ならば、後はベッキーの答え次第である。


「・・・」


 しかし、ここでむんと黙るベッキー。まぁ、それもそのはずだろう。彼女はあくまでも補佐、元からオークと戦うことは念頭に入れていなかったのであろう。


 「オークと戦うのは大変である、でも同じくらいにこうなったフィーを説得するのも大変だ」とでも思っている顔であった。


「ベッキー・・・」


 だが、ここでうるうると目を潤ませて、フィーはお菓子売り場の子どものようにベッキーを見つめる。


「ぐ・・・、はぁ~、分かりました、分かりましたよ!旅は道連れ世は情け、未来のお得意様が死なれては商売上がったりですからね、我々も協力しましょう」


「ありがたい!」


「やったー、ベッキー大好き!!」


「拙者も大好き!」


「「「お前は引っ込んでろッ!!」」」


 何か余計なものも混じった気がするが、ともかく頼もしい助っ人が急遽増えた。


 オークと戦うということであれば、1人でも人員は欲しいところであるし、その2人の内1人に至ってはかなりの手練れである。


 確実に勝機が見えつつあり、ここにいるプレイヤー一同に活気が湧いてきている。何だか前途多難に見えた戦いであったが、ここまでくると意外といける気がしてきた!なんて言うと、死亡フラグが立ってしまうので、ここはお口にチャック!!


「た・だ・し!」


 しかし、そんな喜ぶ俺たちに対し、突如ベッキーが大声を上げた。


「フィーのレンタル料はしっかりといただきます!」


「「「お・・・おう」」」


 そこまでも商売なのかと、何やら行商ギルドの魂を感じる。


「よぉ〜し!武器も揃って、仲間も増えたことだ!早速、練習を始めるか!!」


 そう言えば、俺たちはオークとの戦闘に備えて訓練をするために来たのだった。レイやフィーの件で、すっかりと忘れていた。


 ということで、ガラハドのその言葉に、思い出したように俺たちは練習に入ろうと準備をそそくさと始める。ところが、ガラハドは俺だけを呼び止め、他のプレイヤーとは距離を置いた所まで連れて来られた。


「なぁ、俺だけ別なのか?」


「今日はお前だけ別メニューだ」


 ガラハドはニカッと笑うと木製の剣と盾を装備した。つまりは、ガラハドと模擬戦ということだろうが、どうしてこんなタイミングで?


 このおっさんの考えていることはいまいち分からない。


「今から教えるのは盾の使い方だ!だが、何もオークと戦うだけのものじゃない」


「なる・・・ほど?」


「まぁ、何て言うか・・・覚えておくと便利な技だな」


 なんとも曖昧な説明である。


 そんな俺の怪訝そうな表情を察したのか、そそくさとガラハドは盾を構えて話し出す。


「説明する前に見せてやる、ほーれ、一発どんとこい!」


 どんとこい、つまり「Do not Koi」日本語訳すると「来るな!」。というわけではなく、ガツンとこいと言われたので、とりあえずガラハド目掛けて剣を振り下ろす。


 だが、ただ振っただけではなく、勿論当たれば痛い力加減で振り下ろした。そこに恨みなどはない。全くないが、でも手違いでガラハドを打っ叩いてしまったら気分は良いだろう。


 すると、ガラハドは俺の剣に盾を合わせ、すっと右から左へと剣を弾いた。


 あまりの流れるようなその動きに、一瞬何が起きたのかを理解できなかったが、俺の振った剣はガラハドから大きく外れている。加えて、あっさりと体が開いてしまい隙だらけになった首元にガラハドの剣先が向いていた。


「な、なんじゃこりゃ!?」


「どうだ、凄いだろ!」


 勿論のことではあるが、剣が盾に阻まれれば剣は弾かれる。盾とぶつかった段階でのである。


 だが、今ガラハドが見せた動きは盾で剣の軌道を変えたのだ。だから、剣は盾に当たったにも関わらず、、結果あらぬ方を斬ってしまった。


 そして、ガラハドから見てみれば、盾で軌道をずらした瞬間から、俺が降り終わるまでは隙だらけということになる。


「これが盾弾き、通称”パリィ”だ!」


 ”躱す”とか”受け流す”という意味の英語"parry"が由来だとされる”パリィ”は、ゲームにおいてよく使われる単語である。また、ボクシングや空手などの格闘技においても、相手の攻撃をそらしたり、受け流したりする動作の際には”パリィ”と使うことがある。


「てか、普通無理だろこんな動き!?ゲームかよ!?」


「いや・・・一応ゲームの中だろ、ここは」


「いやいや!?そういう問題か!?」


「そういう問題なんだよ。それに、実際にできた、だろ?」


「ぐぬぬ・・・!!」


 相手の攻撃を受け流す技と言えば格好いいし聞こえはいいが、実際のところはかなりの高度な技術が必要なハイリスク・ハイリターンの技である。弾くと言っても、力任せに弾けば良いという物でもないし、相手の剣筋を読まないといけない。


 というか、常人には不可能な技だろ、これ!


「無理無理!?流石にこれは無理だわ!」


「おいおい、練習する前から無理とか言うなよ」


「いや絶対難しいし、何よりも大変じゃん!やだよ、もっと楽して強くなりたいの、俺は!!」


「全くこれだから最近の若い奴は。よく言うだろ、”若い時の苦労は買ってでもせよ”って」


「何で苦労するのに金払う必要があるんだよ!むしろこっちに金寄こせ!!」


「うるせぇ!つべこべ言わずに練習しろ!!でないと、いざという時に後悔するぞ!!」


 そう叫ぶガラハドの指導の下、俺だけがやったこともない”パリィ”の練習が追加された。


 勿論、すぐに習得することが不可能であることは言うまでもない。


 俺はそんじょそこらのチート系主人公じゃないんだぞ!?

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