第10話 だから、お前たちを『ライン』に任命した!以上!!

 やぁ、諸君。


 今日も楽しい楽しい「アヴァロン」解説コーナーの時間がやってきたよ!


 解説のお兄さんは、アーサこと、俺!


 歌や踊りのお姉さんなんてものはいないから、耳をかっぽじってお兄さんの話だけをよく聴くんだよ! 


 さてさて、この「アヴァロン」の世界において、プレイヤーとNPCとの戦いは日常茶飯事なんだ。大変だね!


 でも、それは各個人で戦い合うような小規模なものから、国や領土までもが関わる大規模なものまでたくさんあるんだよ。それらを頑張って制作しているのは運営の皆さんだ。でも、その運営の皆さんのおかげで元の世界に帰れないことになっているのだから何とも言えないね!


 さてさて、運営に関する話は置いといて!その大規模な戦いにおいて、各プレイヤーたちが戦略に合わせて位置取るポジションというものが存在するんだ。そうだね、サッカーみたいだね!


 まずは、『カバー』の説明だよ。

 

 これは、遠距離主体のジョブが位置取る場所だ。戦況を遠くから見渡せるので、的確に指示が出せるし、同時に前衛が相手につぶされないように敵戦力を削り取る役目も担っているんだよ。また、多くの場合では、本陣が近いことから、敵の奇襲などの際には近距離戦もこなさないといけない、つまりは頭を使うポジションでもあるんだね。


 次に、『センター』の説明だ。


 これは、近距離と遠距離のジョブが入り乱れる位置だね。基本的な役目は、敵の陣形に空いた穴に対して攻撃を行い、敵本陣へと切り込んでいくことだよ。移動力のある騎馬が中心で、『カバー』たちが見つけた敵陣営の弱点を狙えるだけの速さと強さが求められるんだ。一方で、『ライン』が突破された時の防衛線という役目も担っているから、攻撃ばかりに専念することもできない難しいポジションなんだよ。分かったかな?


 最後に、お待たせ!『ライン』の説明をするよ!


 これは、近距離主体のジョブが位置取る場所で、とっても激戦区なんだ。どんな戦いにしろ、最初に攻撃し、また攻撃を受けるのはこの『ライン』で、『カバー』からの指示を受け、敵の陣営に穴を空けた先に、そこから『センター』が切り込んでいく様は、非常に心揺さぶられる光景だよ。でもでも、ゲームにおいてこの『ライン』は最後まで戦闘に参加することは難しいんだ。大抵の場合は、死んでリスポーンした後での観戦室で見ることになるんだよ。


 そう!つまりはどういうことかな?


 そうだね!死にやすいんだね!死んで当然のポジションなんだね!!


 良い子の皆は分かったかな?


 そして、お兄さんたち労働班5名+αはこの名誉ある『ライン』に選ばれたんだ!


 おわり。


「って、どういうことだよ!?」


 オークたちとの決戦当日のポジション決めのそのすぐ後、『カバー』、『センター』、『ライン』それぞれのポジションごとの話し合いが始まり、各自3つのグループに分かれた。


 俺たちのリーダーは勿論、この男ガラハド、ポジションを決めた張本人。胡散臭い髭面の極悪人(仮)だ。


 しかし、そんなガラハドは俺の質問に何も答えずに、ただ俺たちの前に立ってしばし俺たちを見つめているばかり。


 そして、ゆっくり口を開く。


「まぁまぁ、ボウズの言う通り、何で俺たちが『ライン』なのか?と皆も思っているだろうが、これにはちゃんとした理由がある」


 一同がぱっと期待の眼でガラハドを見つめ返す。まともな説明を所望する。でなければ、俺の中に眠る野生がその髭面を襲うぞ!


「俺が選んだ今回の『ライン』のメンバーには、共通してとあるものがあるからだ。現段階で他の者にはなくて、お前たちに備わっているもの・・・それは”覚悟”だ」


 ・・・覚悟?何の?


「別に、戦闘訓練班はオークと戦うために訓練させたわけではない。あれは、この世界で戦うという気持ちを持たせるためだ。剣を振り、槍を突き、弓を放つ、例え本物の敵を相手にしなくても、そうすれば徐々に気持ちが高ぶってくる。そうすることで、少しではあるが自ずと戦う“覚悟”ができる。だから、あいつらにはそのために武器の練習をしてもらった」


 そう言うと、ガラハドはゆっくりとそして偉そうに歩き、そこに置いてあった木剣を握ると徐に一振りしてみせる。


 途端、ビュン!と風を割く物凄い音が鳴り響く。


「だが、あいつらにはまだ“覚悟”が足りない。それは、“死ぬ覚悟”だ。あいつらにあるのは、死んでもいいという見せかけの気合だけだ。そんなもの、本物の敵を前にすれば、動けなくなるか、自暴自棄になって、まぁ、どちらにせよ死ぬ」


 そう言うと、ガラハドはもう一度木剣を上から下へ振り下ろす。先ほどよりも速く、また激しい音が鳴り響く。


「その点!お前たちには、“死ぬ覚悟”が見えた。死ぬことと生きることは似ている、“死ぬ覚悟”があるやつは生きることもしっかりと考えることができる。どんな絶望的な状況でも、そう、殺されかけている瞬間でも、な!」


 ふぅー、と息を吐くとガラハドは木剣を置き、再び俺たちを見る。


「だから、お前たちを『ライン』に任命した!以上!!」


 なるほど!

 

 全然、分からん!!


 ガラハドは長い長い説明をしてくれた。説明してくれたものの、腑には落ちないことはまだまだいっぱいある。


「じゃあ、何で俺たちに木や石を運ばせたんだ!あれも今回の戦いに使うのか?」


 そう、労働班を代表して質問した。大体今の流れと俺たちの労働とがかみ合わない。というか納得がいかない。納得のいく説明を所望する!


「ん?ああ!あれか!あれは・・・、街の人の生活用だ!皆さん忙しそうだったし」


「「「ええぇぇ!?」」」


 これにはさすがの一同も口を揃えて驚く。マジで!?本当に関係なかったのか!?


「と、言うのは半分冗談だが」


 半分は本気なのかよ!?このおっさんは・・・!


「そう怒んなって、実際のところは体の慣らしだよ、慣らし!」


「な、慣らしぃ!?」


 またまた、一同が口を揃えて驚く。何じゃい、俺たちは自動車か何かか?


「さっきの死ぬ覚悟は意識の問題だろ?それは既に解決していたお前たちに次に必要だったもの、それはこの世界での体の慣れだよ」


 さっぱり分からん。分かった人いる?・・・どうやら誰もいないみたいだ。皆揃いも揃って阿呆みたいな面をしている。勿論、俺以外だがな。


「いいか、お前たちはまだ今の体を十分に活用できていない。まだ頭、脳だけが元の世界に囚われたままで体が動いてしまっているんだ。向こうとこっちでは考えている頭は一緒だろうが、外見、肉付きは違うだろ?だからその体を無理に動かさせて、今の体についてお前たちのに理解してもらったってわけ」


 そう言いながら、ガラハドは自分の頭を右人差し指でコンコンと突いてみせる。おそらくそこにある脳の話ではなく、このゲームを体感している俺たちの“本物の脳”の話ではあろうが。

 

 だが確かに言われてみれば、あれだけの木を切ったり運んだりという作業をこなして、体は疲れを感じたが、そもそも元の世界であんな作業はできない。元の世界でできなかったことをこの世界では平然とやり遂げている。


 ということは、なるほど確かにガラハドの言う通りなのかもしれない。


 ・・・ん?ちょっと待てよ、今何気にディスりましたよね?最後にちょっとディス入ってませんでしたか?ガラハドさん?


「とは言え」


 そんな俺の疑問を言う暇もなく、ガラハドは何やら真剣な顔になる。


「相手はオークだ、覚悟があって、ある程度の肉体があっても、素人が敵う相手ではない」


 肉体労働の理由が分かって盛り上がった一同の空気が、その言葉に徐々に盛り下がり始める。


 だが、ガラハドの言う通り、俺たちはあのオークと一戦を交えるのである。しかも『ライン』として、あの巨体から振り下ろされる攻撃を最前線で受けながらも戦わなければならないのだ。


 果たして、俺たちは無事でいられるのか?


 答えはNOだ!でも、それでは困る。


「そこで、重要なのは知識だ!一に知識、二に知識!三も四もない!頭の悪い奴は戦場ですぐ死ぬ!よって、これからは当日まではお前たちには対オーク用の戦闘訓練を受けてもらうからな!!死ぬ気で学べ!でないと本当に死ぬぞ!!」


 最後に、そうガラハドは俺たちに告げた。


 オーク襲来まで残り後わずか。


 まさに、”死ぬ気で”俺たちは学ばなければならない。自分の身を守る方法を、オークに勝つ方法を。そう、死ぬ気で!!

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