第2章 敵、そして味方

第7話 ようこそ!シルヴァリアへ!(ry

「ようこそ!シルヴァリアへ!君たちもプレイヤーだよねー!!いやー、突然こんなことになっちゃって大変だったよねー。もう何が何だか分かんなくて僕ももうパニックだよー。うんうん分かるよー、その気持ち!でも、ここまで来たらもう安心だよ!君たち以外にも何人もプレイヤーが来ててさー。あ!プレイヤーの中には有名ギルドの人も何人かいるみたいでさー、凄く心強いよねー。何て言ったかなーあのギルド・・・どこかのバーガーチェーンみたいな名前、う~ん、ここまで出かかってるんだけど・・・あーダメだ出てこない!そう言えばバーガーと言えば、お腹減ってない?ろくな物も食べてないでしょ!温かい食べ物や美味しい飲み物がいっぱい揃ってるよー。どんなに食べても飲んでも無料!無料だよ!どんどん食べてどんどん飲んで盛り上がろうー!いえーい!あ、ちなみに僕の名前はリッキー!よろしくね!」


 ・・・。


 ・・・あ、話が終わった。話が長い!お前は校長先生か!!


 そんなこんなでプレイヤーのいそうな街に着くなり、変な男に絡まれた。


 この男の名前はどうやらリッキーというらしいが、差し出した右手の甲にS・Cシステム・クリスタルがあることからも、この人がプレイヤーであることは間違いないだろう。装着している防具から推測するに、おそらくセイバー職の派生であろうと思うが、まぁ何とも緊張感がないプレイヤーですことよ。


 あと、その長い自己紹介と人柄に『ウザい』とレイの顔に書いてある。


 厳密に言えば、レイの顔にそう書いてあるわけでもなく、彼女はいつも通りの顔を覆い隠す社会性ゼロのフードですっぽりとその顔を隠しているわけで、彼女の顔の表情を読み取ることはできない。だが、ウザいなり、面倒くさいなり、とにかくはそのようなことを彼女が思っているに違いないことは確かである。レイとの長年(一年弱)の付き合いで、この俺にはそんな気配が彼女からモウモウと漂ってくる。


 とはいえ、そんな俺もレイに負けず劣らずの社会性がない人間であることを否定するような器の小さい男ではない。


 ただ、敢えて言わせて貰えば、レイと違って顔を隠すためにこのフルフェイスのアーメットの兜を装着しているのではない。アーメットの兜は騎士の証なのである!魂なのである!故に人前では外せないのだ、残念、無念!


 などと考え、リッキーから差し伸べられた右手にあわあわと困っていたところ、意外なことにマサムネがその手をがっしりと握り返した。


「いやーこれはこれは、ご親切にありがとうございますですぞ」


 マサムネはそのオタクらしからぬ社会性でリッキーと握手を交わしている。


「他のプレイヤーさんたちに会えて我々も一安心ですぞー。それで、他の皆様はどちらにおられるのですかなー、是非ともご挨拶させていただきたい!」


 そうニッコリとマサムネが告げると


「オッケー!では、僕が案内しますよー着いてきてねー!」


 リッキーも無垢な顔でニッコリと笑い、目から星をキラッと出す(厳密には出ていないが)と彼はゆっくりと歩き始めた。


 「くだらない」と立ち去る前にレイを捕まえ、陽気なリッキーの後ろを着いて行く呑気なマサムネを追いかける。


「おい!」


「何ですかな?」


 小声で話しかけた俺に合わせて、マサムネも小声で応答する。何となく俺の意図を読み取ってくれたみたいだ。


「お前、そんなにコミュ力高かったか?」


 俺の知る限りでは、目の前のこの筋肉男、通称マサムネも俺と変わらずコミュニケーション能力の低い、善良だけど役立たずの一般市民であるはずだ。


「あー、あれはネット処世術ですぞ。『やぁ!』と言われて『やぁ!』と言い返さないのは失礼ですし、相手の機嫌を損ねるでおすし!ああいうタイプは一度合わせた方が後々楽になるですぞ!!」


「・・・」


 確かに、俺たちは他のプレイヤーを探しにこの街までやってきた。なのに、いの一番に出会ったプレイヤーに対して無視をするのは良くない。ましてや、相手がすでに他のプレイヤーと仲を築いている様子であったことからも、彼ととりあえずは仲良くなり、そこから他のプレイヤーと親睦を深めるのも悪くない。


 ただ、そんなことをマサムネは瞬時に考えていたのであろうか?


「・・・本音は?」


「可愛い女の子キャラがいるといいですなー!!」


「やっぱりな」


 あぁ、どうやらこの脳みそまで筋肉男はそこまで深くは考えていない様だ。ちょっと安心した。おそらく、あの顔はケモ耳の獣人タイプのNPC、それか女性プレイヤーにでも期待しているのであろう。


 そして、「いやーん!1人で怖かった!」とか言って泣きついてくる女子に対して、「もう大丈夫さ!僕の鍛え抜かれた上腕二頭筋にまかせな!キリッ」とか言いい、その後女子をその腕にぶら下げて「人間メリーゴーランドだおーだおーだおー(徐々にフェードアウト)」とかするに違いない。ハレンチ極まりない!


 などと考えていると、街の中にそびえ立つ何やら一際大きな建物に到着した。


「どうぞー」


 リッキーに導かれるまま、俺たち3人はそそくさとその中へと踏み込む。


 中に入ると、目の前に広がるのはチーズの山に酒樽にパンに肉、それと少し汚いテーブルたち、まぁ簡単に言えばよくあるThe西洋風の酒場であった。


 だが、見渡すと思いのほか客は少なかった。と言うよりもどこか覇気が感じられない。どの客もちびりちびりと酒を飲み、もそもそとパンを食している。この体の酒場はもっと荒々しい男たちが高笑いをしながら、片手に酒、片手に肉を持ち歌い騒ぎ、「プロージット!!」とか言って、そこら中で酒を床に叩きつけているイメージであったが、ここはやけに静かである。


「おーい、こっち、こっち!」


 そんな酒場の雰囲気にがっかりと言うか、驚いていると、奥の方からリッキーが手を振って呼ぶ姿が見えた。そして、その周りには20人ばかりの人。あの人たちがリッキーのいうプレイヤーたちかもしれない。


 急ぎそのリッキーの下へと駆け寄り、マサムネに至ってはニコニコと嬉しそうに駆け寄る。


 だ・が・し・か・し!


 そこにいるのは男、また男、またまた男、そして男、最後に男と、男だらけの男祭り。残念ながらそこには、女性プレイヤーなどという奇跡は一人も見当たらなかった。


 そして、目に見えて落ち込むマサムネ。


 残念、ここにはお前の好きなロリ魔法少女もいなければ、メイド騎士もいない、ましてやケモ耳娘なんか遠い夢。あぁ、儚い儚い、ざまぁみろ。


「おお!まだ生き残りがいたとは!会えて嬉しいよ!」


 そう声を上げて、悲しき生き残り男プレイヤー集団の1人が席を立つとその右手を差し出してきた。彼は優しい顔にお髭の似合うおじ様系で、装備は革製の軽防具ということはアーチャー職の派生と推測される。


 先程のリッキーの時は、マサムネが対応したが、今はこの現状を目にしてどうやらフリーズしているらしいので、代わりに今度は俺がその挨拶を受けよう。


「どうも!俺はアーサ、こっちの筋肉がマサムネ、そっちのフードがレイ」


「私はシゲル、まぁ、ここにいる者たちの・・・何と言いますか、まとめ役みたいなもんですかな。よろしくお願いします」


 シゲルさんはそう言うと狭い席を更に詰めて、俺たちのために狭い席を空けてくれた。なので、俺はシゲルさんの隣に、マサムネは俺の隣に、レイは恥ずかしいのか、いつものクール病か、どこからか椅子を調達してくると1人皆から離れてちょこんと座った。


 こう言っては何だが、ここにいる生き残ったプレイヤーたちを見ると、みな見た目は逞しいそれなりの男性ではあるが、その表情は暗く、何だか歓迎されているような雰囲気ではないようだ。


 いや、歓迎する余裕がないのかもしれない。


 しばしの静寂・・・。


「や、やっぱり女性プレイヤーって少ないんですかねー、このゲーム!」


 この空気に耐えきれなくなったので、この場を盛り上げるためにと、俺の性格ではないが慣れない話をにこやかに振ってみた。


 この「アヴァロン」はファンタジー世界観のゲームであるが、誰もが想像するような派手な魔法や派手な技はなく、どこまでも地味なゲームなのである。とはいえ、国同士や国の中の領地同士の争いなどがあり、常に世界情勢が変化していくところや、様々なものがリアルに描かれているところなど、熱心なファンは多い。


 だが、それ故に女性プレイヤーは少ないとも聞いている。なので、俺の振った「女性少ない!」ネタはこのゲームでは鉄板なのである。


 というわけで、ここで一つ笑いを取るためにも陽気に話を切り出したにもかかわらず、他一同は何故かだんまりと、しかもより一層ブルーになってしまった。俺の予想とは裏腹に場の雰囲気は更に落ち込み、深いため息をつく者や涙ぐむ者までも現れた。


 おいおい、俺の所為か?


 これではお葬式の方がまだ賑わっている。


「実は・・・ですね」


 そんな長い長い静寂の後、口を開いたのはまとめ役のシゲルさんであった。


「実は、数日前までは、ここにももっとプレイヤーさんたちがいらっしゃったんですよ。それこそ女性プレイヤーさんもちらほらいましたよ」


 何と!?驚くべき事実である。・・・では、彼らはどこに?


「このゲームがおかしくなってから、例の手紙が送られてきましたよね?あの手紙を見て多くのやる気のあるプレイヤーさんたちが北の大国『フクオカ』や『ナガサキ』に向かってしまいました。おそらく帰る方法とあの手紙に書かれた『鍵』を見つけるためでしょうね」


 さて、ここで一つお勉強。地理に関するお勉強の時間だ。寝ないでしっかりと聞くように。


 実は、この「アヴァロン」の大地、現実の日本の地形とあまり大差がない。


 北から、「ホッカイ」「トウホク」「カントウ」「チュウブ」「カンサイ」「チュウゴク」「シコク」そして我々のいる「キュウシュウ」の8つの地域に分かれている。そして、その「キュウシュウ」には3つの勢力がある。1つは、先程話に出た北の大国『フクオカ』、もう1つは北西の国『ナガサキ』、最後に南の大国『カゴシマ』である。内『フクオカ』と『カゴシマ』の2つの勢力は過去争っていた歴史があるが、北の方がやや優勢、南の方はやや劣勢という状況で、現在は両国は停戦をしているというのが現状である。


 あれ?最後は歴史の勉強になったかな?まぁいいや。


「つまりは、あの手紙に記された『8つの鍵』の1つは『フクオカ』か『ナガサキ』にあると・・・」


 現状をクレバーに理解して、俺はシゲルさんの話に付き合う。


「まぁ妥当でしょうな・・・。劣勢であるこちらの国より、優勢であるあちらの方が可能性が高い。それにあちらの方が断然プレイヤーも多いでしょうから、探すのも楽なのでしょう」


 そう言うとシゲルさんはしみじみと酒を飲んだ。


「そして、そんな腕のあるプレイヤーたちにつられ、女性プレイヤーたちも何となくついて行ってしまった・・・。というわけで、ここに残っているのはこんな者ばかりという次第です」


 なるほど、そう言うことね。今のシゲルさんの話でこのお通夜の惨状にガッテンしましたよ。そして、もう一度周りを見渡すと、悲しそうに見えた男どもはより一層悲しく見えるようになった。あの陽気だったリッキーでさえも天井を見上げたまま動かない。


 可哀想に・・・って、あれはただ呑気に天井の染みを数えている顔だ!?恐るべし、リッキー・・・。


 だがここで一つ疑問がある。


「それで、どうして皆さんはその人たちに着いて行かなかったんですか?」


 そう無邪気に尋ねると、一同がわらわらとゾンビのようにざわめき始める。


「そ、それは・・・」と誰かが呟き。


「し、死ぬかも・・・しれないから」とまた他の誰かが呟いた。


 そして、「そうだ」「そうだな」という小さい同意の声が上がり、小さな合唱団が出来上がった。歌う曲は『死にたくない』。それではお聞きください。


 ・・・冗談、冗談、歌わないよ。


「アーサさん、私たちは見てしまったんですよ。人が、プレイヤーたちが死ぬ瞬間を。この街に逃げる道中多くの者たちが襲われ死んでいく姿をこの目で見ました。死にたくない、自分だけは死にたくないって思って皆必死に集まったんです。あなた方もそうでしょう?」


 こちらを見つめるシゲルさんの目に写ったのは恐怖と絶望と死だった。


 死にたくない・・・。まぁ、かくいう俺も一度はそう思った。本物にしか見えない狼たちに襲われた時のあの熱、音、恐怖、痛み。それらを感じた時は元の世界では味わうことすらない“死”を感じた。


 だが、今は違う。無残に殺されるぐらいなら、噛みついてでも敵に立ち向かうと決めたのだ。


「いやいや!俺は、狼たちに食い殺されそうになったけど、あの野獣どもに剣をぶっ刺して生き長らえましたけど?あいつらの生き血をびしゃびしゃに浴びたけど、そんなことはお構いなしに斬り返してやりましたよ!えぇ、それはもうバッタバッタとね!!モンスターなんて、楽勝、楽勝!!」


 気が付くと俺はそう叫んでいた。まぁ・・・間違いではない・・・はず?


 だよね?レイ?・・・あれれ?何で彼女は渋い顔をしているのかな?


 そして、周りがまた静寂に包まれた。


 だが、ああ言っといてちょっと後悔し始めた。


 ここにいる皆は傷ついているのだ。もしかしたら、リアルで知っている人が目の前で死んだのかもしれない。なのに、そんな人たちをまるで意気地なしのように言ってしまった。


「さ、さ~て、それでは俺たちはおいとましましょう・・・か?」


 そう言い俺の横に座るマサムネを退かす。どちらにせよ、この場にいるのは双方にとって良くない、そんな気がしてきた。


 だが、マサムネを押し退けこの場を去ろうとしたその瞬間、周りにいたプレイヤーたちが一斉に立ち上がり、叫んだ。


「うをぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーー!!!??」


「アーサ君!?君は本当に!本当に!やったのかね!」


 シゲルさんの渋いお顔がぐいっと近づく。先ほどの悲しそうな顔が一転、今はキラキラと輝いている。おもちゃを見つけた子どものようにキラキラと。


「や、やった・・・というのは?」


 あまりの出来事に思考回路が停止し、思わず聞き返してしまう。


「いやいや、狼をだよ!君はこの世界でモンスターを倒したのかい!?」


 シゲルさんの顔がより近づく。これ以上近づくと色々とヤバい。ちゅーしちゃう距離である。


「あぁ、無我夢中だったけど倒しましたよ。この3人で・・・ね?」


 後ろをビッと指差してレイとマサムネも巻き込むが、それでも皆の顔は嬉しさを増す一方であった。そして、シゲルさんはようやく顔を離したかと思えば、今度は大きく拍手を始める。


 そして、周りのプレイヤーたちも先程の辛気臭い顔はどこへやら、それぞれが「すごい!」「すげー!」と褒めたたえ、まさかの拍手喝采。場が一気に晴れやかになり、ここにいる者たちの活気が戻りつつあるようだった。


 こんなに人に褒められたのは小学生以来かもしれないし、それに何だか気持ちがいい。


 何だか、俺もマサムネも悪い気はしなかったので、ただただニッコリと「でへへ」と顔をゆがませて笑った。レイに至ってはさも当然とでもいうように、相変わらずクールそうにこちらを眺めている。


 そうひとしきり騒いだ後、シゲルさんたちは告げた。


「それにしてもすごい!あの狼をね!」


「そうですとも、そうですとも!」


「それもバッタ!バッタとね!」


「そ、そうだね、まー、バッタバッタとね!あは、あははははは!!」


「良かった!本当に良かった!これで俺たちは救われる!」


「おうおう!何が来てもへっちゃらさ!!・・・ん?」


 ちょっと待ってプリーズ。


 どうやら話の流れがおかしい。ただ俺は狼を倒したというだけなのに、それもたった4匹をしかも死ぬ気で。ゲームだった頃には、そんなものは何も誇れない功績である。なのにこんな盛り上がりよう。どうして?Why?


 第一、何が良かったのか?それに救われるとも言ったか?それはどういうことだ?


「あのー、話の流れが見えないような・・・」


 笑いながらもおずおずと尋ねてみる。何やら嫌な予感がびんびんする。


「いやー実はですねー。この街にモンスターたちが攻め込んで来るらしくてー、国王を通して領主からその撃退を頼まれていまして。我々だけではどうしようもできなくてねー、かといって逃げようとしたら全員打ち首とか言われて、困ってたんですよー。まぁ、でも!狼の集団を相手に余裕な皆さんでしたら楽勝ですよね!ばんざーい!」


 などと陽気に話すリッキーの言葉は途中から少しも耳に入ってこなかった。


 はぁ?モンスター?


 はぁ?撃退?


 ええ!?打ち首!?


 一難去ってまた一難である。

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