第2話 今それを言う必要があるかぁッーーーー!!?
「そういえば、この体の設定だとゲーム内で死んだプレイヤ―は現実世界でも死ぬデスゲーム式と、死んでもリスポーンするリヴァイブゲーム式がありますが、一体どっちでしょうな・・・」
現実のぽよぽよな体とは正反対のその筋骨隆々な男、マサムネがうーんと首を傾げて考える。勿論、走りながら。
「「今それを言う必要があるかぁッーーーー!!?」」
そんな馬鹿相手に俺とレイが大声で答える。無論、走りながら。
俺、レイ、マサムネの3人組は、このゲームに突如として起きた「ログアウトできない、元の世界に戻れない」という嬉しくも難儀な異常事態を確かめるべく、他のプレイヤーたちが集まるであろう中規模な街を目指していた。
しかしその道中、普段なら雑魚モンスターであるはずの狼に、しかもただの一匹に追われてこの有様である。勿論、勇猛かつ果敢な冒険者である我々はこんな狼ごときに遅れを取ることはない。
このゲームの初期のチュートリアルでは、このような狼3匹から襲われている村娘を見事に助けるという何ともカッコいい所業も華麗にこなしている。また、時たまこいつらは道中で勝手にこちらを襲い掛かってくることがあるので、いとも簡単にスイスイっと倒すこともしばしば。
つまりは、現実世界ではどうかは知らないが、とりあえずゲームにおいて狼なんて生き物は俺たちの敵ではないのである。
敵ではないのだが・・・。
ちらりと振り返ると後ろに見えるその獰猛な姿。
体の大きさは男性平均身長よりも小さいかぐらいであり、それに鋭利な爪と牙。それと敵意むき出しのあの野獣の眼。とにかく、どれをとっても恐ろしいことこの上ない。
そんな生き物が鼻息を荒くして、しかももの凄い速さで追いかけてきている。中学生の頃の帰り道、まだ純粋無垢だった俺を追いかけてきたあの不細工な野犬よりも、俺たちの後方を脅かすこの獣は遥かに恐ろしい。
こんなリアリティがゲームであるはずがない。どう見ても本物です。噛まれたら痛いとかではすまないと思います。本当にありがとうございました!
だが、冒険者3人に狼1匹、よくよく考えれば数はこちらの方が有利である。
ならば、俺が奴を足止めし、その隙にレイが矢を射て動きを鈍らせ、最後にマサムネがとどめを刺す。割と普段からゲームでやっているこの動き。完璧なコンビネーション、It's a perfect plan!なのだが・・・。
「お・・・俺が・・・あ、足を・・・ぜぇ・・・とめるから・・・・その・・・ぜぇ・・・」
「はぁ?何言ってんだ!きびきび走れ!!」
俺の口からはぜぇぜぇ言うばかりで、走りながらだと少しもこの完璧で華麗な作戦を伝えることができない。
かと言って。
「行くぞ!二人とも、俺に合わせろ!」
と1人振り返り、盾を構えて突進しても、あの馬鹿2人はそのまま走り続けるであろう。何なら俺の雄姿にすら気付かずに走り去り、奴らが俺の存在に気が付いた時には狼の胃の中であることは想像に難くない。
そんな恩知らずの馬鹿者たちに見せる雄姿はなく、泣く泣く走り続ける選択肢を選んでいるわけである。
断じて怖いからではない!
だがそんな中、地面から木の根っこが「 ヤァ!」とひょっこりと出ていたらしく、それに気が付いた瞬間には見事にすっ転んだ。
「ごわtyしkljghfがしたーーーーーーーーー!!?」
咄嗟に口から謎の呪文がこぼれたが何も起こらずに、とりあえず俺の世界は見事にゴロンゴロンと3転4転した。
その後、運よく道端の木にぶつかって止まった際に見えた世界はなぜか上下逆さまで、向こうから上下逆さまな狼が口を大きく開いて突進してきていた。
「うわぁあああぁぁぁぁッ!!!??」
もうダメかと思い、最後の手段で腕で顔を覆った。噛むなら腕を噛んでください!顔はやめて!あと、できれば甘嚙みでお願いします!!
「・・・あれ?」
しかし、いくら待ってもあの狼は噛みついてこない。決して噛まれたいわけではないが、なぜ噛みついてこないのかを確かめるために、恐る恐る両腕の隙間から上下逆さまな世界を覗いて見ると、あの狼は首に矢を受けバタンと倒れていた。
「た、助かった・・・?」
ほっと一安心していると、すぐにレイが駆け付けグイっと俺の体を起こしてくれ、上下逆さまだった世界がさらに逆さまになった。つまりは元に戻ったということだ。
「ありがとう、レイ、いや~、俺がおとりになってお前が冷静に狼を仕留める作戦に気づいてくれて、良かった。やっぱり頼りになるやつだぜ!」
そう爽やかにお礼をする。おまけに親指も立てて。
「あー・・・、悪いが今のは自分じゃない」
「へ?」
そう言うと、レイはくいっと首を傾けた。その先には大きな岩があり、その更に上には弓を持った青年がポツンと1人。
「あれ?あの矢はレイが撃ったんじゃないの?」
「いや、マサムネと同じで逃げるのに必死だった」
詫びる様子もなく素直に答えるレイ。どうやらこいつらは友人が死にかけたというのに何もしなかったのだ。何とも酷い連中である。
「なんだよ!もう!」
折角お礼を言って損した!そんな頼りにならないレイの腕を振り払い、俺の命を救ってくれたのであろう青年の下へ近づく。
「ありがとう!助かった!」
そう爽やかにお礼を言うと、青年も爽やかに微笑み構えた弓をしまった。どうやら彼とはいい友人になれそうだ。
すると青年はキラリと笑うと、下にいる俺たちに話しかけてきた。
「いいって!いいって!お互い様さ!たまたま見かけただけだし、それにまさか当たるとは思わなかった。そうだ、良ければ一緒について行っていいかな?俺1人でプレイしてて心細かったんだよね。何だか『チャット』も『転送』もできないしさ。あ、俺の名前はクウェ・・・」
しかし、彼が彼の名を述べる前に、彼は岩の上から俺たちの所へゴロンと落ち、その後動かなくなった。そして気が付くと、その彼の首は何者かによってポキリとあらぬ方向に曲げられていた。
なんと、いい友人は一瞬にしていい故人になってしまった。
しかし、彼は飛び降りたのではない、突き落とされたのだ。では、一体どこの誰に?
そんな謎の答えは、彼の背中の上に1匹、我々の周りに3匹いた。
狼だ。群れた狼たちが彼ならず、俺たちの命までもその鋭い目で狙っている。
「お、おいおい・・・」
俺たちはすぐに背中合わせになり、その場に立ち尽くした。
どうやら狼はあの1匹ではなかったのだ。俺たちを追いかけた1匹が追い込み役、そしてここにいる4匹が仕留める役であったのだろう。
しかも、唸るその狼たちはぐるぐると俺たちの周りをゆっくりと歩きだし、だが確実にじりじりとその歩幅を近づけてきた。どうやら彼らに俺たちを逃がすつもりはない様だ。確かに、彼1人分ではここにいる4匹の腹は満たされないだろう。
できるなら、奴らも1匹で1人を豪華に食べたいのだろう。
だが、そんな絶対絶命の中、マサムネがふと口を開いた。
「さ、さっきの戦いで分かったことがあるぞよ」
「「!!」」
俺もレイも無言でそのマサムネの言葉に耳を傾け、意識を集中する。
先ほどの狼との一戦(俺おとり役)を傍から見ていたマサムネだからこそ、何か分かったことがあるのかもしれない。その何かがこの場を乗り切る一手になると信じて、マサムネの言葉を心して待つ。
「つまり」
「「つまり?」」
「プレイヤーは」
「「プレイヤーは?」」
「やっぱり死ぬんだよぉ!」
「「今それを言う必要があるかぁッーーーー!!?」」
俺たちの叫びが再びこだまする。
どうやら、ゲームが始まって早々に窮地に立たされた俺たちである。
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