第37話 的中

 メリッサは、昔からこういう奴だったな。


「子犬をいじめちゃ、駄目ー!!」

 色んな面倒事に首を突っ込んでは、解決出来たり、出来なかったり。

 僕も何回か、手助けしたことがあったっけ。

 彼女は、子供の頃から可愛かったからな!

「ありがとう、ロイン」

 どういたしましてと、僕。

 その笑顔を見られるなら、喜んで。

 だが今回は、それだけじゃなかった。

「……でも、駄目だよね。このままじゃ」

 彼女はそう言って、表情を変えた。

 うまくは言えないが、とても強い顔だと思う。きゃわいいぜ。


「あたし、もっと強くなるっ!!」


「……強くなりすぎだと、思うんですよ」

 地に落ちた、五人のチンピラ。体格が良いのが、二人。

 完膚なきまでに叩きのめされた奴等を見て、僕は思わず言ってしまった。

 それほどまでに、圧倒的だったからな……。僕が介入する余地、なし。

 勝てる気がしない。戦いたくもないけど。

「まだまだね、あたしも」

 平然と男達を殺戮しておきながら、彼女はやれやれと首を振り、不満気だ。

 更なる強さを求めるか……。やばいな、このままでは……!

(……気軽に絡めなくなるぜ!ちょっとアウトローな発言しただけでも、殺されかねない。デンジャラス!)

 まあ、それでも突っ込んじゃうのが僕なんですけど。

 彼女が魅力的なのが、悪いんだよなぁ。うんうん。

「……さてっと」 

 メリッサは、絡まれていた黒髪美女様に近づき、話しかけた。

「怪我はありませんか?うちの学院の生徒が、失礼をしました。ごめんなさい!」

 美しき光の、並ぶ光景……!目が焼かれかねない……!だが、スケッチしたい!!猛烈に、描きたい!!

「……怪我はないです。助かりました。ありがとうございます」

 平坦な声で言い、謎の美女は少し頭を下げた。

 そんな他愛ない動作ですら、何故か特別なものを感じてしまう。

(彼女、一体なにもの)

 この学院の生徒では、ないだろう。

 これほどの美女を、僕が見逃す筈がないんだぜ。美女ランキングのトップ達ともやり合える、ハイスペック。

「……この学院の生徒、じゃないわね。入学希望者ですか?」

 問いは何気なく。

 メリッサも見覚えはないか。

「いいえ、違います。用事の帰りに、気まぐれで立ち寄っただけですよ」

 用事の帰り?

 ……よく見ると、左手に小さい袋を持っているな。買い物帰り……食い物かね。

「そうですか……」

 少しがっかりした風の、メリッサ。安堵しているように見えるのも、気のせいではないんだろう。

 入学希望の娘にあんな体験させるとは、最悪すぎんぜ。

「……それでは、私はこれで」

「あっ、はい!帰り道、お気をつけてっ!」

「ええ」

 黒髪不思議系美女様は、僕達に華麗に背を向け、歩き去っていく。

(黒いキャミソール……見える背中。素晴らしい)

 美女は、やはり後ろ姿も美しく、僕の心は縦横無尽に飛び回っていた。

(スケッチ……頼めば良かったかな……)

 僕の趣味の一つ、美女ランキング(メイ以外、全員、一位)の作成……。その為に絵を描かせてもらうのだが、遠慮せず見ることができるので、僕としては至福の一時だ。

(いや、流石に時間がないな。それに……)

 なんか彼女は、危険な感じがした。

 そんな事を頼んだら、次の瞬間には首をへし折られていそうな……心臓を抜き取られていそうな……危険な気配。

 ……それは考えすぎだろ、僕。どこの悪の親玉だよって。

 僕が見るに彼女は、大人しくて内気で読書が好きで、茶髪の頼れる男が好きな、そんな天使だ。間違いないね。


「……助け、いらなかったかも」

「はっ?」

 事が終わり校舎に戻ろうとしたメリッサが、すれ違う時にそんな事を言った。

「どういう意味だよ」

「……ただの勘よ。忘れてちょうだい」

 微妙に気になることを口にした後、彼女は直進して右に曲がり、校門の向こうに消えていった。

 意味は分からんが、気にしてる場合じゃない。

「今度こそ。ノンストップだ!」

 勢いよく腕を振り、走り出す。

 騒がしかった一日も、本当にこれで最後だ。

 今日は、ある決意をした日でもある。

(ゴンザレスへの、リベンジ)

 きっと、スカイラウンドで奴と戦うことになるだろう。

 歓声を受けながら、対峙する僕と奴。

 戦い、火花を散らし、奴を越える。そうなる時は、決勝が望ましい。

 それこそが王道。一対一で、純粋に戦う。

(わくわくしてきた。やっぱな。こういうのはな。思い描いちゃうよな!奴じゃないけどさ!)

 奴を倒し、優勝して、その後は……。


「スカイラウンドで、優勝したら良いよ」


 約束。

 子供の頃のもんだが、彼女は覚えてくれていた。

 ちゃんと確認も済んだし。

(やってやるっ!!絶対にっ!!)

 決意を新たに、僕は険しい道を走り出した。

 その先に待っているものは、まだ分からない。

 それでも、走るしかないんだ。落ちこぼれの僕には。


●■▲


「……余計ね」

 左手には、図書館で借りた本。

 私は、森の中を歩きながら呟く。呟きの意味は、先程のやり取り。

(せっかく、遊ぶ理由ができたのに……。残念。丁度良い弱者だった、彼等は)

 いつもの玩具遊び。

 それが、もう少しの所で、玩具を没収されてしまった。

 お節介な、誰かさんの所為で。

(あの人……)

 橙色の髪に、花色の目。強気な顔つき。

 凛とした佇まいは、なんとも力強い。頼れる女傑というのだろうか、ああいうのが。

 しかし、玩具としては失敗作ね。彼女は、少し強すぎる。

(後ろの人は)

 ぎりぎり、駄目か、行けるか。

 なんとも微妙なライン、無能の匂いはするのだけれど。

 ……それ以上に、どこかのアホに似ている気がするのが、興味を惹かれる。


【玩具遊び!?ただの、弱い者いじめじゃないか!!流石の俺でも引くわ!!】


(ちょっと、イライラしてきた。アホのアホ発言を思い出したら)

 そういえばあのアホは、この国に友達がいるとか言っていた。


【入国審査はともかく……住には当てがある】


 確か茶髪で……。

(茶髪、あの男も茶。そして同じ特徴のない外見・無能感。ここから導き出される結論は)

 

「まさかね」


 ●■▲


「はっ!ほっ!はっ!」

 学校裏の広い森の中を、息を乱しながら走る僕。

 なんだかんだで面倒事に関わっていたら、大分遅くなってしまった。

(少し、暗いな。気を付けるか。ちょっと)

 森の中は薄暗く、少々視界が悪い。

 この森に多数生える光星樹の輝きが、点々と見える。

(まあ、ゴリラに出くわすことはねぇだろうが)

 あんな体験は、二度はないだろう。あってたまるかよ。

 美少女ではなく、ゴリラに出くわしたなんてよ!

(いきなり現れた、才獣か)

 あれは一体、なんだったんだ?

 ゴンザレスは疑っていたが、まさか本当に夢かなにかなのか。

(才獣……といえば)

 最近、才獣の乱獲を行う犯罪組織が目立っている気がする。

 リーダーの顔が、とうとう判明したとかなんとか。

 捕縛、もしくは仕留めれば、国から賞金が出るとか聞いたような気もする。

(関係……あんのかね)

 あるんだろうな。

 改めて、あの時の話を聞かれたし。戦士団の人達に。

(正直、それよりも、大会の方が重要だ)

 そうだ。

 僕は現在、ゴンザレス打破に燃えているわけで、構う余裕はない。よく分からない組織なんかに。

(ダチ公二人も、大会に向けて調整に入ってるしな。僕も頑張らないと)

 少なくとも、今の状況では。

「ふっ!!はっ!!」

 ちょっとした不安感を感じながら、目指す場所は変わらず。

 崖の上に建つ、僕のホームへ走り抜く。

「……不安」

 しかし妙だ、この気持ち。

 なんかホームに帰ったら、恐ろしいことが待ち受けているような。

 更なる、イベントが発生するような。

「……なんでや」

 ありえへんやろ。そんな色々な事が起きるなんて。

 イベント盛りだくさん、なんて。

「……」

 

 否定できないのは、あのゴリラのせいや。

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