先輩と妹とスタバ

「お兄ちゃん、スタバに行きたい」

 休日の朝のことである。朝食を食べ終え、自室で小説を読んでいると、すこしゆっくり目にノックがされた。

 読んでいた小説がちょうど良いシーンだったのだが、無視するわけにもいくまい。僕は小さくため息を吐いてから本を閉じて椅子から腰を上げる。

 扉を開けてみるとなにやら深刻そうな、その瞳に決意を宿した妹――佳菜かなが廊下に立っており、これはただごとじゃないと部屋に招き入れたのだが……その第一声がこれである。

「スタバ……?」

 問い直す僕に対して佳菜が『スタバも知らないの? お兄ちゃん』的な表情を浮かべる。いや、スタバぐらい知ってるよ。

「あのオシャレ系な人とか意識高い系の人がよく行く場所?」

 あとはMacBookとか持ってる人が窓辺でワーカーしてるイメージ。なんか他のメーカーとかだとバカにされそうな雰囲気ある。

「お兄ちゃんそれ偏見だよ……」

「え? 違うの? にしてもなんでスタバなんて行きたいのさ?」

 前から妹がスタバへ行くために魔法の修行(注文の練習)をしていたのは知っているが、なぜ行きたいのだろう。やはり中高生女子にとってはスタバに行けることが一種のステータスであったりするのだろうか。

「なんかスタバでかっこよく注文できたら凄いオシャレ感あるじゃん」

「お前さっき僕に偏見だって言ったの謝ってくんない?」

「そ、それじゃあお昼ご飯食べたら行こうね! じゃ!」

 そう言って颯爽と部屋から出て行く妹であった。

 はぁ、あいつは……。

 僕は佳菜が来たときと同様、小さくため息を吐くとさっきまで読んでいた小説を開いた。

 なんせ昼までに読み終わらなければならなくなってしまったからだ。


   ◇◆◇◆◇◆


「やり直し」

「なんで?」

「オシャレじゃない」

 ええ~? コーヒー飲みに行くだけだよね?

 確かに、佳菜の服装はいつもよりちょっとオシャレめかもしれない。軽くストライプの入ったYシャツに上からVネックのセーターを重ねており、ボトムスにはキュロットを履いていた。アイボリーのセーターとベージュのキュロットの色が落ち着いた雰囲気で、可愛さと大人っぽさを同時に醸し出している。

 キュロットの下には厚めのタイツも履いており、防寒対策はバッチリだと言えるだろう。この上にいつも学校に行くときに使っているPコートを羽織るようだ。

 ちなみに僕の服装はというと、ジーパンにパーカーというてきとうなものだったのだが、どうやら妹チェックを通過することはできなかったらしい。

 一度自室に戻り、クローゼットの前に立ち尽くす。

 うーん、オシャレ……オシャレねぇ。

 そもそも普段からオシャレに気を遣っていない人間にいきなりオシャレをしろと言われても無理があるのである。気持ちがオシャレになったからってクローゼットの中身が増えるわけでもあるまいし。

 まあ、かといってせっかく妹が頑張っているのだし、せめて妹の格好が浮かない程度にちゃんとした服装にすべきなのだろう。

 うーん、佳菜もセーターだったし、こっちもそれに合わせたりすると良いのかなぁ。

 そんなことを考えつつ持っている服の中でなんとかそれっぽい物を捻り出し、妹にOKを貰うことができた。

 あー、これでようやく出かけられる。

 なんで僕は妹とのおでかけにこんなに頑張っているのだろう。まるでデートである。

 でも、今回の服装は結構頑張ったし、今度先輩と出かけるときに着ていってみよう。もしかしたら褒めてくれるかもしれない。

 そう考えると、今回のスタバチャレンジも悪くないような気がしてきた。


   ◇◆◇◆◇◆


「…………」

「……どう、する?」

 佳菜は目を見開き、口は半開きになって唖然としていた。

 その目は信じられないようなものを見る目で店内を見回している。

 いや、もしかしたら僅かな希望にすがってもう一度よく探しているのかもしれない。僕だって何度も視線を動かした。せっかく電車に乗ってここまで来たというのに、こんなのあんまりだ。

 まさか、まさか……。

「まさか、席が一つも空いてないとは思わなかったな……」

 いや、正確に言うと、まったく空いていないという訳ではないのだ。四席ほど空いている、が……。

「どうしてもっていうなら僕はあっちでも構わないけど」

 そう言って視線を向けたのはテラス席である。

 しかし、すぐさま佳菜は首をブンブンと勢いよく横に振る。

 今日は風も強く、ここに来るまでも二人で寒い寒い言いながら来たのだ。あんなところでじっとしていたら風邪を引いてしまうだろう。

「……帰る」

「そっか……、んじゃ、また来ようか」

「うん」

 そして、僕と佳菜が半分自棄になりながら向かったのは僕と先輩がいつも使っている中高生御用達のファミレス、サイゼであった。

「は、はは……ここまで来てサイゼかぁ。電車に乗ってきた意味……」

 めっちゃ落ち込んでる……。

 まあそりゃそうである。電車代は往復では400円程度だが、それも中学生にとってはそこそこの金額である。

 仕方ない。デザートでもおごって機嫌を直して貰うとしよう。

 サイゼの中に入るとよく見る内装が僕らを出迎えてくれる。うん、やっぱりスタバよりサイゼの方が落ち着くなぁ。

「なんか、スタバってオシャレでいいんだけど、サイゼのほうが落ち着くよねぇ」

 佳菜が同じことを言ってくる。流石兄妹である。思考からしてオシャレじゃない。

 幸い、すぐに席に案内して貰うことができた。店員さんに二人用の席に案内されると、すぐ近くに見知った顔があった。

「先輩?」

「……ん? やあ、奇遇だね。まさか休日にも君に会えるとは思わなかったよ。今日は外に出て正解だったね」

 まるで息をするようにそんな歯の浮くセリフを言ったのは、僕の学校で変人として有名な先輩だった。

「ところでそちらの女性は? 君の彼女かな?」

 そう言いながら、その顔はニヤニヤと笑っていた。明らかに違うことを見越した表情である。

「彼女に見えます?」

「いや、僥倖ながら見えないよ」

「普通そこは『残念ながら』って言いません?」

「僥倖なのだから仕方ないだろう。私にとって君に彼女がいないことは喜ばしいことだ。でもデートしているようには見えるかな。ちょっと嫉妬する」

 そんな言葉をさりげなく会話に放り込むのはやめて欲しい。一瞬どう反応すれば良いのか困る……。

 しかし、僕のその困った表情こそが先輩が求めていたものらしく、先輩は満足そうに笑った。

「紹介して貰ってもいいかな?」

「え、ええ。僕の妹の佳菜です。で、こっちが――」

「あなたが『先輩』ね?」

 僕が佳菜に向かって先輩を紹介しようとしたら、それに被せるようにして、佳菜が一歩前に出た。

「おや、私のことを知っているのかい?」

「ええ、お兄ちゃんのことは大概知っているので。誰よりも」

「ほう?」

 そして先輩が楽しそうに笑う。

「ということは、君は私の家族を除いて私のことを一番よく知っているということになるかもしれないね」

「先輩、僕は?」

 確かに佳菜にはよく先輩の話をしているけども、さすがに僕より知っているということはない。

 佳菜も先輩の言葉がよく分からずぽかんとしていた。

「おっと、すまない。君を家族に勘定してしまうのは流石に早すぎたね。申し訳ない」

 いや、家族って……。それはちょっと早い遅い以前にね? 一応まだ付き合ってすらいませんよね?

「ふーん、そう来るんだ」

 ふんわりと和やかな表情をしている先輩に対して、佳菜はなぜか、先輩を睨みつけていた。お前なんでそんなに好戦的なんだ? なんか怖いんだけど……。

 とりあえず、先輩のテーブルと僕らのテーブルをくっつけ、僕らはドリンクバーとアイスを乗せたシナモンフォッカチオを頼む。

 フォッカチオというのはもちっとしたパンで、主食系かと思いきや、シナモンやアイスが乗っていることからも分かる通りデザートである。まあ、普通のフォッカチオもあるけど、僕はこのアイスの乗っかったやつの方が好きだ。

「んじゃ、飲み物取ってくる」

「うん、よろしくー」

 ちなみに先輩はもう入ってからしばらく経っている用で、テーブルには既に飲み物を取ってきていた。言うまでも無くカプチーノである。

 ちなみに僕も当然のことながらカプチーノ、佳菜にはブレンドにミルク二個と砂糖一本を持ってくる。

 うーん、なんか先行き怪しい気がするなぁ。

 まだお店に入った直後だというのに、手に持ったコーヒーには、疲れたような顔が映っていた。


   ◇◆◇◆◇◆


「なるほど。スタバ行っていたのか。しかし、人が満杯で入れなかったと。それは災難だったね」

「まさかあんなに混んでいると思いませんでしたからね」

 っていうか一瞬店内に入っただけだったけど、MacBook開いている人が目に入ってそれが一番びっくりした。スタバでMacいじってドヤるって本当だったんだな……。いや、あの人がドヤってたかどうか知らないけど、なんか顎に指をあてて真剣そうな顔してたしドヤってたんだろう。

「ああ、それで服装も少し頑張っているのか。なんで私と会うときはそういう格好をしないかな。結構似合ってるのに」

「やめてくださいよ、恥ずかしくなるじゃないですか」

 実際、頬が熱くなってくる。アイスでも食べて冷まそう。

 僕はフォッカチオに乗ってるアイスを口に含みながら先輩から目をそらした。

「へぇ、先輩はお兄ちゃんのこういうカッコ見たことないんだ?」

「ああ、初めてだね。こんな格好の彼とお出かけなんて楽しそうじゃないか」

「ふっふ~ん」

 あ、調子乗ってる。どうやら佳菜は先輩ができていないことを見つけて喜んでいるらしい。

 まあ確かに先輩はぱっと見完璧な人っぽい雰囲気を醸し出しているため、自分が勝っている部分を見つけられたりすると嬉しくなっちゃうのも分からなくはない。

 僕もポリフェノールの歌を歌っている先輩を知ったときは興奮したしね。

 でも妹よ。気をつけた方がいいぞ。

 だって先輩笑ってるもん。

 反撃する気満々で。ああ、先輩大人げない!

「そうだ♪」

 そんなまるでたまたま思いついたかのような口ぶりで、先輩が僕に話しかけてくる。

 えっ、こっちに振るの!?

「今度一緒にちょっとして出かけようじゃないか。君は今日のと同じような服装で来たまえ。私もそれに合った服を着てくるとしよう」

 そして、流れるように僕を誘ってくる。それってもはやデートのお誘いでは……?

「君だって、私の渾身のデート服……じゃなくてオシャレ服、見てみたくはないかい?」

「今普通にデートって言いましたよね!?」

「いやいや、ただ二人で軽くぶらつくだけだよ。で、どうかな?」

「まあ、行きますけど」

 先輩と出かけるの楽しいし。

 それに先輩のオシャレ服も見てみたい。

「むーっ」

 いや、だからなんでそんなにむくれてんの? コーヒーのおかわり注いできてやろうか?

「いらない。お兄ちゃんのちょうだい」

 へいへい。

 僕は自分が飲んでいたカプチーノを佳菜に渡してやると、佳菜はそれを勢いよく傾け飲み干した。

 いや、人の飲み切るなよ……。

「ふむ……、そういうのは私にはまだできないなぁ」

 先輩が何かを呟いていたが、妹の相手をしていたため、よく聞こえなかった。


   ◇◆◇◆◇◆


「そうだ。今からもう一度スタバに顔を出してみないかい?」

 サイゼから駅に向かっている途中、僕の左隣を歩いている先輩がそう提案してきた。

 もう日は沈みかけていて、そこそこ遅い時間だが……晩ご飯までにはまだ時間がある。

 それにあれから時間も経ったことだし、もしかしたら席が空いているかもしれない。

「どうする?」

 せっかくこうして来たのだ。最後にもう一度チャレンジしてみるというのもありなんじゃないだろうか。

 僕は先輩と反対側――右の方を歩く佳菜に聞いてみる。すると、佳菜は少し思案顔をしてから、

「……先輩、何か企んでる?」

 訝しげな顔で先輩の顔を見上げた。

「ぷっ、あははは! そうかそうか、何か企んでいるように見えるか。それはちょっと嬉しいなぁ」

「そこら辺は安心していいよ。先輩ってなんていうか有能そうだったり、策略家っぽい雰囲気出したりしてるけど、実際は結構ポンコツだから」

「むぅ……。もうちょっと言い方ってもんがあるだろう?」

 あ、先輩がちょっとむくれてる。

 うんうん。こういうところだよね。先輩のポンコツ感というか可愛いところというか。

「で、どうする? スタバにもっかい行ってみる?」

「うーん、うん……。行こう。せっかく練習したんだし」

 そうして、僕たち三人は駅の近くのスタバ――僕と佳菜が最初に入った店舗だ――に入る。

 暖かい店内にほっとするのもそこそこに、僕と佳菜はサッと店舗内を見回す。そのほとんどは埋まっていたが――

「あった!」

 僕も見つけた。奥の方の席がちょうど三席空いていた。

「僕、席取っときますね」

 本来は飲み物を買ってから行くべきなのだろうが、幸い他にレジに並んでいるお客さんもいなかったため、僕だけ先に座ることにした。これで佳菜もゆっくり選ぶことができるはずだ。

 そう一人安心しながら席で待っていたのだが、いつまで経っても佳菜はレジに近づこうとしない。視線はレジの上のメニューと手元を何度も行き来し、しかし、足は前に出なかった。

 荷物を置いて席から立ち上がり、佳菜へと近づいていくと、佳菜は縋るような目で僕を見てくる。

「きんちょうでいえない」

 あちゃー。緊張しちゃったかー。

 僕は佳菜が何度も練習していたことを知っている。でもそれでも緊張して言えなくなるとは……。すごいな、スタバ。まさかここまでハードルが高いとは思って無かった。

 佳菜の視線の先を見ると、頼もうとしているメニューは季節限定というやつで、なんかやたらめったら長い。確かにこれはキツい。僕も言える気がしなかった。

 ど、どうしたもんかなぁ。「右下のやつください」とかそういう言い方でも通じるのかなぁ。でも呪文詠唱もできない人間は客じゃねえ! って言われたらどうしよう……。

「お兄ちゃん。呪文詠唱ができないと注文できない……」

 僕と佳菜がうんうんと唸っていると先輩が横から佳菜の顔をのぞき込んだ。

「佳菜君が欲しいのはあのメニューであってるよね? あったかい方?」

「う、うん」

「うん。分かった」

 そう一言返すと、先輩はレジの方へと向かった。

 その横顔が一瞬、ニヤリと笑ったように見えた。

「バレンタインカスタマニアココを一つと……それからカプチーノを、二つで」

「はい、バレンタインカスタマニアココですねっ」

 先輩が一瞬何を言ったのかよく分からなかったが、どうやら呪文を詠唱したらしい。しかも、店員さんが呪文を返したところを見るに呪文詠唱は成功したようだ。

「トッピングはいかがなさいますか?」

「トッピング?」

「はい、こちら三種類がございます」

 トッピング!? あれだけ長い名前に更にトッピングもするの? 更に名前が長くなるじゃんか!

「へぇ。じゃあこのロマンティックっていうのにしようかな」

「サイズはどうしましょう?」

「えーっと……あれはそれぞれどれぐらいのサイズなのかな?」

 メニューにはサイズがあるのだが、Short, Tall, Grande, Ventiと微妙に分かるような分からないような言葉である。

 どうやらそれぞれカップを見せてくれたようで、先輩がそれらを見比べる。

「うーん、時間も時間だし……、ショートにしておこう。他に決めることはあるのかな?」

「いえ、ありがとうございます。あちらで少々お待ちください。

 オーダー入ります。ロマンティックカスタマニアココShortでお願いしまーす」

 そして、先輩は隣の待機場所に移り、澄ました顔で受け取る。

「先輩すごっ……」

 その堂々とした姿に、佳菜は小さくそう呟いていた。


   ◇◆◇◆◇◆


「おいしい~」

「ふむ、これがスタバのカプチーノか。ふむ、ミルクのコクとかが違うのか、なぁ……。あんまり変わらないような気もするけど……」

 そして先輩は先輩でさっきの格好良さはどこへやら、残念なことを言っていた。

 いや、まあ僕もよく分からないけど。うん、確かにコクとか違う気がする!(てきとう)

「でも、これで君も私をポンコツなんて呼べなくなったんじゃないかい?」

 うーん、そうだなぁ。

 僕は少し首を捻って考える素振りを見せてから、口の端を持ち上げた。

「それよりも良かったんですか? 先輩はカプチーノで。頼みたかったんでしょ? なんちゃらかんちゃらココ。練習の成果も出ていたみたいですし」

 僕はじんわりと染みこませるように言葉を重ねていくと、先輩はピクリと肩を揺らした。

 カップに口を付けながら上目遣いでこっちを見てくる。その頬は少しだけ赤くなっていた。

「なんで知ってる? 私は家でしか練習してなかったんだけど?」

 そう。家で練習していたのはなにも佳菜だけではなかったのである。先輩も同じようにあの季節限定メニューの練習をしていたのだ。

「まず第一に、先輩みたいな人があんな長い名前を初見で言えるとはとても思えませんし」

「それはちょっと酷いんじゃないかなぁ……」

「第二に、佳菜が頼もうとしているメニューを知ったとき、笑ってましたよね。あれはきちんと言える自信があったってことでしょう?

 それから最後、先輩、カプチーノにするか限定メニューにするか一瞬迷いましたよね?」

 限定メニューはよどみなく言えた先輩なのに、なぜかカプチーノを頼む前後に少しだけ間が空いていた。

 他のコーヒーならいざ知らず、先輩がカプチーノに迷うなんてものは中々あることではない。

「君もよく見ているねぇ。なに? 私のことが好きなのかい?」

「少なくとも、見ていて飽きないと思うぐらいには好きですよ。

 にしても、本当によかったんですか? カプチーノで」

「まあちょっとだけ後悔してるかな。私もあっちにすればよかったかな」

 そう言ってチラと佳菜の方を見る先輩。佳菜の方はなんちゃらココに夢中でこっちに気づいていないようだ。

「まあ、だから――」

 そうして先輩の顔が一気に僕の顔へと近づく。



「今度は、デートで来ようね」



 そのとろけるような声を耳元で囁かれ、僕は一瞬固まってしまった。

 その音自体はすぐに消えてしまったはずなのに、こそばゆい感覚が耳の辺りにいつまでも残っている。

 先輩はすぐに僕の耳から顔を離し、何事も無かったかのようにカプチーノを口に運んだ。

「んー! 先輩、お兄ちゃんにあんまりくっつかないでよ!」

 妹の声に意識を取り戻した僕は次第に顔が赤くなるのを感じた。それに耳。耳の先が暑い。

「いいじゃないか、それを頼んであげたんだから」

「それとこれとは別だもん」

 先輩と佳菜がそんな言い合いをしているのを見ながら、僕は落ち着こうとカップに口をつける。

 少し冷めて飲みやすくなったカプチーノは、砂糖は入ってないはずなのに少しだけ甘かった。


   〈了〉

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