第27話 共闘
「あ、ああ。お前のおかげで」
「聞きたい事は沢山あるかもしれないけど、まずは悪魔を倒すのが先決」
「待て。エクシスを使ったという事は、記憶を捧げたって事だよな? 俺のためだとは思うが、これ以上はやめてくれ。俺はレアの記憶を守るためにここにいるんだから」
「……やめない」
「なんでだ」
「タクトに記憶を失ってほしくないから」
「俺のことはいいんだ。記憶を失う覚悟を背負って戦ってるんだから」
「わたしが嫌なの」
首を縦に振りそうにない。
聞きたいことは山ほどあるが、レアの言う通りまずは悪魔を倒さなければならない。レアを納得させつつ安全圏へ送り込まないと。
「この頑固ものめ。どちらにせよ捧げた記憶は戻ってこない。捧げた血と記憶の持続時間は?」
「もってあと一〇分」
「短いな。エクシスを同時に二つ使用する分稼働時間が短くなってるってところか。分かった。後一〇分は一緒に戦おう。それが終わったらマニュアルに従ってこの場から離脱する。いいな?」
エクシスの同時使用。今まで見たことも聞いたこともない。それだけ消耗が激しいだろうから長時間戦わせるわけにはいかない。
「つまり残りの悪魔を一〇分で片づければいいって事ね」
「それはそうだが、もし倒しきれなかった場合は戦闘を続けさせないぞっていう意味で」
レアは了承する素振りを見せないまま俺の後ろに回り込み、背中を合わせてきた。
俺たちが最近ハマっていた小説に、主人公とヒロインが背中合わせになって共闘するシーンがあって、それを模したのだろう。
しょうがないやつだ。これは何としてでも一〇分以内に戦闘を終わらせないと。
「タクトはグレード3をお願い。グレード2、1はわたしがやる。その方が効率がいい」
「根拠は?」
「わたしの能力が、身体強化特化型だから。わたしが道をひらき、タクトが遠距離から攻撃」
レアは先程すさまじい速さで俺の周りの決して少なくはない数の悪魔を消してみせた。それほどの力があれば作戦を難なくこなせるだろう。
「了解した。くれぐれも記憶を奪われないように。危なくなったらすぐ援護する」
「分かった」
レアの返事を合図に、俺たちは山道にひしめく悪魔たちの群に身を投じた。
俺は背の高い第三番・ジラフ型に的を絞って刃を飛ばす。
レアの戦闘を視界の端で確認したが……。
間違いなくトップクラスの想起兵だ。
能力らしい能力は見られず、ただエクシスで斬りつけているだけだが、問題は速さ。
俺が今まで見てきた中で断トツに速い。
推測だがレアに発現している能力は、身体強化の上位互換のようなものだろう。移動速度、跳躍、斬撃、どれをとっても速い。速すぎる。
これなら負ける気がしない。本当に一〇分足らずで戦闘が終わってしまいそうだ。
即席にも関わらずレアとの連携は上手くいき、効率よく悪魔を消していった結果。
僅か五分で纖滅に成功した。
戦闘を終え、大きく息を吐いていたレアに声をかける。
「やったな」
「うん。なんとか一〇分以内に倒せた。タクトのおかげ」
「それはこっちのセリフだ。レアがこんなに強かったなんて」
「エクシスを使うのははじめてだったけど、上手く出来たようでよかった」
エクシスを使うのははじめて、だと。なら正規の訓練を受けたら今以上に強くなるって事か。
発現した強力な能力と、それを使いこなす才能。
末恐ろしいな。日本、いや、世界一の想起兵になれるかもしれないダイヤの原石。
だが、これから先レアにエクシスを握らせるわけにはいかない。レアの代わりに俺がエクシスを振るう。今後、レアの記憶を失わせる事がないように。
そう、決意した矢先に。
レアの顔が一瞬で俺の目の前に現れて。
風切り音とともにかき消えた。
そこまで知覚したところで背中に強烈な衝撃を受け、肺から空気が絞り出される。
一、二秒間頭の中が真っ白になった。軽く脳震盪を起こしたらしい。
目を開けて状況を確認してはじめて、レアに突き飛ばされたのだと分かった。
レアは、さっきまで俺がいた場所に飛来した第四番・スワロー型を斬り刻み。
レアの背後から飛来したもう一体に、接触を許した。
さきほどとは違う意味で、頭の中が真っ白になった。
レアの記憶を喰った第四番・スワロー型はレアと重なって数秒間静止した後、悶え苦しむかのように身体を震わせ、消滅した。
レアの体質。記憶を奪った悪魔を、殺す。
記憶を奪われたレアは、糸が切れた人形のように後ろに倒れ込む。
多くの記憶を奪われた際に生じる事がある意識障害。しばらくは目を覚まさない。
俺はすぐさま駆け出し、地面に倒れ込む直前にレアの身体を支えた。
そのままゆっくりとレアを横たえ、冷静に周囲を見回し、新たに出現した悪魔がいないか探る。
今は心を消し、さらなる被害を防ぐ。地上にはもう悪魔の姿は見あたらない。
上空には第四番・スワロー型が、あと二体。
先行した二体が倒されたのを見ても臆する事なく、既に降下準備に入っている。
強化された感覚器官をフル稼働させ、射程範囲内に入った瞬間に、エクシスを二振りして刃を飛ばす。
角度、相手の落下スピードを加味して放った刃。
挟み込むように上空から襲いかかってきた悪魔は俺たちに到達する前に、くちばしから尾まできれいに真っ二つになった。
倒しても油断せず再び警戒。視線を絶えず動かし、悪魔の出現に備える。
警戒態勢を解かないまま一〇分、二〇分と経ったところで、俺の耳がヘリの飛行する音を捕らえた。
援軍だ。
屋敷の屋上にあるヘリポートに着陸したヘリから数人の想起兵とアリアが降りてくる。俺は未だ意識を失い続けているレアを抱えて、アリアの元へ向かった。
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