第8話 戦闘開始
お互いそう言葉を掛け合ってから、散開。それぞれのターゲットを目指して駆け出す。
足を動かしながら、自らの腕にナイフを走らせる。
エクシスのアッシュグレイの剣身に、俺の血液が染み込んでいく。
十分な量を吸わせてから、胸の前で十字を切る。
「っ!」
身体から、物体ではない何かが抜けていく感覚。
今この瞬間、俺の記憶が、エクシスに捧げられた。
どの記憶が消えたか、それは分からない。
慣れないな、この感覚。どうにも気持ちが悪い。
でもこの感覚によって、エクシスが正常に起動した事が証明された。これで、戦える。
エクシスの特性は二つある。一つは、マクスウェルの悪魔に触れる事ができるようになるというもの。そしてもう一つは、この世ならざる能力を使用者に付与する、というもの。
悪魔との距離を目で測りながら射程圏内に入るのを待つ。
悪魔がこちらに気づき、のっそりと振り返ったところで、俺はエクシスを振るった。
瞬間、刃の部分から斬撃が飛ぶ。
視認できないその衝撃波は、本体に深々と傷をつけた。
悪魔はその不意打ちに怯み、数秒動きを止める。その数秒の間にさらに二撃、三撃と重ねる。
ファーストアタックとしては上出来だ。後は触手による攻撃を常に警戒しつつ隙を見て斬撃を加えていく。
俺に発現した能力は、斬撃延長。俺は勝手に斬撃波と呼んでいる。開発者曰くこの能力は単純に衝撃波を飛ばしているのではなく、ナイフとしての斬れ味を通常あり得ないレベルにまで高める事によって遠くの物体を斬る事ができているのだそうだ。単純な衝撃波なら実体の無いマクスウェルの悪魔を通過してしまうはずだが、実際に悪魔を斬れているのが衝撃波イコール斬撃の延長である証、だとかなんとか長々と説明されたが俺にはよく分からなかった。説明ももっと長くて難解なものだったしな。
それに加え身体能力の向上。こちらはまだ仕組みが解明されていなくて現在調査中との事。筋肉を賦活させるだとか体内のナトリウムとカリウムの動きを調節して神経の伝導速度を高めているだとか推論はいくつもあるらしい。ちなみにこの身体強化は程度の差こそあれすべてのエクシス使用者に発現する。ランクの低いエクシスはこの能力しか発現できない事が多く、ランクが上がる事によりもう一つ能力が発現するそうだ。
とにかくこの斬撃延長という能力は対悪魔戦においてこの上なく有用なものだ。エクシスはすべて近接武器の形をしており、実際に悪魔に肉薄しなければ攻撃を加える事ができない。エクシスの能力によっては数秒間浮遊できたり視覚や、いわゆる第六感の働きを強めて攻撃を予測できたりするらしいが、それでも直接エクシスで攻撃を加えなければならないという制約からは逃れられない。
その制約から外れたのがこのエクシスだ。離れた場所から攻撃できるのは、遠距離攻撃ができない悪魔にとって大きなアドバンテージとなる。
だから今もこうやって悪魔側に対して優位に戦闘を進められる。
強化された反射神経によって迫り来る触手にいち早く気づき、斬り捨てる。スライム型は一定数の触手を常に維持しているためどれだけ斬っても減ることはないから随時対応していくしかない。
触手の動きはそこそこ速いものの本体の動きは遅いため、触手に対応できてさえいれば本体に攻撃を加えるのは容易。そのためスライム型は倒しやすいと言われている。出現数が最も多いため戦い方が確立されているというのも大きい。集団だったら触手が生えるそばから斬り落とす係と、本体を攻撃する係がいれば被害を最小限に抑えられる。
ニシキだけじゃなく他にも数人残っていてくれればもっと楽に倒せたのに。
なんてボヤいても仕方がないよな。俺はいつも通りやるだけだ。
余計な思考をカットし、淡々と戦闘を進めていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます