第4話 森での再会

誰もいないはずだった。

そこには、誰もいないはずだった。

しかし先客がいた。



ふたりは

恐怖に震えた。



別に悪いことを

しているわけだはないが、

この時間、

このような場所で

会っていたとなると、

それだけで

首が飛びはねかねない。



それほど統治神“シ”は、

噂に対して

敏感になっていた。



新しい女神は、

あの偉大な統治神“シ”の目を盗み、

恋人をつくり

秘かにあっていた・・・

と云う偽りの噂が流れていた。



すでに覚醒していながら、

皆の期待を裏切り、

覚醒の事実を

隠しづつけていたのは、

そのためだ。

あのものをこの宇宙の

守護女神に迎え入れることは

できない・・・

と一部のものが、

騒ぎ始めていた。



アシュラは統治神“シ”の前に

連れて行かれ、

「なぜ覚醒を隠したのだ?

統治神“シ”に説明せよ」

と家臣の者たちに

責められた。



「女神になる自信がなかったのです」

と素直に告白しても、

それは許されなかった。

その答えは認められなかった。

その急先鋒は、

美の女神アフロディーテの

兄だった。



慈悲深い“シ”は、

家臣に責められ

うなだれているアシュラを見て、

可哀そうに思ったが、

「私をお捨てください」

と云うアシュラの願いは、

聞き入れられなかった。



明日の結婚式を控えて、

アシュラは父と母に

別れを告げるために、

戻ってきていたのだが、

最後の自由な夜に

ヨハネとともに、

二人が子供のころ

毎日のように

フォースを放ち

操る練習をした

あの森へ出かけた。



そして突然、現れた人影。

ふたりは恐怖に震えた。

月明かりに

照らし出された

その横顔は、しかし

アシュラには見覚えがあった。



ある意味、あの日からずっと

待ちづづけていた

名前も知らない

フォースを与えてくれた

恩人だった。



アシュラは

はやる心を抑えきれず

恩人である若者のもとへ

知らないうちに

歩を進めていた。

そしてその時、

後ろから

アシュラの胸を

フォースの矢が

貫いた。



ヨハネは驚いて

後ろを振り向き、

フォースが放たれた方角を見た。

そこには

宮殿の親衛隊を引き連れた

アフロディーテの兄

ネロが立っていた。



「ついに正体を現したな、

この女ギツネめ。

王を裏切り、闇にまぎれて

どうどうと

愛人と逢引を重ねるとは

見下げたやからだ。

お前のようなものは、

愛人ともども

成敗してくれるわ!」

と言い放つと、

先ほどの何倍もの

フォースの矢を

アシュラに向かって

放った。



しかし、そのあと

フォースの火柱に包まれたのは、

アシュラではなく

ネロと親衛隊のほうだった。


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