第10話告げる想い

 僕は赤くなって俯いている、君の顔をみつめた。


「今まで、ずっといらいらさせてきてごめんね。でも、僕はミキとずっと一緒にいたいんだ」


 君はバッと僕の肩を両手でつかみ、顔をブンブン横に振った。


「違うの、智のせいじゃないの! 拗れてから、どうやって接したらいいか分からなくて。それで……」


 こんなに感情を顕にするのを初めて見た。僕は戸惑いながらも想いを告げる。


「君のたまに見せる笑顔が好きだ。それが君の本質だと思うから」


 君はぎこちない笑顔を見せて、テーブルの上の婚姻届けをカバンにしまった。多分前向きに考えてくれるだろう。久しぶりに僕に向けてくれた笑顔がそう感じさせてくれた。


 君がこんな僕でも一緒にいてくれた理由を知りたかったが、尋ねるのをやめた。その答えは単純なものかもしれないし、何か深いものかもしれない。どちらにしろ、多分今は答えてはくれないだろう。


 濃厚で食欲を刺激する匂いが漂ってきた。もう少しで料理も出来上がる。料理だって美味しくするにはある程度の時間がかかる。僕が答えを聞けるのには、きっとある程度の時間が必要だろう。いや、ひょっとしたら聞けないかも。でも、時間はたっぷりとあるはずだ。君のたまに見せる笑顔を楽しみながら、それまでゆっくりと待てばいい。


「ニャアー」


 僕の想いに同意してくれてるように、猫が一声鳴いた。


「そうだ。この子のために煙草もやめようか。とりあえず、家の中ではね」


 優しく猫を撫でながら、君はこくんと頷いた。


 僕にきっかけをくれた猫を見る。この子に名前はまだない。

まあ、二人でゆっくりと考えるさ。

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きっかけ一つで言えることもあるさ 九丸(ひさまる) @gonzalo

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