第9話今さらだけど

 まあ、そうだよねと思いつつ、僕はソファーの君の側に腰を下ろした。


 ハッと我に返った君は、顔を赤くしてそっぽを向いた。


 そんな可愛らしい君に、僕は語りかける。


「一緒に暮らさないか? もちろん結婚を前提に」


 君はゆっくりと僕の方にポカンとした顔を向けた。


「僕は君と一緒にいられるなら、結婚なんて形だけのものはどうでも良かった。紙一枚で幸せになるなんて言う人もいるけど信じられなかった。でも、このままじゃあ、僕たちは終わってしまう」


 僕が好きな、君のたまに見せる笑顔が見れないなら、僕の結婚に対する考えなんてどうでも良かった。いくらでも捨てられる。気づくのにだいぶ時間はかかったけど。


 僕はジーンズのポケットから、折り畳んだ一枚の紙を出し、テーブルに広げて置いた。


「婚姻届けをもらってきたんだ。僕の欄は記入してある。受けてもらえるなら、君のタイミングで出してくれて構わない。だから、まだ間に合うなら、一緒に暮らそう。お願いだ、ミキ」


 お互いの両親にも話してないのに、なんとも気の早いことだとは思うが、気持ちだけでも先に伝えておきたかった。


「猫は……」


 君の意外なボソッとした呟きに、僕は驚いた。


「もちろん一緒だよ。きっと僕らにはこの子が必要なんだ。これで気を惹こうと思ったのは否定しないけど、僕も見てたら愛着が湧いてね。なんか君に似てるんだよね、この子」


 そう。似てたんだ。不器用っぽくて、愛想も振り撒けないところが。


「わたしも同じこと思ってた。智になんか似てる」


 ん? 僕に似てる?


「えーっと、因みにどのへんが……?」


「顔とか外見とか雰囲気が」


 そうか。僕に似ているのか。お互いに似ていると思ってたのなら、やはりこの猫は僕らに出会うべくして出会ったのだろう。


 それにしても、久しぶりにまともな会話をしている。そのせいか、照れながら答える君の顔にドキドキしてしまう。


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