第8話君のために作る料理

 部屋に入って君がソファーに座ると、猫はぴょんと飛び乗り、側で横になって毛繕いを始めた。


 僕には見向きもしない猫に、若干の不満を感じつつ、「今日は僕が作るから、まあ、ゆっくりと猫と遊んでなよ」と言い、キッチンに向かう。


 横目でチラリと君を見ると、恐る恐る猫の頭を撫でていた。


 久しぶりに君のために作る料理。僕は、これからの展開に対する緊張を和らげようと、聞いてはいないだろうことも分かってはいるが、解説をしながら料理を作り始めた。


「先ずは牛肉を大きめの塊に切り、オリーブオイルとニンニクで、表面にさっと焦げ目をつける。ニンニクを焦がさないように、最初は弱火で香りをオイルに移し、そのあとに強火にして塩胡椒した牛肉を投入! ここでは、表面は焼くけど、中は超レアに。フライパンを下ろし、別鍋にオリーブオイルを熱して、玉ねぎのみじん切りを投入! 飴色玉ねぎを作る。ここで裏技。弱火でじっくりなんてまどろっこしい。そんなあなたにはこの方法を! 塩を少し入れ、強火でかき混ぜながら、水分が飛んだらお湯を少量加える。これを繰り返していくと、あら不思議。飴色玉ねぎが時短でできます。しかも焦げない!」


 ニンニク、牛肉、玉ねぎに火が通って、部屋に食欲をそそる匂いが漂い始める。それに触発されるように、僕も段々熱が入ってきた。


「飴色玉ねぎができたら、乱切りにした人参も入れて軽く炒め、ざっくりと潰したホールトマトを投入! 一緒に甘口のシェリーも投入! 煮立てて、アルコールを飛ばします。ここで、一旦鍋を冷ます。感覚的には八十度くらいまでに。そこに牛肉投入! 塩で味を決めて、半分にちぎったローリエを入れる。落し蓋をして、超弱火で一時間位煮込む。アクは取らない。アクも旨味と知れ! 決して煮立てないように。これで柔らか牛肉のシェリー煮込の完成です!」


 僕の独りよがりな解説が終わり、後ろを振り向くと、猫の腹に顔を埋めてもふもふしている君が見えた。

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