第14羽 廃村での戦い

 結界に守られた、十四月の町。

 今、ウサギたちが暮らせている場所。


 魔王クワの魔物たちが現れる前は、当然十四の町の外にもうさぎたちの暮らす村々があったそうだ。


 それも今は……


 廃村。


 人、いや、うさぎたちの居なくなった村、そこに今、私たちは居る。


「おりゃあぁあああ!!」

 気合と雄叫びを上げ、『神杵しんしょ 望月もちづき』を振るう。

 私は荒れた畑、朽ちた家々の間を駆け抜けている。


 この廃村に着く前にも、いくつかの荒れ果てた村の中を、同じように駆け回っていた。


 私たちは、魔王クワの巣に行く道すがら数を減らすため魔物退治もしているのだけれど、廃村の様子も確認して回っているんだ。


 案の定、どの廃村には魔物が居た、数匹から十数匹。

 別に群れている訳ではなく、ただ留まっている。


「ぶぅごおおおお!」

 大口を開け奇妙な唸り声を上げ、魔物の丸太の様なグネグネとした腕が、二度三度と私に振るわれる。

 軽くステップを踏むように魔物の腕を避け、魔物の側に潜り込むと、私の振るう望月が襲いかかって来る魔物の腹に炸裂する。


 ドスン! と鈍い音を立てて望月が当たると、魔物がまとっている黒い霧(魔王の力? らしい)が消し飛んでいく。


 魔物は腹を渦を巻くクレーター状にベッコリ凹み、耳障りなうめき声を上げそれでも襲いかかって来るが。


「ふんぬ!!」

 私は足を踏ん張り、身体中に力を込めると、望月を跳ね上げて魔物を放り上げた。


「ちりちり! 炎華! ぽん!!」

 間髪入れず、椿の可愛らしい声が聞こえると、望月に突かれた魔物が炎に包まれ、あっと言う間に灰になっていく。


 椿の得意な術は”火”、と言うか”熱”らしい、超高熱の塊を飛ばしたり、対象物の温度を上げたり、本人は「煮炊きに便利なのです」と言っていた。


「次! 右! 来るぞ!」

 杏の声がする。

 私のフォローをするのに、後ろから付かず離れず付いてくれる。

 杏は”風”術で廃村中の魔物を把握しているそうだ。


 私の右手の方からボフンボフンと七本足の何かが走ってきている。

 何のぬいぐるみだろ? まぁいいっか。


「了解! うりゃぁぁあああぁ!!」

 そいつに向って素早く走りこむと、望月を横殴りに振るい足払いをかけて吹き飛ばす。

 勢いがついてるせいか、グルグルと回りながら飛んでいく。


「閃光!」

 桔梗の声と共に、魔物の身体に数個の光が明滅すると、こちらもあっと言う間に灰になって消えうせた。


 これは桔梗の得意な”光”術、特殊な物らしくて桔梗以外は使えないらしい。

 本人は「使い勝手が悪くてな……」なんて言っているけど、兎世界最強にして最速の術師って事だね。


 残りの二羽、胡桃と蘭は馬車で留守ば……いや、馬車を守って待機中なのだ。


「梨乃! 残り一匹はこっちだ」

 杏の声がする。

「わかった!」

 返事と共に走り出す。


 杏の向ってる先は、おそらくこの廃村の中心くらいだろうか。

 風のように走り出し、目的の場所についた私たちの前に姿を見せたのは、大きな体をゆすりこちらを妙な声で威嚇する魔物の姿だった。


「に”ぎゃぉぉおおおおん!!!」

 えぇっと……。


「ナニあれ?」

「さぁ?」

 私と杏は顔を見合わせて、首をかしげて声を出す。

 すぐ後ろの、桔梗と椿も妙な顔をしている。


 今まで出会った魔物はどれも歪、魔王クワの性格のせいかもしれないけど、まともじゃなかった。

 こいつも歪で不格好なんだけど。

 全体的な形としては、赤べこ? 張り子のトラ? 民芸品であるアレ。

 やたらデカい頭を重たそうに持ち上げてユラユラ揺らしている。

 色とりどりの布で出来た体は、なんとなく虎縞のような模様に見えなくはない。

 ……トラ? ネコ? 

 耳がウサ耳のせいで何だかわからん。


「よっしゃ! ちょっくら行ってくる!」

 ダン! と音を立てて、私は魔物に向って走り出した。


「ぶるぅにゃぎゃぁぁあああ!」

 やっぱり変な鳴き声。


 魔物は大きな口を開けて、私に噛みつこうとしてくる。

 バフッと魔物の大きな口が閉じられるが、そこに私はいない。


 体を低くし、転がるように魔物の横に回り込む。

 立ち上がりながら捻りこむように、手にした望月を魔物に撃ち込もうとした。


「にゃぎゃぁぁ!」

「うわっ!」

 魔物の頭がグリンと私の方に向き、その首を伸ばして噛みつこうとしてきた。

 亀かお前は!

 びっくりした!

 慌てて望月で、そのデカい顔を跳ね飛ばし、そのまま飛び退って距離を取る。


『……浅いな』

「わかっているって……」

 望月が言うのは、当たりと私の”霊力”の込め具合。


 望月は、魔物にまとわりついている”魔王の力”を打ち砕く事ができるけど、それはやはりと言うか、使う人しだいなんだそうだ。

 浅い当たりのせいか、当てた時に飛ばされた魔物の頭を漂っている黒いモヤモヤは回復してきている。


 魔物の周りに炎が風に舞い、閃光が閃く。

 桔梗たちが牽制してくれている。


「行くよ! モッチー!」

 私は手にした望月構え直し、小さく気合いを込めた声をかける。

「……」

 相変わらず無口だのぉ、おぬし。


「ふっ!」

 気合いと力を脚に込め、距離を詰めて魔物に一撃を入れようとした時。


「ぼはぁっ!」

「えっ!?」

 私の方に頭を向けた魔物のデカイ口から、真っ黒い煙りの様なモノが吐き出された。


「ぐっ、げほっ!」

 黒い煙りに巻き込まれた私は、思い切りその煙りのようなモノを吸い込んで。


「梨乃!」

 桔梗たちの心配そうな声が聞こえる。


 目がぐるぐると回り、頭が痛い、吐き気がする。

 何か黒く暗いモノが、私の身体の中に入り込んでくる。


 私は……

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