第15羽 悪意の毒

 気が付いた時。

 両膝を地面につき、望月を杖のように抱えてた。


 誰かが大声で笑っている。


 私の周りの地面は荒れ、魔物の残骸であろうボロ切れか散らばっている。


 顔を上げ周りを見ると、桔梗たちが心配そうに私を見ている。


 誰かの笑い声で、頭が割れるように痛い。


 笑っている……。


「弱っちい魔物! あはっ! ボロボロにしてやった! あははっ!」

『え? 私、何言ってるの?』


「莉乃? 大丈夫なのか?」

 桔梗たちが心配して側に寄ってきた。

 それを私は望月を横凪ぎに振るい、寄せ付けないようにする。


「うるさい! ウサギウサギ! あんたたち何てワタシが居なきゃ、こんな弱っちいのも倒せないんだから、引っ込んでな! 弱虫うさぎ!」

 駄々っ子の様に地面を踏みつけ、桔梗たちを罵倒している。


「外の世界から私を連れ込んで、自分たちで出来ないからって、私にゴミ掃除させるなんて偉いもんよね! 人の承諾も取らずにさ! 迷惑って言葉、知ってるー? あんたたちの方が、ごみクズなんじゃないのー、あはははははっ」



『何? 何を言ってるの?』

 私の歪んだ視界の中で、桔梗たちが悲しそうな顔をして見ている。

 これ、私が言ってるの?

 確かに急に連れて来られてはしたけれど、この兎世界の危機の話を聞いて、納得して手伝いをしている。

 それに桔梗たち、いや、兎世界で会ったウサギたち、兎神様うさかみさま、出会ったみんな大好きだ。


 何より、この兎世界の混乱危機の元凶『魔王 クワ』。

 アレの力の源は……、私たちの……。



『お  き える り』

 誰かの声が頭に響く。


『り  りの 莉乃、聞こ  ているか』

 望月の声だ!

 途切れ途切れだけど話しかけてくれている。

『望月! 助けて、私、変になってる』

『わかっ  る、 毒気 』


「うるさい! うるさい!」

 怒声とともに、地面に望月を叩きつける。

『ちょ!? 何してくれんのよ!』

 せっかく望月と話せて、この二重人格みたいな状態から何とかなりそうだっのに!


「ぎひっ! ぎゃははひひひ!」

 私は大声で笑い出すと、そのまま走りだした。


 どこに?

 私、どうしちゃったの……、誰か助けて……。


 ******


「梨乃は……どうしてしまったのでしょう」

 やっとの思いで、桔梗に話しかける椿、つぶらな瞳に涙を溜め、身体は少し震えている。


「あの魔物の吐き出した毒気に当てられた……と思う」

 一度、大きく息を吐き、こちらもやっとと言う感じで口に出した桔梗。

「あの攻撃をしてきた魔物は他にも居たが、あんな状態になったのは初めて見た」

 話ながら小さく首を振る。


「私と杏は、梨乃の後を追いかける、椿は蘭たちの所に」

 桔梗はそう言うと、杏と椿と小さく頷きあった。


 桔梗と杏の二羽が、まさに風のように姿を消した後、椿は打ち捨てられた望月の所に駆け寄って、その手に取る。


「無事でいてほしいのです……」

 望月を抱きしめ、椿は小さくつぶやいた。


 ******


 鬱蒼うっそうと繁った森の中を、走り抜けて行く。

 時々、枝が身体や顔に当たるが、へし折って走り抜けて行く。

 気にも止めないように。

 目的も無く、ただ走る。


『あいたっ! ちょ! どこに行く気よ?! 私ってば!』

 私なのに私じゃない、他人の中にいて感覚を共有しているような。

 VRバーチャルリアリティって、こんな感じかも。


『なんて考えてる場合じゃない! おい! 私! 落ち着け! とーまーれーー!』

 私の叫びも届かない。


 どれくらい走っただろうか。

 私の前方に。


「! ぎゃはっ!」

『やばっ、魔物だ、止まれってば!』

 私が必死で止めようとしているのに、身体は嬉しそうにイカれた声を出し、突っ込んでいく。


 黄色の布が多く使われた、ずんぐりした姿。

 これは、ヒヨコ?

 小枝のような足がやたらと付いてるせいで、気色悪いことこのうえない。


「おらぁ!」

 その気色悪い魔物に、飛び掛かるように思いっきり拳を振るう。

 重い音を上げ炸裂すると、ヒヨコ魔物は妙な叫び声を上げる。


「びょよよーー!」

 魔物の身体がぐらつき、小枝の様な無数の足がバタバタと動き回りバランスをとっている。

 私の身体は回り込むように魔物の懐に潜り込み。

「おらおらおらおらーー!」

 パンチのラッシュを浴びせかける。

『オラオラですかー! ちょ! 痛いから、手痛いから! やれやれだぜーー!』

 私の拳は、皮が擦り剝けて血が流れているが、おかまいなしに殴り続けている。


「びよぉーーーー!」

 ボコボコにされているヒヨコ魔物の身体がぐにゃりと変形して、頭をぐるりと回すと、その大きな頭を私に叩きつけてきた。


 防御も受け身もとれないまま、私は吹き飛ばされ、鈍い音とともかに背中から木に打ち付けられた。


「かはっ!」

 肺の中の空気をすべて吐き出したように息がつまる、身体が痛い、でも。

「くっ」

 まだ動きそうだ。

 背中の木を支えに、身体を起こそうとするが、ヒヨコ魔物が待っているはずもなく。


「びょよよーー!」

 奇声を上げ、何本もある足をバタバタと動かし、こちらに向かってくる。


 立ち上がろうとするけど、脚に力が入らない。

 ヤバい、これまでかな……。

 ……なら、頭突きの一発でもかましてやるわ!


 ヒヨコ魔物を睨み付けると、バタバタと脚を動かし目前まで迫って来ている。

「ーー! (こいや! おらー!)」


 わぁ、声出ないや。

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