第10羽 魔物来襲

 新しい朝が来た、希望は……あるかな? あるよね、うん、あるよ!

 布団から跳ね起きる、朝ご飯の良い匂いがしている、向日葵ひまわりさんが作ってくれているんだろう。


「ん、ん~」

 のびをして肩を回す、体も特に異常なさそうだ、胡桃くるみちゃんのポーションが効いてるのかな。


「それじゃ、向日葵さん! 行ってきます!」

 着替えをすまし、向日葵さんにお別れの挨拶をする。

「着ていた服は大切に預かっておくから、かならず取りに帰って来てね、約束よ」

 そう言ってくれた、うん、絶対帰ってくるからね。


 ここ、『新月の町』から『二日月の町』までは、転移の祠で移動できるそうだ。

 兎神様うさかみさまの御屋敷に行くときに使ったアレだ。

 転移の祠には、椿つばきが待っていてくれた。


「早かったのですねー、忘れ物は無いのです?」

「うん、大丈夫、忘れ物無し!」

 向日葵さんの作ってくれた背負い袋を背負い、手には布に包まれている兎神様から借りた『神杵しんしょ 望月もちづき』。

「では、行くのですよ~」

 椿の元気な声と一緒に、私たちは二日月の町へと飛んで行ったのでした。


 **********


 二日月の町について一週間くらいたちました。

 桔梗ききょうと椿は、自分たちが旅に出て居なくなった時の仕事やら何やらを、残った巫女たちに引継ぎしたりして忙しそうに動き回っていて、しばらく姿しか見ていない。

 私の修行には、蘭さまとあんず、それと胡桃が一緒に居たくれた。


 私の修行も順調らしく、霊力については蘭さまにしごかれ、体術とか棒術とかは杏と組み手をし(なんと、杏ちゃん打撃系総合格闘巫女ストライカーだった)、なんとか基本はクリア……したらしいです、ハイ。

 毎日しごかれた甲斐はあった感じです、まぁ、正直きつかったんだけどねっ!


 私も何とかなりそうって事で、準備を整えて、明日出立しよう! って事になりました。

 でも、そんな時に事件は起きたんだ。




 出発の前日なのに、蘭や杏と修行をしていると。


 物見やぐらの鐘が激しく打ち鳴らされ、大声で知らせる声が響き渡った。

「魔物が出たぞーーーーーーーー!!」

 ウサギちゃんたちが、逃げている。

 戦える術を持っているのは『十五月』の巫女たちだけ。

 連絡役の紅白のウサギ巫女たちが走ってきて、蘭たちと話をしている。


「行きますわよ!」

 蘭と杏はうなずき合うと走り出した、私も後を追おうとしたんだけど、そばにいた胡桃に服を掴まれた。


「莉乃ちゃん、は、わたしと一緒に、いるの」

「えぇ! だって、蘭さまたちが」

「わたし、と一緒に、行く、の」

「あ、うん、わかった」

 速足で私と胡桃が現場にむかう。

 現場に近づくにつれて、何か大きな音が聞こえてくる。


 何かが飛んで!

「うぁ! あぶなっ!」

 何かが飛んできて、そばに立っている家に当たって大きな音を立てる。

 木だ! それほど大きくもないけど、こんなものが飛んでくるなんて。


「魔物、が、投げて、きてるの、魔物は結界に、入れないけど」

 胡桃が説明してくれた、なるほどね、入れないから木とか投げこんでるわけか。

「なんちゅう嫌がらせするんだか! 急ごう! 胡桃!」

 私たちはまた走り出す。



 二日月の町の外が見える場所まで着いた時、蘭たちは魔物と戦ったいた。


「あれが? 魔物?」

 私が見ているのは、色とりどりの色々な布を縫い合わせたパッチワークの、ワンボックスの車ぐらいあるやたらデカい、ひどく歪なぬいぐるみ。

 手足の大きさも長さも不ぞろい、目の代わりについている大きなボタンもちぐはぐで数もでたらめ、不似合いな大きな頭、全体で見たらワニに見えなくもない。


 二本足で立っている、不気味なパッチワークのぬいぐるみ。

 そして……気味の悪い大きな頭には、大きな耳、ウサギの耳がついている。

 ウサギたちが嫌っていた理由もわかった。

 人も、人に似ている物に恐怖感や嫌悪感を覚えたりするっていう、アレだ。


 その酷く歪なパッチワークぬいぐるみと、蘭たちが戦っている。

 魔物が手に持っている木を、こん棒のように振り回しているが、ひらりひらりと蘭たちは避け、蘭の水弾が飛び、杏の風をまとった蹴りが飛び炸裂していた。


 だけど、いや、確かに効いてはいるんだろうけど、痛がるように転げまわりバフバフと妙な声で喚いているだけで……。


「胡桃、あれどうなってるの? 君達でも魔物を倒せないの?」

 私は、隣に居る胡桃にたずねてみる、蘭さまたち『十五月の巫女』が本気で術を使っているのがわかっているから、それでも倒せない魔物が、それが信じられなくて。


「魔物の、体、に黒い霧の、ようなモノが、見える? アレが、魔王の力、アレのせいで、倒せ、ないの」

 胡桃は、魔物を指さしながらそう説明したくれた、あの体にまとわりついている、モヤモヤしたアレのせいで攻撃がまともに通らないらしい。


「あのモヤっとしたのだね? 何とかならないの?」

「出来るなら、とっくに、追い返す、しか、できないの」

「追い返すって、何か命令とかできてるんじゃないの?」


 胡桃は、フルフルと首を振って、私の疑問に答える。

「無いの、魔物たちは、魔王クワが作ったけれど、作っただけ、好きなだけ暴れてどこかに行く、嫌がらせ、のために作った、存在、それが魔物」


「何それ、凄い迷惑じゃない! 群れで来られたら困るし」

「魔物は基本一匹、誰も信じない、クワ、が作ったから、アレも、群れない、の、たくさん来ても、勝手に暴れている、だけ」


「うぁあ!」

「!」

 胡桃が話をしていると、また結界の内側に木が投げ込まれた、土煙を浴びてしまって肌がジャリジャリする。

 おかしい、魔物は今、蘭と杏が相手をしている。



「いた! もう一匹!」

 二月の町から伸びる道に、もう一匹の魔物が姿を現している。

 コイツも、パッチワークのぬいぐるみ、つぶれた頭につぶれた鼻、豚だろうか? よれた長いうさ耳が付いている。

 そいつが、道の脇に生えている木を抜いて投げている。


「ん! わたし、が行ってくる!」

「待って!」

 胡桃が走り出そうとしているのを見て、私が止める。

「私も行くわ、一緒に行く!」


 胡桃は、モフモフとした前髪の隙間から、私の目をじっと見ている。

 また木が投げ込まれ、大きな音を立てる。

「ん! 行こう! 修行、思い出して、ね」

 私は胡桃を見て大きくうなずき、私たちはもう一匹の魔物に向って走り出していった。

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