第9羽 この日、その日、前の日、次の日

破廉恥はれんちですわ! 屈辱ですわ! 醜態ですわ!」

 そんな事をつぶやきながら、座ってむくれているらんさま、避けられもせずモフられたのがお気に召さなかったらしい。


 私達、桔梗ききょう椿つばき、新メンバーのあんず胡桃くるみで、向日葵ひまわりさんの家で今後の確認をしようとしているのだが。


 えーっと?


「蘭さま、何で居んの?」

「まっ!? 何をおっしゃってるの! ワタクシも一緒に行くのですわ!」

 たれ耳をゆらして、ぷんぷんと怒ってらっしゃる、かわいい。


「いや、莉乃、蘭は実力もあるし、巫女たちの教育係でもあるから適任だよ」

 桔梗が助け船を出して説明してくれる、他の娘たちもウンウンとうなずいている(ちょっとにやけてるっぽいけど)、なるほど……って。


「えー、蘭さまに教わるのかぁ」

「なんですの?! 不服なんですの?! 後、”さま”ってなんですの?!」

「えー、だって蘭さまは、『蘭”さま”』って感じだしぃ~」

 怒ってる蘭さま、かわいいです。


 桔梗たちは、そんなやり取りをみて「プッ」とか噴き出している、後から聞いたら蘭さまが取り乱すのは珍しいらしい、莉乃ちゃんGJだね。


「くくっ、いや、おほん、それでこれからなんだが……」

 大きな紙を広げる桔梗、地図……だな、これ。

 地図の中央に印、距離おいて十四の印が周りを囲むように書いてある。


「莉乃は初めてだったね、ココが兎神様うさかみさまの御屋敷、そしてここが今いる北の町『新月』、この上にあるのが『トト山』だ」

 桔梗が手で指し示しながら説明をする、兎神様の御屋敷が中央、『新月』の町がその真上、トト山がそのまた上だ。


「『新月』『二日月』『三日月』と町がある、兎神様の御屋敷を中心に十四の町で結界を作っているので、は魔物も……魔王も手を出せない」

 右回りに、ぐるりと指していく。

「我々は、『二日月』の町まで移動して……、魔王クワの巣に向かう」

 桔梗の手が『二日月』『三日月』の町の間を滑り、北東の方角の離れた位置を叩く。

 おぉ、知ってるぞ、鬼門とかいう方角だ。


「そこが、魔王の城ってわけね?」

 私の問いに、桔梗が答える。

「いや、方角がこちらなだけだ、だが、近づけばわかる」

 悔しげだ。


「あれが、やっと姿を見せた、相応の力を付けたんだと思う……、だが、まだ自ら動こうとしていない」

 桔梗の言葉を受けて、杏と蘭が続ける。

「ボク等には倒せない程度には力を付けたけど、兎神様にはまだかなわないから動かない、かな」

「甘く見られたものですわ、でも、悔しいですが……」


 地図の中心付近に、こじんまりと書かれている印たちを見ながら、私は疑問を言ってみた。

「兎世界ってどれだけの大きさがあるの? この十四の町があるだけ?」


「そうだね、東西南北、直線距離で……約百里ほどだろうか、円形の世界だと思ってくれれば良いと思うよ」

 ええっと、一里が約4kmだったから……、約400km……、ピンとこない、デカいのはわかるけど。

 まてよ、前に調べた東京~大阪間が、だいたいそれぐらいだっけ?

 ……むちゃくちゃでかいじゃない! 兎世界でかい!



 椿が、地図を指さして話を続ける。

「昔は集落があったのです、でも、魔物たちに襲われて、今は十四の町だけなのです、十四の町を囲む結界の外は、魔物がウロウロしているのです」

 外の集落って……そっか、犠牲になったうさちゃん達もその辺の子たちなんだろうなぁ、魔物め。


「そう言えば、魔物ってどんな奴らなの?」

 ファンタジーRPGゲームに良くいる感じの奴らだろうか? ゴブリンとかオークとか。

「体が大きいな」

「つぎはぎなのです」

「術が通りにくいのが腹が立ちますわね」

「気味が悪いね」

「嫌、い」


 あー、デカくてツギハギで気持ち悪いのね、……アンデット系? もうイメージがさわりたくない感じしか思い浮かばん。


 一通りのことを話し終えて、桔梗たちは一度帰ることになった。

 桔梗たちを、日葵さんの家の玄関で手を振って見送り、決意を確かめる。

 出発は明日、いよいよだ、不安だ。


 ふっ、と横を見ると。


「?! 蘭さま、なんで居るの?!」

「んまっ! まだ時間がありますからね、まずはあなたにやらせる事があるからですわ!」

 蘭さまは、腰に手を当てて「ふんすっ!」って感じで答えている。

 えぇええ、いやな予感しかしねぇ。


 案の定、霊力の調節ちょうせつ統制とうせい制御せいぎょ

 これを行うための方法、体の中を循環させるとか、ヨガとか仙道? だっけ? 何か本で読んだ事のあるような方法を、夕方近くまで、ガッツリ教わった。


 循環させるのが形になったのか、蘭さまが次に教えてきたのが。

「両手を胸の前ですき間を作って、間に球を作る感覚で、大きくしたり小さくしたりするのを思い浮かべて」

 ホワホワと弾力のあるボールをイメージしてやってみたり。


「それでいいですわ、あなたのやたら多い霊力を、まずは安定させ調整する力を付けなければ」

 意識しないでも、制御できるようにしないとダメだそうで、しっかり覚えるように言って蘭さまは帰って行った。


 後は向日葵さんとお話したり、ご飯食べたり、お風呂に入ったり。

 お風呂は、うさちゃん達のサイズだから半身浴みたいになったけど。

 何にしても、まだ二日目なのに慌ただしく……。


 布団に入った私は、あっと言う間に眠りに落ちたのでした。

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