第8羽 莉乃、蘭さまにしごかれる
「はっ!」
気合と共に、たれ耳ロップイヤーのうさぎ巫女蘭さまの水球が飛んでくる。
「うわっ!」
叫び声を上げて、慌てて体をそらし水球を避ける。
風切り音と共にソフトボール大の水球が、私の脇を通り抜けて行く。
あぶな! これあれだ、当たると結構痛いぞ、そんなことを思っていたら、首筋のあたりがゾクッとする。
思わず体をひるがえす、水球が後ろから飛んできて体をかすめ、蘭さまの前でふわりと宙に止まる。
「あら? 避けましたの? 関心関心よろしくってよ、目だけに頼ってはいけませんことよ」
「そりゃどうも、加減してくれてるんでしょ? そんなもん避けなきゃね」
強がってみたけど結構ヤバい、何でこんなことしてんだ私。
「どんどん行きますわよ」
私の周りを風を切り水球が飛び回り、襲い掛かってくる。
「うぁ!? ちょっ! きゃぁ!」
叫び声を上げながらなんとか避けまくる、なんとか避けて組み付いてやろうかとか思っていた私がバカでした。
「あら? まだ余裕ですわね、では、はい!」
蘭さまがポフンと手を鳴らすと、水球がピンポン玉くらいの大きさの五つの玉に分かれて襲って来た。
「え? いやっ! きゃーーー! 痛っ! いたたっ!」
小さくなり数が増えて避けにくくだけじゃなく、地面に当たって跳ね返りおそってきますのよっ! しかも、当たると棒で思い切り突かれたらこんな感じだろうってぐらい痛い、突かれたことないけど。
私の体の周りに水球が来ると、何となくわかるようになってきた、気配とかそう言うのなんだろう、ポンポンと飛び回っている水球を、間一髪だけど避けられるようになってきた。
「うーん、良く避けてらっしゃいますけど、まだ霊力の使い方が無茶苦茶ですわね、神気を通していただいただけですし……、ふむふむ」
腕を組み、片手を
こっちは、もうゼーハーしているのに、もう痛くていいから倒れたい。
「では、こんなのはどうかしら」
再び水球はまとまり、ヌルりと細い紐のように伸びたと思うと、しなり、鞭のように私に向ってくる。
「うわっ!! ちょっ!」
風切り襲ってくる水の鞭を、何度も間一髪でかわし、水の鞭は炸裂音を上げて、地面を叩く。
うねり、突き、絡みつく、足まで払おうとしやがりますよ!
やっべー、良くかわせてるわ、やっぱ痛いのやだ! がんばれ私。
「よろしゅうございますわ、では、これで終わりにしましょう」
そう言うと、水がまとまり蘭さまの目の前で再び球状になり、それはポンッて感じで膨らんでバレーボールほどの大きさになった。
「行きますわよ」
早い! 水球が私に向ってくる、大丈夫見えている、なら……。
「おっしゃぁ!」
手を組み、バレーボールのトスの要領で水球を迎え撃つ。
重っ! 固っ! 痛っ! でも、そのまま跳ね上げる!
「あら! でも、それは悪手ですわよ」
蘭さまがつぶやく、わかってる、思うように動かせるんだよね、当然上から私を襲ってくるよね。
そう、私めがけてね。
私は向ってくる水球に狙いを定め、手を大きく振りかぶって。
「おりゃぁあぁぁああ!! アタ――――ック!」
ボシャン。
シャボン玉が割れるように、水球は破裂した。
そうだよねぇ、固められるなら元にも戻せるよねぇ。
「むぅ~、一矢報えると思ったんだけどなぁ」
大きく息を吸って、びしょ濡れで地面にへたり込む……、もう動けない、へとへとだ。
「面白い考えでしたけど、詰めが甘かったですわね」
オホホホと笑いながら、びしょ濡れの私のそばまで来て、その水をシュルシュルとまとめ水筒の中に戻していく蘭さま、便利だなぁ。
周りのウサギたちが歓声を上げている。
今まで集中していたせいか気が付かなかったけれど、大歓声だったらしい。
桔梗たち兎巫女たちが私たちのそばまで来て、「大丈夫だった?」とか「怪我はない?」とか心配してくれたり、「凄いじゃない」「よく頑張ったね」とか褒めてくれたり、桔梗は少し怒っている風で。
「蘭! 君と言うやつは! 莉乃が怪我でもしたらどうするんだ!」
「あら、遅かれ早かれってやつですわよ、それに兎神様の御神気を通していただいたんですものアレくらいはしていただかないと、ですわ」
桔梗と蘭さまが何やら言い争っている、仲がいいなぁ。
「莉乃ー! 大丈夫なのです? 痛いところは無いのです?」
椿が、モフンと抱き付いてきて心配してくれた、いや、もう癒されますよ。
「いやー、すごいね、蘭相手にアレだけ動けるとは、ボクも思わなかったよー」
ニコニコと、そんな事を言ってきたのは、ボクっ娘か?! パンダウサギの巫女。
「蘭も、手を抜かない……から、はい、コレを……飲んで、くだ、さい」
何か飲み薬だろうか? 小さな陶器の瓶をモジモジしながら渡してきたのは、アンゴラウサギだっけ? もふもふの目隠れっ娘のウサギ巫女だ。
「ありがとう」と、お礼を言い、差し出された水薬を飲んでみた。
おー、なんか、傷みとか引いて元気になった感じがする、あれか回復ポーション的な。
「
「ボクたち二羽も、莉乃ちゃんたちと一緒に行くことになったから、よろしくね」
「ヨロ……シク、ね」
「え? うん、よろしくね! うれしいよ!」
椿の紹介で、モフモフと自己紹介をする二羽。
ボクっ娘の方は”杏”、目隠れっ娘の方は”胡桃”というらしい。
他のウサギ巫女たちは魔物が出た時の守りに着くそうだ、蘭さまが余裕であれだけすごいから、他の子もすごいんだろうなぁ、私もあのLvまで上げないといけないのかぁ。
魔物かぁ……。
あ、そうだ。
私は、スックと立ち上がると、ギギギって感じで首を回し、ターゲットをロックオンした。
「莉乃?」
椿が心配そうな声を出したが、私はニヤリとして。
「蘭さまー!」
「は? え? きゃーーーーーーーっ!」
ガバッ! と蘭さまに抱き着くとモフリだす、ロップイヤーかわいいです。
「早っ! ボク見えなかったよ?! どういう事だ?!」
「莉乃は出会った時からああなのです……、逃げられないのです」
「いやいやいや! ボク等に見えないくらいって、ありえないでしょ?!」
杏はびっくりして、椿は半分呆れて話している。
「誰かお助けぇ、はぁあぁん、ひゃめてぇ、ひゃぁぁん」
「莉乃! やめなひゃははぁ」
桔梗が助けに入って来たけど一緒にモフる、ウフフ、逃がしませんよ。
「ねぇ、椿、助けないの?」
オロオロとしているウサギたち、あきらめ顔の椿が杏の肩をポンポンと叩きながら。
「無理なのです、一緒にモフモフされるのがオチなのです、莉乃が落ち着くまでガマンなのです……」
首をかしげて考えていた胡桃が、ボソッとつぶやく。
「莉乃ちゃん……ウサギ……特効?」
「「ソレダー!(それか?)」」
蘭さまと桔梗の「お助け~」って声が響く中、そんなこんなで、私が満足するまでモフらせてもらいましたとさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます