第11羽 「呼べ! 我名ヲ!」 って誰?!

「「莉乃!!」」

 私と胡桃が、走り出して結界の外に出たのを見たのか、蘭と杏が声を上げる。

 私は、蘭と杏に軽く手を上げて、胡桃の後を追う。




 風のように走る胡桃と私。

 外でこれだけ走れたら、オリンピック出れるんじゃないだろうか。

 あっと言う間に、魔物のそばまで近づいた。


 魔物も私たちの事に気が付いたようで、そばの木を引き抜き私たちの方に投げようとしている。


「ん! 『沼』!」

 胡桃が、一回転して両の手を地面に押し付けると、魔物の足元がグズッと沈む。

 胡桃の術で、足元を泥濘ぬかるみにされ、「ブモーー!」っと牛だか豚だかわからない叫び声を上げて、バランスを崩して倒れこんでいく。

「『石槍』!」

 すかさず地面から、円錐形の岩でできた様な槍が魔物の体に打ち込まれる。


 が。

 体を吹き飛ばすだけで、やはり威力を殺されているようだ。


 私も、出来るだけの事はしないと。

「すーーーーっ、はぁーーーーーーーっ」

 大きく深呼吸をして、体に、霊力を循環させる。


「……あ」


 私は、手にしている物を見て、はっと気が付いてしまった。

 これ、練習用のヒノキの棒だよ! 杏と稽古しててそのままだよ! あーもう、仕方ないからこれで。

「真っ直ぐ行って! ぶん殴る!!」


 ダン! と音を立て地面を蹴ると、パッチワークぬいぐるみ豚ウサギモドキの魔物(長い!)に走り寄り、魔物の頭にフルスイングで打ち付ける。


 バキッ!

 車のタイヤを叩いたような感触と共に、ヒノキの棒が派手な音を立てて折れ、魔物が何事もなかったように手にした木を、吠え声を上げながら着地した私に振り下ろしてくる。


「ぶごごぉ!!」


 打ち下ろされた先には、私は居ない。

 そんなもん避けるわ! ばーかばーーか。

 魔物は、手にした木をブンブンと振り回して、私を狙っている。


 ぶっちゃけ、歩くのは映画のゾンビ並み(足の長さや太さがちぐはぐなのでまともに動けないみたい)だけど、反応が鈍いわけではないし、むちゃ力がある(立ち木抜いちゃうくらいだし)。

 距離を取ろうと思った時、横殴りに魔物が木で殴ってきた!


「やばっ!」

 避けられないと思った私は、とっさに腕で頭を守り、そのまま魔物が振り抜く方向に横っ飛びする。

 それでも、痛い、いや痛いけど痛くない! こんなの痛くない! 普通ならグチャグチャのミンチにされる打撃を受けても、痛いで済んでるのは修行のおかげだ。


 受け身を取りながら転がる私に、魔物は手にした木を投げつけてくる。

「ぶごぉ!」

 大きな音を立て、魔物の変な吠え声と土煙と木の葉が舞う。

「ふごっ!? ふごふご?」


「ぶはっ、サンキュー、胡桃!」

 胡桃が私が居る移動させてくれたのだ。

 土砂を軟化させ硬化させ思い道理に動かせる、攻防一体! 土属性強い! 胡桃ちゃんすごい! モフりたい!


「ん! 『石弾』!」

 間髪入れず、胡桃の術が炸裂する! 魔物の持っていた木を砕き、石の弾丸がゴツゴツと音を立て魔物の体に撃ち込まれ、魔物が倒れこむ。

 が、やはり貫けない、なるほど、これはめんどくさいね。


 のっそりと、魔物が立ち上がってくる。

「おりゃあ! 莉乃キック!」

 私は、素早く駆け寄り魔物の後ろに回り込むと、骨が無いのでグニャグニャと動かしている魔物の足に蹴りを入れる、鈍い音を立てるけど、ダメージなさそう。

 ぐぬぬっ。


 胡桃は、魔物の足元を泥濘ぬかるみに変え動きを封じたり、石の弾を降らせたりしているけど、魔物はちぐはぐな手を振り回して嫌がって暴れているだけ。

 なかなか追い払えないわけだ、倒せないから魔物の数は増えていく、じり貧なのだ。


 魔物の振り回している手が、地面を削り、周りの木をなぎ倒し、その破片が私たちの方に飛んでくる。

「『土壁』! 『石柱』!」

 胡桃の術で、地面から土で出来た壁やら石柱やらが飛び出してきて、私たちを守る。

 私は、素早く胡桃の横まで転がりながら移動する、ゴロゴロ。


「はぁ、これは、めんどくさいねぇ、倒せないのがなんとも」

「ん、根競べ、な、の」

 うんざりする私を、諭すようにやさしく言う胡桃、うん、私もがんばるからねぇ、術使えないから、戦力にならんけども。


 さてどうするか、私の素手じゃたいしたことも出来ないし。

 ちょっと考え込む私、すると突然、頭の中に声が響いた。



『呼ベ   我名ヲ   』



「!? へっ?」

 へ? 誰? 怖い、頭の中に直? つーか誰? こわーい。


「どう、し、たの?」

 挙動不審になった私に、胡桃が心配してるじゃないかー!

「いや、今、頭の中に、誰かに名前呼べって……」

 顔を見合わせて「???」状態の私と胡桃、あー、胡桃ちゃん可愛いわぁ。


『……ヲィ……』

 また頭の中に声が響く、太く低い男の人の声、えぇっと。

「ぇっと……、どちら様でしょう?」

『……』

 無口な方のようだ、むしろあれかな? 「返事が無い、ただの屍のようだ」みたいなのかな。


「莉乃、た、ぶん……」

「あ、うん、……何となくわかってた! 胡桃! 援護お願い!」

 心配そうにする胡桃に返事をする、うん、何となくわかってた。


 私は、立ち上がり右手を大きく上げ、大声で叫ぶ。

 行くよ! 王道展開!!


「来い!! 望月!!!!」


 私の声と共に、手の中に光りが渦巻き、それが形となり長く簡素な実体を現す。

 ”神杵しんしょ 望月もちづき” 兎神様うさかみさまから預けられた、私の武器あいぼう、長さ二メートル弱、両端がちょっと太くなってる一握りくらいの太さの棒。

 その正体は、付喪神つくもがみと化した兎世界に現存する最古のきね


 望月を頭上で一回転させ、そのまま地面に降ろす。

 ドンッ! と短い音を立てると、それだけで目に見えない衝撃が辺りに波のように広がり、空気がビリビリと震える。


 魔物は、こちらをただ見ている、唖然としてるんだろうか。

 横目で見たら、胡桃もポカンとしてた、あらら。


 私は、魔物を睨みながらニヤリと笑って見せる。

 さぁ、望月! あんたの力、見せてあげようぜ!







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