第12話 「堕天使から護りの天使への覚醒」
失脚した人間に、
チャールズの遊び仲間は
冷たかった。
ほとんどの人間が
去って行った。
しかし驚いたことに、
パラダイスのオーナーは
チャールズを見捨てずに
手を差し伸べた。
オーナーは
プリンス・チャーミングから、
チャールズに眠っている
音楽の才能について
話を聞いていたから、
チャンスを与えてみることに
したのだった。
プリンス・チャーミングが
個人的にチャールズと会うことも、
許した。
そしてチャールズには、
「プリンス・チャーミングを
絶対に護れ!」
と言った。
それがチャールズにとっては、
どういう意味なのか、良くわかっていたし、
救いとなった。
栄光と権力と云う名の、
虚飾に満ちた偽りの世界で、
自分を偽り、
自分は幸せだと
無理やり思い込んで
生きてきた。
真実の自分に目を伏せ、
偽りの人生を演じて
生きてきたのだ。
しかし成功を重ね、
いくら栄光を手に入れても、
決して心から満足感など
得られるべくもなく、
ますます心は渇き、
虚しくなるだけだった。
昔、学生時代、
天使のようなサーシャに出会ったとき、
今までにない衝動にも似た感情が
自分の中に目覚めるのを
感じていた。
その感情に突き動かされ、
チャールズがしたことは、
サーシャに対するいじめだったが、
同性愛と云うものを
否定していた少年にとって、
それが唯一出来る
愛情表現でもあった。
だから秘かに愛していた少年が、
突然の事故で亡くなったとき、
チャールズは
複雑な気持ちに襲われた。
サーシャとの思い出は、
ほとんど
いじめ泣かせた記憶しか
なかった。
でも本当は、いつも彼を
抱きしめたい誘惑に
かられていた。
だからサーシャに良く似た
プリンス・チャーミングに出会った時、
眠っていた感情があふれ出すのを
押さえることは、不可能だった。
自分がゲイであることを認めることは、
すべてを失うことだとわかっていても、
今度ばかりは、譲れなかった。
サーシャの死亡事故に、
ジュンスの母親が
深く関与していたことを、
パパラッチとの写真取引で
偶然、知ったからだ。
このままジュンスとプリンス・チャーミングの
偶然の逢引を、
ほっておくのは危険だった。
またパパラッチに写真を撮られ、
ジュンスの母親のもとへ
その写真が送られるかもしれない。
そうすれば、母親はまた
息子の恋人を殺すように、
部下のものに命じるはずだった。
チャールズは、プリンス・チャーミングを
ジュンスに近づけないために、
少し卑怯な手を使い、
自分も失脚することになったが、
後悔はしていなかった。
少なくとも、これで
プリンス・チャーミングの命を
救うことはできたのだ。
それに、すべてを失ったと思ったが、
そうではなかった。
今では心のままに生きる
自由があり、おまけに
ラブリー(プリンス・チャーミング)まで
そばにいた。
これ以上何も望むことは
無かった。
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