第4話 プリンス・チャーミングとジュンス③「プリンス・チャーミング誕生秘話」

気がついたとき、

少年は病院のベッドの上だった。

そしてすべての記憶を

失っていた。


自分が何者なのかも

思い出せないし、

何があったのかも

思い出せない。


何か事故に

巻き込まらたらしいのだが、

その事故と身元につながるような手掛かりは、

何ひとつ無かった。


少年は瀕死の重傷を

負っていて、

そんな彼を偶然発見し、

病院へ救急搬送したのが

クラブ「パラダイス」の

オーナーだった。


オーナーは

毎日病院へ少年を見舞い、

少年が退院できるまで回復したとき、

すべての記憶を失い、

身寄りのない少年に

自分の家へこないかと

誘った。


そして少年は

オーナーの家の

住人になった。


その家には、

クラブ「パラダイス」のドールを

生業とする、

将来の成功を夢見ながら

過酷な現実を生きていた、

美しい少年少女たちが

たくさんいた。


だからその名もなき少年が

「プリンス・チャーミング」という

新しい名前を得て、

クラブ「パラダイス」で

働き始めたのは、

自然な成り行きだった。


ある種、絆ともいえる

悲しい連帯意識のもと

過酷な現実を

一緒に生るドール仲間は

「プリンス・チャーミング」の

家族のようなものであった。



そしてジュンスは、

一緒に過ごしたあの夜、

プリンス・チャーミングが

ジュンスに言った言葉を、

なんとはなしに

思い出していた。


「僕は

戸籍がないんです。


だから学校にも行けないし、

きちんとした仕事にも

就けない。


戸籍が無くてもできる仕事って、

限られるんですよ。


あなたの言いたいことはわかるけど、

記憶を取り戻さない限り、

僕にはすべてが

無理なんです」

そう言った時の、

悲しそうな

プリンス・チャーミングの顔が

目に浮かんだ。

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